「……」
見上げるリルトット・ランパードの視線の先には、黒い塗装が剥がれた壁があった。視線を平地に移すと、気分よく鼻歌を歌う小柄な男、ゼロス・ブランツの姿を見つけた。
「あ、リルトット様! おはようございます!」
リルトットの存在に気付いた小柄な男は元気よく手を振って挨拶をする。
「……!」
その時彼女の脳内に電撃が走る。
「んっ」
適当に挨拶するとリルトットは小柄な男に「あれを見ろ」と指し示す場所を見るように促す。
「おや? 壁の塗装が剥げてますね」
「気づいたのなら塗れ」
「なんで僕がそんな事をしなくちゃならないんですか!」
顔を真っ赤にするゼロスにリルトットは思い出すように呟いた。
「そう言えばキャンディとミニーがこっちに用があるって言っていたなぁ」
「なん……だと……ッ!?」
この時彼の桃色の脳細胞が活発に動き出す。
壁を塗装するためにはしごに登る→はしごの下をキャンディスとミニーニャが通過する→視線を下にするだけ合法的に胸の谷間が見える。
ゼロスはスーパーコンピューターに匹敵する速さで上記の答えを導きだす。
「……しょうがない。お前がやる気がないのなら俺がするしかないか」
「待ってください!」
ため息を吐くリルトットをゼロスが制止する。
「リルトット様のような方がそのようなことをする必要はありません。このゼロス・ブランツにお任せください!」
「でもさっきお前やりたくないって」
「そんなこと。このゼロス・ブランツ、一言も申しておりません! 我らの神、ユーハバッハ様に誓って!」
「そうか。じゃあ頼むぞ」
リルトットはペンキの入ったバケツと
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「うぅん、いい朝ですね」
星十字騎士団の一人で
心地よい陽の光を浴びながら、シミやほつれ、埃一つついてないバシッと決まった白い軍服を着崩すことなく身に
(ふふ、完璧な軍服を身に纏い陽の光を浴びながら散策する私。さぞかし絵になるでしょうね)
自身の姿を脳裏に浮かべながら歩くキルゲ。だがその楽しいひと時は
バシャアアアァァァッッッ!!
上から降り注いだ大量の黒いペンキが頭から降り被さったことで終わりを告げた。
「……」
何が起こったのか理解できずに放心するキルゲに上から「あ、ごめんなさい」と陽気な声が聞こえたかと思うと軽やかに着地する。
「すみません。壁の塗装をしていたんですけど誤ってペンキを落としてしまって……ッ!!」
ペンキを被ってしまった人物を見てゼロスは凍りついた。普段こそふざけたような口調だが、自分に従わない者は部下であっても即座に斬り捨てる冷血にして残虐の性格の上司、キルゲということに気づいて。
「あ、あの……」
「ゼロス・ブランツ」
静かに。目の前で震える部下を見ながら、キルゲはポツリと呟いた。
お前には速やかに死んで貰い
「…………」
その言葉に。ゼロスの視界は真っ白になった。