英傑召喚師   作:蒼天伍号

97 / 104
ダークギャザリングの最新刊読んだ。興奮で震えた。






油凪決戦・三

――迷いがあった。

 

 

「ウシワカ!!」

 

主の命を受けた英雄が無防備なフクロウの翼を断つ。

 

 

――呪いである()()に迷いなんてないはずなのに。

 

 

翼を失い、体勢の崩れたフクロウにバフが上乗せされたビデオの仲魔たちの攻撃が殺到する。

 

 

――大人たちを殺す、その果てに何があるか。

 

 

大蛇の呪いが激突する、イヌガミの吐き出した火球が直撃する、サマナーの放った破魔弾が突き刺さる。

 

 

――『彼』もまた“大人”であるのだから。

 

 

「っ……!」

 

一瞬の迷いののち、夕凪権現たるオサキがマハンマオンに相当する光柱にてフクロウを包み込んだ。

 

 

――殺せるはず、ないじゃんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

荒く息継ぎしながら銃を構える。

前方には満身創痍の“たたりもっけ”が横たわっている。

 

かなりギリギリだった。

ブラックマリアによるバフがあったにも関わらず、たたりもっけは何度、致命傷を受けても立ち上がりその度に底力ともいうべき反撃でこちらを叩きのめしてきた。

なんとか読み違えることなく追い込めたが、終始ヒヤヒヤした。

 

『ガ……ク、ソォ……』

 

なぜそこまでの底力が出たのか? そんなのわかりきっている。

それだけの怨みを持っていたのだ。

 

「……」

 

……思うところはある、この後に及んでまだ、この怨霊を討つという“悪”に躊躇してしまう。

だがこれ以上の戦闘は無理だ。仲魔たちも皆、肩で息をして疲労困憊。いくらバフがあっても当人がガス欠気味では意味がない。

 

少しの躊躇を経て引き金を――

 

『アアァァァァァァァァ!!!!』

 

――引こうとした時、突然たたりもっけが起き上がりこちらに突撃してきた。

動けるはずがない傷で、迷いなくこちらに突っ込んでくる。あいにくと、こちらも避けたり受け止めるだけの気力がない。

 

「マズッ……!」

 

「主殿!!」

 

仲魔たちも限界だ、とても対処が間に合いそうにない。

己の詰めの甘さに歯噛みしながらもなんとか致命傷を避けようと後ずさったところで。

 

「……もう終いじゃ」

 

ふわり、と降り立ったオサキが片手で突進を受け止めた。

 

『フゥー……フゥー……!』

 

怒り、怨みに満ちた瞳がオサキを睨みつけている。

オサキは悲しそうにそれを見てから瞑目する。

 

「……母上、お願いします」

 

「ええ……後は任せて」

 

彼女の声に応え、ブラックマリアが自身の神気を増大させる。

彼女を中心としてオーラのようなものが広がっていく、それらは当然俺も包み込んでくる。

 

「これは……」

 

初めに感じたのは“安らぎ”。気を張っていなければいつの間にか眠りかけてしまいそうなほどに落ち着く霊力が柔らかく、優しく全身を包み込んでくる。これが彼女の権能か?

 

オーラが怨霊を包んだ途端、彼らはピタリと動きを止めてブラックマリアを凝視する。

 

『お姉さん……?』

 

戸惑うように、迷うように発せられた言葉。

ブラックマリアは柔らかい笑みを浮かべて答える。

 

「怨みも怒りも悲しみも。全て、私が引き受けましょう。貴方たちが与えられなかった“愛”をもって共に、楽土へと導きましょう」

 

語られるたびに“効力”が増していく。圧倒的な母性を放つブラックマリア……否、夕凪神から目が離せなくなる。

これはマズイと急いで自らと仲魔に簡易な防御結界を張る、このまま聞いていたら一緒に“冥土に連れて行かれてしまう”。

 

『ア……ァァ……』

 

「さあ……母と共に。あるべき場所へ帰りましょう」

 

そして、さらに“権能”の出力を上げる。木っ端な亡霊ならば即座に成仏せしめるほどの凄まじい言霊(ことだま)だ。

これを受けて、たたりもっけはようやく“陥落”した。

 

 

『マ、マ……』

『ママ……ママ……!』

 

これまで重なり合っていた声は、バラバラに母を求めて泣き出した。おそらく、これが()()()()()だったのだろう。それを理解して胸がズキリと痛んだ。

 

 

 

『ママッ! ママァァァァ!!』

 

――やがて、たたりもっけはその群体を崩して各々にブラックマリアの元へと駆け出した。

 

「大丈夫、全員、私が連れて行きます。離したりしませんよ」

 

『うん……うん!』

 

完全に合体を解いた怨霊たちはブラックマリアへと必死にしがみついて涙を流している。

ある者は安らぎに目を閉じて、ある者は喜びに頬を綻ばせ、ある者は声の限り泣き声をあげている。

 

「ええ……ええ。安心して、私は決して貴方たちを見捨てません。その悲しみが癒えるその時まで共にいると誓いましょう」

 

優しく諭すように発せられたブラックマリアの言葉を聞いた怨霊たちは安心したような顔でゆっくりと彼女の身体へと吸い込まれていった。

 

「……ぐっ!」

 

縋りついていた怨霊たちを全て吸収したところで、彼女は膝をついた。

 

「母上!!」

 

思わずといった様子で駆け寄るオサキを横目に、俺は“正面”に向き直る。

 

 

 

「……」

 

そこにはボロ布を纏った白髪の少年が、一人立っていた。

その手には薄汚れたナイフが握られている。

 

「お前は……」

 

行かないのか? とは言えない。

怨霊たちの願望、ブラックマリアの権能、これらを押し退けてまで立っているのだ。それ相応の“理由”と“覚悟”があるのだろう。

 

どうしたものか、と悩んでいると少年の方から口を開いた。

 

「お見事、と言っておくよ。ただ力任せに戦っていたらきっとお兄さんたちは勝てなかった」

 

精一杯、皮肉めいた笑みでそう述べた。

なるほど、ならばこちらも“応えねば”なるまい。

 

「そりゃどうも、だが、生憎と今回の勝因は間違いなくブラックマリアだ。彼女がいなければ俺らは手も足も出なかった。戦う土俵にすら立てなかった。

 

……お前たちは間違いなく“強敵”だった」

 

事実だ。不甲斐ない話だが、彼女のバフデバフが無ければ瞬殺されていた。それほどの実力差があった。

おまけに涅槃台という強力すぎるコンビ、ネミッサという加勢がなければこちらも対処できなかった。

総合して、今回の勝利は完全な運によるものだ。

 

……それに、彼らを討つだけの“理由”を結局用意できなかった。その点では敗北していると言えるだろう。

 

 

睨み合いのまま暫し沈黙する。

仲魔たちには既に「手を出すな」と念話で指示してある。これは“私情”にて“彼”を討つ俺の“ケジメ”だからだ。

これはサマナーたる俺が背負わなければならない。

 

「……理由は聞かないんだね」

 

彼がまだ敵対する理由(わけ)のことだろう。

 

「それくらいの分別はある」

 

「そう…………なら、これ以上は無駄だね!!」

 

吠えて、駆ける。

たたりもっけの時やジャックの時と比べてあまりにも鈍足、しかし、その目に宿る“覚悟”だけはこれまでで一番だ。

ともすれば気圧されるほどの気迫がある。

 

――涅槃台と少年の間には確かに絆があったのだと理解できた。

 

 

 

 

 

愛銃、M1911から発射された弾丸は正確に少年の眉間を貫き、その衝撃で彼の身体は宙を舞い後方へ、落ちる。

 

――一瞬だけ見えたその口元は満足したように笑っていた。

 

……それから間を置くことなく遺体は塵となって風に流された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……お父さんってこんな感じなのかな』

 

“彼”の口元へフォークに刺した肉を運んでいると、そんなことを言い出した。

 

「どうでしょう……どちらかと言うとお母さんのような気がしますね」

 

『えー、マスターはお母さんには似てないと思うなぁ。だって、すぐイライラしたり“ボク”をぶったりしないじゃん」

 

「……そうですね。やはりお父さんかもしれません」

 

『やっぱり! へへ……なんだか新鮮っていうか。なんだろう……ポカポカする? みたいな』

 

そう言って照れたようにはにかむ“彼”の顔を見ていると、“私”の目的などどうでもよくなる。

 

“あの日”抱いた怒りも絶望も、後から湧いてきた怨みもどうでもいい。

それが他ならぬ“私”に対する裏切りであろうとも、この気持ちは真実だ。“私”が求めていたのはきっと――

 

――私はただ、この時が“永遠であれ”と叶わぬ願いを抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“彼”の身体が宙を舞っている。

頭を撃ち抜かれ、鮮血を散らしながらゆっくりと地面に落ちる。

MAGで形作られた身体は余韻を残すこともなく塵と消え失せた。

 

 

 

「あ……あ……」

 

頭が真っ白になる。感情が消える。

――銃口を下げた“あの男”だけが視界に映る。

 

瞬間、私の理性は弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアァァァァァァアアアァアアァァァァァ!!!!」

 

突然の咆哮。驚き、目を向ける。

 

「ッ!!」

 

涅槃台だ。奴が錫杖を構えて突撃してきた。

俺目掛けて一直線に突っ込んでくる、恐ろしい速度だ。

あらゆる対処が間に合わない、居合すら、抜く猶予がない。

 

袈裟も身体もボロボロで、腕や足が千切れそうになっている。見た目では“完全に死んでいる”。

しかし、その目だけが生きている。生きて、怒りと憎悪に染まっている。

 

なんとか柄に手をかける、だが一手、間に合わない。抜く前に錫杖の先が俺の体を貫く。

 

――瞬間、頭上から落下してきたウシワカが勢いのままに振り下ろした刃が涅槃台の頭蓋を叩き割り、そのまま胴体ごと一刀両断した。

 

着地したアスファルトを粉砕するほどの勢いで斬り裂かれた涅槃台の身体は、縦に割れゆっくりと左右に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母上っ……母上っ……!」

 

横たわるブラックマリアの傍らでオサキが泣きじゃくっている。

COMPで解析するまでもなくブラックマリアは瀕死の状態だ。予想通り、彼女は既に核を破壊されていた。回復魔法が効かなかったのはそういうことだろう。

ついでに呪いのような“ニオイ”も感じ取れる。俺でも感じ取れるということはだいぶ強力な呪いだ。

 

今更な話だが、涅槃台たちの狙いはブラックマリアだった。

あのタローマティとやらが現れてようやく全て合点がいった。

 

つまり、ジャンヌを襲ったのはフェイク。本来の目標から目を逸らすために2Pジャンヌまで利用したのか。

それほどまでにブラックマリア……初代夕凪神は彼らにとって脅威だったのだろう。

 

 

……そこまで考えて“そうじゃない”と頭を振る。

今、目の前にあるのは“夕凪神”の最期だ。オサキを拾い、育て、立派な神に成長させたある意味俺にとっても恩義ある者の死だ。

 

しっかりと見届けねばならない。

 

 

 

 

 

「オサキ……」

 

弱々しい動きでオサキの頬に手を伸ばす。それを掴み自らの頬に当てながらオサキは泣き続けていた。

 

「ごめんなさい……貴女に、あんな……呪いを。残してしまったこと……ずっと、謝りたかった」

 

「そんなこと……アレは私の不始末、跡を継いだ私が見つけるべきだった呪いです。母上に落ち度など……」

 

そこまで告げて、一呼吸おいたオサキはしっかりと見開いた目で母を見る。

 

「貴女のおかげで私は救われました。そして、()()()()()()()()()()私は、彼と出会うことが出来た」

 

「……知っていたのですね」

 

「私とて夕凪神なのですよ? 貴女の“声”であれば自然と耳に入る」

 

掴んでいたブラックマリアの手を撫でながら続ける。

 

「私は貴女に多くのものを与えられた、感謝してもしきれないほどに。だから、感謝こそあれ恨むことなど、何一つとしてないのです。だから……

 

……だから、もっと貴女に恩返しがしたかった」

 

最後まで堪えきれず再びオサキの両目から大粒の涙が溢れ始める。

 

「もう会えないと諦めていた母上と、こうして、再び会って話すことができた。だからもっと話したかった。一緒にいたかった……!」

 

オサキは聡明な女性だ。だから分かっているのだ、ブラックマリアはすでに手の施しようがないと、どうあれここで消えるのだと。

時間はもう無いことも理解しているのだろう、最も伝えたいことだけを矢継ぎ早に告げている。

 

それらを全て受け止めたブラックマリアは、もう一度オサキの頬を撫でながら俺を呼んだ。

 

「……」

 

俺は黙って彼女の傍らに膝をつく。

ブラックマリアはおもむろにCOMPへと手を伸ばして、中に“光るナニカ”を投入した。

 

「ジャック・ザ・リッパーの、英傑としての構成情報です。()()()()はたたりもっけに“被り物”として使われていただけの存在。それを()()()()()()()()ことは、酷と、思いまして。

貴方に、預けます」

 

急ぎCOMPを操作して確かめると、確かに英傑ジャック・ザ・リッパーとしての情報が“完全”な形で収められていた。この状態なら、COMPでの正式な召喚で英傑として現界させることも可能だろう。

 

「……英傑として、悪魔として現界する以上、サマナー業を手伝ってもらうことになる。

それでもいいなら、この子たちを大切にすると誓おう」

 

「十分です……それと、オサキのことも。よろしくお願いします。見ての通り、まだまだ誰かが支えてあげなければいけない子ですから。

それに……貴方になら、この子の“将来”も安心して任せられます」

 

「それは……」

 

言葉に詰まる。すでに俺はオサキを蔑ろにしている。それはある意味で“裏切り”に等しい。彼女を救い出した時、俺は彼女を本当の意味で救うと誓った、だが現実はどうだ? 彼女の“呪い”を放置して故人に固執する今の俺は、裏切り者そのものだ。

 

それに、今の弱体化した俺ではオサキの呪いを解くなど夢のまた夢だろう。呪いが呪いだけに外部の者に頼むのは避けたい。

だから、俺がやらねばならないというのに。

 

「大丈夫、貴方なら、大丈夫です。私には分かるのです、貴方なら()()()()()と」

 

「ッ……!」

 

俺の何を知っているというのだ。俺のような……俺のようなろくでなしに愛娘を託すなど。

彼女の瞳は真っ直ぐだった、俺には眩しすぎる光を持った(ひと)だった。

俺は、光に弱い。遠野さんにしろ、ジャンヌ/レティシアにしろ、“アイシャ”にしろ、ああいう“善性の塊”のような存在に弱い。それは、俺には無いものだからだ。いっぺんの曇りもない光、そんな存在に()()を抱いてしまうのだ。

 

ああ、そうだ。だから俺は、アイシャを……()()()()――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し、一緒にいたかったのですが……そろそろお別れのようです」

 

夕凪神は穏やかな声で告げる。オサキは既に泣き止んでいるが、両目にはいまだに涙を溜めている。

 

「ヒデオさん、ジャンヌさんによろしくお伝えください。貴女の助力に感謝します、と。そして、“これ以上の力添えが出来ず申し訳ない”と」

 

「承知した」

 

次にオサキに向き直りやさしく頭を撫でる。

 

「貴女ならきっと、この先も大丈夫。ヒデオさんも、仲魔の皆さんも信じられます。それは貴女の人徳が招いた良縁です、これからも大切にね」

 

「……はい。母上も、どうか、安らかにお眠りください」

 

オサキは泣き出しそうになるのを堪えながら、しっかりと母の最期を見つめていた。

 

「ああ……やっぱり、貴女は強くて優しい子ね。貴女と、出会えてよかった。貴女と、過ごせて、幸せ……だった。

 

……私の、可愛い――」

 

――幻のように。ブラックマリアは静かに、柔らかな光となって消滅した。

 

 

 

 

 

 

 






【あとがき】
悩んだのですが、あまり長引かせても蛇足だと思い投稿いたしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。