英傑召喚師   作:蒼天伍号

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※ちょっとホラー※

……になってたらいいなぁ(願望

追記:蘇生に関して大ポカやらかしたので修正しました。








奧山秀雄宅・地下

夕凪市本町北区、山を背負う様にして街区に玄関を向ける洋館。

奧山秀雄が本拠とする邸宅は、今は家主を欠きその仲魔たる二体の悪魔だけが待機していた。

――いや、厳密には()()()()()常駐しているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オサキ殿ー、胡椒はどこでござるかー?」

 

キッチンの一角、高所作業用の小さな土台に乗っかり棚の中をゴソゴソと漁っている小柄の少女は望月千代女。ヒデオが仲魔とした英傑カテゴリの悪魔である。

 

「んあ? いやーワシも最近はそっちに行ってないからのぅ。わからん」

 

対し、リビングのソファでごろ寝する巫女装束の少女……いやさ幼女。目を引く桃色の頭髪を一つ結びにしている。

彼女もまたヒデオの仲魔たる悪魔の一体、魔獣・オサキ狐。

 

今は仕事で遠出している主の留守を預かり、こうして自宅の警備を担当している。

……一見して寛いでいるだけだが、一応、警戒は怠っていない、はずである。

 

 

「もー、炒飯食べたいって言ったのはオサキ殿でござろう?」

 

だらけきった同僚の返答に愚痴りながらもチヨメは黙々と捜索を続ける……と。

 

「おっと」

 

棚を漁った拍子にポロリ、とナニカが落下する。

――本来ならそのまま床に落下し、物によっては無惨に砕ける運命。しかしチヨメはこう見えて悪魔、常人を超越した身体能力を有していた。

ゆえに、難なく落下した小物をキャッチ、その正体を確かめるべく眼前へと持っていく。

 

「……仏像?」

 

ソレは寺でよく見るような典型的な仏の似姿を掌サイズに縮めたような物体だった。

右手はこれまたよく見る施無畏(せむい)の形を取り左手には()()()()()()()()()()()()()

 

「この姿勢は確か……」

 

この仏の“名”を思い出そうと記憶を辿った矢先。

仏像から微弱な霊力が放たれた。

それは無差別に放出されたものではなく、ある方角だけを目指してまるで糸のように放出されていた。

 

「これは……」

 

何の気なしに彼女はその糸を辿る。

ふらふらと辿り着いたのは、二階に続く階段の脇、まるで()()となるような位置に配された“鉄扉”だった。

 

「……」

 

その鉄扉は、ここに来てしばらくの時を過ごした彼女が初めて見るもの。召喚早々に自宅内を案内された際にも紹介されなかった場所だ。

通常であればそのような場所に、(あるじ)に無断で立ち入るようなことはしない。

……しかし。

 

「……これは、あくまで“状況確認”でござる。お館様不在のお屋敷にて、かように“怪しげ”なる物品を見つけては――

 

調査せざるを得ないでござるなぁ(そわそわ」

 

――召喚当初は困惑することもあった、主との距離感に戸惑うこともあった。しかし基地での戦いを経て主の在り方に理解を示し、その後の関係も良好。おまけに同僚たちとも仲良くやれており、今は留守を任されている上に相方は“ママみ”の高いオサキ殿。

気を抜いてしまう要素は多分に揃っており――

――今の彼女は、有り体に言って“浮かれていた”。

 

生前は、尽きぬ大蛇の呪に悩まされ唯一の寄る辺となった夫も早々に討死。歩き巫女総括の任を賜り日々歩き巫女を育成する毎日。平時であっても、当時の主君はあの冷酷無比・聡明冷血の武田信玄。気を抜くことなど出来ず……。

それに比べて今の主は嘘のように優しい。たまに……いや割と頻繁に抜けていることがあるがそこも愛嬌、何より家族を大事にする人だ。時折見せる“少年”のような面も可愛げがあって良い。

……いや、別に生前の主君に不満があったわけではない。その手腕は確かであったし、戦国武将としての才もトップクラス。成果には正当な評価はされるお方であった。

 

とはいえ、今の生活が生前に叶わなかった“平穏”であるのも確か。近頃は大蛇すら()()()()なっているし。

 

 

 

 

……などと。

言い訳を脳内で繰り返しながらも彼女は鉄扉を抜けてズカズカと中に入っていた。

 

「暗いでござるな……」

 

扉の先は階段になっており尚且つその道行には一切の灯りが無い。

千代女は忍術によって火をつけることでなんとか足元の視界を確保していた。

 

「しかし……」

 

仏像から放たれる霊力を辿っているものの、果たしてこれが何なのかすら分からない。無論、忍術や巫術を応用して解析も試みた。しかしながら“強固なプロテクト”が掛かっておりとてもではないが、専業の魔術師以外に解けるものではなかった。

故にこうして直接確かめようと改めて決意した次第なのだが。

 

「長いでござる……どこまで地下に――」

 

千代女が階段の長さに疑問を感じた直後だった。

 

突然、彼女の視界が眩い光に襲われ咄嗟に目を閉じる。

そうして光が弱まったところで瞼を上げる、と。

 

 

 

「……は?」

 

視界には()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは……いったい……?」

 

目の前には爽やかな陽光に照らされた草原がある。

天に広がるのは雲一つない青空、時折吹く風は仄かに温かく心地良い。

 

「……いや、そうではなく」

 

慌てて後ろを見れば、先程まで降っていた階段は影も形もなく。どこを見ても“階段”なんてものは無かった。

いや、それどころか“家”すら無くなっている。

 

いきなり、野原に放り出された。

 

「……」

 

しかしこう見えて彼女は“忍び”、生前より危険な任務に臨み不測の事態も少なく無かった。故に、このような異常事態でも落ち着いて状況把握に努める。

 

「大地より伝わる魔力の流れ……いや、空間全体に漂う神秘の香り」

 

地に手を当て、風に身を任せて感じ取ったのはこの空間の“異様な魔力”だった。

それ即ち――

 

「異界……或いは結界にござるか」

 

その答えに至った直後、彼女のいる空間に声が響いた。

 

『ふむ、思ったよりも優秀なシノビのようだ』

 

「だ、誰でござる!?」

 

咄嗟に苦無を構えて周囲を警戒する。

声は一方向からではなく“空間全てに響く”ように聞こえてきた。

 

『案ずることはない。(わし)()()()()()()()、言うなればお主の同輩である』

 

「なっ……!」

 

突然の言葉に驚く千代女を余所に、声の主は少し考えるような声を出してから――

 

『お主ならば直接会っても問題あるまい……』

 

そう言って、千代女の足元に“光の円陣”を出現させた。

円陣はすぐさま千代女を取り込む。

 

「ちょっ!?」

 

抗議する間もないままに彼女は“転送”された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――円陣から“吐き出された”先、転送された先は森の中だった。

 

木々に覆い隠されているものの、木漏れ日に照らされることで陰鬱さを取り除いている。さらには木々の合間から溢れるささやかな風が草原と同じような爽やかさを感じさせてくれる。

 

そして、彼女の目の前には注連縄と紙垂に囲まれた“巨大な岩”があった。

 

そこへゆっくりと“天から”舞い降りるナニカ。

 

「……元来、儂は“盗賊”から“宝”を守護する存在なのだが。お主からは特に邪心を感じられぬゆえ、こうして招いた」

 

真っ白い毛並みを持った“狼”、それも勇壮な顔付きの“巨大な”狼。

それが岩の前に四足で降り立った。

 

「せ、拙者は……盗賊では、ない……で、ござる」

 

「ふむ? 忍びとは賊の亜種と記憶していたが、()()では異なるというか…………長らく人里と関わりを絶っていた故に俗世に疎くてな」

 

巨狼は野太い声で、しかし陽気な口調で発している。

 

……しかし千代女はそれよりも、彼(?)の身から溢れる“神気”に注目していた。

 

「その濃密な“神気”……その姿。まさか貴方は――」

 

巨狼の正体に気付いた彼女に頷きを返し、彼は答えた。

 

「……自己紹介が遅れた。

 

儂は()()()、かつては大口真神(おおぐちまかみ)と呼ばれた存在だ」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「大口真神……!!」

 

その名は千代女もよく知っていた。

例によって歩き巫女に集めさせた情報で知ったのだが。

 

かのヤマトタケルにも縁深き、狼の神格。

人語を解し人の善悪を見極め、善人を守護し、悪人を罰するとされ。また、厄除けや火難・盗難からも守護するとされた。

 

その起源は、時に人を喰らいながらも、猪や鹿といった作物を荒らす存在も喰らうことから、山という恐ろしくも恩恵をもたらす存在の化身として神格化されたものとされる。

もとは山の神の遣いたる聖獣とも言われるが、最も身近に“山の性質”を体現する狼が神そのものとされるのにそう時間は掛からなかっただろう。

今はもういないが、かつての日本では狼とは身近な存在であり、狼から生まれた怪異・妖怪の類も多い。

分かりやすい例が“送り犬”とも呼ばれる、“送り狼”という怪異現象だろう。

これはテリトリーに侵入した存在を警戒する狼の習性から生まれた怪異である。

 

 

 

「確か大口真神は今も秩父方面で信仰されているはずでござるが……」

 

チヨメの言葉にマカミも然りと頷く。

 

「左様、そして儂もまた大口真神という神格に祭り上げられたことのある“狼神”の一柱ということだ。もとは単なる“山神”として崇められた霊である」

 

「なるほど……」

 

マカミの解説に頷きつつ、ふと素朴な疑問を覚える。

 

「ところでマカミどの」

 

「ん?」

 

「どうして、家の地下(?)にいるのでござる?」

 

「む……」

 

チヨメの問いに、マカミは言葉を詰まらせた。

そして、また少し考える素振りを見せた。

 

「マカミどの……?」

 

「……ふむ。仲魔の一人に知っておいてもらうのも良いか。そろそろ、隠し続けるのも()()()()()限界だろうしな」

 

そう言って戸惑うチヨメを他所にくるりと反転して巨岩へと歩み寄るマカミ。

 

「……この空間は、儂が“地下の霊脈”から吸い出した力で作り上げた結界である。儂の許可無しには出ること叶わぬ。

少し待っておれ」

 

巨岩の眼前にて沈黙したマカミから淡い光が放たれ、それが岩へと注がれる。

すると、突然空間に亀裂が入りそのまま陶器の割れるような音と共に砕け散った。

 

「っ、ここは……」

 

あっさりと結界が解除され、現実世界に投げ出される。

しかしそこは最初にいた階段ではなく――

 

 

「な、なんなのでござるか……ここは」

 

冷たい石造りの空間、点在する蝋燭に照らされた薄暗い部屋。

しかしそこはただの地下室ではなかった。

 

壁に置かれた木棚には怪しげな液体の入った瓶、不気味な形・紋様の陶器類、その他様々な物品が無秩序に陳列される。

そしてそれら全てから()()()()()が放たれている。

 

「あっ!」

 

さらにはキッチンで見つけてポケットに入れていた仏像も、棚の方へと()()()()を伸ばしていた。

そこには――

 

「うっ……!?」

 

両手に抱えるほどの大きさを持つガラスケースに仕舞われた()()。胎動は感じられず既に屍と化しているのは明らかだが、それにしては()()()()()()()。瑞々しく生々しい、桃色の肉が鎮座していた。

チヨメとて忍び、凄惨な光景には慣れているものの()()()()()

 

ただの死体ではない、もっと、別の“悍しいナニカ”だ。

 

「こ、れは……?」

 

「……アレは人肉ではない。“ヤツ”が寄せ集めた物質から“錬成”した人造肉、その失敗作の()()だ」

 

静かに、語る声を聞いてそちらへ振り向いたチヨメは、また別の意味で驚いた。

 

そこにいたのは先程まで濃密な神気を発していた巨狼……ではなく。

うっすーい紙っぺらのようなマダラ模様のニョロニョロ。

犬がギャグ漫画で叩き潰された時のような異様な姿。

 

「ま、マカミどの……随分と、薄くなられてしまって」

 

「案ずるな、こちらが通常形態である。

……それよりも、その“忌物”の説明をしてやろう」

 

そう言ってペラペラの前足(?)でポリポリと、これまた薄っぺらい頬……らしき部分を掻いたマカミは再び静かに語り始める。

 

「その人造肉は“仏道系”の“蘇生術”を試していた時のもの。お前が持つ“薬師如来”の仏像と連動して“蘇生”が始まる仕組みだったのだが……まあ、結果は見ての通りよ」

 

「そ、蘇生?」

 

異様な物品に囲まれた状況に冷や汗を流しながら首を傾げる。そんな彼女を他所にマカミはさらに語り続ける。

 

「あちらを見るがいい」

 

話の意図がわからないままに、促されるまま彼女はそちらへ視線を向ける。

 

「っ!!」

 

肉塊の置いてあった棚からさらに奥の部屋、そこには()()()()()()()()()()()()()()()

 

それだけではない。

 

禍々しい妖気を放つ壺、無数の呪符が貼り付けられたなんだかよく分からないモノ。

黒い霊気が立ち上る大釜、逆三角形のナニカを持ったギリシャ彫刻のような白亜の女神像……と蛇の絡みついた杖を持つ男神像。

 

モノ、だけではない。

 

よく見れば、床や天井に“陰陽道の図”や、それによく似た中華系の呪術式が夥しい数書き込まれている。

 

そして。

それら全てから()()()()()()()が発せられていた。

 

「あ、ぅ……ぁ……」

 

その、圧倒的な圧力を持った()()()()()()に気圧されたチヨメはガクガクと震えながら膝をつく。

 

……ただの忍びならいざ知らず。チヨメは蛇に仕える()()である。巫女とは“霊と交信”する仲介者、神降ろしをはじめとして霊を降ろすことについては無類の才をもつ存在だ。

つまり彼女は、部屋に充満する()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

恐れから震える彼女の脳内へとこの執念の()が映像や声と共に浮かび上がった。

 

 

『――なぜだ!? どうして()()()()()!!』

 

――机の上に置いたナニカを手で払い除けながら()は激昂する。

 

 

『いいぞ……そのまま、そのま――

――くそっ! また()()()()()()()()()!!』

 

――先の棚にあった肉塊を造り出す()の姿があった。

 

 

『何が足りない……? 泰山府君も如来も、エレウシスもケリュケイオンも仙丹も人造体の錬成すらやった!

……あと、何が足りないって言うんだよ」

 

――全ての“蘇生”が失敗して、錯乱から落胆に変わる()の姿を見た。

 

 

『なぁ……教えてくれよ、■■■■』

 

――部屋の最奥、祭壇のように飾られた豪奢な棚の上に鎮座する()()()に縋り付く彼を見た。

そして――

 

 

『……ああ、諦めねぇさ。何度でも。

 

何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも……!!!!

 

俺は、必ず……お前を――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蘇らせてみせる

 

 

 

 

 

 

 

「……っは!! はっ、はっ……!!」

 

ビジョンから解放されたチヨメは乱れ切った呼吸をなんとか整えるべく深呼吸を繰り返す。その額には脂汗が浮かび、瞳は忙しなく上下左右に痙攣している。

 

「おい、大丈夫か?」

 

少し心配したようなマカミの声を聞き我に返った彼女は、自らの頬を叩いてどうにか平静を取り戻した。

 

「お、お見苦しいところを……」

 

「いや…………ふむ、なるほど。お主は忍びである前に巫女であったか。それならばこの部屋の“妄念”にあてられるのも無理はない。

すまなかったな」

 

ぺこり、とペラペラの頭部を下げるマカミにチヨメは慌てて答える。

 

「いえ、拙者が未熟だっただけのこと。お気になさらず」

 

「そう言ってもらえるとありがたい。お主にはまだ見せねば、話さねばならぬことがあるからな」

 

重苦しい声で述べたマカミは、ゆらゆらと宙を泳ぎながら部屋の奥へと向かう。

言外について来いということだと理解したチヨメもそれに続く。

 

悍しい物品で溢れているとはいえ地下室、そう距離を進まずして目的のモノを視界にとらえた。

 

「あれは……」

 

つい先程のビジョンで見た“結晶体”。

ビジョンで見た通りの祭壇の上で鎮座するモノ。

両手に納まる程度の大きさのソレは真っ白く、天然の鉱石のように刺々しい見た目をしていた。

しかして、ソレを視界に入れて感じるのは恐怖や警戒ではなく“暖かさ”だった。

淡く優しい光を放つ結晶体を前にしてマカミは、口にする。チヨメにとっては寝耳に水、青天の霹靂とも言える重大な真実を。

 

「これは、()()()()()。その成れの果てだ」

 

マカミが度々口にしている“ヤツ”が誰なのか、ビジョンを見たチヨメにはもう分かっていた。

 

「これが……()()()()()()?」

 

だからこそ驚嘆する。

お館様の奥方がこのような姿に……いや、そもそも彼に()()()()()()()()()()()()()()()

一切、これっぽっちもそんな話はしていなかった。

それを示す物品も、家には()()()()()()

 

だが、“なぜ”という考えは浮かばなかった。

だって。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことなど、到底言えるはずが無いからだ。

 

そんな、孤独に戦う己の主を想い少しの憐憫を感じた彼女に構わずマカミは続ける。

 

「……此奴は、儂らがヤツと会うずっと前からヤツを支えてきたという。それは短いながら共に過ごした儂も明確に理解できるほどの信頼関係を持っていたよ。

 

……だが。それは五年前のあの日、あの夜。唐突に終わった」

 

「……」

 

懐かしむように、それでいて無念そうな口調で語るマカミの言葉をチヨメは静かに聞き続ける。

 

()()()()()()()()()()()()、サマナー協会よりその依頼を受けたヤツは当時の仲魔と共に天使どもと戦った。

名のある天使が複数駐留していたこともありそれなりに苦戦はしたものの、作戦自体は無事に完了した。

……その帰り道だった」

 

 

――マカミはその時の情景を思い返しながら語り続ける。

 

 

主戦派メシアンが築いた拠点を、他のサマナーと共に完全に制圧した彼らは戦勝ムードのままに帰路についていた。

海沿いの道、海浜公園と呼ばれる辺りを歩いていた時のことだ。

無数の天使、大天使どもとの激戦を制しその戦果を仲魔たちと語らい合う彼らは完全に気を抜いており、皆一様に()()()()ながらも笑顔だった。

あの時のオレの剣撃は凄かった、いやいや私の棒術も、いやいやいや私の魔法も……と、それぞれの戦果を自慢し合いじゃれ合い。それらを優しい目で見守る()と。

その傍に寄り添う()()()()使()

 

『遅いぞ! 心配したんだからな!!』

 

そんな一団に駆け寄る小さな影は在りし日の“オサキ”。

予定時間を過ぎても帰宅しない彼らを心配して一人、飛び出してきた小さな狐神だ。

しかし、今は“戦時中”。作戦は終わったとはいえ何処に残党が潜んでいるかも分からない。さらには、悪魔同士の激しい激突があった日は、周辺に潜む無関係の悪魔たちも活発化する。

つまりはとびっきりに危険な夜なのだ。

 

そこへ一人で飛び出した彼女の暴挙を諌めつつも、純粋な心配で駆け付けてくれた仲魔を、彼らは暖かく迎え入れ再び雑談に興じる。

 

帰ったら何をしようか、何を食べようか、各々に提案する彼らは側から見ても仲睦まじく、強い信頼で結ばれたパーティであると言えた。

 

 

――そこへ、唐突に()が舞い降りる。

 

 

満月を背負い夜空に浮かび上がるのは()()()()()使()

静かに、確実に、獲物を仕留めるべく忍び寄る影に最初に気付いたのは同じ()使()だった。

突然の敵襲にも彼らは動じることなく瞬時に戦闘体制に移る。

 

気づかれたなら仕方ない、とばかりに()()()()()使()は配下の天使たちを出現させる。

それは星空を覆わんばかりの大群であり、対する彼らは()()()()。どう見ても勝敗は明らかだった。

 

故に彼らの判断は早かった。

殿を務める雷神と猿人、それらを援護しつつ後退する牛神と火神……の二柱を拙い術で援護する小さな狐。後衛たちの前に立って敵の攻撃を受け止める“真神”と“犬神”、そして()。それをサポートする天使。

激戦ながらも辛うじて離脱できる……そんな戦況に差し掛かった頃だった。

 

『っ、ヒデオ!!』

 

唐突に自らの主を全力で突き飛ばす黒翼の天使、その直後――

 

 

 

――漆黒の大鎌が彼女の腹を引き裂いた。

 

 

 

『っ!! ■■■■ッ!!!!』

 

彼の悲痛な叫びが響く。

その眼前にて、臓物を零しながらゆっくりと、地に墜ちる天使。

 

条件反射だった。一切の思考を切り捨てて倒れ伏した最愛の天使に駆け寄りその身を抱き上げる。

 

――そこに。希望は無かった。

 

絶えず零れ落ちる臓物と鮮血、ゴボゴボと彼女の口から溢れ出す“赤”。

無論のこと、ポケットに仕舞っていた“宝玉”を用いて回復を試みる。

しかし、()()()()()()()()()()()()()()

 

無理やり天使どもを払い除けて駆け寄った牛神が回復魔法を唱える。

それでも、()()()()()()()()()()

 

当然だ。

彼女は既に()()()()()()()()()()

 

――死を司る天使、月を支配する天使。七大天使に数えられるその大天使の権能は『天使を罰する』というもの。

道を違え、堕天使となったかつての同胞に“引導”を渡すもの。

加えて、()()()()という絶大な権能を、当世の()()()たる『唯一神』より与えられた強大なる天使。

 

その一撃は、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()

 

鎌の一撃によって『死』を与えられた彼女は、既に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

故に如何なる癒やしも意味を成さず、何もできないままに彼の腕の中でその命の輝きが失われていく。

 

『■■■■、■■■■ッ! 嘘だろ……こんなっ!!』

 

『ヒデ、オ……』

 

虚な瞳でなんとか彼を捉えて、震える手を必死に伸ばす彼女は――

 

 

 

――ゆっくりとその手を下ろした。

 

 

 

 

応じて止まる“鼓動”、彼はそれが何を意味するのか、これまでのサマナーとしての戦いの中で十分過ぎるほどに理解していた。

 

故に抗う、その()()に。

道返し玉、反魂香、ありとあらゆる蘇生薬を使う。それらは大きな損壊や消滅、()()()()以外ならば即座に命を繋ぐ大変貴重で有用なアイテムだ。

だが、先述の理由からその効果が発揮されることはなかった。

 

何も変わらず、沈黙する()()を前にして彼は錯乱していた。

手持ちのありとあらゆるアイテムを使用してなんとしても彼女を蘇生させようとしていた。

 

――だが、未だ戦いは継続している。

そのことを理解していた仲魔たちは必死に彼を呼び戻そうと声をかける。

無論のこと、()()()()()()()()()

 

彼女は、彼にとって“全て”だったのだ。

人形のように実験を繰り返すだけだった自分を“人”にしてくれた最愛のヒト。

その“執着”は、己の()()()使()であった彼女と“契り”を結ぶことでより強固となった、()()()()()()()()()

彼の半身、ヒノカグツチよりもよっぽど半身として魂にまで結びついていた彼女の喪失は。

彼と言う人間を“壊す”には十分な出来事だった。

 

 

 

――結局、見兼ねた牛神が力づくで引き離すことでなんとか離脱の機会を取り返した。

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

『あぁ……ア゛ァァァァ!!!!』

 

突如として雄叫びを上げて牛神の拘束を逃れた彼の暴走が無ければ。

 

 

『フゥゥ……!!』

 

獣のような呼吸を繰り返す彼の身体が()()()()()()()()。その身からは黒煙が立ち昇り、眼光は()()()()()()()()

 

――火神炉心の暴走。

魔剣の触媒として埋め込まれた炉心の過剰稼働によって発生した膨大なエネルギーが彼の身を内側から焼いていたのだ。

 

当然、怒り狂った彼にはそんな思考はカケラも存在しなかった。

 

地を蹴り、天使の群れへと突貫する火神の裔。無謀とも言える行動はしかし、一同の予想に反して()()()()()()

 

身を崩さんばかりに膨大なエネルギーを振り回す彼は次々と天使どもを焼き焦がし、遂には仇たる大天使に肉薄した。

 

大鎌にて応戦する大天使だが、誰が見てもその実力差は明らかだった。

 

“空中を舞う大鎌の群れ”を薙ぎ倒し、彼が抱える大鎌ごとその矮躯を両断する。

 

 

――こうして、死の天使とその配下は一瞬にして討伐された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あとはもう分かりきった顛末だ。

正気に戻った彼奴が業魔殿に駆け込み、彼女の遺体を蘇生させろと狂乱し。それは“無理”だと繰り返す店主に掴みかからんとした時、遺体は()()へと変じた。

それが、コレだ」

 

結晶体に顔を向けながらマカミは言う。

 

「僅か残っていた彼女の意思が、壊れていく彼奴を見兼ねたのだろう。

店主がこの魔晶の効果を淡々と説明していたがおそらく彼奴の耳には入っておらんだろうな。

 

それからだ。

あのような“愚行”を繰り返すようになったのは」

 

長い長い語りを終えて、マカミは一息吐いた。

 

対してチヨメは、突然膨大な情報量を叩きつけられてしばし混乱していた。

なにせ全てが初耳過ぎる。とはいえ、巫女頭を務めた優秀な頭脳はものの数分で情報を整理し彼の話をなんとか理解した。

 

「貴方は、なぜそれを拙者に……」

 

「……何故だろうか。いや、“理由”ならば幾つか思い浮かぶ。しかし最も重要なのはお主が()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ」

 

要領を得ない曖昧な答えに、再び首を傾げるチヨメ。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

ひたり、彼女の首筋に刃が当てられる。

その後ろから、ぬるりと覗き込むようにして“彼”は顔を出す。

 

「ここで。何をしている?」

 

――その目は何処までも暗く、淀んでいた。

 

 

 

 

 




【あとがき】
遅れてごめりんちょ☆!

……ほんとごめんなさい。
阿国さんのチョコシナリオで脳が溶けたので投稿再開です……。
リハビリ過ぎてちょっと文章がおかしいかも(元から
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