黒猫燦なんかに絶対負けないつよつよ現役リア充JKのお話 作:津乃望
オチまでは考えているので完結まで頑張ります。
自分で言うのも何だが、あたしという女は要領の良い人間だ。
「メルー、カラオケ行こうよー」
友人から遊びの声が掛かる。メルというのは私の名前だ。華のJK、人生の絶頂期にいる高校2年生である。
今日も授業が終われば、こうしてクラスの友人が遊びに誘ってくる。私のクラスでの立ち位置は完璧だ。即ち、クラスカーストトップ。授業中も、放課後も、このクラスは私とその友人たちを中心にして回っている。
「今日さー、2組の男子が奢ってくれるんだってー」
「あいつら絶対ワンチャンあるって思ってるよね。カラオケとかあからさま過ぎ」
「まぁ行ってあげるけどさ。ヤらせはしないけど」
「あー! 鬼畜だー!」
「そういうアンタはヤらせてあげんの?」
「んなわけないじゃーん!」
あたしと同じクラスの中心にいる女子たちが下品な話題で盛り上がっている。まぁ、カーストトップだとか華のJKだとか言っても蓋を開けてみればこんなものだ。下ネタだってバンバン口にする。あたしだってする。
しかし、奢りという言葉は魅力的だ。何せJKというやつはとにかくお金がかかる。それがカーストトップなら尚のこと。見栄も張らなきゃこの位置はキープできないのだ。
「ねぇメルもカラオケ行くでしょ?」
普段のあたしなら迷わず行くと答えている。普段のあたしなら、だ。
「ごめん! 今日はどうしても外せない用事があるの!」
だから、断腸の想いで誘いを断る。
「えー、メル来ないんだったら私たちで野郎たちの相手しなきゃいけないじゃーん」
「あたしに相手させるつもりだったんか。あと、言い方が何か卑猥」
「卑猥って?」
「エッチってこと」
「やーだ、メルってばやらしんだー!」
キャーキャーはしゃぐ声につい苦笑いを浮かべてしまう。そのテンション、後まで取っててあげようね。これでカラオケがお通夜みたいだったら男子たちが可哀想だし。
改めて謝罪を口にしながら教室を出る。後ろからはまた明日ねと声が聞こえた。ちょっと頭が弱いところもあるけれど、あれで結構良い奴らなのだ。
だからこそ、あたしの
◇ ◇ ◇
家に帰ってからのあたしの動きは早い。何故なら、
手早く料理を済ませ、お風呂を洗い、浴槽にお湯を張っている間に夕ご飯を黙々と済ませ、お湯張りが完了したらきっかり二十分でお風呂を上がり、眠気と戦いながら学校の課題に着手した。最後の英語課題を終えた瞬間、部屋に飾ってある時計を見た。時刻は8時55分。5分前。あたしのチャートが完璧だったことが証明された。
疲労と達成感に浸りながら、コーヒーを淹れる。今夜は絶対に寝落ちなんてできないから要カフェイン摂取だ。そうしてマグカップ片手に部屋へと戻ってくると、9時まで1分前になっていた。慌てて待機状態になっていたパソコンを立ち上げる。
そうして時刻が9時を迎えると、あたしが友人たちの誘いを断ってまで見たかったそれが始まった。
『こんきりん~。あるてま所属のバーチャルユーチューバー、来宮きりんだよー』
「ああああああああ間に合ったああああああああ!!!!」
きりんさんの開始の挨拶聞き逃すとか、今日全ての頑張りを捨てるのと同義だからね! 本当に良かった!
『今日はねー、収益化おめでとう配信をしまーすパチパチー』
「きりんさん収益化ほんとおめでとおおおおお!!! 頑張ってたもんねー! 頑張ってたのあたし知ってる!! だからほんとにおめでとおおおおおお!!!」
いやもう感無量っていうか、きりんさんの初期を知ってる人間からすると本当におめでとうという感情しか湧いてこない。
今でこそきりんさんはあるてま1期生の中心的人物だけど、配信当初はそうでもなかった。ぶっちゃけ初めの方は話し方とかそんな上手ではなかったし、配信中に失言して炎上しかけたこともあったしね。登録者数も伸び悩んでいたように思う。
だけど、きりんさんの凄いところはそれでも腐らずに今日まで配信を続けてきたことだ。話し方だって最初とは比べものにならないくらい上手になったし、チャットも登録者数に伸び悩んでいたなんて嘘のように盛り上がっている。
きっとあたしたちの知らないところで努力してきたんだろうなぁ。……あ、想像しただけで泣けてきた。ティッシュ、ティッシュ。
『ありがとうございますありがとうございます! って、うわ!? 無言で5万円!? いいの!?』
ティッシュで涙と一緒に鼻を噛んでいると、画面向こうのきりんさんが驚きの声を上げていた。驚いてるきりんさんも可愛いね。
「ぐぎぎっ、お金の力できりんさんに擦り寄りよって……!」
そしてあたしは歯ぎしりしながら悔しさに身を震わせる。……いや、分かっている。人気者の配信者に名前を覚えてもらうならスパチャするのが最も手っ取り早い。それも高額なら尚更だ。
そしてスパチャの何割かは配信者の収入になる。名前も覚えてもらえるかもしれなくて、おまけに自分の推しの生きる糧となる。まさに視聴者にとっては一石二鳥。
けれど、視聴者の誰もができるわけじゃない。何故なら、スパチャとは自分の貯蓄との戦いだから。いくら推しの為になるとはいえ、それで自分の身を滅ぼしてるんじゃ本末転倒だしね。スパチャで破産したなんて話もまんざら嘘ではないのだろうけど。
「あたしもスパチャしたい! 推しを養いたい! 血肉にしてもらいたい! ……けど、絶対歯止め利かないよね」
自分のことは自分が一番よく分かる。最低額から始めようが、一度やってしまったら絶対に自制できない自信がある。
だから今は我慢、我慢のときなのだ。高校卒業したら絶対推しに無言赤スパしような、あたし……。
『みんなありがとー! お礼と言ってはなんだけど、今日はみんなからのマロたくさん読んじゃうよー!』
あたしがいつかの野望に思いを馳せている間にも、きりんさんの配信は進んでいく。
マロというのはマシュマロのことで、この場合は食べ物ではなく匿名メッセージサービスのことを指している。バーチャルチューバー御用達となってきたこのサービスを使って、視聴者は色んな質問を送り、配信者がそれに答えるというのが楽しみの一つになっているのだ。ラジオのハガキコーナーのネット版と言えば分かりやすい。
しかしこのマシュマロ、さっきも言ったように匿名なのである。だから、匿名なのを良いことに好き勝手なことを配信者に送る輩もいたりする。セクハラとかな!
お前らセクハラマロ送るのほんとやめろ! きりんさんが女性だからって聞いていいことと悪いことがあるだろ! 自分の性癖なんて正直に話す配信者がいるか! いたらドン引きだよ! とか言ってたら次もセクハラマロだし! きりんさんのスリーサイズなんて聞いてんじゃねー! 現実じゃできないからって匿名を笠に調子に乗るな! あぁ、きりんさんも収益化でテンション高いからって答えちゃダメー!
『――って感じかな。あ、そろそろ終わりの時間だね。楽しいときって時間が過ぎるの早いね』
と、そんな風にきりんさんが読み上げるマロの一つ一つに一喜一憂しているうちに、今日の配信は終わりが近づいていた。
ほんとそれ。きりんさんの配信聞いてるときはいつも時間がマッハで過ぎるから困る。
『で、最後に告知があります! 来週土曜日21時から、同期の世良祭ちゃんと初のオフコラボがあります! お泊まりもしちゃうので皆さんお楽しみに!』
あ゛っ!? きりんさんと祭さんのオフコラボ!? マ!? マッ!! ……あ、ああああああ、来週まで生きる理由ができたああああああ!
実を言うとあたし、きりんさんのファンであるのと同時に世良祭さんのファンでもあるのだ。クールでモテる女って感じがとてもすこ。
そんな今やきりんさんに並ぶ大人気配信者である祭さんだけど、彼女もまた当初はあまり人気が出ていなかった。本人も公言してるけど、人付き合いが苦手な方らしく、初めの頃は一人での配信ばっかりでどこか空回りしている感じだった。正直、視聴者からもそのまま引退もあるんじゃないかって空気が出ていた。
しかし、しかしですよ。そこに待ったを掛けた人がいたんですよ。誰かって? 我らがきりんさんに決まってるじゃないですか! それまで誰ともコラボせずに腫れ物扱いされていた祭さんに、きりんさんは躊躇うことなくコラボを持ち掛けたんだとか。それから意気投合した二人が頻繁にコラボするようになって、二人の仲が深まるのに比例して、祭さんの人気も爆発していったのだ。
いやもうあの初コラボ回は神回だったよね。最後の方で祭さんが楽しいって言って笑ったときにはパソコンの前でボロ泣きしたし。あれからあたしも含め、本格的な祭さんのファンになった人は多いんじゃなかろうか。
祭さん良いよね。物静かで、でも決して冷たいって感じはしなくて。コメントすればちゃんと答えてくれるしね。きっとリアルでもアバターみたいな優しい美人さんなんだろうなぁ。
……あ、あっ、でもきりんさんも好きだから! これは浮気じゃない、浮気じゃないですから! 信じて、信じてください何でもしますから!!
と、とりあえず来週の土曜は予定空けとかないと。でも、はー、まつきりお泊まりコラボとか、マジかぁ……。生きててよかった、この配信終わったら禊しよ……。
『そして! さらに! もう一つ重大告知です! な、なななんと! 私も所属しているバーチャルユーチューバーグループあるてまの2期生を募集しちゃいます! 募集要項はバーチャルユーチューバーになりたい! ただそれだけ! みんなのご応募、待ってるよー!』
マ!? あるてまの2期生募集!? え、っていうことはですよ、募集して何か奇跡が起きちゃったりしたら、私もあるてま所属のバーチャルチューバーになれる……? あるてま2期生ってことは、きりんさんや祭さんの後輩……? 合法的にきりん先輩や祭先輩って言える……!?
「なんだそれ天国かっ……!!」
メリット、あたしにとってメリットしかない! 何だバーチャルチューバー、思ってるほど甘いもんじゃないとか言われるけど、良いこと尽くめじゃないか! ……はっ、もしやネガキャンすることであたしからきりん先輩と祭先輩を遠ざけてたな!?
もうそんな手には乗るもんか! あたしの中の洗脳は解けたぞ! 速攻で内容確認して応募じゃー……って、公式落ちてるんですけど!? 早過ぎじゃないか!? あ、お前らまさか……私と同じ考えか! どいつもこいつもさー!
『あ、鯖落ちごめんなさい! また後で公式ツイッターの方でも詳しい説明があると思うのでしばらく待っててね! じゃあそういうわけで、ばいばーい!』
「あ、あっ、ばいばーいっ!」
テンパっていると、きりんさんの配信が終了した。今日もお疲れ様でした。
それにしても、まつきりオフコラボだけでも爆弾だってのに、追加で爆弾を放り投げてくれるんだから、きりんさんもやってくれるよ。とりあえず、一時は公式も見れないだろうから今日の配信を観直そうっと。
で、詳細を確認したら、ね、ふひっ。ああああ、未来が一気に輝いて見えるー!
「……あー、でも万が一そんなことにでもなったら、今よりもっと気をつけないとなぁ」
そのことを口にすると、熱狂していた思考が冷めた。
皮算用なのは百も承知。それでも、もしもを想像したら考えずにはいられない。あたしのこんな姿は友人たちの誰にも見せたことがない。いいや、こんな姿は誰にも見せらない。
そう、絶賛クラス内カーストトップでリア充高校生活を謳歌しているあたしのもう一つの顔、それはバーチャルチューバーにドハマりしている――ただのオタクだ。
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