英傑召喚師   作:蒼天伍号

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ストック終了


リザルト

「これは……また随分と、悲惨な」

 

ボロボロになったCOMPを手渡すと、メアリ氏はなんとも言えないといった顔で、曖昧な言葉を紡いだ。

対する俺も気まずさから視線を泳がせる。

何を隠そう、このCOMPを融通してくれたのはメアリ氏の属する『業魔殿』のオーナーなのだから。

 

譲ってもらった大切なCOMPを、よりにもよってスクラップ状態にまでぶっ壊して、尚且つ送り主の元へと持っていく。そんな地獄みたいな苦行をせざるを得なかった俺のストレスを察してほしい。

 

「とりあえず……工房(ラボ)の方で見てきますね」

 

そう言って難しげな顔で店の裏へと去っていくメアリ氏。

スタッフオンリーと書かれた扉から、彼女と入れ替わるように現れたのは、代役を務めるラヴちゃんだ。

 

相変わらず綺麗な髪の毛してるなぁ、とセクハラ紛いの感想で現実逃避を図った。

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼討伐の後、家に帰った頃にはすでに口座に報酬が振り込まれていた。さすがメシアン、仕事に勤勉である。こういうところは素直に感心する。

 

後日、協会に売りにいく“資料”に『封印』を施し倉庫に仕舞ってから俺は早々に業魔殿へと向かった。

 

今は陰陽術の応用で仲魔たちに十全にMAGを配給できているが、いつまでもCOMPを使用不可にはしておけない。

 

そう思って、こうして修理の依頼を出してみたのだが。メアリ氏の反応を見るに思ったよりも“壊れている”らしい。

俺はヒヤヒヤしながらも、エントランスのソファにて待つ。

 

 

 

数十分したところで、ようやくメアリ氏が戻ってきた。

 

「ヒデオ様、お話がありますので地下まで同行願います」

 

「わ、わかりました」

 

お話、いやこの場合は『OHANASI』。いったい、なにをされるのか戦々恐々としつつも素直に彼女のあとについて行く。

相変わらず、基本は無表情な彼女なのでなに考えてるかもわからない。それが恐怖を増幅させる。

 

やがて、合体部屋に入ったところでようやく口を開いた。

 

 

「こちらのCOMP、通信にて『ヴィクトル様』に伺いました限り修復にはだいぶ時間がかかるとのことです」

 

申し訳ありません、と頭を下げる彼女へ、あたふたしながら咄嗟にフォローを入れる。

 

「いやいや、壊したのはこちらなので……貴重なCOMPをこんなにしてしまい、申し訳ない限りです」

 

「……そう仰っていただけると、助かります」

 

苦笑を浮かべる彼女に、ようやく表情を出してくれたと安堵する。

普段は、僅かながらも表情を見せてくれる彼女だが仕事の際には大体が無表情なので正直、ちょっと怖い。

ただ、彼女は“根っこが優しい”と知っているので本来なら緊張はすれど恐怖まではない。こちらに非がない限りは。

 

 

その後、話し合った結果、COMPの修復は任せることになった。その間ではあるが、中のプログラムごと俺が持つ仕事用スマホに移動させることで代わりとする。

……ただ、あのCOMPとスマホを比べるとやはり性能は落ちるらしく幾つかの機能が使用不可になるとのことだった。

具体的には、『登録されている魔法の使用制限』などである。

修復期間は俺自身が術式を構築するしかないが、いざとなれば『奥山流召喚術』を使うつもりだったので逆にこの程度で済んだことに安堵した。

 

機械系があまり得意でない俺としては「やっぱスマホってすげーな」くらいの感覚でしかないが、一時間ほどかけてデータ移行の作業をしていたメアリ氏を見る限りかなり大掛かりな話なのだと思う。

 

 

 

 

データを移し終えたスマホを受け取ったあたりで、徐にメアリ氏が口を開く。

 

「ところで、『冬木』に関する調査の報告をしたいのですが」

 

その言葉で、そういえばそんなことを頼んでいたなと思い出す。

例の“情報欠落”の件だ。

 

「冬木市において行われた『儀式』のことは、ヒデオ様もご存知と思いますが」

 

「いや、“何らかの儀式”ってのしか知りませんね。『英傑召喚式』が関係してくるのは分かりますが」

 

そうなのですか? と僅かに驚いた顔をしたメアリ氏は暫し考え込んでしまった。

 

「……では、“必要な情報”だけ提示することにしましょう」

 

別に、俺は構わない。興味はあるが無理矢理聞き出したいほどの事柄でもないし。

俺は欠落の件とーー

 

「召喚式に関する情報がもらえるならそれで構いませんよ」

 

俺の返答に頷きながら彼女は続きを語る。

 

 

曰く、冬木市においては『間桐』と他二家が結託して『万能の願望機降臨の儀式』が開催された。

この儀式には『英傑の魂』が必要不可欠で、そのために『間桐』は英傑召喚式を開発したのだとか。

そして、その召喚式。本来なら“冬木でないと機能しない”らしい。

 

「……以前、登録させていただいた英傑ウシワカの情報を見直してみたところ。冬木の召喚式と酷似する術式を経て現界を果たしていたものの。肝心のキーたる『願望機』との接続が無かったために構成情報に欠落が発生した、という結論に至りました」

 

「願望機との接続……」

 

そこらへんも詳しく聞きたいが……渋っていたのを見るに詮索するべきことではないのだろう。或いは『重大な機密』に相当するのかも。

 

「まあ、詳しくは聞きませんよ。ただし、今後、欠落によってウシワカに不調が生じるようならその限りともいきませんが」

 

「そこは問題ない、と判断しています。確かに情報欠落はありますが、肉体構成自体に致命的欠陥は見つかりませんでした」

 

なら、いい。

もともとこの調査はメアリ氏の提案を受けてのことだったので、詳しい調査なら俺が勝手にやるつもりだ。

そもそも、彼女には“借りがある”。

 

「……ありがとうございます」

 

「別に、後は俺が勝手に調べるつもりなので気にしないでいいですよ」

 

「重ねて感謝と、お詫びを。なにぶん、『冬木』に関する情報はヴィクトル様からも固く口止めされておりまして」

 

()()ヴィクトル氏が口止めするほど、となれば相当な厄ネタなのかもしれない。……ちょっと怖気付いた。

 

「……断言はできませんが、おそらく、欠落情報というのは『英傑ウシワカの戦闘スキル』であると思われます」

 

……おっと?

それは少し聞き捨てならない。なにせ、彼女とはこれからも依頼を共にする予定なのだ、その際にはもしかしたら“欠落しているスキル”が必要となる場面もあるかもしれない。

要は生死に関わる問題である。

 

「……詳しい説明を」

 

僅かに語気を強めて問い詰めると、メアリ氏は少し迷いながらも観念したように目を伏せた。

 

「……冬木における英傑召喚式は少し特殊なのです。他の召喚式で呼ばれる英傑というのは概ね『伝承』に語られる力を有した状態で現界するのですが。こと冬木のものに関しては、『ある一面のみを抽出して現界させる』術式なのです。

 

そして、ヒデオ様が使用した召喚式。

確かに冬木のものと酷似しますが、細部に相違が見受けられる。この相違によって英傑ウシワカはーー

 

ーー他の術式と同様の召喚をされようとして、冬木式の機能との『矛盾』を起こし、本来備えるはずの技能を喪失した状態で現界した。

 

……と、考えています」

 

「ほぅ……」

 

曖昧な表現があったので分かりづらいが、つまり『普通の英傑になろうとして、術式に組み込まれている冬木式の機能に邪魔されたことで戦闘技能が欠落した状態で出てきた』と。

 

やはり、俺が得た召喚式は欠陥品だった。

これは、あとで『彼女』に文句を言わねばなるまいて。ついでに宝石も返してもらわねばなるまいて!

 

 

そのあと、さらにメアリ氏に詰め寄り聞き出した情報で、なんとなく今のウシワカの状態を理解することができた。

 

曰く、冬木式の英傑は『英霊』と呼ばれる特殊な存在であるという。彼らは『受肉』を果たしておらず、『魔力』で形作られた霊体こそを本体とし、その核たる『霊核』によってその存在を保っている。

彼らは、元となる英傑の一側面、冬木流に言えば『クラス』に規定された状態で召喚され、そのクラスに応じた特殊能力、『宝具』と呼ばれる所謂『必殺技』を持つ。

 

これによれば、ウシワカは『宝具』を一部喪失した状態なのだという。

 

その代わり、彼女は冬木式以外の英傑と同じく『受肉』した状態で現界しているということ。

 

「……もしかしたら、宝具以外にも『スキル』に相当する技能を喪失している可能性もありますが。そこまでは私にも分かりません。ごめんなさい」

 

申し訳なさそうに頭を下げた彼女に首を横に振る。

 

「いえ、こちらこそ……無理に聞いてすみませんでした。このことは俺の胸の内に留めておきますので」

 

「そうしてくれると、助かります」

 

しかし、正直なところまいった。

 

メアリ氏の説明によれば「記録では日常生活に支障はない」と言うものの。具体的にどこがどう欠落しているのかは分からないという。

宝具に相当する能力が失われているのは確かだが、それ以外の“10%”の欠落情報が不明なのだとか。

 

この10%が『スキル』に相当するという技能なのだろうが、或いは『それ以外』かもしれない。

 

 

曖昧模糊な調査結果に思うところがないわけではないが、ヴィクトル氏に口止めされているというメアリ氏にこれ以上詰問するのもかわいそうだ。

 

なので、今日のところはこの辺で帰ることにした。

帰りがけ、再度メアリ氏が謝罪を述べてきたが、見るからに“主との約束を破った罪悪感”に苛まれていたので、慰めておいた。

いや、俺のせいだけどね!

 

……今になって思えば、少し悪いことをしたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

帰宅後、電話にて『リン』に召喚式の欠陥に関して強く苦言を呈したところ。納品予定の宝石を大幅に削減することができた。

要するに、今の備蓄で十分補える数へと。

 

……あれから、彼女も「あまりに法外だった」と考え直してくれたらしく交渉は比較的スムーズかつ穏便に終わった。まあ、彼女とはそれなりの付き合いだからこその結果だと思う。

 

 

奇跡的に『宝石狩り』の苦行を回避できた喜びからその日は宴を開くことにした。

つい先日も酒宴を開いた気がするが、きっと気のせいだ。

とは言うものの、やはり食材その他諸々は先日ので使いまくってしまったので些か心許ない。

なので、まずは買い出しをすることにした。

 

時刻は未だ昼過ぎだ。時間は十分にある。

自宅から街区までそう遠くもないし、せっかくなのでイヌガミとウシワカを伴ってスーパーまで向かうことにする。

 

 

数十分の散歩の後、市内唯一のスーパーへと到着。

例によって買い物はイヌガミの助言を頼りにする。……正直な話、彼に任せてきた弊害から、食材の買い出しにおいて俺は毛程の役にも立たない。一人で訪れたならまず間違いなく惣菜コーナーしか利用しない。

 

料理など持っての他、できるのは釣った魚を焚き火で焼くくらいだ。

言ってて悲しくなるなぁ。

 

ちなみにイヌガミにはいつものように霊体化してもらい、色々とアドバイスだけをもらう形となる。

そしてなにより、今回の食材選び担当はウシワカとの二人体制。きっと、また美味しい料理を作ってくれるに違いないと、俺はまだ見ぬ夕食に想いを馳せて唾液を生産する。

 

「お任せください、主殿! このウシワカ、限られた費用で必ずや満足できる料理を作ってみせますとも!」

 

握り拳を作りながら元気に宣言するウシワカ。うんうん、やる気があるのはいいことだ。すでに彼女が料理にも精通していることは知っている。イヌガミからの指導で家電の扱いもマスターした。

 

「期待してるよ、あと外ではヒデオ、な?」

 

「うっ……本当に、そのような呼び方で?」

 

一転、消え入るような声で恥ずかしそうにもじもじするウシワカ。そこまで恥ずかしがられるとこっちまでドキドキする。別に恥ずかしいことでもないと思うんだが。

 

「んー、じゃあ“奥山”で手を打とう」

 

「それはそれで、何か距離を感じます」

 

注文の多いやつだ。

 

 

 

 

 

 

イヌガミの助言に従い、まずは肉・魚のコーナーから見て回る。

理由は……知らん。

 

「……」

 

ちなみに、スーパーへとウシワカを連れてきたのは初めて。

なので、最初は「すごい、食材がこんなに!」とかお約束なはしゃぎ具合を見せてくれるのだろうと内心ワクワクしていた。

 

が。

 

「……」

 

「すごい……真剣な顔で値札を見比べてる」

 

買い物を始めた途端、終始無言で食材を吟味し出した。

そして、入念にチェックした食材たちをテキパキとカートに乗せた買い物カゴに入れていく。ただ、それだけの作業。

 

「思ってたのと違う……」

 

俺は、もっとこう、みんなでワイワイはしゃぎながら買い物したかったのだ。流石に見た目ゆえにイヌガミは霊体化しながらとなるが、会話自体は俺もウシワカも可能なので問題にはならない。

 

だというのに……

 

 

『アチラノ“イナダ”ノ方ガ、ボリュームガアッテ、オ徳ダ』

 

「なるほど……ではこちらのーー」

 

などと。傍に浮遊するイヌガミの霊体と真剣な顔で議論しながら買い物している。当然俺はカートを運ぶ係である。

ご両人に指示されるままにひたすらカートを押して近くに待機。

宴の買い出しなので、買う量もそこそこ。当然、分刻みで重くなるカート。

 

「違う、俺が望んでたのと違う」

 

「主……いえ、ヒデオ殿! 今度は青果コーナーまでお願いします!」

 

「あ、はーい」

 

ウシワカからの言葉に従い素直にカートを押し進める俺。

……今更気づいた、よくスーパーで見かけるお父さんたちの苦痛。

 

カタカタとカートを運んでいると、ふと目に入るのはお酒。

 

「そういえば切らしてたな」

 

先日の飲みで結構在庫を減らしていたのだ。

最初こそウシワカがどこからか持ち出してきた日本酒だったが、それが切れてからは、我が家の冷蔵庫に保管していた缶ビールたちを消費していた。

 

「うーん、とりあえずワンセット」

 

いつもの缶ビールの束をカゴに突っ込む。

 

「あ、主殿!! いけません、酒は私が選びますので!」

 

しかし、目敏く気づいたウシワカがすかさず近寄ってきてビールの束をひったくる。

それをそのまま商品棚に戻した。

 

「お、おい」

 

「ご安心ください、此度も主殿が満足するものをご用意いたしますので」

 

満面の笑みで答えたウシワカに、俺はそれ以上何もいうことが出来なかった。

だって、あんな眩しい笑顔見せられたら、ねぇ?

 

 

 

そんなこんなで、数十ほどで食材はカゴに揃ってしまった。

それを見て満足げな顔をしたウシワカは、

 

「では“れじ”とやらに向かいましょう」

 

さっさとレジに向かって歩き出してしまった。

お買い物タイム終了である。

 

「いやいや、待て待て」

 

慌ててその肩を掴む。

ちなみに、今日のウシワカは白のキャミソールワンピと黒の短パンである。

即ち、今のウシワカの肩は生肌。

 

予想以上にすべすべの肩を、気付かれないように軽く撫でながら俺は口を開く。

 

「お前、甘味の類は好きか?」

 

「はぁ、まあ、人並みには……あ、まさか子ども扱いしているのですか!?」

 

突然プンスカし出すウシワカ。

 

「違う違う、別に、菓子くらい大人でも食べるだろ」

 

「それもそうですね」

 

あっさり平静を取り戻すウシワカ、その切り替えの速さは美点だと思うぞ。

と、早速ウシワカ(とそれに追随するイヌガミ)を連れてお菓子コーナーまで向かう。

 

別段、特別なものはなく他のスーパーと同じような銘柄の菓子類がズラリと通路の両棚に並んでいる。

が、それを目にした途端、ウシワカは僅かに眉を上げた。

 

「ほぅ、当世の甘味は“ばりえーしょん”に富んでいますね」

 

「まあな……ウシワカ、好きなの選んでいいぞ」

 

「えっ!?」

 

俺の言葉にバッと振り返ったウシワカの顔は、明らかに喜びを含んだ表情を作っていた。

 

「お前らのおかげでだいぶ費用が浮きそうだからな、ご褒美だ」

 

「そ、そう仰るなら。お言葉に甘えて……」

 

遠慮気味ながらも、ウシワカはおずおずと菓子を選びに向かった。

 

「もちろん、イヌガミもな」

 

『イ、イイノカ!?』

 

「ああ、欲しいのをウシワカに取ってもらえ」

 

『ソ、ソウカ。ナラ早速……』

 

そう言って霊体のままフワフワとウシワカの元まで飛んでいくイヌガミ。

ちなみにあいつの好物は『おやつカ◯パス』である。

 

 

 

そんなこんなで無事、買い物を済ませた俺たちは真っ直ぐに家へと帰った。

買い出し品の量は当然かなりのものとなったが、俺は日頃のサマナー業からこのくらいの量でも楽々持て、ウシワカも『悪魔』としてのスペックから見た目に反してかなりの重量を軽々と運べる。

……のだが、必然、両手は二人とも塞がっている。

 

「イヌガミ、玄関を開けてくれ」

 

もう自宅の敷地内で、ここら辺は一通りも少ない。ゆえにイヌガミを実体化させポケットの鍵を取らせた後に玄関を開けさせた。

 

そのまま館内を進み、キッチンへと至った俺は買い物袋を台へと置いた。

 

「ふぃー、結構買ったなぁ」

 

袋の中には刺身用の切り身を始め、さまざまな食材が詰まっている。

 

「これは夕食が楽しみだ」

 

「はい! 腕によりをかけて調理いたします!」

 

元気に応えるウシワカに後を任せて、俺はソファへと向かった。

 

着てきた上着をかけてから腰を下ろし、ポケットから取り出したるは召喚プログラムをインストールしたスマホ。

 

「動作は問題ないな」

 

ぽちぽちと弄りながら機能を確認する。

召喚・送還は問題ない。魔法も、登録できる容量が減ってしまったが普段使う魔法だけなら十分。

ただ、索敵機能は幾分かグレードダウンしていたのは仕方ない。

 

お次は、『オウザン』宛てに溜まったメールを処理する。

と言っても、大した量ではないが。なんだかんだと後回しにすると、不意の多忙から膨大な量が貯まることも珍しくない。

もちろん、オウザンの評判にも繋がるしな。

 

再びぽちぽちと処理していくと、大半がいつも通り助言だけで終わる怪現象だったが。何件か出向く必要がある案件が残った。

予定表と相談して手早く返信した結果、次の週は仕事で埋まってしまった。

……まあ、休暇は取ったばかりなので大人しくお仕事に専念するつもりではあるが。

 

ガントレットが無い以上は慎重に事を進めるべきだ。

大抵が何事もなく終わる依頼だが、過去にイレギュラーが無かったわけでもない。

そういう時はとっておきの魔法も使わねばならない。

しかし今のスマホではカジャ系と他の必須魔法の発動だけで手一杯だ。

 

戦闘時には悠長に詠唱したり術式を書いたりしている時間もない。

 

「……って、ビビりすぎか」

 

ふと冷静に考えて、慎重になり過ぎている自分を恥じる。

無意識に、先日の吸血鬼の奇襲が堪えているらしい。

 

我ながら、随分とビビりになったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー午前2時、夕凪市街区・とある路地裏。

 

「ぴぎぃ!」

 

奇妙な断末魔を挙げて、中年男性の上半身が()()()()()()()

断面から臓物を溢しながらゆらゆらと左右に揺れた下半身は、力なく地面に倒れる。

 

「ん……んー、不味いですね」

 

その目の前、口元から滴る鮮血をハンカチで拭き取りながら彼は呟いた。

 

袈裟に錫杖を携えた彼の顔は、しかし驚くほどに端正だ。長い睫毛、軽くウェーブのかかった濡れ羽色の髪を肩口まで伸ばし、薄く綺麗な唇で笑みを作る。都内を数分ぶらつけばたちまちスカウトされるだろう。

 

 

「追討の軍に属するサマナーと聞いて、さぞや美味な『霊』を持っているのだろうと食してみれば。

……犬の糞にも劣りますね」

 

具体的には苦味が違います、と続けながら倒れ伏した下半身を蹴りつける。その上に唾を吐き捨てた。

 

「ま、現代の『人間』にしては悪くないですかね」

 

言いつつ、ふと背後へと目を向けると。

 

そこには数多の魑魅魍魎が夜闇に蠢いている。

がしゃがしゃと音を立てる巨大な骸骨。首無しの馬に跨った異形、手や足が異常に伸びた者など。姿だけでも様々な妖怪と呼ばれる存在たち。

 

全て、彼の配下である。

 

「さて、それでは皆さん。今宵も祭りと参りましょう」

 

そう告げる彼の『索敵範囲』にはすでに十数名の『サマナー』の反応がある。いずれもサマナー協会から正式な依頼を受けて参じた実力者たちだ。加えて、連日に渡って犠牲者を増やす『彼』の力を危険視した協会によって選りすぐりが集められている。

そのような危機的状況にあって彼の顔は明るい。

どのように調理したものか、呑気にもそんなことを考えながらゆっくりと歩みを進める彼に追随する妖怪たち。

 

夜の夕凪市内に百鬼夜行が現れた。

 

 

 




とりあえずウシワカ編の終わりまで書いてみたい
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