提督「天津風! 俺とケッコンしてくれ!! 」
あたしが出撃から戻ってくるや否や、MVPのご褒美と称してケッコン指輪を渡してこようとする。
といっても、司令官の『求コン』は今回が初めてとかではなく、この人は何かあるたびに指輪を受け取らせようとしてくるのだ。
まったく、あたしのどこを気に入ったのかわからないが、一日一回は同じようなことをされている。
「だから何度も言ってるでしょう? あたしにその気はないの」
何度も断るのはとても面倒なのだが、仮にもこの人は上官なので荒波を立てることは避けるべきだろう。そっけなく、しかし失礼はない程度にお断りする。
よくもまあ、何度も何度も飽きないものだ。
「今回もダメだったかー!」などと、頭を抱える司令官を尻目に、もうすっかり人気がなくなってしまった、とある場所へと向かう。
◇ ◆ ◇
ある墓の前で、静かに手を合わせる。
鎮守府のはずれに、ぽつんと作られた墓だ。周りには木が生い茂っているため、新しく来た娘なんかは、ここの存在すら知らないかもしれない。
前の提督は、あたしが出撃している間に敵に暗殺された。
誰がやったのか、どうやって侵入したのか、いまだになにもわかってない。
多くの武勲をあげ、かなり勢いもあった人だったが、そんなひとでもある日突然、あっけなくやられてしまうのだ。
「…………………………………………」
こうしているが、なにもあたしは、その人に特別な思い入れがあったり仲が良かったりするわけではない。なんならほとんど話したこともない。
しかし、どこかで責任のようなものを感じているのか、こうしてときどき墓にきて手を合わせるのだ。
あたし自身、他の艦娘たちとはほぼ交流がないのでこれぐらいしかやることがないのもある。
誰ともおしゃべりはせず、最低限の会話だけで済ませる。当然、誰かと一緒にご飯を食べたり、ゲームをするなんてこともない。
ただ静かに、変化などなしに、あたしのなんと言うこともない日々は、過ぎ去っていくのだ。
◇ ◆ ◇
今日は朝から食堂に全員集められた。作戦会議をするらしい。
提督「みんなおはよう。全員そろっているようだし、もう始めようか」
司令官の挨拶から始まった会議も、とくに目立ったことなく進行し、もう終わりに差し掛かったと思われた時だった。
司令官から思いもよらない言葉が発される。
提督「実は、ここに皆を集めたのにはもう一つ理由がある」
司令官が言い終えぬうちに、食堂がざわつく。
……かなりいやな予感がする。というか、艦娘の何人かはこれからなにが起こるかもうわかっている様子だ。
提督「俺はここで公開プロポーズをしようと思う! 」
やっぱりそうきたか。何度やれば気が済むのだろう。
みんなが見ている前だと断りづらいに違いない、などという算段なのか。
提督「さあ、天津風! 今度こそこれを受け取ってくれ!! 」
周りから、あたしの返事を期待する声や、またかとあきれる声が聞こえてくるが、わたしはいつも通りの返答をする。
「何度も言うように、受け取れないから。あなた、ちょっとしつこいわよ?」
撃沈する司令官を前に、他の艦娘もやっぱりな、という反応だ。司令官のプロポーズは、もはや恒例行事みたいに思われているらしい。
これをもって会議も終わったので、わたしは気にせずに艤装の準備を始める。今日も戦闘の予定が入っているのだ。
◇ ◆ ◇
提督「MVPおめでとう! これは俺からの褒美だ。受け取ってくれ」
そう言って、見慣れない包みを差し出してくる。小賢しくも包みでくるんではいるが、十中八九ケッコン指輪だろう。
お決まりの流れに辟易としながら、一言でお断りする。
「わたしは、そういったものはいらないから」
提督「そうか……、連続でMVPをとっているからなにか渡したかったんだが……」
残念がる司令官には悪いが、あたしは無言で執務室を後にする。
確かに、ここ最近はMVPを連続でとっている。
練度はかなり高い方だし、なにより淡々と戦果を求めているのが一番大きいだろう。そういうところは、前の提督に似ているのかもしれない。
前の提督は、本当にただ淡々と戦果をあげるような人で、艦娘ともめったにしゃべらず、MVPをとったくらいでわざわざ褒めたりもしなかった。
とにかく他の人とは極力関わらないようにしていたのだろう。
でも、わたしはそれが正しいと思う。
誰とも関わらず、他の人とつるんで無駄に時間を潰したりせず、ただ自分のやるべきことをして過ごせばいい。
だってそうでしょう?
誰もがいつか必ず死ぬ。それなのに他人と関係を深めるなんて、無意味なのだから。