黒猫燦なんかに絶対負けないつよつよ現役リア充JKのお話   作:津乃望

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玉藻の前確定チケットが配布されるので更新しました。
長くなりそうだったので今回も上下編です。


5話 猫うた。〜猫が嘆いて、コミュ力わけろとのたもうた。〜(上)

 さて、暇つぶしに机に落書きしたら後悔することになったり、黒猫燦がリア充相手にキレてる呟きが狙い通りバズったりしているのを見て笑ったりしたその翌日、あたしは早速、例のクラスメイトを調べてみた。

 黒音今宵さん。他人の机に落書きしていたあたしのことを、あっさりと許してくれた優しい人。落書き程度と思うかもしれないが、想像してほしい。他人が勝手に自分の席に座って落書きかましてくれている様子を。怒るまではしなくとも、イラっと来る人は多いんじゃないだろうか。しかも、あたしの場合はその落書きを消しもせずにさっさと帰っているのだ。彼女の心象は決して良いものじゃないだろう。

 別に自分を良く思われたいとは思わないけど、かと言って悪く思われたままというのも据わりが悪い。それがクラスメイト相手ならなおさらだ。……まぁ、その相手の名前すら憶えていなかった自分が言っても説得力はないのだけれど。

 何はともあれ、改めて謝らないことにはあたしの気が済まない。そんな訳で、相手の名前も分かったことだから早速謝ろうとするのだけれど、

 

「……!」

 

 目が合ったと思った瞬間、黒音さんは弾かれたように席を立ち、そのままするりと教室から出て行ってしまった。失礼だけど、鈍臭いイメージが勝手にあったものだから、その思わぬ機敏な動きに面食らってしまった。

 そのときは急にトイレにでも行きたくなったのかもしれないと自分を納得させた。けれどその後も、

 

「あ、く……」

「!」

 

 話しかけようとしたタイミングで同じように教室を出ていかれ、

 

「あの、黒音さ……」

「あー、ごめんごめん、まだ学校でさー! あぁうん、今日のカラオケの件ね! わたしも楽しみにしてるよ!」

 

 またも話しかけようとしたところに友人らしき人からの電話が掛かったようで、スマホを耳に当ててそそくさと去って行ってしまった。何ともタイミングが悪い……いや、冷静に考えるとタイミングの問題じゃなかったな? スマホ一切見ずに取ってたし。それに電話の内容も、友人っぽい人と話してる感じだったけど、黒音さんって友人いるのかな? いや、失礼極まりないことを考えていることは重々承知しているんだけど、普段からクラスの人と話してる様子もないし、友人とカラオケに行くっていうタイプでもなさそうだし……まさか、電話してる振り? 思い切り避けられた?

 あれ、もしかして、自分が思っているよりもあたしって黒音さんに嫌われてる……?

 

「いやいや、いやいやいや」

 

 確かにあたしは黒音さんに悪いことをしてしまった。だからと言ってこうも避けられるまで嫌われる理由がない……はず。そりゃあ自分よりちょっと胸が大きい相手に対しては若干当たりが強くなってしまう悪癖は自覚しているけれど、あたしはそもそも黒音さんとまともに話したことがないから、それが原因とも思えない。

 うーん、考えてみるけど分からない。というか、答えを出すために必要な情報が足りなさ過ぎる。こんなところでクラスメイトとのコミュニケーション不足が響いてくるとは。もっと強引にでも迫ってみる方がいいのだろうか。あぁでも……、

 

「黒音さん、怯えた猫みたいな反応してて可愛かったな」

 

 だって、話しかけようとしたらビクッてするんだもん。反応がまんま人間に近づかれたときの野良の猫。綺麗な黒髪してるから、擬獣化すれば見た目もそれに相応しい真っ黒つやつやにゃんこになるんだろうなぁ。

 

「……頼んだら撫でさせてくれないかな」

 

 あの髪質は撫でたら絶対サラサラに違いない。謝るついでにひと撫でさせてもらえないかなぁ……なんて、そもそも話しかけられるかどうかが前提にあるあたしにとってはあまりにも皮算用な考えであった。

 結局この日、黒音さんに話しかけることは叶わなかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『こんきりん〜! あるてま1期生の来宮きりんだよ〜!』

 

 

 んんんん、きりんさんだああああ! お久しぶりです今日もお声が綺麗ですうううう! すきっ!

 

 

『久しぶりコメントありがとー。そして1週間も配信できずにごめんなさい。ちょっと時期外れの風邪を引いちゃってました。もう喉の調子もバッチリだから、前以上に頑張っていこうと思います!』

 

 

 きりんさんは病み上がりを感じさせない調子の声で言う。それに心の底から安堵した。一週間ほど前に風邪を引かれたと呟かれてからは、気が休まらない日々が続いていたのだ。一昨日に今日の配信を予告する呟きが上がったからホッとしてはいたけど、実際に声を聴くのと聴かないのでは安堵感が段違いだ。

 今日改めてきりんさんの配信を観れることを、この世全てに感謝しよう。でも、病み上がりだから無理だけはしないでください。

 

 

『あはは、みんな心配してくれてありがとう。それにしても、今まであるてまは私たち1期生だけだったから、こうやって改めて1期生を名乗るのって何かこそばゆいね』

 

 

 あたしはあなたのその言葉にこそ、こそばゆさを感じております。ヘッドホンから響くお声がちょうどいい刺激ですおほおぉっ、新鮮なきりん成分が飢えた身体に満たされてイくぅ! ……あーっ、1週間ぶりに生で聴くきりんさんボイスは実に効く。いずれはガンにも効くよこれ、聴く抗ガン剤ってやつ。実証できたら、きりんさんはノーベル平和賞と医学賞のダブル受賞間違いなしですわ。きりんさんイズ日本の誉れ、あたしの誇り。

 あたしが順調にきりんさんのお声でトリップしている間に、今日は溜まっていたマロを読み上げる雑談回とのお達しがあった。気をしっかりと持つんだ自分。意識を飛ばしそうになるその気持ちは痛いほど分かるが、あたしの読みは当たっていた。もしも(・・・)があるかもしれないんだ、絶対に聞き逃せないぞ。

 

 

『じゃあ1通目! えっと、「こんきりんー。あるてまも2期生が入ってきて賑やかになってきましたね。きりんさんは2期生の配信は観てますか? あと個人的に気になっている2期生がいたら教えてください」と』

 

 

 むぅ、違った。でも、良い質問だ。送った人ナイス。

 

 

『早速こういう質問が来てくれて嬉しいなー。2期生の人たちが入ってきて私もうかうかしてられないんだけど、それ以上にワクワクしてるんだよね。この人たちとこれからどんな風にあるてまを盛り上げていけるんだろう、って。で、2期生の人たちの配信を観てるかって質問についてはイエスだね。ちゃんと全員の配信を観せてもらってるよー』

 

 

 風邪で時間もできちゃったしね、と苦笑い気味に答えるきりんさん。それに対して、ちゃんと休んで、なんて心配するコメントと、偉い、というコメントが同じくらい流れていく。

 あたしはどちらのコメントにも共感してしまう。風邪のときくらいはゆっくり身体を休めてほしいと思う。でも、そんなときでも後輩たちの配信を観て勉強しているきりんさんを偉いとも思ってしまう。ファン心理としてはどっちが正しいんだろうね。

 

 

『どの人たちも個性的で面白いよね。きっとこれからどんどん伸びていくよ……なんて先輩面してると足もと掬われそうかな。でも本当に面白いから、2期生のみんなも要チェックだよ! それから、個人的に気になるのは2人かな。そのうちの1人はたぶん結構な人が知っているかもだけど、黒猫燦さんだね』

 

 

 おぉっ!? きりんさんから予想もしていなかった奴の名前が出てきたっ!? 黒猫燦の名前が出ただけでコメントも賑やかになる。

 

 

『黒猫さんのこと知ってる人多いねー。やっぱり最初の配信の印象が残ってる人が多いのかな? 私もつい祭ちゃんに配信をすぐ観るように教えちゃったくらいだし。そういう意味では掴みはバッチリだったよね。ああいう人は良くも悪くも注目されるから、今後に期待してる一人かな』

 

 

 意外だった。きりんさんは結構真面目な印象が強いから、黒猫燦のような博打性のある奴の名前は挙げないと思っていた。言葉の通り、それだけ黒猫燦という配信者に期待しているということなのだろう。

 ……んんっ、つい口元が緩みそうになってしまう。いや、これはきりんさんも自分と同じ配信者に注目しているということで、まるで自分ときりんさんの間で意識の共有がなされているような状況に喜んでいるだけで、決して黒猫燦が期待されていることに喜んでいる訳ではないのだ。

 あの初配信の後、黒猫燦は数回配信を行っているけれど、内容は至って普通の雑談だった。視聴者的には、そろそろデカい何かを観てみたいと思うのが当然の心理。きりんさんにこれだけ期待かけられてるんだから、ほんと次は気合い入れなさいよ黒猫ォ!

 

 

『あと、もう1人は夏波結さんだね。夏波さんの配信、みんな観てる? 喋り方もそうだけど、視聴者への気配りとかすっごい上手だよね。初期の私とか絶対に負けてるもん。そういった実力では、2期生の中でも抜けてるんじゃないかな。後は自分のキャラが確立できれば、もっと化けると思うんだ。ある意味では黒猫さんより気になってる人、かな』

 

 

 きりんさんが挙げたのは夏波結だった。これは何となく予想ができたというか、きりんさんが彼女の名前を挙げた理由が分かる。夏波結は、黒猫燦とはまた異なる部分で、きりんさんに似ている。チャンネル登録者数が伸びずに悩んでいた、初期のきりんさんと。

 2期生がデビューしてまだ1か月も経っていない。けれど、既にチャンネル登録者数には差が出始めている。夏波結は下から数えた方が早い、というか7人のうちで最も登録者数が少ない。トップの黒猫燦(!)とはダブルスコアどころではない差を付けられているし、あたしの記憶が正しければ、黒猫燦が最初にやらかしたときの登録者数にさえ達していない。

 ハッキリ言ってしまえば、夏波結はスタートダッシュからして躓いていた。あるてま1期生という肥沃な下地がありながら伸び悩んでいる、これはつまり本人の問題だ。黒猫燦のような炎上キャラでも、我王神太刀のような厨二病キャラでもない。彼女はそう、キャラが素直に過ぎるのだ。

 後は自分のキャラを確立できれば化ける。きりんさんの言葉は裏を返せば、夏波結には確たるキャラが無いと断言しているようなものだ。確かに視聴者と上手に話せるのは、配信者として間違いなく長所だ。夏波結という人は普段からそれに長じているのかもしれない。けれど、バーチャルユーチューバーとはここの塩梅が難しいところで、普段のように話していてもダメなのだ。何故なら、視聴者が望んでいるのは現実(リアル)の夏波結ではなく、仮想(バーチャル)の夏波結なのだから。

 あたしたち視聴者は、バーチャルチューバーに夢を見ている。その夢が、きりんさんだったり、祭さんだったりの持っているキャラなのだ。夢を見せてくれる人たちだからこそ、あたしたち視聴者は夢を見ることができる。だけど、夢の中に現実を持ち込まれればどうか、途端に夢は覚めてしまうのが道理だ。

 きりんさんは言っているのだ。このままでは視聴者に夢も見せられないうちに埋もれてしまうと。だから、夢を見せる気があるならば早く自分のキャラを確立しろと。

 

「あれ、さっきの黒猫燦への言葉といい、意外ときりんさんってスパルタ……?」

 

 まさか、まさかね。こんな優しいお声をしたきりんさんが、他人を鞭打つような真似をする訳がないじゃない。

 まぁ、もしも夏波結がこの配信を観ているなら多少は奮起してるんじゃないかな、自分のことは自分が一番分かっているだろうし。これで奮起しないようであれば――彼女はそこまでの人だったというだけだ。

 なんて、しんみりと気を抜いていたから、次の衝撃に耐えられなかった。

 

 

『はい、じゃあ2通目いくよー。「相談です。私は少し前、とある子猫に酷いことをしてしまいました。悪いことをしたという自覚はあるのですぐにでも謝りたいのですが、子猫は怯えたように警戒して近寄らせてくれません。どうすれば仲直りして、お友だちになれるでしょうか? P.S. 回復おめでとうございます。明日の配信を楽しみにしています。好きです結婚してください!」と。わー、どうしよう。相談と告白とプロポーズいっぺんにされちゃった』

 

 

「はびゃはあっ!?!?!?」

 

 

 そのマロが読み上げられた瞬間、あたしは自室の椅子から奇声を上げながら転げ落ちた。だってだって、きりんさんが読み上げたそれは、昨日のあたしが気の迷いから送ってしまったマロそのものだったから!

 え゛っ、あたしのマロをきりんさんが読んでる? あたしのマロがきりんさんに読まれている? ……う、うわああああああ! 嬉しい! めっちゃ嬉しい! めちゃくちゃに嬉しいけど、同じくらい恥ずかしい! 何ですか子猫って! 素直にクラスメイトって書けばよかったじゃん! 子猫に謝りたいとかお友だちになりたいとか、どこのメルヘン脳ですかよっ!!

 あと最後の追記! どうせ読まれるはずないからって何で告白して、あまつさえプロポーズまでした!? お前が嫌ってる奴らと同様のメッセージじゃん! バーチャルチューバーに恋愛感情懐く自分とか解釈違いですファンやめろ!

 ……でもでも、こんな気持ちの悪いマロを読んでもらえるとかこれもう結婚案件では? え、実は脈あり? だったら、あたしは幸福過多で脈なし一直線です。けど、脈がなくとも突き進むのがゾンビのサガだし、たといゾンビになろうとあたしのきりんさんへの愛に一切翳りはあり得ません。絶対幸せにします結婚してください。

 

 

『うーん。でも、相談者さんは随分と気が多いみたいだね。私は浮気性の人はパスかな。まずはあたしか子猫さんかどっちかに決めてね』

 

 

 あ゛っ!? ち、違うんです! これは浮気とかではなく、ただ子猫さんのことも気になってるだけで……って、これ浮気する奴の思考じゃん! あたしはずっと前からきりんさん一筋で……あ、でも子猫さんのことも疎かにしたくないし、お友だちから始めたいな、ってこれが浮気なんだって! あ、あっ、今まで自分はきりんさん一筋だと思ってたのに、こんなに迷うなんて……最低だ、あたし。

 

 

『とまぁ結婚とかは置いといて、子猫さんの件だね。えっと、相談者さんは子猫さんに謝りたいけど逃げられちゃうんだよね。相談者さんはマロに怯えたように警戒してるって書いてるけど、これが答えなんじゃないかと思う。子猫さんは、相談者さんのことが怖いんだよ』

 

 

 意気消沈するあたしの耳に、きりんさんの落ち着いた声が染み込んでいく。言葉は厳しいけど、その響きは優しい。

 

 

『相談者さんはえっと、子猫さんに酷いことをしちゃったんだよね? だったら怯えて逃げちゃうに決まってるよ。子猫は弱いから、自分を傷付けるかもしれない相手を警戒するの。その警戒はすぐには解けないし、焦って近付けば警戒を深めちゃうだけだよ。だったら、待つしかないよね。ずっと気を張っていられる生き物なんていないんだから、いつか必ず隙はあるはず。相談者さんはそこを見逃さないようにして、話し掛ければいいんじゃないかな。いい、焦っちゃダメだからね? 待つのも駆け引き、恋愛の常套手段だぞ!』

 

 

 きりんさん、来宮きりんさん、こんなしょうもない質問にも真摯に答えてくれるなんて……んん、んんんんんっ、しゅきっ! きりんさんしゅきっ!! いっぱいっ、いっぱいしゅきっ!!!

 

「はー、一生推せる……」

 

 結婚の件はサラッと流された気はするし、これ恋愛相談だったっけと冷静な部分が囁いているけど、そんなのはどうでもいい。きりんさんにマロを読んでもらって相談にまで乗ってもらえた、これ以上の喜びはない。『「待つしかないね」と 貴方が言ったから 今日のこの日はきりん記念日』と。あぁ、嬉しさの余りに一句できてしまった。

 

 

『今の回答で大丈夫かな? 私はこれぐらいしか役に立てないけど、相談者さんが子猫さんにちゃんと謝って、友だちになれることを願ってるよ』

 

 

 きりんさんありがとうございます! 一緒に応援コメントしてくれてる他の視聴者のみんなもありがとう! あたし、子猫さんにちゃんと謝って、友だちになれたら頭なでなでさせてもらうね!

 あぁ、あー、でも今はダメだ。あまりの多幸感に頭がうまく回らない。きりんさんの配信はまだ続いているというのに、ロクに内容も入ってこない。今日のあたしはもうダメかもしれんね。これ以上の視聴は諦めて、この配信は落ち着いてから見返すとしよう。

 しかし、きりんさんにはもう足を向けて寝れないな。住んでる方角わかんないけど。とりあえず、それらしい方角に向けて二礼二拍一礼しておこう。週末になったら教会のミサにも参加するんだ。えっと、今年のラマダンはいつからだっけ……?

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 翌朝、きりんさんのいると思われる方角へ向けて三跪九叩頭の礼を行っていたら、中々降りてこないことを心配したお兄ちゃんが部屋に入ってきて、今度は本気であたしの頭を心配し始めたことで正気に返った。

 どうやらきりんさんへの信仰が高まり過ぎてしまったらしい。もう少し高まっていれば、「だって神の愛は無限だもの……」とか言って家を飛び出してしまっていたかもしれない。幸い、お兄ちゃんの解法によって、高まり過ぎたあたしの信仰心は若干低下したので、ユニット離脱の憂き目は避けられた。まったく、きりんさんはいちいちあたしのことを狂わせてくるお方で困ってしまう。すき。信仰しなきゃ……。

 

「あ、ツイッター見るの忘れてたや」

 

 昨日のきりんさんショックが尾を引き過ぎた結果、日課の配信者ツイ垢の巡回を忘れてしまっていた。家を出るまでまだ時間はあるし、今のうちに確認できるだけ確認しておこう。

 しかし、昨日のきりんさんの配信視聴後からの記憶が怪しい。あたしの意識はどんだけトリップしていたんだか。正しくきりんさんのお声は聴くオクスリ――こう書くと一気に違法性が高まるなぁ。きりんさんの配信は用法用量を正しく守り、部屋を明るくして視聴してください。

 

「んん?」

 

 おバカなことを考えながら、お気に入りの配信者たちのツイ垢を巡回していると、何かあり得ない呟きを見たような気がして思わず指が止まった。そのあり得ない呟きをしているアカウントの名前は、黒猫燦。またこいつだ。

 何だかコラボとか黒猫燦とは縁遠い単語が見えた気がしたけれど、まさかまさか。あんな火中の栗そのものな奴に好んで触れたがる酔狂人がいるはずがない。触れるにしても火傷しない程度を見極めてからだろうに。ははぁん? さては黒猫燦め、ここ数回の配信内容に焦って先走ったな? 焦る気持ちは分かるけど、飛ばしはいけないぞ。

 あたしは瞼の上をゆっくりと揉み解し、目の焦点が定まったところでもう一度、黒猫燦の呟きを読み返した。どうか飛ばしでありますようにと願いながら。

 

 

『コラボのお知らせです。

 同期のコミュつよ夏波結さんと3日後にコラボします。

 雑談予定。コミュ障のみんな! オラにコミュ力をわけてくれ!

 #黒猫さんの時間 #助けろ』

 

 

 んんんん!? 黒猫燦がコラボ!? 夏波結と!?

 いやいや、夏波結さん!? 奮起してるかもとは思ったけど、まさかこんな形で打って出るとか……しかも初コラボ相手が黒猫燦とか! 加減しろバカ! 相手は陰キャの黒猫だぞ!? 陽キャ相手で暴走した黒猫燦の飛び火で派手に炎上しても知らないんだからなー!?




メルちゃんのきりんさんへのFaith(信仰心)は数値にすると91くらい。

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