仕事とゲームとゲームとゲームが忙しくて(ry
「この……ごくつぶし!」
げしっと“ギョロ目の頭部”を踏みつける。
「ホゴッ!? ゴゴゥ……」
怨霊群体は呻きながらも、どこか落ち込んだように首を垂れている。
なおも罵倒しながら暴行を続けるジャックを横目に、涅槃台は“念話”による通信を聞いていた。
やがて、通信を終えた彼はジャックに声をかける。
「――どうやら、“彼女”の方も準備が出来たようです」
「ん……じゃあ、いよいよ決着をつけるんだね。待ちくたびれたよ」
彼の声に一転して笑顔で応えるジャック。その脇には怨霊群体を
「……
彼女の様子に、「ああ、認識が狂わされたのか」と理解しつつ答える。
「ただの使い魔です、気にしないでいいですよ。それよりも――」
錫杖を地に突き立て、言葉を続ける。
「次は、しっかり仕留めてくださいね。ジャンヌさん」
嫌味ったらしい言葉に眉を顰める。
「……貴方に言われるまでもありません。事実、“これ”の介入さえなければ仕留めていました」
旗槍で怨霊群体を指しながら答えた。
……平常であれば、“ジル”のこの現状に激昂していたことだろう。しかし、今の彼女は“魔王によって認識阻害を掛けられている”。ゆえにこの悍しい姿の悪魔にも訝しむことしか出来なかった。
その様を哀れと感じつつも、内心“無様”とほくそ笑みながら涅槃台は今後の作戦を伝える。
「貴女は今後も聖ジャンヌを仕留めることだけに集中してください。できれば他の連中と引き離してくれると助かりますが……そこまで期待するのは酷でしょうからね」
嫌味な彼の言葉に、ジャンヌオルタは“炎”を差し向けることで応えた。
ぶん、と振るわれた旗槍に従うように黒炎が巻き上がり涅槃台の身体を包み込む。
側から見ていたジャックは思わず駆け寄ろうとするが。
「やれやれ……血の気が多い方だ」
涅槃台はなんてことないようにオルタの背後に移動していた。
「貴女は火力に特化してはいますが、些か“器用さ”に欠ける。私でも避けられる程度に」
「……ふん、加減してあげたのも分からないのですか?」
毅然とした態度で答える彼女と涅槃台の間にしばし沈黙が流れた。
やがてオルタは再び旗槍を回転させて傍に突き立てる。
「――では、これならどうでしょう?」
僅か口角を釣り上げた直後、オルタを中心として黒い炎が地面より噴き上がった。それは瞬く間に広範囲に拡大し、涅槃台のもとまで達した。
「……チッ、逃げ足の速い」
だが、やはり彼を捉えること叶わず。黒炎で焼いた大地に彼の姿は無かった。
「まったく、アレのどこが“ジャンヌ”なのか」
溜息を吐きながら森の中を走るのは涅槃台。傍にはジャックがピッタリくっ付くように並走する。
「でも、さっきのはマスターが悪いよ。あんなに意地悪されたら“ぼくたち”でもカチンときちゃうもん」
「でしょうね、
「?」
涅槃台の返答に首を傾げたジャックへ、一拍置いて説明を始める。
「彼女、ジャンヌオルタは
「っ、じ、じゃあ置いてきちゃったのは不味くない?」
涅槃台は首を横に振る。
「あのままあそこに居れば、彼女は“本気”になったでしょう。そっちの方が厄介です。何せ我々はこれから大事な作戦がある、その前に要らぬ消耗を強いられるわけにはいかない。
……とはいえ、馬鹿正直に背中を向ければ彼女は即座に本気で仕留めにきた。だからこそタイミングを見計らって逃げたんですよ」
「そっか…………でも、どうして裏切るって分かったの?」
ジャックの疑問は当然だった。これまで共に行動してきた中でこちらも彼女も特に怪しい発言も行動もしなかった。互いに不利益となることもしなかった……と、少なくともジャックは考えていた。
涅槃台は間を置かず答える。
「簡単なことです。彼女は
さっきまでの行動の中で何度か“確かめる”ような仕草をしていたんですよ、あの怨霊に旗槍を向けた時も
……そこで初めて私も“彼女の裏切り”に確信を持ったわけですが。
加えて、
「あー、なるほど! だからマスターに加減して攻撃してきたんだ」
「ええ、アレで彼女も自分の疑問を確信に変えたのでしょう。私もこれ以上は危険と思いこうして退散したわけです」
説明を聞いたジャックは、その冴え渡る頭脳で即座に事態を把握した。把握して……解消されていない疑問を再びぶつける。
「……でも結局置いてきたのはマズくない?」
ジト目で見つめるジャックに、「うっ」と呻きを漏らしながらも涅槃台は咳払いで誤魔化す。
「ま、まあ、それは、そうですが…………いや、たしかに失態ですね。しかし今更戻っても仕方ないでしょう。こうなっては彼女の聖女への執着に期待するしかありません」
オルタは、オリジナルにあたる聖女ジャンヌに強い敵意を向けている。その思いに従って素直にジャンヌを仕留めに向かうことを彼は願っていた。
「そもそも、彼女には“味方がいません”。頼る宛がない上にあの性格ですから、聖女を倒しに向かう以外に選択肢があるとも思えませんが」
「そっか、あの怨霊のことはまだ“分かってない”んだもんね。
……まあ、分かったところで“あいつ”の知性はもう無いし、どうしようもないけどね」
「くひひ」といたずらっ子のような笑みを浮かべるジャックに、涅槃台は穏やかな目を向けていた。だが、すぐに真剣な顔に戻して前に向き直る。
「さあ、そろそろ街区です。一番高いビルに登った後のことは……分かってますね?」
「うん!!
「そうです。その上で
「食べ放題!!」
「あなたたちの特性を考えれば、“手分け”して食べるのがいいでしょう。そうすれば奴らはすぐに
聖女と“あの地母神”は人々を見捨てられない、油凪で殺戮が始まればたとえ罠だと分かっていても出てくる。
そこからが本番です。
……ああ、わかってると思いますが。手分けしている最中に奴らと遭遇したら――」
「すぐに逃げる! 絶対に戦わない!」
「そう、よくできました」
立ち止まりジャックの頭を優しく撫でると、彼らはふにゃふにゃの笑みを涅槃台に向けてきた。
――その笑みを見ていると、自分の無くなったはずの“心”が痛むような気がした。
(……くだらない感傷だ)
だがすぐに元の“冷徹”な思考を取り戻す。
自分の野望のために彼らを“使う”のだ。
自分の野望のために人間どもを殺戮してきたのだ。
自分の野望のために、願いのために、私は――
――
クダになでなでされて存分に癒された後。
息も絶え絶えだった遠野さんがようやく落ち着いたので早速事情を聞くことにした。
と、彼女のもとを訪れたところどうやら誰かと通話中の様子だったので一歩引いて待つ。
「……はい、はい。あぁ、とにかく無事でよかったです」
通話の最中、木陰で待っている俺を見つけ早々に通話を切った彼女が小走りで駆け寄ってきた。
「ヒデオさん! ヨシオさんも無事だったみたいです! 今はこっちに向かってるそうですよ!」
心底安堵したような笑顔でそう告げる彼女。
うん、いったい何のことを言ってるのかさっぱりわからん。
その旨をそのまま伝えると、彼女は一気に赤面して平謝りしてきた。
なんとも可愛い反応だが、そのまま眺めていてもいじめにしかならないのでなんとか宥める。
そうして落ち着いた彼女から改めて教会までの経緯を説明してもらった。
曰く、彼女とヨシオはジャックの森を出た直後に悪魔の襲撃に遭ったという。
堕天使バルディエルを名乗ったその悪魔から遠野さんを庇ったヨシオは、彼女を逃がし仲魔と共に堕天使へと立ち向かった。
一方、遠野さんは必死に逃げながら俺の私用スマホへと連絡をしたが繋がらず。更には途中であの怨霊に遭遇、死に物狂いで逃げていたら
「いや、まさかこんな奇跡が起こるなんて思っても見ませんでした。私の
「直感、ねぇ……」
それにしては“出来過ぎ”だ。当たり前だが彼女が嘘をついているようには見えないし、やはり“何かしら”の存在から干渉があったと考えるべきだろう。
あと、どうでもいいがこんな死にそうな目にあっておいて、よくもまあそうもあっけらかんとしていられるものだと思った。
その旨をやんわりオブラートに包んで聞いてみると――
「はは……いや怖かったですよ? ちょっとおもr……涙とか鼻水とか出ましたし。
でも、ヒデオさんもヨシオさんも無事だって分かったらなんかホッとしてしまって」
「何言ってんですかね私」と乾いた笑いを漏らす彼女。
いや、それはまったく“恥ずべきことではない”。
つまり彼女は“自分よりも他人の安否を心配していた”ということだからだ。
彼女は、やはり、ジャンヌやレティシアと同じく眩しいほどの――
――結局、思ったよりも平気そうな彼女としばらく雑談をしてみたが、彼女に“干渉した”と思われる存在の手掛かりは一切掴めなかった。まあこれは俺の単なる妄想に過ぎない、本当にただの偶然であれば良いのだが。
そもそもの話。
怨霊に狙われたり堕天使に狙われたり出自も考えれば、
これまで平穏無事だったのはひとえに、彼女の両親や周りの人々が彼女を悪魔らの目から遠ざけてきたからだろう。
しかし、その庇護は“堕天使の介入”によって破られた。
話を聞く限りバルディエルとやらは彼女が“天海市のハッカー夫妻”の娘であることを既に知っていた。
どこから情報を仕入れたのか知らないが、彼女がもう“SCSに見つかってしまった”のは確かだ。
……ヨシオが到着し次第、この話を伝えておくべきだろう。彼ならば遠野さんの今後についても目を掛けてくれると思うし。
落ち着いたら彼女の両親にもそのことを伝えておきたい。SCS……ひいてはグリゴリは既に遠野アイを捕捉していると。
田舎の風景を眺めながら一服していた俺の視界に、ふとジャンヌが写った。
「ジャンヌ?」
どこか物憂げな顔で教会のあった方向をジッと眺めている。
何か気掛かりでもあるのだろうか、と思うが俺が声をかけるべきなのか迷う。
「ヒデオさん、彼女をお願いできますか?」
そこへ見計らったように優しい声が聞こえてきた。見ればブラックマリアが優しい表情で俺を見つめている。
「……俺で、役に立てるか分からないが」
「少なくともこの場では貴方が適任だと思います。私もオサキに用がありますので」
そうか、彼女が手空きでないなら仕方ない。俺が行くべきだろう。
……別にジャンヌに気があるわけではない。だが、彼女の、彼女たちの持つ“明るさ”を曇らせるのは良くないと思ったからだ。
俺は吸いかけのタバコを簡易な火炎魔術で焼き払い、ジャンヌのもとへと向かった。
「ジル……」
近づくとそんな呟きが聞こえてきた。結構近くまで来たのだが彼女は俺に気がつかないほどに気を揉んでいるらしい。
仕方ないので軽い咳払いの後に声をかけてみると、ハッとしたようにこちらへ振り向いた。
「ヒデオさん? どうかされましたか?」
彼女は平静を装うように柔和な笑みで問う。
「いや、あんたが浮かない顔してたもんだからな……俺でも話くらいは聞いてやれるぞ?」
なるべく軽い感じで話しかけてみると、一瞬戸惑うような仕草を見せた彼女だが。すぐに落ち着いた様子で口を開いた。
「……そうですね。先ほどの戦いで、少し生前の友を見つけてしまったものですから」
友?
「貴方たちが“怨霊群体”と呼んでいる悪魔……厳密にはその“頭部”にあたる部分が、その……知り合いのモノだったのです」
「知り合い?」
「ジル・ド・レェ元帥です」
「っ! ジル・ド・レ……?」
ジル・ド・レといえば百年戦争に名を残すフランスの軍人だ。確かに彼はジャンヌと共に戦った人物だしその中でも特に関係が深かったと記憶する。
しかし、彼が有名なのは寧ろ戦後の……
「よりにもよって私がジルを見間違えることなどありません。アレは確かにジルの顔……どうしてあんなことになっているのかは分かりませんが」
あの気味悪い顔がジル・ド・レだったとは……それがなぜ子どもの怨霊の群れに融合しているのか。詳しい経緯は見当がつかないが、子どもの怨霊とジル・ド・レは“深い関係”がある。おそらくは“自業自得”な
しかし、そうならジャンヌが浮かない顔をしていたのも納得だ。
生前の戦友が、あのような悍しい姿になって奇声を上げながら暴れていたのだから。
心中察するに余りある。
「……ですが安心してください。アレが本当にジルであったとしても、この世界に、人々の平穏に弓を引くならば戦うまでです」
毅然とした態度で答える彼女。
だが、そう簡単に割り切れるものでもないだろう、内心では葛藤があるはずだ。
戦場においてそのような気の迷いは死を招く。経験者たる俺が言うのだから間違いない。
次にヤツとぶつかる時にはなるべくジャンヌははけておくべきだろう。
「……あんたの役割は“盾”だ。積極的に攻撃する必要はない。どうか俺たちの防衛に専念してくれ、敵は俺たちで叩く。
……だから、まあ、なんだ」
どうにも言葉に詰まる。そもそも聖女を励ますなどどうすればいいのだ?
締まりの悪い俺に、僅か笑みを見せた彼女。
「ありがとうございます。そのお心遣いで十分です」
「……ジャンヌ、あんたは俺たちの“仲間”だ。ヤバければ俺たちが助ける、それだけは忘れるなよ」
「っ! はい、私も全力で戦います。共に、戦いましょう」
ジャンヌは眩しい笑みで手を差し伸べてきた。その手を握り固く握手を交わせば彼女からの信頼が伝わってくる、ような気がした。
「……オサキ、と今は呼ばれているのですね」
ふわり、と宙を浮きながらオサキのもとにやってきたのはブラックマリア。喜びを込めた笑みを浮かべる彼女と対照的にオサキの顔は僅か強張って見える。
「何の用ですk……何の用じゃ?」
「いいえ、ただ……楽しく過ごしているようで、良かったです」
先ほどのヒデオとの戯れを思い返しながらそう告げる。オサキも何を指しているのか察して頬を赤らめた。
「良き人を見つけられたようで幸いです」
「な!? べ、別にヤツとはそそ、そそそそんな関係ではないわ!!」
そして、続く言葉にオサキは真っ赤になって叫んだ。しかし目を泳がせワタワタと手足を振りまくる姿は滑稽と言えるほどに分かりやすい反応だ。
「あら、私は“良い人を見つけた”としか言ってませんよ? つまり、貴女の方にはそういう気があるということね?」
「っ!!!!」
悪戯っぽい笑みを浮かべたブラックマリアに、オサキは茹で蛸のような顔色で目を見開き口をパクパクさせる。
やがて、プンスカしながらそっぽを向いた。
愛娘の愛らしい姿に思わず破顔し、すぐに神妙な顔持ちで彼女は問う。
「……貴女には、とても酷な役目を押しつけてしまいました。神としての務めだけでなく、あのような――」
鎮痛な声音で、絞り出すように言葉を紡ぐブラックマリアの言葉をオサキは遮る。
「良い。全て貴女のあずかり知らぬところ。ワシとて全て貴女の所為にするつもりなどない」
オサキもまた苦虫を噛み潰したような顔で答える。彼女も十二分に理解しているのだ、ブラックマリア……即ち先代夕凪神には落ち度などないことを。
それでも、オサキにとって“邪教の呪い”は笑って流せるほど軽いものではなかった。
数十、数百年もの間、狭く暗い社に閉じ込められた苦痛はもとより。祟り神と化した彼女が“奪った命”を自らの罪と背負っているがゆえ。
加えて、
憎くはない……しかし、昔のように笑って話せるほど穏やかな気持ちにはなれないのだ。
「オサキ……私は、また貴女と話したい。随分と時間を掛けてしまいましたが、今夜だけは――」
戸惑うように、ぎこちなく思いを伝えるブラックマリアの顔は期待を滲ませ――
「やめてくれ。今更……貴女と話すことなどない。
……ワシは、私は、貴女に任された夕凪神の任を全うできなかった。
あなたが責を感じているように、ワシも本来なら合わせる顔がないのじゃよ」
そう言って背を向けた彼女は、それ以上言葉を続けることなく立ち去った。
「オサキ……」
ブラックマリア……否、先代夕凪神は悲しげな顔のまま去っていくその背を眺めていた。
――油凪市街区。
駅を中心に商業施設やら飲食店やら、高いビルが幾つも乱立する街中は夜分にもかかわらず賑わっていた。
お世辞にも治安が良いとは言えないこの街では、昼間とは別の賑わいがある。
仕事帰りのくたびれたサラリーマンに声をかける客引きはまだ大人しい方で、ヤンチャ盛りの若者やヤンチャを卒業出来なかった大人やらが繁華街を騒いで練り歩く。
中には明らかに“カタギではない”容貌の者まで彷徨いており、地元の一般人は夜の街にはまず近寄らない。
そんな夜の油凪の街で一際高いビルのてっぺん。夜風を受けながら目を瞑る一人の子どもがいた。
「うーん、と。東に十人、西に八人、北に……五人かな? あ、今駅の方からもう十人くらいの“気配”が来た」
食べ放題だぁ、と破顔する彼こそは怨霊ジャック・ザ・リッパー。
“彼ら”はその
本来はせいぜい数十m圏内を索敵する程度のこの能力だが、ジャックリパーの捕食や“人魂の捕食”により飛躍的に成長していた。今では半径十km圏内の対象を即座に感知するほどに。
獲物を前に舌舐めずりする彼らだが、すぐに涎を拭ってマスターからの指示を思い返す。
「え、と。ビルに登ったら街を霧で満たすんだよね?」
ららら〜♪と軽く踊りながら、彼らは身体から“霧を出す”。
放出された霧は風に乗ってゆっくりと街中へと広がってゆく。
やがて、それらが地上へと降りて十分に街を満たしたことを確認した彼らは徐に
姿形は同じ、しかし有する霊力は分かれた数だけ弱くなっている。それは、獲物を確実に殺せる力を持ちながら
準備を終えた彼らは狂気と喜悦を混ぜ合わせた笑みを浮かべてナイフを構えた。
「さあ、殺戮の時間だよ」
夜の油凪市に、
【あとがき】
なんとか三章は年内で終わりたいです(願望