たとえ『原作では敬虔な信徒であった少女がサブカルチャー拗らせてても、別人』ですから。
自己犠牲なんて柄ではない。
たとえ、子犬が車に轢かれそうになっていたとしても別に助けようとはしない。
仮に子犬ではなく人間だったとしても、そんなリスクは背負わない。
しかし、目の前で、自分よりも遥かに“綺麗な心”を持った人間が危機に瀕していたなら。
或いは、こうして咄嗟に庇ってしまうなんてこともあり得るのかもしれない。
荒々しくも、卑しい噛みつき。左腕が引きちぎられそうなほどの咬合力で喰らい付いてくる。吸血鬼の頭部。
「くそっ、たれ、がぁ!!」
こちらも刀を抜き放ち、切っ先を奴の眉間に突き立てる。
「グガァァァァァアアァ!!!?」
「だらぁっしゃぁぁぁ!!!!」
そして力尽くで刃を振り抜き、奴の頭部を真っ二つに斬り裂いた。
べちゃり、と音を立てて床に落ちた二つの肉塊は、今度こそ死滅したようで、ぐずぐずと崩れてから液体と化した。
その“水溜り”には、丸々太ったガーネットが残される。
「はぁ……はぁ……くそっ!」
噛まれた腕に目を向けると、繋がっているのが不思議なくらいにズタズタで、肉はおろか骨までくっきりみえている箇所もある。
当たり前だが力を入れようとしても動かない。
おまけに、肘から先を覆っていたガントレット、即ち『COMP』も画面を粉砕しながらひしゃげてしまっている。
考えるまでもなく、これはもう使えない。
「くそっ!」
納刀した俺は、痛みと疲労から床にドカっと座り込んだ。
「っ、こんな……ひどい。ど、どうすれば」
当然、突き飛ばされた彼女も俺を見るなり駆け寄ってきた。
しかし、彼女にもぐちゃぐちゃに食い潰された腕はどうすることも出来ずにおろおろしている。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
再びポロポロと泣き出した彼女。
「いや、君のせいじゃないだろ。完全に、俺の油断だ。ああ、くそ、あんな奴に腕を持っていかれるとはな」
つまり、どうあがいても、傷が悪化する前に治療することはできない。
一応、これでも“中堅サマナー”なのでこれくらいで死ぬことはないが。
完全な油断、いや、ミスである。
これまでの経験から、戦いに赴けばこのくらいの怪我は想定して然るべきであり、ケチらないで霊薬を持ち運ぶべきだった。
……いや、どこかでやはり慢心していたのだろう。
たかが吸血鬼と。
その結果がこれではざまぁみろとしか言えなかった。
ーー喜びは束の間だった。
「彼女たちは救えない」
そう断言されて、私は情けなく放心してしまった。
あの怪物すら難なく屠る彼らなら或いはーーと他力本願に、浅ましくも希望を抱いていた私は、その安易な考えを粉砕された。
不甲斐ない、やるせない、認められない。
あらゆる感情が胸中を掻き乱し、理性的でない言葉を彼に投げかけてしまう。
そんな私を他所に、彼は黙々と彼女たちを運び始める。理由は私でもわかる。
牢屋だと、
「やめて!」
そんな彼が認められなくて、私は無意識に追い縋ってしまった。
まだあるはずだ、助けられるはずだと。
……以前の私からは想像もできない。
死はある意味救いであり、怪物として滅すよりはずっとマシ。
祖国にいた頃ならそう判断しただろう。
まだ人間の状態で死ねたなら、或いは主の下へ召され、安らかな眠りを与えられるかも、と。
でも、この一週間の思い出は私から“信仰”を削り取ってしまった。
今の私には、彼女たちを殺すなんて決断は、どうしてもできなかった。
ーーああ、なんて無力。
無力なのに、何もできないのに。
それでも救いたいと願う愚かな私は、いったい、どうすればいいのでしょうか?
「主よ……」
もはや、精神が保てない。何も考えたくない。
何も、知りたくないのに……それでもーー
『貴女の尊い願い……私ならなんとか出来るかもしれません』
ーーその時、“運命の声”が私の脳内に響き渡った。
「え……?」
透き通るような、慈悲に満ち満ちた声。それでいて凛々しさと何者にも屈しない高潔な精神が伝わってくる。
まるで、伝え聞く啓示のようなーー
『私は……
「ジャンヌ、さま?」
意味がわからなかった。いきなり脳内に誰かの声が聞こえてきて、さらには自分は聖ジャンヌだと。
……でも、自然と、なぜか彼女の言葉が
『時間がありません、端的に要件を述べます。
これより私は、貴女に“憑依”します。
それによって貴女を依代として私は顕現でき、この“治癒”の力を使うことができます』
「治癒……治せるってことですか!?」
『はい。貴女を救った彼、だけでなく。
貴女の大切な友人である彼女たちもです。
ですが、その“代価”として“私の役目”に協力していただきます』
「っ!!」
それは、まさにーー主の奇跡だった。
私の祈りを聞き届けてくださった主が遣わした聖女様に、この身を差し出す“だけ”で彼、彼女たちですら救えると言うなら。
答えは決まっていた。
「はい、ジャンヌ様……この身を、委ねますーー」
捨て身で助けた少女が発狂している件について。
「……なぁにをぶつぶつ言ってるんだ?」
俺が咄嗟に庇ってしまった金髪碧眼少女は、突然、電波を受信したように静かになり、やがて虚空に向けて話始めてしまった。
正直言って、めちゃくちゃ怖い。
……真面目に推察するなら、彼女のストレスがキャパオーバーしてしまって精神崩壊を起こしたのだろう。
「かと言って、あそこではあれしかなかったしな」
いったい、どうしたものかと悩んだところで鋭い痛みが脳に伝わってきた。
「こんなことしてる場合じゃない……彼女が発狂してる今のうちに」
あの三人を始末してしまわねば。
そう思った俺は、激痛に耐えながらもなんとか立ち上がり、床に転がる少女たちへと歩み寄る。
ーーその直後、彼女が立ち塞がった。
「安心してください。貴方も、彼女たちもまだ助かります」
「……」
ーー声は先程までの彼女だ。だがしかし、その衣装、雰囲気はとても同一人物とは思えないほどに変貌していた。
額に輝く銀のサークレット、青い衣を纏った“鎧”、鉄靴、腰にはショートソードまで提げ、手には大きな旗を持っていた。
容姿は彼女のまま、しかしその瞳や身体から漏れ出る“気配”はまるで別人そのものである。
俺は、直感で彼女が“悪魔に憑依された”と悟った。
同時に刀を抜き放ち彼女へと向ける。
「何者だ?」
眼前に刃が煌めいているにも関わらず彼女は全く動じることなく、涼しい顔で応えた。
「私は、ジャンヌ・ダルク。彼女によって招かれ、彼女を依代とすることで現界しました」
その言葉に思わず目を見開く。
ジャンヌ・ダルクだと?
その名はもはや説明不要なほどに有名な、フランスの百年戦争における英雄である。
現代ではさまざまなサブカルチャーに登場し、彼女を主題とした作品もいくつも作られてきた。
言わずと知れた聖女様だ。
つまり、彼女は俺が遭遇した“二人目の英傑”ということになる。
「……俺を治療してくれるのか?」
「はい。主より賜りし“奇跡”を用いれば造作もないことです」
言いつつ、ジャンヌを名乗る彼女は俺の左腕へと手を向けた。
「“主の恵みを”」
心に染み渡るような清らかな声とともに彼女の掌から淡い緑光が注がれ、途端に左腕が“修復”を始めた。
ぐちゃぐちゃになった肉と皮が、まるで時間逆行のような速さで形を整え元の姿へと返っていく。
ものの数秒で完全に元通りとなった腕を見て俺は戦慄した。
「終わりました。ですが、これはあくまで応急措置。無理に動けば傷が開きかねません、ご注意を」
「あ、ああ。感謝する」
俺の返答を受けてくるりと反転した彼女は、床に倒れ伏す三人の少女たちへと歩み寄っていった。
おそらく、彼女たちも治療するつもりなのだろう。
これだけの治療魔法を扱えるならば、可能であると断言できた。
……それにしても信じられないほど膨大な魔力である。
あの修復速度からして、彼女が使った魔法は“
古き神に相当する力を持つ聖女。
とんでもない奴に出会ってしまった。
「とはいえ、彼女のおかげで助かった」
ビリビリに破けた袖から見える無傷の腕を眺めて呟く。本音を言うと、かなりひやっとした失態だった。
ただ、さすがにCOMPは直せなかったらしく、先程と同じくスクラップ状態だ。後日、業魔殿に修復に出すしかない。
だって、COMP内にはまだクダが置いてけぼりなのだから。
ちなみに、COMP本体を壊されても、中に格納されている悪魔に影響はない。別にCOMPそのものに保管されているわけではないからだ。
厳密にはCOMPが作製した“異空間”に収容されている。なので、命に別状はないが、出ることはできないのだ。
どのみち、業魔殿で見てもらわないとクダは永遠に異空間の中……。
「怖い話だ」
他人事のように呟くと、途端に壊れたCOMPがバチバチと電気を放った。
驚いて視線を向けると、放たれた電気が寄り集まって俺の傍に飛来する。
「うわっ!」
慌てて飛び退き、着弾地点に目を向ける。
「オイ、サマナー!!」
そこには怒りに打ち震える青狐……もといクダの姿があった。
どうやったのか自力でCOMPから脱出してきたらしい。
「生きていたか」
「勝手ニ、殺スナ」
俺の軽口に、クダは強い語気で応えた。相当怒っているっぽい。たぶん、油断して大切なCOMPを破壊されたことに、もとい異空間に閉じ込められたことに怒っている。
「悪い悪い、でもどうせ業魔殿で直してもらうつもりだったし」
「ソウイウ、問題デハ、ナイ!!」
プンスカしているのは分かるが、狐そのものな顔のためイマイチ表情が読み取れない。
ちょっと、シュールな笑いを誘うまである。
しばらく、ご立腹なクダの機嫌を宥めようと煽てたり、謝ったりとしていたところ。ジャンヌがこちらに戻ってきた。
ふと、少女たちの方へ視線を向けると一様に健全な様子で、しかし状況が理解できていない様子でキョトンとしていた。
「聖ジャンヌ」
「ジャンヌで結構ですよ」
俺の言葉に、ジャンヌは柔和な笑顔で応える。
「改めて感謝を。貴女のおかげで助かった」
「礼をされるほどのことではありません。私は、私という存在の意義を果たしたまでです」
お手本のような回答だ。これを本気で言っているのだから彼女は本当に聖女ジャンヌなのだろう。
……世界的に有名な彼女が、なぜわざわざ『悪魔憑依』などという面倒をしてまで現界したのか疑問に思うが。
ジャンヌという大物が出てきた時点で“厄介ごと”なのは明白、むざむざ藪蛇するつもりもなかった。
が。
「ところでジャンヌ、貴女が依代にしている少女は……その、無事、なのだろうか?」
なんとなく気になって尋ねる。まさか聖女が、生者の肉体を簒奪するつもりはないだろうとは思うが。
「もちろんです。今も、彼女からの了承を得て肉体をお借りしているだけですから」
“役目”が終われば無傷で返還するとお約束します、と続ける。
……役目、ねぇ。
「それは、俺や彼女たちの治療とは別のことか?」
「はい。……ですが、これは貴方に教えるわけにはいきません、ごめんなさい」
申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる彼女。
謙虚なやつだ。
「つまり、今後もしばらく、彼女の肉体を借りるということか」
「そうなります……場合によっては、悪魔どもとの戦闘もあり得ますが。私が表層意識に出ている間は“ジャンヌ・ダルク”としての力を行使できますので心配には及びません」
別に、聖女様が何をしようが俺の知ったことではない。興味もないし、関わりたくもない。
……だが、その身体は、あの娘のものだ。
俺らしくない考えがふつふつと湧き上がり、俺自身戸惑いながらも我慢できずに口にする。
「……もし、加勢が必要なら俺を呼んでくれないか?」
「はい?」
予想外の発言だったのかジャンヌはきょとんとした顔で言う。
……ああ、“らしくない”のは俺が一番分かってるよ。
「察しているとは思うが、俺はフリーで活動する
言いつつ懐から取り出した名刺を差し出す。
「『祓魔屋オウザン』……」
手にした名刺をまじまじと見つめるジャンヌ。
やがて、名刺を“魅惑の谷間”へとゴソゴソと仕舞う。
いや、そこに仕舞うのかよ。と心の中でツッコミを入れる。
確かに他に入れられる場所は見当たらないが……なんとなく卑猥な気持ちになってしまう自分に悔しさを覚える。
「お気持ちはありがたく。……しかし、“悪魔を使役する”という行為はあまり感心できませんね」
複雑そうな心境を顔に表しながら彼女は述べた。
生憎と“天使”どもと契約するつもりは、もう無いのでな。
「ですが、此度の“役目”。助力が必要なのは事実です。その時になったら遠慮なくご連絡させていただきますね」
強かな笑みで言い切る。
まあ、聖女でありながら彼女の経歴は“戦争”と共にあったので割とアグレッシブな性格でも驚かないが。
ーーそれにしても、俺は何をやっているのか。
自分でも自分が分からない。
普段ならこんな厄ネタに首を突っ込むなどあり得ないのだが。
「……ただ、綺麗な奴が死ぬのは後味悪いしな」
結局のところ、それだけの理由だった。
友人のために命をかけ、その身を捧げることすら厭わなかった彼女がとても“綺麗”に見えたのだ。
或いは、“かつて見た
「……ついては、彼女たちの事後処理もお任せしたいのだが、よろしいだろうか?」
気を取り直して、吸血鬼化現象から解放された少女たちの世話を焼く彼女に声をかける。
生憎だが、俺が請け負った依頼は『ヴァンパイアの討伐』である。
確かに囚われた人々がいるなら助けるつもりではいるが、無理に動く気もない。
それに、依代の彼女はどうやら少女たちの友人のようだし。彼女に丸投げ……もとい任せた方が都合がいいだろうという判断だ。
別に、めんどくさいわけではない。
「もちろんです、あとは私に任せてください」
「ありがとう。……じゃあ、俺たちはまだここで“やること”がある。脱出ルートはウシワカが確保してくれているだろうし、帰りは彼女に声をかけてくれ」
「助かります。……では」
会釈して去っていくジャンヌの背を見送り、彼女が少女たちを連れて部屋を去ったところでーー
ようやく一息吐いた。
「あぁ……胃が痛い」
キリキリと痛む腹部をさすりながらボヤく。
「主ヨ、相変ワラズ“奴ラ”ガ苦手ナノダナ」
「いや、マジで感謝はしてるさ。……それはそれとして、
ジャンヌ個人に思うところはないが、終始、嫌悪感が絶えなかった。
我ながら恥知らずだとは思うが……トラウマなんだから仕方ない。
「……んじゃ、気を取り直して。“物色”するか」
先に語った“協会と魔術師”の件である。
“協会”とは、世界の裏に潜む魔術師たちの統括組織だ。とは言っても、組織の体制からして、世界の魔術師たち全部を完璧に統治しているわけではない。
詳細は長くなるので省くが、あくまで“規則に反した魔術師を罰する”がそれ以外には一切感知しないくらいのゆる〜いスタイルなのだ。
……が、一度“ルールを破った”ならば、彼らの粛清は苛烈だ。
そこらへんも色々と事情があるのだが、ややこしいので端折る。
彼らからの罰は、端的に言えば“抹殺”ないし“研究成果の没収”だ。
その罰の執行には、協会より“専門の戦闘員”が派遣される。
なので。
そいつらより先に“研究成果”を掻っ払って、奴らに売りつける。
それが、協会に背いた魔術師を討伐した際の、セオリーである。
「うーん……とりあえず、手記と“ヤバそうな物体”は回収」
ガサゴソ、とヴァンパイアの工房を漁りながらめぼしい物を集めていく。おまけ、というかこっちが本命なのだが、工房に置いてあった無数の宝石も当然持っていく。たぶん、魔術の触媒にしようとしていたのだろう、どれもこれも高純度の魔力を溜め込んでいる逸品だ。
これなら取引先も満足するに違いない。
それらを、工房で発見した“人の皮で出来た鞄”に突っ込む。
この作業をひたすら繰り返す。
一応言っておくが、工房の主はすでに死んでいるしそもそもアイツは“人ではない”ので法律は適用されない。
断じて『強盗』などではないぞー。
まあ、俺にとってのボーナスというかお小遣い稼ぎみたいなものなので、大目に見てほしい。
ここだけの話、これがまた良い値段で売れてしまうのだからニヤニヤも止まらない。
しばらく物色を続けていると、爆発音のような轟音を響かせて工房の扉が粉砕された。
何事っ!? と目を向けてみると、白煙の中からウシワカが飛び出してくる。おまけにこちらへ一直線に突っ込んでくる。
「主殿!! ご無事ですか!?」
砲弾のごとき勢いで、床を粉砕しながら近くに着地した彼女は、俺に駆け寄る。
「あ、うん。別になんともないぞ」
「よかった……先程、“じゃんぬ”なる女傑から事情を聞き、こうして飛んで参ったのです」
ほっと息を吐きながら胸を撫で下ろすウシワカ。
そこまで心配されていたか、と申し訳なさ半分、嬉しさ半分といった俺。
だが、少々タイミングが悪かったと言わざるを得ない。
「? 主殿、何をしているのですか?」
禍々しい物品を、禍々しい鞄に詰め込んだ俺の姿に、ウシワカは当然の疑問を投げかけた。
「これは……戦利品の回収だ」
間違ってはいない。……ただ、事情を細かく説明するのはちょっと武士道的にアウトだろうと考え、深くは言わない。まあ、彼女なら気にしないだろうが。
未だ、彼女とはそこまで踏み込んだ関係ではないのだから。慎重にいくべきだ。
「戦利品、なるほど。以前仰っていた“剥ぎ取り”という奴ですね!
ではウシワカもお手伝いいたします!」
むん、と腕まくりしながら応える忠臣。うんうん、そういうことなら是非とも手伝ってもらいたい。
ぶっちゃけ、魔術の心得はある俺だが。本場の魔術師たちの研究とかさっぱり分からないのだ。魔術を“戦いの道具”とする俺と、“研究対象ないし研究のための手段”とする彼らでは根本からして異なる。
俺は、彼らが言うところの“魔術使い”という存在なのだ。
だから研究成果とか見分けつかないので、いつも片っ端から持って行っている。
必然、荷物は多くなり体力も使うので、人手が増えるのは素直に嬉しいのだ。
その後、数十分かけて“戦利品”を回収した俺は、仲魔たちを連れてホクホク顔で屋敷を後にした。
ーー同時刻、ウシワカの案内で無事に吸血鬼の館を脱出したジャンヌと、その依代
これを遠目から眺める一団があった。
館がある閑静な住宅街から程遠く、街区の只中にある雑居ビルの屋上にて彼らはジャンヌたちの姿を正確に視界に収めていた。
その目に何らかの“魔法”がかけられているのは明白だった。
「“戸口の魔術師ウィルバー”の消滅を確認。また、囚われていた少女に“聖ジャンヌ”が憑依したとの報告が入っています」
キャソックを纏った若い男性が恭しく膝をつきながら首を垂れている。彼の声が赴く先には同じくキャソックを纏いながらも、彼より幾分か年を食った見た目の“盲目の男性”。
ヒデオへと吸血鬼討伐依頼を出したアシヌス神父である。
彼は“部下”からの報告を聞きながら嘆息する。
「近場に“サマナー”がいて助かった。
神父の言葉に、男は冷や汗を流しながら俯くばかり。
「平和は尊いが、“異端”を罰する力まで失っては形なしだ。
……これならば、当初の予定通り『言峰』を向かわせた方が良かった」
「お言葉ですが、言峰様は今、米国にて重要任務の真っ最中。それを押してまで極東の片田舎に出向かれるなど」
謙遜する男に、神父は「自分で言っていて恥ずかしくないのか?」と侮蔑の表情を向けた。
同時に「平和ボケもここまで極まったか」と落胆する。
彼が“生前”に活躍した時代であれば、異端などロバの顎骨一つで皆殺しにできた。否、
異端、異教徒は即・滅すべし。その教えを最優先として彼は人生を駆け抜けたのだ。……まあ、その最期に“恥ずべき失態”を犯し、こうして現世に舞い戻った身であっても
いずれにしろ、主の教えこそ全てであり、祈りこそ人の全てである、と神父は考えていた。
それがどうだ、主の教えが世界に広まったことで教徒は研鑽を怠り、その身の霊を堕落させ続けている。
教会から派遣された彼は、そんな“衰退した教会”を立て直す使命を帯びてここにいる。
「……聖ジャンヌ、と言ったか。なるほど、“記録”を見た限りでもその在り方は正しく『聖女』足り得る。“正義の戦い”において臆せず、先陣を切って立ち向かう気概は
敵ならいざ知らず、味方であればこれほど心強い女傑もいまい」
「では、何名か派遣しこちらからコンタクトを取りましょうか」
「いや、それは性急に過ぎる。
なにせ、彼女が
それならば、我ら人間が無用な手出しをするわけにもいかない。
この神父は、骨身はもとより魂の一片に至るまで信仰に浸かりきった『狂信者』の類であった。
主が求めるならば、そうするまで。
『神』こそ全て、とする思考回路に戦術的・論理的機構は備わっていない。
それもそのはず。
彼こそは『御使い』の遣わしたる『神の走狗』そのものなのだから。
聖堂教会?埋葬機関?
いやぁ……無理でしょ、アレ。
(核兵器並みの実力とか、天変地異並みの実力者とか出す勇気がないのでたぶん出ません※)
※YAMA育ちサイボーグの発言より。