野郎どもに花束を   作:小川 帆鳥

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Kleine-3

 ときおり、夢を見る。懐かしい光景だ。

 自宅にある道場で、妹と向かい合い竹刀を構える。相手の挙動を見逃すまいと一心に見つめ、また相手も同じように目を逸らさず観察している。

 なぜか、帰ってきたと感じた。日課である朝の稽古のはずなのに、なぜかどこか懐かしい。普段サボりがちだったからか。じり、と相手の出方を伺うように足を擦る。

 その瞬間、妹は裂帛の気合と共に竹刀を上段に構えて振り下ろした。それを受けようとして自らの手に竹刀がないことに気づく。刃が首に迫る。

 音はなかった。斬られた感覚も。だが斬られたとわかった。身体中が急に重くなり膝をつく。辺りが急に暗くなった。

 目の前に首が転がっていた。誰のものかは見なくてもわかる。地に広がった長い髪は水色をしていた。

 キリトを覗き込むように見上げている男の目はじっと動かない。何かを言おうとして男の口がかすかに開く。

 そこでいつも、目が覚めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が前に?」

「そう」

 

 サチの問いに、ケイタは頷く。

 サチというのは《月夜の黒猫団》紅一点のプレイヤー。ケイタと同じく両手槍の使い手である彼女を、彼は片手剣にコンバートさせたいのだという。困惑したサチが理由を尋ねると、彼の口からは真剣な声色で返事があった。

 

「今このギルドで戦力的に薄いのは前衛だろ。そこを厚くすればもう少し戦闘で安定すると思うんだ。せっかく超強力な助っ人も呼べたし、この機会にいろいろ教えてもらおう」

 

 朗らかに、ギルドの長を務めるケイタは語る。

 

「無理だってば。私、今まで後ろで突っつくしかやったことないんだよ? 前に出て戦うなんてできっこないよ」

 

 サチは苦笑しながらそう言うが、ケイタは彼女の訴えを仕方なさそうに笑って流した。

 

「大丈夫だって。他のギルドの知り合いにも聞いたけど、盾持ちのタンクが一番致死率が低いんだ」

「でもさー」

 

 言い合うふたりをよそに、キリトは無表情を貫いていた。

 ──無理だろ。

 そんな言葉が喉元まで出かかって、キリトはむりやり飲み込む。

 彼らの戦闘技術はお世辞でも褒められたものじゃないことは実際に確認した。助っ人を頼まれたその足で、キリトは彼らの主要な狩場である三十四層丘陵地帯を訪れたのだ。彼らの実力はどのようなものか、それを判断するために。

 だが一目見てわかった。彼らの実力は良くて中の下。個々人の実力も、彼らの連携も。秀でていると思えるものは何一つなかった。

 キリト自身、自分が強いとは思っていない。けれど攻略組という括りの中にいて、何度もボス戦を経験してきて、戦闘における最低限必要な行動というものは学んできた。それだけに彼らの拙さは目につく。

 攻撃を受けて苦しくなってきた前衛と入れ替われるメンバーがいない、よしんば誰かが交代できたとしてスムーズな交代のためのスイッチ行動ができない、と思えば全く意味のないタイミングでの交代。前衛が前衛としての役割を果たせずズルズルと後ろに追いやられていき、それに焦ることで司令塔であるケイタの指示は支離滅裂に伝達、そのうちに後衛が別のモンスターの索敵範囲に引っかかる。

 正直、よく俺のところに来れたな、と。むしろ感心してしまうほどに彼らの戦闘は危なっかしいものだった。おそらくはコツコツと上げてきたレベル、それにものを言わせてここまで這いあがってきたのだろう。実際、レベルだけで言えば攻略組の下の方とは遜色ない数字だった。

 ──弱小。

 端的にそう言って差し支えないギルドだった。実力が低いことはいい。けれどこの危機感のなさはどうだ。早くもキリトは、助っ人を受け入れたことを後悔しかけていた。

 ──けど、だから、か。

 同時に納得もした。彼らだから、アイツは接触したのだ。御しやすさで言うなら間違いなく上の上。言葉を選ばずに言えば、いいカモだ。鴨がネギ背負って、とはまさにこのことのように思う。

 多少の後ろめたさは感じつつ、キリトは自らの目的でもって後悔を打ち消す。彼らの攻略組入りはそれはそれ、頑張ってもらう以外にキリトにはやりようがないと半ば諦めたように判断を下した。

 

「……トさん、どう思います?」

「……」

「キリトさん?」

「え、あ、すまん。なに?」

 

 押し黙るキリトに、ケイタが呼びかけていた。

 

「サチのコンバートですよ。キリトさんの意見を聞かせてほしい」

 

 ──だから無理だって。

 喉元まで出かかった言葉を、またもキリトは飲み込んだ。

 ケイタがサチをコンバートさせたいという理由はわかる。前衛がいない現状、コンバートさせるなら確かにサチが適役ではある。レベル的には最も低く、それだけスキルの熟練度も低いためにまっさらなところから始めても今とそう大きな差は出ない。

 数値の上なら、ケイタの言うことは至極真っ当で正しいものだ。だが。

 

「だから、急に前出ろって言われてもおっかないって」

 

 サチはそう言う。ケイタがどれだけその不安を取り除こうと言葉を尽くしても、サチの腰は引けている。それが、キリトが無理だと判断する所以だった。

 前衛に必要とされるのは胆力、要するに気持ちだ。敵の攻撃を一身に引き受け、味方に攻撃がいかないよう守ることが仕事。そのためには敵に接近せねばならず、サチにはそれができないだろうとキリトは考えていた。両手槍で中ごろからちくちくと突っつくだけでもおっかなびっくりな彼女にそれ以上を求めるのは無茶が過ぎるというものだ。

 だがそれをたかだか飛び入り助っ人が言ってどうなるというのか、という悩みがキリトの口を噤ませる一因だった。もちろんある程度は考慮に入るんだろう。

 

「だから盾の陰に隠れてるだけでいいんだし、一番安全なんだって。怖がりすぎ」

 

 それでもケイタの発言の隅々から感じ取れる楽観さには、サチ本人の主張すら通じない。ましてキリトの言葉ともなればなおさら通じるはずもない。

 わかっているのだろうか。ケイタの言う《怖がりすぎ》こそ前衛に最も向いていない、ともすれば戦闘にすら向かない性質であることを。最も前にいるということは、それだけ敵の攻撃を受けるということだ。ダメージがどれだけ少なく済むとはいってもそれはそれ、攻撃を受け止める頻度が減るわけじゃない。たとえばこの先のイベントボスがキリトの助力でなんとかなったとしてもその先、敵の攻撃が激しくなる上の層でサチに前衛が務まるのか。

 考えるまでもなく、答えはノーだった。

 

「キリトさん」

 

 口を開かないキリトに不安を覚えたのか、ケイタが顔を覗き込む。その無邪気な動作に、キリトは腹を括った。

 

「俺の意見、だったな。正直に言っていいんだな?」

「はい。忌憚なくというんですか。遠慮はいりません」

「わかった。なら」

 

 さあこい、とでも言うように姿勢を正すケイタ。その後ろで黒猫団のメンバーもキリトに視線を向ける。サチだけがおどおどと下を向いていた。

 キリトは軽く息を吸って。

 長く、言葉を吐き出した。

 

「コンバートの件だけど、俺は無理だと思うね。サチに前衛は向いてない。どれだけ硬くしても攻撃は受けるんだ。それをケイタの言う《怖がり》のサチに務まるとは思えない。前衛が足りないからだれかをコンバートさせようっていうのはわかる。正直、見てた限りサチが役割として浮いていた。それがケイタにもわかったから空いたところにって魂胆なんだろ。それもわかる。たぶんサチがこの中でいちばんレベルが低くて、だからコンバートしても戦力的にガタつかない。言っちゃなんだけど、もともと低かったサチの戦力を上げようとするっていうのは今と変わらないからな。その考えもわかるよ。わかるし、正しい。けど人間、そう上手くパズルみたいに嵌まるものじゃない。無理に押し込めばどこかでサチが壊れるぞ」

「え……」

 

 キリトの言葉が思ってもみなかったのか、ケイタは言葉を失い目を丸くする。その様子にすこしの呵責を覚えつつそれでもキリトは言い放った。

 

「確かに、この世界はゲームだ。ケイタの考えは確かに数値としては真っ当だと思う。けどゲームとして考えちゃダメなんだ。実際に人が死んだのを俺はこの目で何度も見た。見てしまった。一層で死んだふたりは、少なくとも一年のあいだ姿を見てないし生命の碑には横線が引かれたままだ。帰ってこないんだよ。サチにそうなって欲しくはないだろう」

 

 目の前だ。コペルもディアベルも。キリトの目の前で、ポリゴン片に姿を変えた。あの無念を、後悔を。キリトはずっと胸に抱え続けている。

 俺が、怖がったから。

 ベータテスターだなんだという立場を明かすのを俺が怖がったから、代わりに彼らが死んだのだ。

 

「死なないための提案ならいくらでも出せる。俺はベータテスターだ。知識なら他人以上にある。そのうえで言うんだ。サチに前衛はできない。不可能だ」

「キリト……」

 

 サチが安心したように呟く。それにキリトは小さくうなずいて見せた。

 もう二度と、自分のせいで誰かが死んでしまうなどあってはならない。そのためならばキリトは自分の立場などいくらでも明かす。

 だが、それは今のアインクラッドではもうあまり意味のない立場であった。

 

「ベータテスターって。ちょっとレベルが高いってだけじゃなかったっけ?」

「おい、テツオ」

「だってさぁ。《鼠》の攻略本は誰でも手に入れられるんだぜ? 知識って言うならオレだって最新号まで持ってるもん。ジョニーさんからもらったりしてさ。レベル的に厳しかったからアレだけど、おかげでこうして助っ人を呼びに行けたわけだし、大した違いはないんじゃないの?」

「テツオ!」

「いいよ、ケイタ。そのとおりだから」

 

 テツオと呼ばれたメイス使いが言う。ケイタは彼を諌めるが、キリトは彼の言葉に頷いていた。

 このゲームに閉じ込められて一年が経った今、ベータテスターという存在の価値は薄くなった。ベータテスト時のクリア状況に比べて大きく攻略が進み、キリトらベータテスターにもわからない、知らないことが出てきた。対応方法を探るために、全員が同じタイミングで同じように検証を重ねてきた。

 今やベータテスターであるという立場はレベルが他より少し高いことを示すだけにすぎない。そうでない者に比べてスタートダッシュが速かったというだけで、それ以外の差など無くなってしまった。

 ──もしも、最初から。

 キリトは思い浮かんだその言葉を、強く目をつぶることで打ち消す。この一年、何度も反芻した。そのたびに現状が変わるわけじゃないことを確認しただけだ。もしも、なんて考えるだけ無駄だった。

 余計な思考を吐く息とともに外へ追いやる。そう、考えるだけ無駄だ。できないこと、できなかったことは考えるな。自分に出来ることをやればいい。自分が知っていて彼らが知らないことを教えることが、いま出来ることだ。

 

「言ってることは正しいよ。テツオさんの言うとおり、レベルが高いってだけだ。それでも、ベータテスターとそうでないプレイヤーとの間に大きな差はあるんだ。一個だけ、だけど」

 

 このデスゲームに閉じ込められたのが一万人。その中に、ベータテスターは千人。攻略が進むにつれ母数が減り、割合も減った。今や生存者は八千人を下回る。その中でベータテスターともなれば、おそらく五百人より少ないのではないかというのがキリトの予想だった。そしてさらに、その大半が第一層で救助を待つことを選択しているとキリトは考えている。攻略の現場にいるベータテスターはきっと、百人に満たない。

 だからこそ。キリトの言う差は、あまり知れ渡ってはいない。キリトを含めそれを知る全員があまり話題に上らせたくないからというのもあるかもしれない。

 

「それは……経験、ですか。攻略組の最前線にいるからこその」

「まあ、間違いじゃない」

 

 ケイタの問いにキリトはやや曖昧に頷く。

 キリトは自分が周りからどう見られているのかは薄々ながら感じていた。ちらほらと自分につけられた呼称も耳に届いている。それと同じ言葉を、ケイタはキリトに投げかけている。それだけにキリトは、ケイタが受けた《攻略組》という印象がどういうものかを朧げに想像できていた。

 だから、ここではっきりとしておかなければならないとも思う。

《攻略組》と《ベータテスター》の違いを。

 嫌だ、で口をつぐむのはもうおしまいだ。キリトは心を決めた。

 

「確かに、経験だ。でも戦闘回数って話じゃないんだ。ベータテスターだけが経験したのは、ゲーム内での死だよ」

「あ……」

「死んだことがあるって言うとちょっとアレだけど。生命の碑、あるだろ。ベータテストのときは、モンスターにやられてもあそこで復活できたんだ。だから多少の無理はきいたし、だから不慣れな武器だの役割だのでも挑めた」

 

 ちょっと無茶をしてモンスターにやられ、光とともに生命の碑の前に復活する。戦闘でなく純粋にフルダイブを楽しんでいたプレイヤーもいて、彼らの目の前で《自分はやられました》と公言するようなものだった。あの恥ずかしさが、今はどこか懐かしい。それが嫌で、半ばやけっぱちで《はじまりの街》を駆け抜けたものだ。そのくせやっぱり勝てなくて、同じ人たちの前に再び姿を現すのだ。そんな光景は《当たり前》だった。

 今思えば。その感覚があったから、第一層での死者は特に多かったのかもしれない。あの会議の場でエギルが言っていたように、ゲーム感覚が抜けていなかったから。

 そしてきっと。かつてはベータテスターに多かったそれが、今はケイタたちのような中間層のプレイヤーに増えてきた。死ぬことはなくても、攻略情報の共有や前線の緊張感は下のプレイヤーの安定感につながる。どこが安全でどこが危険かがわかると、やがて安全に慣れ、少しずつ緊張感が抜けていくのだ。

 

「でも、それじゃダメなんだよ。痛い怖いは危険信号だ。必要だからあるんだ。痛いって感覚がシステムで抑えられてる以上、せめて《怖い》って感覚だけは無視しちゃいけない。いずれ怖くなくなるとか盾があるから大丈夫、なんて慣れや気休めで進んでいいもんじゃないんだ」

 

 サチの言う《怖い》という感覚。それは危険を知らせる本能だ。絶対に無視してはならない。

 キリトは一にも二にも、それだけを訴える。

 果たしてそれは、彼ら《月夜の黒猫団》に大きく響いたようだった。テツオは黙り込み、黙って後ろで聞いていたシーフとポールアーム使いの二人はサチに視線を向けていた。サチは変わらずおどおどとしてはいたが、顔は少しだけ上向いていた。

 だが──それでも。キリトの言葉はあくまでも、彼らを揺らしただけだった。

 

「……でも、それじゃあ」

 

 眉を険しく寄せたケイタが口を開く。

 

「それじゃあ、ジョニーさんの言うことと違いませんか」

「そうだ、そうだよ」

 

 ケイタの言葉に、テツオがハッとしたように続く。

 

「ジョニーさんが教えてくれたのとアンタが言ってるの、真逆だぜ。あの人がアンタを紹介したんだ、どっちも間違いじゃないんだろうけどさ」

「……何を、言われたんだ」

 

 ちらほらと彼らの口からその名前が出るたび、キリトはわずかに構えてしまう。

 あの日、あの後。ユウキからその名前は聞いていた。あの時、彼の動きを止めていたことも。そのせいで彼の救助が間に合わなかったのだという真相も。

 いつの間にか扉の向こうにいたアイツの、下卑た笑みは今も目をつぶれば思い出せる。

 あの男が、情報屋をやっていた。しかも話に聞く限り、黒猫団はかなりの信頼を置いているように聞こえる。

 キリトの低い問いかけに、テツオに始まり、サチを除く黒猫団のメンバーは口々に答えた。

 

「死なないために必要なのは硬さだって。あの血盟騎士団の団長がそうで、でっかい盾に守ってもらってるから一度もHPを黄色にしたことないらしいじゃん」

「怖いからこそ、さらに自分を守ろうとするのが人間だ、とも言ってました。そういう意味で、サチは適任だと」

「前衛が足りないってのはふたりとも同じみたいですけど。な、ササマル」

「そうそう。それで、サチのための盾を手に入れるならイベントボスの報酬が今は手っ取り早いってことも教えてくれたな。なんなら特別報酬のやつだって、一回までなら死ねるお守りだって」

「あー言ってた言ってた。でもそれはキリトさんに渡す報酬ってことでで落ち着いたろ、ダッカ―」

「そうだけど、でも確かにそう言ってたろ。オレはなるほどなって思ったけど」

「まあ、それはおれもそうなんだけど」

 

 わいわいと四人が話を進めていくたび、サチはまたも少しずつ俯いていく。《ジョニーさん》はサチの前衛コンバート案に肯定派だったようだった。黒猫団はその言い分にも一理あると受け入れているし、キリト自身も聞く限りでは決して間違っていないと思えてしまった。

 しかしそれでも、サチの様子は無視できるものではない。

 深入りはしないようにしていた。あくまでも助っ人として、同行するだけのつもりだった。

 

「……月夜の黒猫団は、攻略組に入りたいんだったな?」

「はい」

「おう」

 

 再びのキリトの低い問いかけに、ケイタとテツオが答える。軽装のシーフであるササマルも、長物のポールアームを扱うダッカ―も、はっきりと頷く。サチだけがうつむいたまま。

 ──見ていられない。

 どっちが正しいとか、どちらかの言い分に従えとか、そんなことは言わない。そうして抑えつけたって、おそらくは黒猫団の全員が納得する答えにはならない。

 今、はっきりとわかった。彼らに足りないのは危機感だ。

 攻略本の知識でキリトがいるような上層もなんとかなってしまった。攻略済みのエリアにいた彼らは安全に慣れてしまい、攻略組にあこがれることができるほど心に余裕が、いいや、心に隙ができてしまっている。蘇生アイテムをお守り感覚に捉え、《一度までなら死ねる》なんて噂でしかないものを鵜呑みにするなんて危険すぎる。

 だが今の彼らはおそらく止まらない。というより、止められないだろう。

 彼らの危機感が足りないのは、翻せば平和的、素直であるということだ。どうやらキリトの言ったことをきちんと受け止めてくれている。それだけに、《ジョニーさん》の言葉も無視できず戸惑っているのだ。

 言葉で戸惑うなら。

 残るは行動で、決めてもらうしかない。

 

「じゃあ、ひとつだけ約束してほしい。最悪、これさえ守ってくれるならそれを助っ人の報酬にする」

 

 だからせめて。

 心に決めた自分の《芯》は、貫かせてもらう。

 

「危ないと思ったら逃げること。攻略組に入るとか、そのためにサチが前に行くのかそのままなのか、それは任せる。でも、死んだらおしまいだから。だから、危ないと思ったら逃げてくれ。俺が全力で援護する」

「キリトさん……わかりました」

 

 ひょっとしたら。キリトがずっと警戒している《ジョニーさん》はキリトが思う人物とは別人の可能性もある。短剣という装備と名前はキリトの持つ情報と合致するが、情報屋とは初耳だ。もしも別人なのだとすれば、取り越し苦労ということもあるかもしれない。あるいは《ジョニーさん》には《ジョニーさん》なりの深い考えがあってサチの前衛案を出していることだってあり得る。

 だから、ひとまずはこれでいい。仮にイベントをクリアできれば、それはそれで彼らの戦力増加にもつながるのだから。

 彼らが頷くのを見て、キリトも頷く。

 ──そういえば。

 

「なぁ、ケイタ。ボスの出現場所はわかるのか?」

「あ、はい。といっても僕らは何も知りません。ジョニーさんが案内してくれることになってるので、待ち合わせます」

「場所は?」

「三十五層の、《迷いの森》です」

 

 

 

 

 

 

 

「よおよお、にいちゃん。聞いたぜ、ひとりでイベントのボスに挑もうって言うんだって? いいねえ、その心意気。気に入ったぜ。そんなにいちゃんに耳寄りの情報だ。絶対じゃない、あくまでも《かもしれない》だ。だからお金はいらんぜ。ただ、合ってたら教えたのはオレだってことは覚えてて欲しいね。──まあそんな急かすなって。あのな、イベントボスの出現場所がわかったかもしれねえんだ。さっきも言ったとおり絶対じゃない。けど、だからいろんな人に話しちまってる。早い者勝ちって話だが、信じるかどうかはにいちゃん次第だぜ。……ああ、それで場所だがな。三十五層の《迷いの森》だ。奥まで行く方法知ってるか? オレはたまたまだったんだけどよ、そこででっけえ木がぽつんと一本生えてるとこがあったんだよ。怪しいだろ? な。けど、だからこそだぜ。ああ、だから金はいいって。その代わり、もし合ってたら今後はご贔屓にしてくれると嬉しいね。まだ情報屋を始めたばかりでよ、とりあえず名前を売ってるところなんだ。え、オレの名前? そうか、自己紹介してなかったか」

 

 ──ジョニーだ。よろしくな。

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