たとえどれだけ絶望の淵に立たされようと、その環境が続けば人間とは慣れる生き物らしい。もしくは、前向きでも後ろ向きでも、受け入れられる器を用意できるのか。
二週間前、悲鳴と怒号であふれていた始まりの街は噴水広場。いちどは人っ子ひとり見えない寂しさがあったが、一週間も経てば人がちらほらと見え、今や和やかに観光地のような様相を呈していた。
といっても人数は初日に集められた半分もいないし、プレイヤーのほとんどが男である。その賑やかさは観光というよりも、ちょっと外出て敵mob狩って、稼いだお金で酒を飲む、というある種サラリーマン的な活動が多いように見える。発売した時期が時期だけに大学生やそれ以上の年代が多いのか、活動内容も似てくるものらしい。ということは飲み屋街のそれに近いか。
なかには大門の近くでパーティメンバーを募集して、今からでも冒険に行こうというプレイヤーも少なからずいる。俺が噴水広場のベンチで待機しはじめた一時間前から、四人組ないしは八人組が何度となく入れ替わるように出入りしていた。
「たっだいまー!」
「おう、おかえり」
ゲーム内の天候はある程度、現実準拠らしい。が、それでもときどきはランダムに異常気象が発生するようだ。これから冬となるはずの日付ではあるが、今日の天候設定は冬を越して春になろうかという温かな気温だった。かといって春一番が吹くわけでもなく、雲ひとつない青空から穏やかに日差しが降り注ぐ。
そんな眩しさを背に、さらに眩しい笑顔を携え、ユウキはベンチで人を待つ俺の前に現れた。
「へへー、どう? これ」
そう言って、新たに買ってきたのだというヘアバンドを示す。明るめで薄い黄色のそれは、アイテムのランクが低いからなのだろうが、やけに安っぽく感じた。だが当人はそこそこ気に入っているらしく、「ねね、どう? どう?」と感想をせっついてくる。
「うん、いいんでないの」
あんまり女性関係に強くないのでそういった月並みな感想しか出なかったが、ユウキはそれでも満足げに頷いてくれた。
「でしょー!」
黄緑と迷ったけどこっちにしたんだとか、実は赤とか紫色とかも好きなんだけど残念ながらなかったとか、そんな話をしながらユウキも隣に座った。当たり前だけど、ユウキも女の子なんだなぁ。
「ところで、今日の待ち合わせの人ってそろそろくるんだっけ?」
「その予定だな」
俺は待ち人とふたりで会う予定だった。ほんとうなら三人分の席を設けるつもりでいたのだが、俺以外の二人がやけに腰が引けていたので仕方なく一対一で会うこととなったのだ。
……という話をどこからかユウキが聞きつけて──十中八九アルゴからだろうが──ならボクが行く、と名乗りをあげたのだった。理由を聞くと、それはもうシンプルに、面白そうだからと返ってきた。
「キリトの弟子で、シュウの先輩なんだよね? つまりシュウがいちばん下っ端」
「下っ端言うな。誰だそんなこと言ってんの」
「アルゴだよ?」
「でしょうね!」
そんなことを知ってるのも言うのもアルゴくらいのものだ。これでキリトの言だったならかなり驚く。
あと下っ端じゃないから。対等だから。
そんなことを話していると、やがて待ち人は現れた。
「おおシュウ、待たせて悪いな」
「来たか、クライン」
「はじめましてー!」
「ユウキちゃん、だっけ。話には聞いてるぜ、よろしくな」
簡単に自己紹介を済ませたあとは、アルゴと手を組むことにしたときのカフェへ移動した。街の端にあるからあんまり人目もなく周りへの警戒を普段より緩められるというのと、その店のテラスから見下ろせる景色が気に入っているというのとで実はちょこちょこ訪れている場所でもある。これでコーヒーの味がよければ文句なしなのだが、美味しいと感じたことは一度もない。苦味が強いだけで美味しくないのだ。ひょっとすると人気のなさはこれが要因の一つかもしれない。
だがそれ以外に飲み物といったら水か自前の回復ポーションくらいしかないし、ポーションのほうは実用するタイミングも多いのでもったいなくて飲めない。となると水しか飲むものはないわけだが。
「……ぅえ」
「なんだコリャ」
ユウキとクライン、ふたりして水を口にしたとたん顔をしかめた。
「なにって、水だよ」
「ただの水がこんなに不味いわけねえだろ」
ただの水ったってゲームだぞ。液体表現がちゃんとできてるだけでもすごいことだろうが。まして味覚に訴えてくるんだぞ。
まあそうは言っても不味いものは不味い。それは確固たる事実だし、俺も認める。
口直しが欲しかったのか、そっちのちょーだい、とユウキは俺のコーヒーに手を伸ばす。そっちのほうが不味いぞと止めたのだが、それでもユウキはひと口を含んだ。
「ん!」
とたんにとんでもなく酸っぱいものを飲んだみたいに顔をしかめて、なにかを求めるように手を彷徨わせる。うっすらと目に涙を溜めてまで不味さに耐えていたので口直しにポーションを渡してやった。言わんこっちゃない。
「うー、ありがと」
「そんなに不味いんか。シュウおめえ、よく飲めるな」
「俺だって全部は飲まないよ。ただ眠気覚ましに即効性あるから」
カフェインとかじゃなくて、味覚への暴力だけど。ただそのぶん、効果に関しては折り紙付きだ。口の中はともかく、不味さでしっかりと目が覚める。アルゴと駆け回って集めた情報の整理をするときなんかは案外役に立つのだ。
「そんで、今日はなにか聞きたいことがあるんだっけか?」
アルゴで思い出した。そもそも今日は、クラインが確かめたいことがあるというのでこうして席を設けたのだ。
どうやら水すらも飲む気にならない様子のクラインは、おうそうだった、と居住まいを正した。
「あのよ、ちっと小耳に挟んだんだが。迷宮区に挑み始めたってほんとか?」
「ああ、その話か。本当だ。おとといあたりだったかな」
次層へと伸びる円柱の塔、通称は迷宮区。その最上階にいるボスを倒してその層をクリアとし、次のエリアへと進むことが可能となる。その第一歩を、二週間もかけてやっと俺たちは踏み出していた。
「まだ入り口からいくらも行ってないし、なんたってほら」
言いながら、頭上に透ける天井を指差す。
「あれだけ高いところまで登るんだ、あとどれだけかかるかわからない」
「……遠いね」
ポーションの瓶を両手で口につけながら、ユウキは首を九十度くらい曲げて真上を見た。それやるとポーション全部流れてきたりしないか。大丈夫か。
俺の心配をよそに、ほけーと見上げていたユウキは、でもさ、と視線を下げる。
「遠いけど、やるしかないんだよね?」
確認をするだけのような質問の口調に、あくまで俺の推測だけどなと頷いた。
「チュートリアル以来、音沙汰なしだからな。一万人を閉じ込めて、あまつさえその全員を殺しかねないなんてニュースを警察が許すことはないはずだ。まして、ナーヴギアを開発できたんだから解除もできるもんだとは思うんだけど、そういった動きも見当たらない。茅場の言うとおり、外部からの支援はあり得ないと思ったほうが吹っ切れる」
たぶん、そうやって広場に顔を出すようになった人たちは心の整理をつけている。野良パーティを自分で募集してみたときに何人かと話をしたことがあるが、大多数はそういう考えだった。
待つだけというのも疲れるものなのだそうだ。
「それにほら、その大量幽閉犯が自分で言ってるんだ。このゲームをクリアすれば終わるって。なら、少しでも動かないと」
「ポジティブだな、おめえは」
「そう思ってないとなにもできないだろ?」
「そりゃそうだ」
違いない、と笑って、クラインは手近なコップを手に取ってまた置いた。たぶん飲み会とかの雰囲気で飲もうとしたんだろうが、その不味さを思い出したんだろう。少しハッとしたような表情をしていた。
「それでよ、シュウよ。その……元気か、アイツ」
「アイツ? ……ああ」
ひと息入れると、クラインが小声で、意を決したように身を乗り出してきた。
少し考えたが、俺に対してアイツで通じる知り合いなどひとりしかいない。迷宮区に一番乗りした二人組の片割れ。
「ピンピンしてるよ。今日も元気にマッピングしてるんじゃないの」
「そ、そうか。そらよかった」
キリトの現状を教えてやると、クラインはあからさまにほっとしていた。そんなに意気込むような話じゃないと思うけど。フレンドリストとかで確認したり出来なかったか。ていうか、
「メッセージ送ればいいじゃん」
「バッカお前、それができたら聞いてねえよ」
「えぇ……」
ポンと手軽に送信するだけだろう。『元気でやってるか』とかそんなのでいいと思うんだけどな。不器用か。
今日だって会うって話をせっかくつけたのに、「やっぱやめないか」とか日和ったメッセージ飛ばしてくるんだもんよ。キリトもキリトで首を横に振るしな。
「まさかとは思うけど、今日の目的ってキリトの話だったりするんか」
もしそうなら、なぜ腰の引けた反応をした。素直に顔合わせればよかっただろうに。
俺の疑問に、クラインは首を縦に振ろうとしたのか横に振ろうとしたのか、ぎこちなく首をかしげた。
「いやまあ、全部じゃねえよ。噂の確認とかもしたいし。でもほら、心配じゃんか」
ひとりで行かせちまったからよ、と。ずっと気にかかって仕方なかったのだと、クラインはそう言った。
見た目が高校生かそれ以下のような、大学生からも社会人からも見ればまだ子供と思える風貌の少年を、このデスゲームが始まってすぐにひとりで送り出してしまったのだ。
本当なら、首根っこを掴んででも行かせないでおくのが正解だったはずだ。道も敵も知っているとはいえ、ひとりじゃどうやっても限界があるはずなのだから。
「あんな寂しそうに背中見せられちゃあよ、気にしないなんてできねぇだろ」
結局あのとき、キリトは振り返らなかった。クラインは寂しげだと言うが、それでもなにかしらの強い意志が彼にはあったのだ。だがそれは、クラインにも同じことが言えるはずだ。
「でも仲間との合流もしなきゃいけなかったんだろ。それはキリトもわかってると思うぞ」
それに、それを言ったら、俺がいちばん半端なことをしている。
確実に知り合いではないけど、それによく似た人がいたからというふわっとした理由で彼らふたりともまた違った道を選んだ。しかも結局、当人は見つからなかったのだ。あのときの俺の選択はなんだったのかと。強引にでも、俺に同行してもらったり、あるいは俺が同行することはできなかったのかと、そう思わずにはいられない。
「それならおめえもだよ。気にしすぎんな」
クラインの言葉に、思わず顔をあげる。
「……わかった?」
「わかるさ。大人なめんな」
クラインは、ぴっ、と俺に指を突きつける。
「ていうか、あんな別れ方しといてさっさと合流できてることの方が気になるぜ、オレは。もうしばらくは会えない覚悟でいたんだがな」
「なりふり構ってる場合じゃないだろ」
「そうかもしれねえけどよぉ」
キリトたち前線の攻略を助けるためにも、クラインたち後進の生存を助けるためにも、俺のような中間は必要なはずなのだ。そのためにはとにかく俺の顔が広くなきゃいけない。知り合いなんて数えるほどしかないのだ、そんな覚悟は捨ててでも動かなきゃ。
「ケンカとかしてたの?」
話の見えないだろうユウキが首をかしげる。まるでケンカ別れでもしたかのように聞こえたのだろうか。まあそう聞こえても仕方ないような言い方はしたかな。
だがクラインが言いたいのはそういうことじゃないんだ。
「いや、違うよ。別れ際にいい格好しただけ」
「なら別にいいんじゃないの? 会っても」
「それがそうはいかないんだよ。男の憧れとか意地みたいなものが関わってくるんだ」
カッコつけて別れておいて、そのすぐ後にひょっこり顔を見せるのはなんか格好悪いじゃんか。せっかくだから長めに期間を空けて、「お互い強くなったな」とかそういうのがやりたいんだよ。俺が半分くらいぶち壊したけど。
そういうことだろ、とクラインに視線を交えると、こくこくと頷いていた。
「そういうもの?」
「そういうものなの、男ってのは」
「ふーん」
世の中全ての男がそうとは限らないけど。少なくともクラインはそうだし、俺もそのカッコよさがわかる環境にいたので、そういうことにしておく。
ユウキにはいまいちピンとこなかったらしいが、ひとまずはそういうものとして納得してくれたようだった。
「だってのに、こいつはすぐ連絡よこすわ顔は出すわ、オレの覚悟がズタボロだぜ」
「いつの間にか死んでました、なんて怖いだろ。それにほら、心配してそわそわするより知り合いが近くにいるほうが安心するだろうしな?」
そういう意味では、今日のこの会合は意味があったと言える。ユウキとクラインの顔見せはできたわけだし。
「そうだけどよぉ、なんつーかこう、なあ」
だがやっぱりこだわりたいところではあったようで、クラインは素直に頷いてはくれなかった。ちらちらと俺を見るんじゃないよ。わかるけども、言いたいことは。同じ男だもんな。だからそれは、偶然キリトと会ったときにでも活かしてくれ。俺は見届けてやるから。その場にいたらだけど。
「それで、キリトの消息を教えた対価なんだけど」
「急にきたな、おい」
「や、とりあえず今はお前の矜恃よりもさっきちらっとこぼした噂のほうが気になるなって。それを教えてくれれば情報屋としては支払いとしてとんとんにしてやろう」
「お前、がめつくなったのは鼠仕込みだな?」
失礼な。アルゴほどがめつくないぞ、俺。もちろん、クラインのプライドに少し傷をつけたという意味でお安くもしておくしな。とりあえずここの支払いは割り勘でなく俺が持とう。
だが、クラインの知る噂は、なんならお釣りを渡してもいいかもしれないと思わせるような代物だった。
「まあいいけどよ。──隠しログアウトスポットがあるってのは、本当か?」
始まりの街の外、西側の森の中に、洞窟がある。深い洞窟で、そもそも森自体が深いものであるがゆえに見つかりにくい場所だという。その森は、隠しログアウトスポットと噂されているそうだ。それも、ある意味で信ぴょう性のある理由でもって。
ひとつには、その洞窟を訪れて
そしてもうひとつに──噂の発端が、《
「つっても、オレも人づてで聞いた話だし、その教えてくれたヤツなんて街でそういう話が聞こえてきただけらしいぜ」
だから、本当に噂話の発端が鼠なのかもわからない。クラインはそう言う。
その噂は、間違いなくデマだ。共に活動している俺が誰よりも太鼓判を押すが、アルゴは本当にネタの裏を取るまで誰にも漏らさない。そして、誰よりも《鼠》の名前でコンビを組む俺がそれほどまでに重要そうな話を微塵も聞かされていないのだ。情報屋は互いの信頼で成り立つ商売ダゼ、なんて言っていたやつが俺を裏切る? いいや、信頼されているという自惚れがあることを多少は加味してもそんなことは起こり得ない。
教えてくれた彼ですら全く信じていない様子だった。ただ、それでも。《鼠》の名を冠した噂話であるというだけで、確認する価値はある。そう判断してのことらしい。
それほどまでに、《鼠》の名は大きなブランドになりつつあるのだ。
「攻略本効果だナ」
「ひとまずは成功、てか」
「ウム」
別行動中だったアルゴに連絡を入れると、どうやら同じ噂を掴んだようでこちらに向かっていたらしい。クラインに別れを告げ、すぐに合流を果たした。
「しっかし、オレっちの名を騙ろうなんてナ。喜べばいいのか怒ればいいのかわからんゾ、まったク」
「喜んどけば? 騙ろうと思えるくらいの信用を得たんだと思ってさ」
「だがこの件で疑いを持つようになるダロ。それはオイラにとっちゃ地に落ちたと同じことなんだヨ。どこの誰だか知らんが、やってくれたナ」
アルゴの愚痴を聞くとともにいくつか情報を共有する。そのほとんどは俺がクラインから得たものと同じだったが、ふたつほど。急を要する話をアルゴは掴んでいた。
「詳細は向かいながらナ。今はとにかく動くゾ」
「キリトは呼ぶ?」
「いちおうナ。ユーちゃん、頼んでいいか」
「ん!」
急ぎ大門を出て、西の森へと向かう。その道すがら、アルゴは詳細を語った。
──プレイヤーがひとり、件の場所へ向かっタ。
その話を提供してくれた男ふたりによると、見たところ初期装備。おそらくははじまりの街に篭っていたが、2週間もすぎて救助がないと腹を括ったプレイヤーだろうというのがアルゴの見立てだ。即ち、レベルなど上げていない、まっさらな状態。
──その場所を、オイラは知っていル。
そこはモンスターの巣穴らしい。森を抜けた先、崖下に洞窟があり、そこを狼系のモンスターが根城にしている。はじまりの街付近にあることもあってレベルはさほど高くない。
ないけれども、だ。
「初期状態のプレイヤーがひとりでなんとかなる場所じゃない?」
「そのとおリ。それどころか攻略不可能と言っていイ」
アルゴ曰く、そこは森自体がダンジョンの扱いのようだ。ボスのいる洞穴はそのままボスのねぐらであり、雑魚に壁際まで追いやられたところでボスが叩きに出てくるのだという。簡単なダンジョンではあるが、それでもそこそこの難易度に設定されている。
つまり可能性のひとつとして、その噂はMPKを目的としたものであるということだ。
はじまりの街にいる満足にレベルを上げていないプレイヤーを狙い、信用度の高まってきた《鼠》の名を騙って他人を陥れようとしているのかもしれない。実際に帰還者がないという話を聞くと、その可能性は高いと思えてしまう。
「まずは人命救助、次に情報の精査、そんで噂の大元を叩く。そんな感じか」
「精査するまでもなくデマだろうがネ」
「まあそこはそれ、一抹の可能性に賭ける気持ちを捨てずにさ」
「フン」
やけにトゲのある口調で、アルゴは鼻を鳴らした。そんなに名前を騙られたのが苛立ったのか?
そんなことを話していると、やがて森へたどり着く。そこには、すでに呼びつけた用心棒が待っていた。
「あ、いたいた! おーい」
「おー」
ユウキが呼びかけると、木にもたれていたキリトが小さく反応する。ユウキとキリト、このふたり以上に頼りがいのある用心棒はいないと俺は思う。
「悪いな、急に呼び出して」
「いいさ、今日は迷宮区がちょっと混んでて息抜きがてら別のところに行こうと思ってたんだ。ちょうどいいタイミングだったよ」
迷宮区の息抜きに別のダンジョン行くのか、お前。それ本当に息抜きか?
まあきっとクラインの件でやきもきしてたんだろう。会えばいいのにとは思うが、キリトはキリトでなにか負い目を感じてるようではあるし、そこは触れないでおく。それよりも情報の共有が優先だ。
ここまでの話をかいつまんで伝えた。森の中の洞窟、訪れたであろうプレイヤー、そしてMPKの可能性。もとより滅多に呼び出すことがない俺たちだ、緊急事態というのは察してくれていたのだろうが、それでも顔はだんだんと険しくなっていく。
「そういうわけか……」
「場所は案内すル。実戦でも可能な限りのサポートはするが、矢面に立つことばかりはお願いすることになるだろウ」
いちおう俺とアルゴもそれなりにレベルは上がっている。だが迷宮区に挑めるほどではない。前に俺個人で挑んでみたことはあるのだが、あまり芳しくない結果に終わっている。
アルゴの話だとそのダンジョンの攻略に求められるレベルはあまり高くないらしいが、それでも帰還者ゼロという事実がある。慎重に慎重を期して挑むなら、彼らに前線を張ってもらうしかない。
「……頼めるか」
たったそれだけの言葉を言うのにかなり躊躇った。俺よりも明らかに幼いであろうふたりに、命をかけてくれと言うのだ。クラインに影響されたのも少しはあるのだろう。
なのに、ふたりの返事は早い。
「任せろ」
「うん!」
ヨシ、行くゾ。そのアルゴの言葉を聞くや否や、俺たちは森の中、洞窟を目指して駆け出した。