もっとだ……もっとイチャイチャしろ……(祈祷
――いつかの記憶。
銃火器と“異形の魔性”が闊歩する決して表社会には知られない闇の戦場。表の力が意味をなさない超常の跋扈する
――その日私は、悪魔と結託した反社会組織に捕らえられた幼な子たちを
事前情報では低級な悪魔と、霊的研鑽の足りないゴロツキしかいないはずの拠点はしかし、組織に援助する“強力な悪魔”たちの来訪中であった。
なんとか子どもたちの救出は成功したものの、脱出の際に悪魔たちに発見され戦闘へと発展した。
当時、すでにサマナーの中でも上位の実力を持っていた私だが。子どもたちを守りながら強大な悪魔を仕留めるほどには至っていなかった。
魔力も尽き、道具も尽きて最早これまでと覚悟したその時――
――彼は現れた。
彼は“力”そのものだった。
刀の一振りで屈強な悪魔たちは物言わぬ肉片と化し、銃撃は正確に悪魔たちの急所を撃ち抜く。
彼の従える“仲魔”も同様に精強であった。
そして、
一方的な殺戮の果て、彼はなんてこともないように悪魔どもの頭目の首を刎ね飛ばし、組織は結託した悪魔もろとも呆気なく壊滅した。
戦闘を終え、後から駆けつけた依頼主たちに子どもたちを引き渡してすぐに私は彼を追いかけた。
事情は知らない、素性もしれない。しかし、戦場で垣間見た彼の目はひどく“澱んでいた”。
『待ってください……!! どうか、私を――』
――ならば、
どうあれ、あの様な目は“穏やかではない”。
――ならば、
人が、人の世が“幸福であれ”と志した私には彼を見過ごすことなどできなかった。
『――連れて行ってはくれませんか?』
私が救わねば。
思い悩む者がいれば相談に乗り、悲しみに暮れる者がいれば寄り添い、争う者がいれば仲を取り持ち、
この命ある限り、私は■■を救わねばならない。
……そうでなければ、私は、俺は――
――あの日、あの時、
仲魔の戦闘を見守りながら今後の作戦を確認していた矢先、
「……ああ、そうでしたね。
時を経るごとに、
当初は記憶の欠落に意識を向けることもなく溢れ出る“悪意”のままに振る舞ってきたが、三度の死を経たことで私も“自らに掛けられた呪い”の意図に気付き始めていた。
「存外、悪趣味なものだ。
――いや、“いくじなし”だからこそこのような状況になっているわけか。
「回りくどいにも程がある……が、そうでなければ“この出会い”もなかった」
自然とその視線は仲魔である“男の子”に向かう。
痛みと苦しみから生まれ落ちた社会の闇そのもの。
かつての私が、救いたくて、どうか幸あれと願ってやまなかった存在の一つ。
かつての私が、“絶望”した光景によく似て――
「……なにはともあれ、今はこの作戦の成功に尽力しましょうか」
この作戦が成功すれば、“我ら”にとって後顧の憂いとなる存在はなくなる。
後は事を進めるだけ。
それが成れば今度こそ、
かつての私が抱えた憂いも絶望も、この溢れ出る憎悪も悪意も。
全てが無へと帰す。
我が悲願たる
「せいっ!」
ウシワカの大振りの一撃を受けて、ジャックは後方に後退る。
「三郎!」
そこへすかさずチヨメちゃんの呪いが絡み付き一時的にBIND状態にする。
あとはイヌガミの火炎魔法と俺の銃撃で追撃を仕掛けて。
「たぁ!!」
トドメとばかりにウシワカの斬撃がその身を斬り裂く――
――寸前で、金色の錫杖が薄緑の刃を受け止めた。
「やっぱり出てきたな、
教会の戦闘にて、妙にジャックを気にかけていた奴のことだ。この局面で出てくると確信していた。
だからこそ、ここでブラックマリアの援護……が欲しかったのだが。
先程、ブラックマリアを呼ぶべくオサキに念話で話しかけたところ。どうにも同行していたパン子が突然、錯乱状態に陥ってしまったらしく合流はパン子を比較的安全な場所に置いてからとなっていた。
なんとも間が悪い。
だが、無理なものは仕方ない。
「ウシワカ! ジャックは任せたぞ!!」
指示を出しつつ、涅槃台に斬りかかる。
見たところ、涅槃台もいつものように饒舌に喋る気はないようですぐにでもウシワカに魔法を放とうとしていた。
俺の斬撃に対し、魔法を中断して錫杖で受け止めた涅槃台は目を細めた。その目には純粋な殺気だけが宿っている。
「っ、ヒートライザ!」
危険を感じた俺は咄嗟に自己強化を施す。そして強化された感覚は、下方より迫る“魔法”を察知した。
「あぶなっ!?」
慌てて飛び退いてすぐに、地面から呪殺属性のエネルギーが間欠泉のように噴き上がった。
毒々しい色彩のエネルギーの柱を貫く形で、錫杖が顔を出す。
その刺突を刃で受けたところで、チヨメちゃんが念話で“固有スキルの使用許可”を求めた。俺は二つ返事で承諾。
時を置かずしてチヨメちゃんは指の腹を噛みちぎり、溢れ出る鮮血を触媒として“呪い”を発動した。
「口寄せ・伊吹大明神縁起!!」
詠唱を省略しての即時発動。威力の減衰を代償として八頭の大蛇が一斉に涅槃台へと襲い掛かる。
そこらへんの悪魔なら一瞬でMAGの塵と化す強力な呪殺攻撃だ。
……が。涅槃台は一つの頭を鷲掴み
威力が落ちているとはいえ、デタラメじみた強さだ。
まあ、それだけの隙があればこちらも追撃が可能だ。
後退しながら銃撃にて牽制、少し遅れてイヌガミの火炎魔法が放たれた。
乱舞のように火球が宙を舞い、四方八方からランダムに涅槃台へと襲い掛かる。
「……!」
涅槃台は僅かに眉を動かし、錫杖と破魔系魔法で撃ち落とし始めた。
その光景を見てふと思う。
もしや、
元来、火とは闇を祓う概念だ。日本のみならず、火は闇と相対するモノとして広く信仰されてきた。
呪殺属性、少なくとも涅槃台の扱う“呪殺魔法”が火を弱点とする可能性はある。
なら、俺にもやりようはある。
もう一度ヒートライザを掛けてからアギストーンを複数投げつけ、お高めの火炎弾を装填する。
涅槃台がアギストーンを撃ち落とす隙を狙いすぐさま射撃する。
……とはいえ、今の涅槃台は銃弾程度は容易く打ち落とす。案の定、錫杖にて正確に弾丸を捉えたその直後。
「ぐっ!?」
弾丸が炸裂して火炎魔法を撒き散らした。炸裂型の属性弾だ。火炎対策をした上で打ち落とさねば問答無用で内部の魔法が解放される仕組みになっている。
涅槃台は怯み僅か隙を晒す。
ここで一気に押し込む。
銃を持ち替え属性弾を撃ち続けながら接近、抜刀する。
イヌガミも魔法にて火球を撃ち出しながら口内に炎を溜めて接近する。
ヒートライザ二段掛けの超スピードで急接近して刀を一振り、当然涅槃台も錫杖で受け止める。
その間にイヌガミが至近距離からファイアーブレスを見舞った。
涅槃台は咄嗟に防御結界を張るも、急造の結界では防ぎきれずに無事炎の渦に巻かれた。
「ぐうぅぅぅ!!」
炎に巻き込まれないように飛び退き涅槃台を見ていると、奴は炎に巻かれながら手印を結び法術にてファイアーブレスを掻き消した。
「相変わらずタフな奴だ!」
このままではジリ貧になる、そう思った時。
「ぐっ……」
ピシ、パキ、と音を立てて脚に痛みが走る。どうやらヒートライザ二段掛けは未だにキツイらしい。
これ以上、俺が出張るのは難しいか。
「なら仕方ない……」
俺はイヌガミを呼び寄せ、“鎖”を表出させると無造作に引きちぎる。
鎖がボロボロと崩れていくに応じてイヌガミは飢怨権現へと回帰する。
「……やれるのか、主よ?」
飢怨権現への形態変化を終えたイヌガミが問うてくる。
そこに憂いはなく、ただ俺の覚悟を問う声音。
「やれる、やるしかねぇ。こいつは今度こそ仕留めなきゃならん気がする」
なんというか、こいつは“復活”する度に冷静になっているというか。“覚悟”が決まってきてる感じがする。もちろん“悪い方の覚悟”だ。
……いや、悪いというのは語弊がある。あれは“破滅”を肯定する覚悟だ、これまで殺してきた敵にもああいう目をした奴がちらほらいた。
まあ、ただの感覚の話だが。
サマナー稼業においては感覚というのは案外バカにできないものがある。
「クク……なら存分に力を振るってやろうぞ」
イヌガミは獰猛な笑みを漏らし、次の瞬間には涅槃台に飛び掛かっていた。
涅槃台は以前のように興奮することもなく、冷静に飛び込んでくるイヌガミを見据えて梵字を宙に浮かべて破魔系魔法をセットする。
イヌガミは襲いくる破魔系魔法の群れを爪や牙で無理矢理破壊しながら涅槃台に突撃する。呪殺属性を吸収する飢怨権現だが、生半可な破魔系魔法も効果が薄い。飢怨権現に対抗するには純粋な力技が必須、しかし飢怨権現もまたその身に秘めた膨大なエネルギーを無遠慮に振り撒き暴れるのだからタチが悪い。
「あ、あれがイヌガミ殿の本気でござるか……」
狼狽えるチヨメちゃんに目をやる。
俺は飢怨権現からの急激なMAG吸収にふらつきながらチヨメちゃんに指示を出した。
「イヌガミの援護を頼む……できる範囲で構わない、あの状態のイヌガミは有体に言って暴走してるからな。俺もなるべく援護する」
そこまで言って耐え切れず膝をついた。
「お館様!」
チヨメちゃんが心配そうに駆け寄ってくる、それを手を向けて制す。
「問題ない、許容範囲だ。それよりも、イヌガミを……頼む」
俺の言葉に、何か言いたげな様子で口を開くがすぐに真剣な顔で頷き援護へと向かった。
その背を見つめながら、物思いに耽る。
俺がこうも弱いままなのは何故なのか、最近は少し理解できるようになっていた。
「
義務とか責任の話じゃない。俺が、俺自身を信じて戦うだけの“理由”が今の俺には無い。
かつての俺であれば、街の住人を虐殺したことに対する“義憤”のようなものに燃えていたと思う。だが、今はそうではない。
確かに、義憤みたいなものは存在しているが。同時に
廃寺の一件もそうだ。
口ではあんな事を言っていたが、結局のところ“アイシャの言葉を嘘にしたくない”という理由で戦っていた。
心の底では仲魔や“俺自身”のことを
だからすぐに元に戻ってしまった。
この感情を
そしていつかまた仲魔を――
「……今は集中するべきだ」
深みハマりそうになった思考を絶ち、目の前の戦闘に意識を向けた。どうあれここを乗り切らねば理由もクソも無い。
霧の街に二つの影が踊る。
一方は、手にした名刀を巧みに振るい天狗が如き素早さで縦横無尽に街中を駆ける。
もう一方もそれに劣らず、影から影へと這い回るように高速移動し隙を見てナイフを投擲する。
やがて、這い回る影を捉えたウシワカが薄緑を振り下ろす。ジャックはこれをナイフにて受け止めた。
「アハハ、強いねぇお姉さん」
「貴様も、この私についてくるとは、なかなかにすばしっこい」
ギリギリと重ねられた刃が火花を散らしながらも両者は笑みを浮かべていた。
「……ねえ、お姉さん? ぼくたちを殺すの?」
突然、真剣な顔で問いかけるジャック。だがウシワカにはそういった小細工は通じない。
問いに答えることもなく、刃を更に押し込める。
「っ……! 容赦ないんだね、フフフ。
残念そうに呟いたその言葉に、ウシワカの眉が僅かに動いた。
「古い絵本で見たことあるよ、おっきな“べんけい”と戦う綺麗でかっこいい“うしわかまる”」
それは童話、絵本の話。それはつまり“この悪魔が人間として生きていた頃にあこがれた情景”ということ。
その事実が強くウシワカの心に突き刺さる。
目の前にいるこの悪魔が、確かに
「っ……!」
ウシワカの刃に込める力が一瞬、しかし明らかに弱まった。それを見逃すことなくジャックは力を込めてウシワカの刃を押し返し、ウシワカごと弾き飛ばした。
「しまった!」
「
詠唱を省略した即時発動、威力の減衰を許容して放たれる呪殺スキル。
条件は揃っている。
夜と霧と、“女”。
このジャックが“殻”としているサーヴァントの宝具条件を全て満たした上で、なおかつこの怨霊が持つ『この世界に生存する知性体への特攻』を加えれば。強化されたウシワカとて無視できない威力を発揮する。
直後、ウシワカの腹部が弾け飛び、臓物が体外へと排出された。
「ぐっ!? がはっ!」
因果の混乱によって遅れて襲いくるダメージは、
因果の上ではすでに死体は出来上がっている。このダメージは遅れてやってきた“結果”であり“必然”なのだ。
ウシワカには、ジャンヌほどの呪い耐性は無い。
すでに発動した呪いと、それによるダメージを回復する手段もない。
まして、チヨメの時とは違い同じ空間で発動された。その分、威力も先の比ではない。
ウシワカは己の命が急速に失われていく感覚と、ぼやけた視界の中でかつての己の最期を思い出していた。
――ああ、あの時も。腹を裂いて果てたのだったか。
ヨシツネソースを吸収した彼女は自らの最期について正確な記憶を取り戻していた。
かつて他者への共感を欠いていた己の未熟を、そして。
今は、
それを自覚して、彼女は今一度奮い立つ。
“まだ死ねぬ”と。
その想いに応えるようにして、濃密な神気が含まれた
「遅れました!!」
声のした方に向けば、そこにはこの場にて待ち望まれた援軍が二体。
黒い聖母、ブラックマリアが破魔系魔法を乱射しながら戦いの渦中に飛び込む。それを補佐するようにして幻術と呪殺魔法を撃ちながら随伴するオサキ。
まず、
圧倒的な力を振るう姿は教会での戦闘とは別人のようだ。
否、前回とは条件が違う。
まず、守るべき恩ある教会はすでに無く。強力な悪魔であるジャンヌ・オルタもいない。さらには涅槃台の持つ“瀆聖の加護”もすでに見切っている。
古代、単神にて異郷の邪教団を追い払った戦神に二度も同じ手は通じないということ。
ブラックマリアは勇ましい表情で声を上げる。
「速やかに終わらせましょう……この
【あとがき】
アンドロメダちゃんがいい子で、それにもにっこりしてます。
ペル……こんないい奥さんもらったとかどんだけ幸運なんだ貴様。アルジュナよりも遥かに授かりの英雄じゃないか!!
嫉妬が抑えきれん……!
沖縄好子方言ツラ(略し方がわからん)がアニメになるそうで楽しみにしてます。沖縄出身系のキャラ、実は大好きなんですねぇこれが。響ちゃんとか。