新章ではありますが、本筋にはあまり絡まない話になる予定でございます。
傀儡衆
傀儡師とは、人形を操り芸を披露する旅芸人の一種だ。
平安の時分より記録に残る彼らは、土地を持たず、芸や狩りにて生計を立て諸国を巡ったという。
のちに、寺社のお抱えとなったり定住したりと時代の流れと共に彼らも姿を変え、人形芝居や猿楽に発展していったともいう。
彼らの芸は人形だけでなく。剣舞や奇術の類も披露し、女性は傀儡女と呼ばれ、劇に合わせて詩を歌ったり呪術的な色合いを持ちながら祓・禊ぎと称して客と身体を重ねたという。
……もっとも、それらは表の歴史における概要なのだが。
第三
人形は古来より呪術的側面も強く有してきた。ヒトガタやカタシロも人の形を模した物だし、これを用いて呪術を行使するのも基本的な術理である。それを、“クグツ”という形で独自に発展させた呪術こそ彼らの武器だという。
彼らはヤタガラスお抱えの対魔組織として活動する傀儡師の集団であり、現在は東海道全域の傀儡師を統括する立場にあるとか。
……しかし、昨今の情勢の変化から後継者不足、離反者が頻発し弱体化著しいという。そこで、管轄領域の見直しと根本的な業務内容の変更をヤタガラスと調整していた。
「……その矢先に、音信不通になったらしい」
目的地に向かうバスの中で傍らのオサキへと語りかける。
「ならばヤタガラスの者を送ればよかろう、なぜワシらなのじゃ……」
不満そうに口をへの字に曲げる彼女。
ちなみに、今回の移動は一般の交通機関を使ったので彼女にも巫女服以外の衣服を着せている。
フリフリがついたピンクのワンピースと、ラメ入りの靴。おまけにクマさんポーチを添えたらあら不思議。
どこからどう見ても女児である。
「……なにジロジロ見とるんじゃ」
「いや、可愛いなぁと。ワンピースが髪色と合っていてとてもファンシー」
言い終えるが早いか、無言で繰り出された拳が俺の顔面に食い込む。
……前が見えねぇ。
「ハァ……まあ、お主の趣味は重々承知しておるからの。今更、何も言わんが。こうも見事にコーデされると、なんというか……引くぞ」
それは数分と経たずにこのコーデを完成させたことか?
褒め言葉として受け取っておこう。
「真面目な話、お前の体型を考えればこれが最適解だと思ってな。おそらく、道行く人々は俺らのことを完全に親子だと思っているはずだぞ」
我ながら会心の出来だと思う。
「いや、ワシがいつものように変化すれば……」
「それはダメだ。……そんなことにいちいち魔力を使っていたらいざ戦う時にガス欠になりかねん」
「え、あの変化は殆どMAG使わない……というかコレ、出会った頃にも説明したはずじゃが――」
「それに、変化だって100%じゃあない。いつ何時、解けてしまうかもわからんしな」
「おい、話を聞け」
「節約と安全、両面からもこの選択はベストだと言える」
「言えるわけあるか! このロリコンが!!」
再び俺の顔面に突き込まれる拳。
前が見えねぇ……。
バスは細い山道をひたすら登っていく。
左手には渓谷、右手には鬱蒼と木々が生い茂る森が続く。
「……傀儡衆の拠点に送った構成員が軒並み行方不明なんだとよ」
その言葉だけでオサキは理解した。
「なるほど、これ以上の構成員の損耗は避けたいと。
……つまり、ワシらは捨て駒というわけじゃな」
「そう悲観することでもない。さっさと調査して無事に帰ってこればいいだけだ」
「簡単に言ってくれる……」
オサキは納得できないと言わんばかりに顰めっ面だ。まあ、気持ちはわかる。だが、ヤタガラスには借りが出来てしまったというか、俺の不手際というか……
「ご安心ください! 此度は私がしっかりとご両人をお守り致しますゆえ!」
ぴょこんと後ろの席から顔を出すウシワカ。
「……まあ、お主の強さは認めておるが」
「では何も問題はありませんね!!」
「う、うむ……」
太陽のように輝く笑顔で押し切られてオサキも黙った。
ちなみに、ウシワカにも新しい服を買い与えてある。前回の依頼で得た報酬で問題なく払える代物だが。
よくわからんアルファベットの羅列がプリントされた白Tシャツと上に短い青のデニムジャケット、黒のショートパンツだ。
動きを阻害されるのが苦手な彼女にショートパンツは欠かせない。まあ、そろそろ夏だし。
「ウシワカ殿は元気でござるなぁ……」
ウシワカの隣に座るチヨメちゃんが呟く。
彼女も私服なわけだが、前回と違ってちょっと“きわどい”ファッションだ。
黒く短いチューブトップにデニムショートパンツ、申し訳程度に羽織ったショート丈の上着。
つまり、すごい露出度なのだ。
何も忍べてないんだよなぁ……いや、今回は溶け込むのが目的なのだから忍ばなくていいのか。いや、それでも浮いてるよ!
無論、俺の指示ではない。
彼女が、動きやすい格好がいいと言うので自由に選ばせた結果がこれだ。本人は満足げだったので何も言えなかったのだが。
流石にイカンでしょ。
最近、割と打ち解けてきた彼女はウシワカにも遠慮なくものを言えるようになってきた。
……いや、なんかウチらの雰囲気に毒されてるのかもしれんが。
チヨメちゃんのお堅さを心配していた俺としてはとても嬉しい。
「はい、チヨメちゃん」
俺は上着のポケットに常備している飴ちゃんを彼女に手渡す。
「? あ、ありがたくいただきまする」
「ノー!! お堅いのはノー!!!!」
俺は両手でバツ印を作りながら叫ぶ。
「!?? あ、ありがとう、ございます?」
「うーん……まあ、よしとする」
「?、??」
俺はチヨメちゃんの返答に満足して前に向き直る。
後ろから「なぜに飴玉……?」と困惑した声が聞こえるが可愛いのでヨシ!
バスは山道の途中で停車した。
周りにはなーんにもない。ガチのマジで山奥である。
降りたついでに時刻表を見てみると、一日に二本しかバスが通っていない。つまり、帰りを逃したら徒歩での帰宅となる。
その事実を告げると、真っ先にオサキが不満の声を上げた。
「だぁからいつも言っておるじゃろ! さっさと車を買えと!!」
「無茶言うな……これまで俺が何台の車をオシャカにされたと思ってる? 中古だってそれなりの値段なんだぞ!」
「改造すればよかろう? その銃みたいに」
簡単に言ってくれる……銃だって試行錯誤を重ねてようやくものにした代物だ。専門家でもない俺が車なんか弄ったらとんでもないことになる。
「銃も車も変わらんじゃろ」
「はぁ〜……これだから素人は」
そうして、やいのやいの言いつつ目的地に向かって歩を進める。
……ここは遠江国と呼ばれた場所の一部だ。そうなると当然、俺に縁のある“霊山”もほど近い。
問題視するほどではないが、体内のヒノカグツチもほんのりと熱を帯びている。
ここでなら魔剣の力をいつも以上に引き出せるかもしれない。
――二日前。
「調査?」
「そう、調査。我らがヤタガラスの旗下にある第三傀儡衆との連絡が取れないんだ。
無論、こちらも何度か使いの者を送ったんだが……全員、音信不通になってしまった」
クサカベは顎を撫でながら続ける。
「第三傀儡衆は衰退した傀儡師を繋ぎ止める重要な楔の一つ、できれば手放したくない。とはいえ、これまで通り構成員を送り込んでも状況は変わらんだろう」
「……だが、重要な駒は使いたくない、と?」
俺の言葉に彼は微笑みを返す。
「その通り。ライドウはもちろん、それに準ずる者たちも些事で失いたくはない。そこで、外部の者でありそれなりの実力者である君に調査をお願いしたいんだ」
この期に及んで、“お願い”などと。
そんな俺の考えを察したのか、クサカベはこう続けた。
「人質だけでお願いするのは脅迫だからね、報酬は出そう」
「報酬だと?」
「油凪の惨事、これらの隠蔽と事後処理。さらには協会への報告も含めて全てを我らが代行しよう。
……尤も、すでに処理は終わって協会との交渉も済んでしまったがね」
やっぱり脅迫じゃないか。
「君がいつまでも寝ているのが悪い。
……とは言っても、やる気を出してもらわないとこちらも困るからね。出血大サービスだ」
そう言ってこちらに差し出したのは“見覚えのある”金色の札。
「これは……」
「呼符……と言うらしいね。近年、サマナー界隈を賑わせている不思議な道具だ。
使えば“英傑”が必ず召喚される……らしいが正直、私は
ヒラヒラと札を振る。その顔を呆れの色に変えて。
「英傑とは“過去の英霊”。つまり、“過去の遺物”に過ぎない。無論、先人に学ぶのは大事だ、大いに結構。私も偉大な先達には敬意を抱いている。
しかし……彼らに“頼り切り”になるのは違うだろう。
今の、この世界を前に進めるのは今を生きる我らであり、未来を見るべきは“若者たち”だろう。
過去は過去として、我々は未来を目指さねばならない。
……それを、努々忘れないでくれたまえ」
穏やかな声でありながら力強く、彼は言い切った。
「……俺のようなしがない中堅サマナーに言っても仕方ないだろ」
「はっはっはっ! 無論、君は“大人側”だよ。精々、よく働いて未来の若者たちの糧になってくれたまえ」
当然と言わんばかりに笑いながら呼符を渡された。
まあ、その理念には賛同できる。
「その考えだけなら喜んで協力するんだがなぁ……」
受け取りながら愚痴を溢す。相手はヤタガラスだ、今の思想以外にも何かしら考えがあるのだろう。
「私はあくまでも國家機関ヤタガラスの幹部だからね。私個人の思想以上に“国家安寧”が最優先なのは当然だ。なにより第三傀儡衆の長は――」
そこまで言って話を区切る。
「……いや、今更な話だな。
ともかく、君には第三傀儡衆が音信不通になった原因を探ってもらいたい。当面は傀儡衆の長と接触するのが最優先目標だ。彼女に会えれば原因も自ずと明らかになろう」
「……」
答えに窮する。が、受ける以外に選択肢はない。
報酬は受け取ったし、なにより人質がいる。オサキのことは当然、見捨てられない。
油凪の事後処理についても厄介なことになってしまった。
アレの処理の全てを國家機関が行ってしまったとなれば、協会との関係もヒリついていることだろう。
無論、当事者である俺の協会内での立場は危うい。いくら卜部さんが庇ってくれたとしても協会の全てが卜部さんに絶対服従というわけでもない以上は、制裁は免れない。俺としても言い訳のしようがない失態である自覚はある。
「一つ聞きたい」
「聞きたいことが多いんだねぇ……まあ、いいだろう。言ってみたまえ」
「油凪の一件は全て俺の失態だ。協会への責任追求は――」
「ああ、そんなことか。無論、君が依頼を受けてくれるなら協会への抗議はしないでおくよ。全部、不問としよう。
……ただ、協会内で君がどういう評価を受けるかは私の管轄外だが」
十分だ。というか意外にも太っ腹だな。
「構わん、そっちは俺の問題だ」
「ほう、それくらいの“覚悟”はあるか。ハハ! いいね、なかなかどうして漢気があるじゃないか。ほんの少し、だけどね」
アンタに褒められても嬉しくない。
「依頼の件は了承する、だからオサキを解放してくれ」
モニターには依然として拘束されたオサキの姿が映し出されている。それを見るのが、つらい。
「まあ落ち着きたまえよ、この依頼は契約だからね。相応の手順というものがある」
そう言って取り出したのは一枚の羊皮紙。
「……
「こちらも責任ある立場なのでね、“契約”はキチンと行わないと示しがつかない」
しかし内容を見る限り、ごく当たり前のことしか書いていない。契約が果たされなければこちらにペナルティが加えられる。そのペナルティも死ぬようなものではない。
形だけの物のようだ。
「こんなの使わなくても、
鴉を動かせるほどの大幹部、敵にすればタダでは済まない。協会での立場もある。
俺は渋々、契約を結んだ。
【あとがき】
ヒナちゃんと門主様に挟まれたい。