いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉい!!!!
眩いほどの閃光。周囲で蠢いていた泥は破魔の雷光により一瞬のうちに消し飛んだ。
「今です、犬神殿!」
ブラックマリアの声に反応して飢怨権現と化したイヌガミが駆ける。
迎撃しようとした涅槃台は、ブラックマリアの放った“竜巻”と“火球の群れ”によって体勢を崩した。
無防備な躯体へとイヌガミの爪牙が突き立てられる。
「がっ……! 小癪な……!」
吐血しながらもすぐに立て直して杖と“泥”にて反撃しようとする涅槃台。しかし、泥はブラックマリアの破魔系魔法にて現れた端から浄化されてゆく。
俊敏な動きと霧に紛れる戦法にてウシワカを翻弄していたジャックは、ブラックマリアの放った疾風魔法にて霧を吹き飛ばされるのみならず、体勢まで崩された。
「っ、牛若丸様!」
「承知!」
ブラックマリアの声に遅れず振るわれた薄緑による斬撃はジャックの身体に浅くない傷を残した。
「くっ、やりにくいなぁもう!」
ナイフを投擲しつつウシワカから距離を取るジャック。これを追撃するようにして再びブラックマリアの四属性魔法が飛ぶ。
一方、涅槃台は泥と錫杖にてイヌガミと渡り合う。しかし先ほどの傷のせいか些か動きが鈍い。
そうしてイヌガミの爪牙による一撃で怯んだ隙に。
「三郎!」
チヨメちゃんの呪いによる拘束が決まった。
しかし呪殺魔法を得手とする涅槃台相手では長くは保たない、時間にすれば一秒ほど。だが、イヌガミが渾身の一撃を放つには十分すぎる時間だ。
一瞬、自らの呪力を“魔力”へと変換して溜め込んだイヌガミは、大口を開けて至近距離から
「っ!!」
涅槃台も咄嗟に防護障壁を張ったものの、イヌガミの火力を止めるには至らず火球をモロに食らった。
「圧倒的じゃないか……」
ブラックマリアが合流してからというもの、俺たちは涅槃台ら相手に優勢に立ち回っていた。
彼女の扱う豊富で強力な魔法、そして的確な指揮。
呆気に取られてつい先ほどまでポカーンとしてしまっていた。
俺がいる意味。
……だが、側から戦いを見ていて感じた“違和感”もある。
「……
ジャックではない、“涅槃台”だ。
俺の記憶では廃寺で戦った時点で飢怨権現を
だが今は飢怨権現とチヨメちゃん相手に劣勢だ。
加えて、奴はこれまで“死ぬたびに強くなっていた”。なら、この戦況はおかしい。
なんらかの要因で弱くなった……と考えるのは楽観的すぎるだろう。
「手加減、している?」
なんのために? こちらが把握している“奴らの目的”と現状を鑑みる限りでは理由が見当たらない。
目的が不明だ、が。
不可解な行動であるのは確かだ。
妙な胸騒ぎを覚えた俺は急いで念話にて仲魔に知らせようとして、猛烈な悪寒に襲われた。
涅槃台たちの方を見ればブラックマリアたちに追い詰められて今まさにトドメの総攻撃を受けようとしているところ。
――不意に、ジャックの口角が上がった。
次の瞬間――
――
生まれてからずっと疎まれ、虐げらレテ生きた。
“ぱちんこ”でまけタというりゆうで■られた。
うるさいというりゆうで■られた。
けい■でまけたというりゆうで■られた。
うっとうしいというりゆうで■られた。
■■がほかの■■■のひとといっしょにいた、というりゆうで■■■■。
カップ■■■■をこぼしたという■■■で、■■■■をかけられた。
■う■え■のみんなとはなしてはじめてしった。
■■のかぞくはもっと■■しいと。
だから■■はおもった。ぱぱとままがよろこぶことをすればきっと■■にもやさしくしてくれると。
だからいうことはちゃんときいた、いたいのもがまんした、ご■■もがまんした、■■■え■のみんなとあいたいのもがまんした。
……■■■はがまんできなくて■られたけど、いたいのはがまんできた。
しんじてた、きっと、きっといつか、■■も■■も■■を◻︎してくれると。
だからだいじょうぶ。もうなんにちも■■■を■べてないけどがまんできる。■■はいいこになるんだ、そうして■■と■■にほめてもらうんだ。
だから……ねちゃだめだよ…………ねむく、ても……めを……あけ――
――
わるいこな■■■は、おそとではんせいしていた。ふゆのおそとはとてもさむくて、こんくりーとはとてもつめたい。
……べらんだのむこうがわでは、よそのこが■■■さんと■■■さんにはさまれてにこにこしている。そのまえにはろうそくをたてたおっきなけーき!
いいなぁ……そうだ、ことしのぷれぜんとはけーきにしよう。けーきってたべたことないけど、みんなのはなしではとてもおいしいときいた。
■■■さんならきっとかなえてくれる、ことしこそはきっとかなえてくれる。
……なんだかねむくなってきた。それになんだかさむくなくなってきた。こんくりーともつめたくない。
これならよくねむれそう――
――
いつもおこっていた■■■さんは、かえってこない。もうなんにちもおうちにひとりぼっち。
おなかすいたなぁ……でも、■■はこのおりからでられないから■■■をさがしにいくこともデキナイ――
――
――
――
――――
――
ボクタチハ愛サレナカッタ
おいしいご飯も。
うれしいプレゼントも。
たのしい日々も。
あたりまえの日常さえ――
――ぼくたちには与えられなかった。
「これは……っ!!」
精神干渉……!
それも、相手に自由に
なにより俺の耐性をあたりまえのように貫通している。
俺の視界には、見るに悍ましい……語るのも憚られるような凄惨な光景がはっきりと映っている。
理不尽な暴力に耐える子ども、無慈悲な空腹に耐える子ども、救いの無い冷たさに震える子ども……
あらゆる仕打ちを受ける子どもたちを映したヴィジョンが、無限に切り替わる。
魔術的な精神汚染ではない。
異能に根ざした精神汚染ではない。
……これを見て何も感じない者は少ないだろう。ある程度、最低限でも真っ当な常識を備えた人間はこのヴィジョンに心を痛める。
そして、繰り返し、繰り返しこのヴィジョンのみを見せられた人間は精神に変調をきたす。
「そこでようやく“効果”が発動するわけか」
心が弱ったところで“魔術的な精神汚染”が発動する。
しかしこの汚染は俺の精神耐性によって弾かれた、ゆえにこうして冷静に分析することができる。
「……だが、俺だって無限に耐えられるわけじゃない」
こんな常軌を逸した光景をずっと見せられたらいずれは俺も汚染されるだろう。
俺はただちに“五大明王”の真言と手印を結ぶ。
すなわち“明王陣中具足”の詠唱である。
努めて冷静に、ゆっくりじっくりと詠唱と手印を結びスキルを発動する。
直後、視界がガラスを砕くように割れた。
次の瞬間には霧に包まれた街が視界に入る、つまり現実に戻ってこれたということだ。
辺りを見れば、ぼーと虚空を見たまま静止する仲魔たちの姿が――
――そして、今まさにウシワカを刺し貫かんと錫杖を振り上げる涅槃台の姿が。
「おらっ!」
踏み込みからの抜刀、居合いの要領で振り抜いた刀は明王陣中具足による強化も相まって神速にて錫杖を弾いた。
「貴様っ!? どうやって――」
二の句を継ぐ前に二の太刀を振るう。これを錫杖にて受け止めた涅槃台は苦々しげにこちらを
「……どうやら貴様
「お互いさまだろ……!」
言い返しながらさらに刃を押し込む。
俺だってあんな光景を見せられて何も感じないはずがない。目を背けたいと思ったし、烏滸がましくもどうにかして救いたいと思った。
だが、
あの怨霊の恨みつらみ、察するにあまりある。俺ごときが“それを理解した”などとは口が裂けても言えない。彼らの苦痛と絶望は彼らにしか分からない。
本来なら大人たちが、あのような子どもたちを生み出さないようにしなければならないことも知っている。
だが。
「俺の仲間たちが殺されるのを黙って見てるわけねぇだろ!」
吠えてさらに刀を押し込むが。
「っ、貴様のような……
突然、激昂した涅槃台に凄まじい力で押し返され弾かれた。
そのまま突きが放たれる。
「くそっ……!」
強化によって急上昇した身体能力でなんとか矛先をさばくが、続け様に突きを放ち続ける涅槃台に圧される。
「自分勝手に弱き者たちを虐げる畜生ども、弱さを盾に世をかき乱す畜生ども!
全て、この目で見てきた! 救おうとするたびにこの手からこぼれ落ちる命を幾度となく見てきた!! 何度も! 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!!」
いきなり訳の分からないことを喚き散らしながらも、その猛攻に隙はなく。どころか段々と精度と威力を増していく。
……こいつ、こんなキャラだったか?
「お前みたいな外道が、何を今さら……!」
「そうだ! 貴様らのようなゴミを殺すために
言い放ち大振りの横薙ぎを放った。
感情が昂りすぎだ、隙だらけである。
冷静に受け流し、袈裟斬りを見舞う。
「ぐぁ!!」
無防備に斬り裂かれた傷から鮮血が溢れる。同時に、俺の身体も強化に耐え切れず激痛と共に軋んだ。
我ながらよく保った方である。
「っ、消え去れ!!」
ほんの少し、気を緩めた瞬間。涅槃台は背後に展開した魔法陣から幾つもの呪殺魔法を放った。同時に地面から染み出した“泥”が襲い掛かる。
「しゃらくせぇ!!」
コイツがこの程度で死なないことなど百も承知、こちらも強化された火炎魔法で全て薙ぎ払う。
術師型でない俺はごっそりとMAGが抜け落ちた感覚に襲われる。
だが、今はまだ負けられないと踏ん張る。
飢怨権現も落ちた今、俺が踏ん張らねばならない。
「付け焼き刃のガラクタが!!」
「うるせえ、ダブスタ野郎!!」
憎悪に満ちた錫杖を、俺は空元気にも似た気合いで受け止めた。
――ヒデオが涅槃台を抑えている間に、ジャックの精神干渉を
「あーあ、ほんと、やりにくいなぁ“お姉さん”」
ジャックは心底嫌そうに表情を歪めた。
「“アレ”を見ても平気な上に、まだ
……“ちぼしん”ってみんなそうなの?」
少し、“複雑な感情”になりながらジャックは文句を言う。
「どうでしょうか……皆、それぞれに大事にしているモノは違いますから」
ブラックマリアはあくまで穏やかに返答する。
その態度が殊更にジャックの心をかき乱す。
「やだなぁ……ぼくたちは確かに“生きたヒト”が嫌いなはずなのに、お姉さんのことは嫌いに
そんなのおかしいのに、間違ってるのに……嫌いになれない」
苦悩するジャックの周囲はいつの間にか、復活したヒデオの仲魔たちが囲っていた。
それらをゆっくりと見渡してからため息を吐く。
「……もう、めんどくさくなっちゃった」
そう呟いた直後、ジャックの身体からこれ迄にない濃密な“呪い”が溢れ出した。
これまで身体強化、スキル強化、その他諸々に費やしていたMAGを全て呪いへと変換した一撃。
放たれれば辺り一帯が焦土と化すほどの膨大なエネルギー。
仲魔たちが狼狽える中で、ブラックマリアだけは落ち着いた様子で両手をジャックへと向ける。
直後――
「ぐっ!? あ、があぁぁああぁ!!」
ジャックは呪いの発動を止めて苦しみ出した。喉を、胸を掻きむしったかと思いきや。腕、頭に爪を立てて押さえる。
やがてその身体から、ジャックと同じ姿形をした半透明のシルエットが分離し始めた。
「な、なに、を……!?」
「……貴方がたが被っている“殻”を剥ぎ取ります。その“殻”は少々厄介な能力を持っていますから」
なんてことないように語られた“神の技”に、ジャックはもとより仲魔たちも驚愕する。
いくら偽りの姿とはいえ、街一つを滅ぼしてあまりある膨大なエネルギーの持ち主だ。そう簡単に殻だけを剥がすなど出来ようはずがない。
仲魔たちからすればこのジャックが“ジャックという殻”を被っているという事実すら知らないのだから無理もない。
だがこの女神は、この地を本拠とする地母神である。仮の姿とはいえ、長く広く、深く信仰を受けた地母神のホームグラウンドであればこそこのような芸当も可能となる。
「がぁアァぁぁぁぁぁ!!!?」
やがて、するりと抜け出るようにして“ジャックのシルエット”が剥ぎ取られ、ブラックマリアの手の中に収まると。『英傑ジャック・ザ・リッパー』という
そして、殻を剥がされた“本体”は荒く息を吐きながらブラックマリアに双眸を向けた。
「あーあ……
へらり、と笑みを浮かべた“彼ら”の素肌がボロボロと剥がれていく。
「どうせなら……もっと遊んでいたかったけど」
頬が剥がれた跡から
応じて、皮膚の剥がれたところからも白い羽根がぞわぞわと浮き出てくる。
「こうなったら
やがて、羽毛は肌を突き破るようにして全身から生え出した。
“彼ら”の変身と共に、辺りの空気が肌を刺すような殺気に満ちていく。
「みんな……
ミ ン ナ シ ン ジャ エ」
羽毛に埋もれた額から大きな“目”が開かれた。
「……」
ブラックマリアは目の前で姿を変えた“怨霊”をじっと見つめていた。
そこには先程までの慈しみに加えて“警戒”の色が混ざっている。
沈黙する彼女の前で、
『まあ、ぼくたちに姿なんて関係ないんだけどさ。一応、名乗っておくよ。
ぼくたちは
口減らし
“幼な子の声が幾つも重なったような声”で彼らはあっさりと自らの正体を明かした。
「たたりもっけ……」
その名は、この場にいる全員が知識として知っていた。
だが、
――“たたりもっけ”とは、東北において語られた妖怪の一種である。
曰く、口減らしとして殺された子どもの怨念とも。座敷わらしの対となる存在とも、座敷わらしそのものとも。
無惨に殺された者の怨念とも語られる怨霊である。
そして、現代において悪魔として現れるのならばその種族は“凶鳥”。或いは妖鳥、魔獣、幽鬼などが該当するはずである。
そもそも怨霊というカテゴリは特殊な悪魔に振られる種族であり、それらは一貫して“個人の怨みで悪魔と化した”存在である。
まして彼らは“群体”。
全てが例外に過ぎた。
たたりもっけはおもむろに辺りを見渡す。
『んー……“霧”は十分に満ちているね』
「それが……なんですか?」
挨拶するような気軽さで呟かれた言葉に、しかしブラックマリアは嫌な予感がしていた。
「なにって……ぼくたちはもうジャック・ザ・リッパーじゃないわけだけど。そうなると、この“霧”って――
――どうなるのかな?」
目を細めて笑みのような表情を作った直後。
街に満ちていた霧が
「こ、これは!?」
もとより霧には強力な呪いが含まれていた。しかしそれらはブラックマリアの張った結界で完全に防がれてきた。
それが今、“壊れ始めた”。
「肌が……焼けるように……」
いち早く結界が崩壊し始めたウシワカの肌が“焼け爛れる”。次いで、頬にヒリヒリとした痛みが走り、次の瞬間には“青痣”となりそれ相応の痛みが発生した。
じわじわと肌を蝕む腕の“火傷”、さらには太ももを引き裂くように“大きな斬り傷”が生まれた。
「ぐっ……!」
傷口は深く、筋肉すら“引き裂く”。
一秒と経たずしてウシワカは地に倒れる。すぐに這おうとして動かした腕はすっぱりと筋を絶たれた。
あたりを見れば仲魔達にも同様の“呪い”が現れていた。
チヨメとオサキは四肢の筋を最初に絶たれ、喉を“焼かれた”。
唯一、飢怨権現だけは実体化した無数の幼な子の怨霊が抑え込むようにして封じている。おそらくは呪いが通じなかったのだろう。
強化された呪いの中で抵抗も出来ず命を削られる仲魔たちを見ながら、たたりもっけは翼を広げて天を仰いだ。
『うふふふふふ……誰も逃がさないよ。みんな、
【あとがき】
可愛い悪魔が増えるよ! やったねみんな!
あと多分、お兄ちゃんの出番も増えそう。そして相変わらずアブの隣に佇む太宰くん見ただけで笑っちまった。
……てか新キャラのcv千和さんやんけ!!!!(大歓喜