英傑召喚師   作:蒼天伍号

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またまた前話より少し前の話になります。





霧煙る

「ハァ……ハァ……!!」

 

夜の街を駆ける。艶やかな金髪を揺らす少女が纏うのは“銀の鎧”、頭部には銀のサークレットを備えている。穂先が鋭利に尖り旗と一体化したような槍を携える彼女こそは()()()()()()()()

かの百年戦争に名高き聖女は、現代の街路を疾走していた。

 

やがて、路地裏の壁に背を預けた彼女は一先ず呼吸を整えた。

 

「見誤りました……」

 

悔しげな顔でそう呟く彼女は現在、敵に追われていた。

 

 

 

彼女の“依代”が住まう街にて、近頃“奇妙な事件”が流行っていた。

場所も被害者もバラバラ、しかし皆一様に()()()()()()()()()()。そんな事件が同市にて既に十件以上も起きているのだ。

犯人の手掛かりは全く掴めず警察も頭を悩ませる中で、ジャンヌだけは事件現場に残った“呪詛”の香りを嗅ぎ取っていた。

呪詛は偶発的に発生する量ではなく、故にこそ彼女はこの事件を“悪魔によるもの”と判断した。

彼女の現界においては“使命”が与えられているものの、それに差し障りない範囲においては()()()()()()()()()()()という考えを持っていた。

そのため、彼女は依代の協力のもと順調に事件を追っていたのだが。

 

今夜、ついに“犯人”に嗅ぎつけられ戦闘に発展した。

 

敵は()()()、しかしてただの子どもではなく。“数多の怨念がカタチを成した悪魔”であった。

ゆえに彼女は憮然とした態度で戦いを挑んだ。

事件を追うきっかけとなったのが“呪詛”であったように、敵が得意とするのもそういった“呪い”の類であった。

しかし、聖女ジャンヌ・ダルクには()()()()()()()()があった。そのため敵の攻撃はどれも決定打にならないどころか、傷一つ付けること叶わなかった。

そこまでは良かった、このまま押し切れば勝利できるという所まで来ていたのだ。

 

――だが、そこで()()()()()()

 

 

「迂闊でした……まさか、()()が野良悪魔ではなく()()()()()()()だったとは」

 

腹部に負った“傷”を押さえながら呟く。

とはいえ、これまでの呟きは単なる独り言ではなく。彼女が依代とするレティシアに向けたものでもあった。

 

「申し訳ありませんレティシア、ですがもし私が死ぬとしても貴女の身体だけは無傷でお返ししますので――」

 

弱気とも取れる発言をした彼女へと、依代となった少女が応える。

 

『どうか私のことはお気になさらず……それよりも早く治療を』

 

少女の提案に、しかしジャンヌは首を振る。

 

「それが……どうにもこの傷は()()の類であるらしく。私の治癒が効かないのです」

 

鉄壁の呪詛耐性を備えた彼女へと付与された“呪い”、だからこそ彼女は不覚を取った。よもや、自らの耐性を突破するほどの呪詛を、野良のダークサマナーが使うとは思わなかったのだ。

だが彼女が不覚を取るのも無理はない、なにせ“敵”が使用したのは()()()()()()()、その源にして()たる大悪魔の呪詛なのだから。

 

「あの力、おそらくは()()()()()――」

 

そこまで言いかけて、近くに迫った敵の気配に気がついた。

厳密には、敵悪魔がその身から溢れさせる“呪詛”の香りと、敵サマナーが持つ禍々しい魔力を察知した。

 

「もう追いつかれた……!?」

 

咄嗟に壁から離れて戦闘態勢を取る彼女。

その頭上から、ナイフを構えた“幼子”が落下して来た。

 

「っ、くっ!」

 

間一髪、旗で凶刃を防いだものの。腹部に負った呪的裂傷による痛みで僅かに動きが鈍る。

すぐに旗を振るって敵に距離を取らせた。

そんな彼女の胸中には()()()()()()()()()という危機感と疑念があった。

 

敵の気配も把握していた、どこから来るかも分かっていた。

()()()、敵は突然頭上に移動して先制攻撃を仕掛けて来た。

二度三度と繰り返していればわかる、これは敵の“能力”だ。

詳しい情報は分からない、が、“先手を取られる”というのは確定事項と判断した。

 

「ふふ、お姉さんの“防壁”は並大抵じゃないからね。そう簡単にはいかないよね」

 

ジャンヌの持つ鉄壁とも言うべき防御性能を称賛しつつ笑みをこぼす幼子。

その格好は“きわどい”どころか“卑猥”と言える肌面積を誇る。しかし、これまでと違うのは()()()()()()()()()()()

これは、いつまでも“いやらしい”格好を続ける()()を見兼ねたサマナーが用意したものである。無論、戦闘に耐え得る特別仕様。

 

故にこそジャンヌは、彼らの性別を間違えていた。

 

()()()の正体は分かっています。ですが……だからこそ。これ以上、罪を重ねることを許すわけにはいきません」

 

不利な状況にも関わらず彼女の闘志は微塵も衰えていない。

そんなジャンヌを嘲笑うような表情を浮かべながら、幼子は腰に備えたナイフを投擲する。

 

「っ!」

 

無論、悪魔として高性能なジャンヌは危なげなくそれらを叩き落とす。

そこへ、その隙を狙った幼子が死角からナイフを振るった。

 

「甘い!」

 

が、それすらもしっかりと旗で迎撃する。

ナイフと共に弾かれた幼子は壁にぶつかり僅かな時間無防備を晒した。

ジャンヌもすかさず旗の穂先に備えた槍にて突く。

 

これを受け止めたのは、()()()()()()()()()()()()だった。

 

「いけませんねぇ……実にイケナイ」

 

ギリギリと槍と錫杖がせめぎ合った直後、錫杖から()()()()()()()()()()()()が放たれた。

 

「ぐっ!?」

 

すぐに槍を離して自らも後退したものの。呪いは彼女を追尾して、腹部の傷へ吸い込まれるようにして着弾した。

 

呪いを上乗せされた痛みと疲労に眩暈を覚えながらも、鋼の精神で耐えた彼女はさらに距離を置く。

それを見ながら敵サマナーは声をかけた。

 

「驚きましたか? ええ、この呪いは()()()()()()のです。当然ですよね、だってコレは()()()()()()()()()なのだから」

 

サマナーはくつくつと笑いながらゆっくりとジャンヌに歩み寄る。それに倣い幼子もヒタヒタと随伴する。

 

「戯言、を……!」

 

腹部に着弾した呪いが“侵食”を開始したことで激痛に襲われながらも彼女はサマナーをまっすぐ見つめる。

それを見てピタリと足を止めたサマナーは、笑みをやめて眉を顰めた。

 

「ああ、()()()だ。その目が、本当に……本当に――

 

 

 

――忌々しい」

 

不愉快とばかりに表情を歪める。

サマナーの不機嫌そうな顔を見続けながらジャンヌの脳内では冷静に現状の不利を分析していた。

 

敵悪魔の呪詛は問題ない、サマナーの攻撃も防御に徹すればなんとか持ち堪えられる。固有スキルである結界も使えば完全に防ぐこともできるだろう。

だが()()()()()()()()

彼女が信仰する一神教、“その原型の一つ”となったより古い“一神教”に語られた大悪魔、善なる神の最大の敵対者として“同格”に語られた悪しき神の王。

その権能そのものとも言うべき力を持ったあの呪いだけは防ぎきれない。

 

幸い、彼女の呪詛耐性により侵食は遅々としたものではある。だが無限ではない。

加えて、新たに呪いを付与されれば保たない、確実に()()()()()()()

 

――とはいえ。平時であれば“呪いそのもの”はどうにか出来ただろう。それほどに彼女の呪詛耐性は鉄壁だ。

だが、初手で()()()()()()()()()()()()()()ためにこのようは状況に陥っている。

これによって彼女は“回復行動”を“封印”され、じわじわと追い詰められていた。

 

 

 

「愚か、浅慮、偽善……あらゆる誹りを受けてなお、貴女は()()()()に居続けるのですね。そうして“人類”を信じ続ける」

 

サマナーの言葉に、ジャンヌは内心驚いていた。

どういうわけか、この短時間で相手は“こちらの心根”をほぼ正確に推測して見せたのだから。

 

「何が、言いたいのです?」

 

「ああ、別に深い意味はありませんよ。ただ――

 

 

 

――盲目的なまでの狂信者が、私は堪らなく嫌いなだけです」

 

彼女の問いにサマナーは狂気的なまでに表情を歪めて吐き捨てた。

 

「愚か……という罵倒は意味を成しませんね。ええ、ですから。

 

ただ、()()

 

瞬間、恐ろしいまでの速度で杖が突き出された。

ともすれば()()()()に匹敵する異常な速さ、人間が出していい力を優に超えている。

 

無論、ジャンヌも一角の英傑、悪魔である。難なく旗槍を添えて攻撃をいなす。

 

「くっ!」

 

しかし、速さだけでなく膂力も尋常ではなく。ジャンヌのゴリラとも言うべき膂力を上回っていた。

どうやってこのような力を、という疑念を抱きながらも休むことのないサマナーの攻撃に対処を余儀なくされる。

 

旗槍を振るっての迎撃、その合間に破魔系魔法を撃ち出して牽制とする。

だが、敵に当たったハマオンは()()()()()

 

「っ、どうして!?」

 

驚愕するジャンヌに、サマナー……()()()()()()は邪悪な笑みを向ける。

 

「ハハハ、これでも私は()()()()()()()

 

「バカなっ!?」

 

主の加護を受けたジャンヌの耐性を突破するほどの呪いをその身に宿していながら。彼は自らを“人間”だと宣った。

だからこそハマオンは無効化された、浄化を旨としたハマをはじめとする一部破魔系は()()()()()()()()()()()だからだ。

その事に彼女は驚く、てっきり“とっくに人間をやめている”と思ったから。

 

「だから……()()()()()()のですよ。我らが受けた穢れを、世界に満ちる悪意を! その眼から“遠ざけ”て、楽観的な理想論に染まった偽善者なんぞに!!」

 

笑みから再び“憤怒”に表情を変えて、涅槃台は更なる猛攻を繰り出す。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

「そらそらそら! 傷つけ、苦しめ! そして無惨に、無為無駄に死に晒せよ、聖女サマァァァァ!!!!」

 

やがて、怒りを激昂にまで高めながら涅槃台は渾身の突きを放つ。その時――

 

「……私が、目を背けていると?」

 

ガツン、と錫杖を旗槍で受け止めながら彼女は、膝立ちからゆっくりと立ち上がっていく。それは、膂力で上回る涅槃台を()()退()()()いるということ。

 

ギリギリと杖を押しながら彼女は瞳に強い光を宿しながら続ける。

 

「知っています。主の救いの届かぬ闇を、争いによって血肉を流す残酷を。他ならぬ私もその共犯者なのだから……!!」

 

「貴様ァ……」

 

そして、力の限りに旗を振るって涅槃台を弾き返した。

 

「その上で私は()()()()に立っています」

 

そこに立っているのは紛れも無い()()だった。

人の願いと呪いを一身に受け止め、それでも人と世界を愛する()()()()()を宿したヒトガタ。

彼女は、涅槃台が吐き出す呪詛を受けてなお“清廉”だった。

 

それがなにより――

 

「忌々しい……」

 

対して涅槃台もまた、()()()()()()()()()()()()だった。

 

「そうかよ……ならば来るがいい。私は、()はその清らかさを必ずや貶めてやろう。矛盾に堕した聖なる女よ、その理想は思考停止に他ならない。無論!!

 

()()()()()

 

憎悪こそが我が糧、我が力、我が本質。人が人のために生み出した“悪意”によって、世界を滅ぼすことこそが我が本懐なれば!!」

 

正面から聖女を否定する涅槃台に、ジャンヌは憮然とした態度で旗を構えた。

 

「ならば、()()しかありませんね」

 

「そうだとも。信念が相反するならば“戦え”。

……ふふ、ガイア教の理念を称賛する訳ではないがまさしくその通りですな。話し合いなど不要、気に食わぬ力にはそれを上回る力でもって叩き潰すのみ!

クク……聖女だなんだと言われながらも、結局は力で悪を滅ぼすしかないとは。貴女も存外、()()()()()()

 

涅槃台の皮肉を無視してジャンヌは破魔系でも攻撃に特化したコウハ系列の魔法を準備する。

対して、()()()()コウハ系の準備をする。

 

「っ!」

 

そのことに僅か、ジャンヌも驚く。

 

「ハハ、私もまたかつて“聖職”を志した身。はてさて、破魔合戦に興じるのも面白いかもしれませんねぇ」

 

この期に及んで余裕を見せる涅槃台、その理由はもちろん彼が操る呪詛にある。

それを分かっているからこそ、ジャンヌは惜しみなく自らの全力で以って戦わんと構えた。

 

そして、どちらともなく駆け出した。

互いの得物を構えながら、その裏で魔法を準備しているのも同じ。

――しかし、涅槃台には“勝算”があった。

それは呪いだけではない、協力者から貰った“護符”を懐に秘めた彼にはあらゆる()()()()()()()()()()()

()()に特化する神格の加護を十全に受けた彼には、如何なる神聖さも意味をなさないのだから。

その事に内心笑みを浮かべた涅槃台は、衝突する直前に懐の護符へと手を伸ばした――

 

 

 

 

――が。

 

 

 

 

「っ、ぐぁ!?」

 

矛を交える瞬間にて、涅槃台は()()()に弾き飛ばされた。

何事か、と困惑する彼はすぐさま“乱入者”へと視線を向ける。

 

そこにいたのは、“女”だった。

透明なベールを被った“黒い女”。

 

ソレはふわふわと宙に浮きながら両者の間に割って入った。

 

「そこまでです。()()()()()()()()()()()よ」

 

落ち着いた、しかし厳かな声で女は告げる。

 

()()()()の対処には心得があります。その上で私に向かってくるというなら……相応の覚悟を持ってください」

 

女は淡々と語る。涅槃台の“不利”を。

対し涅槃台もまた、この女の“正体”に気付いてすぐさま矛を収める。

 

「……このタイミングで来るとは。クク、やはり貴女は戦運びの才も持ち合わせているらしい。

とはいえ、まあ、この場は大人しく引くとしますよ」

 

ジャック、と後方に控えていた幼子に声をかけながら涅槃台の足下に“黒い霧”が広がっていく。

やがて霧は涅槃台と、彼の傍に寄り添う幼子を包み込んでいく。

 

「また近いうちに、女神様。それと――

 

――聖女サマ」

 

皮肉げな笑みで別れを告げた彼らは霧と共に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

涅槃台が去ってしばらく、周囲に敵の反応が無いことを入念に確認したジャンヌはほっと一息。自らを救った女に向き直る。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「いえ、私は私の“責務”を果たしたまでのこと。礼には及びません」

 

優しく応える彼女からは全くの邪気を感じられ無い。また、その穏やかな態度から敵ではないと判断したジャンヌも笑みをこぼす。

 

「よろしければ、お名前を伺っても?」

 

ジャンヌの問いに女は静かに頷き、口を開いた。

 

「私の真名()は、()()()()()()()

 

その前身は、かつて()()()()()()()……

 

()()()()()です」

 

 

 

 

 





【あとがき】
本編のジャンヌは“主命”を賜った関係で若干、Law寄りの思考が強くなってますが、基本的には型月ジャンヌです。

また、涅槃台が貰った護符は加護の内容が重要であって別に護符である必要はないです。
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