英傑召喚師   作:蒼天伍号

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油凪決戦・一

「ぶあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「口閉じてなさい、舌噛むわよ」

 

油凪の空を高速飛行するモノがいる。

鳥か!? 飛行機か!?

無論、電撃を纏って空をかっ飛ぶ電霊である。

……電霊ってそういうのじゃない? これも時代さ。

 

 

 

 

 

怨霊群体を難なく撃破した彼女だったが、群体を構成していた怨霊たちには逃走を許した。

しかも怨霊たちは物凄い速さで逃げたものだから追うにも追えない。

そうクダが悩んでいたところ……

 

『あ、なんかこの子の身体なら割と無茶できるっぽいわ』

 

と、唐突に言い出したネミッサに手を掴まれ。問答無用で空の旅へと連れ出されたのだ。

 

「おおおおお前! どうやって飛んでる!? いきなり落ちたりしない!?」

 

「んー、ジオをなんか、こう、むん! ってして……ブワー! ってしたら出来た」

 

「テキトーすぎるぅぅぅぅぅぅ!! 助けてヒデオォォォォォォォォォ!!!!」

 

恥も外聞もかなぐり捨てて泣き叫ぶクダの顔からはあらゆる汁が溢れ、夜空をキラキラと煌めかせていた。

 

「はいはい、そう言ってるうちに着いたわよー」

 

なんてことないように告げながら、街区の中心部へと急降下するネミッサ。

 

「びゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 死ぬゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

そして、電撃の塊となって落着。その衝撃はアスファルトを粉々に打ち砕き、周囲のビルを吹き飛ばすほど。

 

無論のこと、その場に集っていた全員が落下物に注目した。

 

 

「うーん、こっちのダメージはジオでどうにかできるみたいだけど。周りはそうもいかないみたいね」

 

「……」

 

煙の中からは傷一つ無い“遠野アイ”の姿と、地面に横たわり白目を剥いてピクリとも動かないクダの姿が現れる。

 

「あ、さっきの奴の気配みっけ」

 

おもむろに、たたりもっけを見ながら呟く。次いで、パシン! と拳を掌に打ち付け笑みを浮かべる。

 

「よぉし、んじゃあちゃちゃっと済ませちゃいますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から女の子が降ってきた。

 

……いや、嘘じゃないマジだ。

 

飛行機が飛ぶ時のような甲高い音が響いたと思ったら、突然、近くに落下してきた物体。あまりの衝撃に周囲の建物が吹き飛ばされ落下地点もクレーターができている。無論、俺も軽く吹き飛ばされた。

 

落下の衝撃で舞い上がった煙の中から現れたのは()()()()、しかしその外見は俺の知ってる彼女とは異なっていた。

さらには口調もいつもの彼女とは真逆。

 

ついでにその背後には完全にのびてるクダも見える。

 

 

いったいどういう状況だ、と混乱する俺とは対照に。涅槃台はいち早く彼女の正体を看破した。

 

「貴様……まさか、()()()()か!!」

 

ネミッサ。その名は俺も知っている。

遠野アイのご両親……あのハッカー夫妻が関わった天海市の事件を知っているなら当然記憶に残る名前。

 

天海市の事件において、『マニトゥ』から生まれ、マニトゥを滅ぼした存在。

電霊ネミッサ。

 

「……だが、彼女は既に“消滅”しているはずだが」

 

事件の元凶たるマニトゥを消すため、ネミッサは己の存在を以ってしてマニトゥに死を与えた。それが事の顛末だ。

 

おまけに、あんな化け物じみた移動手段は持っていたなんて聞いていないが。

 

 

……いずれにしろ、遠野アイの身体を使ってこの場に来た。ということは“味方”と考えてもいいだろう。ハッカー夫妻の話では、ネミッサは善良な性格であったと記憶している。

 

俺は痛む身体をなんとか起こして話しかける。

 

「ネミッサ……! 俺は君が憑依している子の護衛をしていて――」

 

「あー知ってる知ってる。全部、この子の中から見てたから。

それより、敵ってアイツらよね?」

 

俺の言葉にひらひらと手を振って応えた彼女は逆に涅槃台たちを指差して問うてくる。

 

「あ、ああ。あのサマナーとでっかいフクロウだ」

 

「オッケー、じゃあ早速、やりましょうか!」

 

好戦的な笑みのまま、ブン、と手を振る。

その直後、俺の傷が全快した。彼女は続けてもう片方の手を振るう。

周りを見れば仲魔たちの傷も回復している。

 

なるほど、上級回復魔法(ディアラハン)広範囲中級回復魔法(メディラマ)か。

それを一息で発動し、ケロッとしているあたりかなりの霊力の持ち主だ。いや、この場合は遠野さんか?

 

どっちでもいいが、とてもありがたい。このままではなす術もなく殺されそうだったからな。

 

「アタシの電撃は痛いわよぉ〜……喰らいたいやつから前に出なさい」

 

そう言って彼女は魔力を溜め込む。

それは周囲に魔力風を巻き起こすほどで、俺でも感じられるほど強大な魔力に身震いする。

同時に、涅槃台すらあっさり上回るほどの霊力が溢れ出ていることに気づいた俺は内心歓喜した。

 

いける。彼女の助力さえあればこの場を乗り切るどころか涅槃台も確実に仕留められる。

 

俺は彼女に続くように刀を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

――どうやら()()()()()()()()()()

 

私はゆっくりと息を吐く。ジクジクと己が身を蝕む呪いや傷の痛みは大したことではない。

心配なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……いえ、弱気はいけませんね。どうあれ“あの子”が無事に帰るまでは」

 

気合を入れて立ち上がる。そして、相変わらず胸に突き刺さっている魔槍を掴んだ。

 

「は、母上……」

 

傍らでは明らかに狼狽したオサキが弱々しくこちらを見上げている。

ならば、より一層気張らねば。

 

「大丈夫ですよオサキ、母はこの程度では死にません」

 

あの子に笑みを向けながら、手にした魔槍の術式に()()して()()()()()

タローマティ、貴女が私のことを熟知しているように。私も、ダエーワ(貴女たち)のことは熟知しているのですよ?

でなければ、貴女たちを追い出すこともできなかったでしょうに。

 

 

 

「……やはり詰めが甘いですね、末っ子ゆえでしょうか?」

 

「まだ喋れるのですか……呆れた生命力ですが、どうにもあの電霊の相手は私でなければ務まらないようなのでさっさと死んでください」

 

私にトドメを刺そうと背後に幾つもの魔法陣を展開する。おそらくは瀆聖に特化した呪殺魔法。

ですが……一手、遅い。

 

「外つ国の善神よ、今一度、力をお貸しください……

 

 “アルヤーマー・イシュヨー”」

 

術式の書き換えが完了した魔槍に魔力を込める。その瞬間。

 

「っ!!?」

 

雷光の如き閃光を放ち魔槍は消滅、そして再びの閃光ののち()()()()()()()()()()()()()()()

 

「がっ……!?」

 

成人女性としたての身体的特徴を持ったタローマティ……おそらくは“依代”としての身体でしょう。ならば即興の術で十分です。

 

タローマティの胸には先程、私に刺さっていた槍と同じシルエットを持った、しかし“雷光の如く輝く”大槍が突き刺さっている。

 

「これは……! バカな、こんな短時間で……!!」

 

「随分と酷い術式を組んでくれたものです。だから……()()()()()()()()()しておきました。どうぞ、存分に味わってください」

 

「っ、貴様ァ!! 死に損ないが、偉そう、に……!」

 

大槍を術式ごと手で握りつぶし。フラフラとしながら、しかし、憎しみに満ちた顔でこちらを睨んでくる。おお、怖い。

 

「早く逃げた方がいいですよ。まあ、相討ち覚悟で来るというなら相手をしますが」

 

彼女が作った魔槍、これは実のところかなり強力だ。的確に私の“核”を破壊したのもあるが、槍に刻まれた術式と乗せられた呪いによって既に私の身体は()()()()()()()()()()()

これを、致死性の部分だけそっくりそのままに、彼女の権能による部分を『アールマティ』へと書き換えてお返しした。おまけに彼女にとっての致命傷となる呪文も加えておきましたので、今の彼女にはもう我々を一蹴するほどの力は残されていないでしょう。

 

それを理解したのか、タローマティも魔法陣を消す。

 

「……忌々しい地母神め、そのままここで朽ち果てろ!

 

涅槃台!! 私は撤退しますが、この場の有象無象どもの処理は任せましたよ!!」

 

最後にキッとこちらを睨みつけながらタローマティはその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、うちの上司は人使いが荒い」

 

タローマティが突然、でっかい槍に貫かれたと思ったら何やら涅槃台に後事を託して撤退してしまった。側から見た限り、ブラックマリアが何かしたようだが……

 

ちらり、とブラックマリアを見て眉を顰める。

彼女の傷が、治っていない。

ネミッサはちゃんとブラックマリアにも回復魔法を掛けていた。それが効いてないということは、つまり、何らかの呪いの影響か或いは――

 

「よそ見とは余裕じゃないですか!!」

 

ちょっと目を離した隙に、涅槃台が目の前まで迫っていた。

……が、こちらに錫杖を振るう前に横合いからイヌガミが体当たりをかました。

着地したイヌガミは怒り心頭なご様子で唸る。

 

「我に手加減したふざけた小僧は、ここで喰い殺す。よいな、主よ?」

 

「お、おう。存分にぶちかましたれ!」

 

俺の答えに満足したのか、ニヤリと笑ったイヌガミは涅槃台に襲い掛かる。

……だが、やはり此度の涅槃台は以前よりもパワーアップしているらしく苦戦を強いられている。

 

そこへネミッサが声をかけてきた。

 

「どうする? 私はアンタの指示に従うわよ」

 

「助かる。なら、イヌガミと共に涅槃台……あのサマナーの方を頼む」

 

「イヌガミ……なんか私の知ってるイヌガミと違う気がするけどとりあえず了解したわ」

 

言って、両手に電撃属性の魔力を溜め、それを容赦なく涅槃台の方へとぶっ放した。

もはやメ○粒子砲とでも呼ぶべき極太ビームは、イヌガミに気を取られた涅槃台に直撃する。

 

「っ、があぁぁああぁ!?」

 

夜闇を照らし出すほどの閃光、電撃は涅槃台だけに収まらず周囲を無差別に破壊している。

 

なんとか電撃から逃げ切ったイヌガミが目を見開いてネミッサを見る。

 

「やるではないか、小娘」

 

「小娘じゃない、ネミッサよ犬っころ!」

 

「ククク……ならばネミッサ、共にあの不届きな小僧を八つ裂きにしてやろうぞ!!」

 

「言われなくても!!」

 

少しの掛け合いの後、イヌガミは涅槃台に爪牙で立ち向かい。ネミッサも強力な電撃魔法の連発で涅槃台を追い詰める。

どうにも二人だけでどうにかなってしまいそうな様子だが。

 

「俺も少しは手伝わないとな!」

 

サマナーとして立つ瀬がない、そう思い補助魔法を発動する。

後方で比較的安全な俺はタルカジャ、ラクカジャ、スクカジャをエンドレスに二人へ掛け続ける。

 

「っ、あぶね!」

 

時折、こちらに差し向けられる泥は火炎魔法で焼き払う。

……とはいえ、攻撃魔法は俺の魔力的にキツい。なのでマハラギストーンなどの火炎系アイテムで魔力を温存する。

 

そうして数分も経てば、涅槃台はボロボロになっていた。

 

「いける……!」

 

――油断した俺に、光るナニカが投擲される。咄嗟のことに避けることも出来なかった俺の太ももに刺さったそれは――

 

()()()……!」

 

当たった箇所から急速に“石”へと置き換わっていく。

 

「何やってんのよアンタ!!」

 

だが、それもネミッサの魔法によって瞬時に治癒される。

石化解呪魔法(ペトラディ)だ。

 

「す、すまん」

 

「しっかりしなさいよね、アンタ、この子の護衛なんでしょ!」

 

ネミッサの叱咤激励に自然と背筋も伸びる。

なんだろう、この人の言葉には“勇気”をもらえるというか、そういうフワッとした感覚がある。

 

「おう! ……でも、事故死は怖いから後ろから援護するぜ!!」

 

「……」

 

ネミッサが一瞬、呆れたような顔で見てきたが勇気だけではどうにもできないくらいには、あの戦いは高レベル。ちょっとでも踏み込めば一瞬で死ぬという確信がある。

なので、俺はこれまで通り補助魔法を掛けつつ時折、銃で援護することに徹した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かの悪神は既になく、頼もしい味方も加わり、我らが打ち勝つべきはかの怨霊のみ! 皆さん! ここが正念場です!!」

 

仲魔たちに激励しながらブラックマリアは、豊穣神の加護を継続して発動する。

その胸には大穴が空き、口からも絶えず血が垂れ落ちている。

 

「無茶です、母上! 一度、お下がりに――」

 

「オサキ」

 

彼女を心配するオサキを諌めるように声を出す。

 

「貴女なら分かるはずです、今すべきことがなんなのか」

 

「ですがっ!!」

 

食い下がるオサキの頭にポンと手を乗せ、ゆっくりと撫でる。

 

「ならばお手伝いを頼んでいいですか?」

 

「は?」

 

オサキが答える前に、その身へと“権能”が譲り渡される。

 

「私は見ての通り、()()()()()()()。なので“守り”は引き続き私が、“攻め”は貴女にお願いしたいのです」

 

夕凪神の語る通り、オサキの身体には“夕凪神”としての権能と神気、霊力が流れ込んでくる。

無論、霊力は夕凪の大地から汲み取ったモノだ。

これだけの霊力、神気、さらには権能さえ与えられれば。ヒデオのMAG供給に頼ることもなく女神の姿にも戻れる。しかし……

 

「母上……私は……」

 

未だオサキには迷いがある。先代の前で夕凪神を語ることに。

これをブラックマリアは優しく諭す。

 

「大丈夫、言ったでしょ。貴女は立派にやり遂げた、私が保証するって。……貴女の成長した姿を、母に見せてちょうだい」

 

そこまで言われては、オサキも覚悟を決める。

なにより、己の気持ちでどうこう言っている場合でもない。

 

「……わかりました。母上より託された思い、私が全ういたします!」

 

言うなりオサキは、受け取った神気を解放する。

それは廃寺の一件にて見せた、美しい変生。神気に溢れた光を纏い急成長する身体。神気が集まり形作られていく装飾品。同じく神気によって変化する衣服。

 

溢れんばかりの光を撒き散らしてオサキは夕凪神へと変身する。

 

「夕凪神の名において、怨に満ちたその御霊、祓い清める!!」

 

 







【あとがき】

気づいたらもう四日やんけ……嘘だと言ってよバーニィ……
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