彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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まずは整理しよう

 

 

 

 ハルノくんと、うーがろくん――恐らくウンガロだと思うが――は泣いたことで疲れてしまったのか、あの後すぐに眠ってしまった。そっと二人を布団に寝かせ、俺と典明くんと承太郎くんとレオーネくんはリビングの隅へと移動する。

 

 

 ちょっと諸事情教えてくれないか、という俺の願いに三人は快諾し、ここにくる前までのことを話してくれた。

 

 

 

 ディオ、海の底から華麗に復活しスタンドを手に入れたら、ジョナサンの身体だからジョースター一族にも発現しちゃった、承太郎くんのお母さんが倒れてじゃあ元凶ぶっ飛ばしに行こうぜ!

 

 

 

 雑に略すとこんな感じらしい。雑にしすぎたかもしれない。

 

 

 

 承太郎くんと典明くん含むスタンド使い五人とレオーネくんで旅をしているそうだ。レオーネくんはスタンド能力こそ発現していないが、見えるらしい。波紋の使い手ということで回復役を買って出たとのこと。

 

 

「いまはシンガポールについたところ。マジで遭難しなくて良かったよ!」

 

「人生で三回飛行機が墜落してかつ船が沈没するって……ジョセフはお祓いにいった方が良いんじゃないか?」

 

「確実に伝えておくぜ」

 

 

 真顔で頷く承太郎くん。実に真剣な表情だ、旅が終わったら奴は神社にでも引きずられていくだろう。ジョセフは確かキリスト教徒だから教会のほうがいいのか?

 

 

 さて、承太郎くんたちの現状を認識する作業は終了したので、次はハルノくんとウンガロくんについてだが。

 

 

「あの子らの証言によると、父親は俺に似ているらしい。そこで質問だ……父親に心当たりは?」

 

「ある」

 

「信じられないけどね」

 

「どう考えてもDIOでしょ」

 

 

 ですよねー。三人の答えに頭を抱える俺。

 

 

 ひとつ問題がある。実は、俺の漫画の知識は後半にいくほどあまり残っていない。単に読み込みが少ないだけだろうけど、ディオに息子がいたことを覚えていなかった。

 

 

 あの子達が漫画に出てこなかった可能性もあるが、それはそれ、いまは気にすべきところではない。

 

 

 ちらっと寝ている二人を見る。着替えさせるときに見つけた類似点。その小さく細い首筋には、星の形の痣があった。承太郎くんにあったものと同じように。

 

 

「ディオの息子だけど、承太郎くんの親戚にもなるんだろうな。ジョセフの叔父か」

 

「うわ」

 

「五十歳以上年下の叔父……」

 

 

 俺の言葉にそれぞれの反応を見せる。承太郎くんは黙ったままだ。言っちゃだめなんだろうな、彼にも十歳以上年下の叔父がいるってこと……

 

 

 そう考えるとなんてカオスな家系だ。とりあえずジョセフを一発殴りたい。もげてしまえばいい。

 

 

 

「父親がどうあれ……先ほどの姿を見る限りただの子供ですね」

 

「そうだなー、むしろ父親を知らないって感じ。染まってないっていうか」

 

「写真とそっくり、というくらいだからな」

 

 

 花京院くんにレオーネくんが頷く。俺も相槌を打ちながら寝ているちみっこを見る。どうも、父親としてのディオを想像できないからなのか、彼らが育っている環境が良いように思えない。

 

 

 いや、アイツも百年生きてるし、少しは人間丸く……なるくらいだったらそもそも刺客とか送ってこないか。

 

 

 俺の中ではまだ十三歳の少年だからなぁ、印象が。悪の帝王オーラ満載のディオを見たら、俺泣き崩れるかもしれない。保護者的な感覚で。

 

 

 下手したらディオ本人も子供について知らない可能性もあるんだが。妬ましい。ほら、俺といういつの時代の子孫かわからない例があることだし。まだこの世界のディオの子孫って決まったわけじゃないけど。

 

 

 

「とりあえず母親が常識人じゃない場合は、保護したほうがいいかな」

 

「そうでしょーねー。担ぎ上げるバカたれもいるだろーしねぇ」

 

 

 俺の言葉にうんうん頷くレオーネくん。しかし、シーザーとは別の意味で軽い子だなー。ジョセフのほうが近いかもしれない。承太郎くんが固い印象だからなおさらそう思えるのかもしれない。典明くんはうまいこと二人をまとめている印象だ。優等生タイプという。

 

 

 やんちゃ系と硬派(不良)系と優等生系。実にうまくバランスが取れた三人だと思う。

 

 

「この子達の身元、もっと人数が増えるかもしれないけど……戻ったら調べて貰えるか?」

 

「ああ」

 

 

 力強く返事をしてくれた承太郎くんにほっとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話も長くなってきたので、とりあえずお茶を淹れることにする。

 

「お、結構美味い」

 

「そーか、ありがとな。実はディオに教わったんだよ淹れ方」

 

「ぶふっ!?」

 

 

 紅茶を口に含んだレオーネくんが噴出した。承太郎くんが汚えと顔をしかめ、典明くんが苦笑いで箱ティッシュを差し出す。

 

 もちろん狙ってましたが何か。ゲホゲホと噎せるレオーネくんに俺は笑顔でクッキーを差し出した。

 

 

「ごほ。……平馬さんってこういう人なんだなー……」

 

 

 聞いていたのと印象が違う、とクッキーを頬張りながら呟くレオーネくん。誰の話かは想像つくが、結構美化されてないかその話。

 

 

「あの、さっきから気になっていたんですが……そこでスケッチブック持ってずっと何かを描いているのは、平馬さんのスタンドですか?」

 

 

 おずおずと典明くんが指をさす先には、一心不乱にスケッチをするピクテルの姿。うん、彼女にとって通常運行ですね。

 

 全員に見られていることに気づいたピクテルは、いつものようにくるりとスケッチブックを裏返す。

 

 

 描かれていたのは先ほどのソファーの後ろに逃げた三人の姿と、隣のページには紅茶を噴出すレオーネくんの姿だった。

 

 うん、ナイスピクテル。愕然とする三人の今の姿も後で描いとけよ。

 

 

 

「こんなふうに絵が描くことが大好きな彼女だ。ピクテル・ピナコテカという」

 

「あの、描いた絵消してもらえないですか?」

 

「断る、だってさ」

 

 

 スケッチブックを持って首を横に振るピクテル。さりげなく俺の後ろに移動して、人を盾にしようとするんじゃない。

 

 典明くんが緑色のスタンドを出してなにやら紐を伸ばしてきているが、ひらりと避けるピクテル。うわ、絶妙に苛立たせる回避の姿だ。一度やられた当人としては、是非とも典明くんに頑張ってもらいたい。

 

 

 そして承太郎くんはスタンドが出せないらしく、不機嫌そうにピクテルの姿を睨んでいた。

 

 

 うん、そろそろからかうのやめてあげて、ピクテル。この子怒らせたらまずそう。

 

 

 

「ねー、平馬さん。父さん達が来たときもコイツ絵ぇ描いてたわけ?」

 

「ん?そうだぞ。見るか?」

 

「見る見る!」

 

 

 レオーネくんに向かって手招きすると、彼はいそいそとソファーに登って俺の横に座る。ピクテルにスケッチブックを一つ貸してもらい、ぺらぺらとページを捲っていく。

 

 

「うわ、若いな二人とも」

 

「僕も見たい」

 

「こいこい。承太郎くんは見るか?」

 

「……」

 

 

 黙ったままだが素直に寄ってくる承太郎くん。両脇はレオーネくんと典明くんで埋まっているので、ソファーの背もたれに登って、俺の肩を足場にスケッチブックを覗き込んだ。おい、遠慮ないな。

 

 

「じじい達は十八歳のはずだぜ。なんで少し若くなってんだ?」

 

「それが謎なんだよなぁ」

 

 

 承太郎くんたちも若くなっている。ジョセフとシーザーが五年とすれば、承太郎くんたちは十年といったところだろうか。それなのに、年齢そのままと思われるハルノくんとウンガロくん、それにジョナサンとディオという例もある。

 

 

 この違いは一体なんなのだろうか。

 

 

 思えば、これで迷い込むのも三回目になる。最初はあまりの現象に思考停止気味だったし、二回目は体調が最悪で考える余裕もなかった。

 今回は人数も増えて、見た目の年齢もさらに低くなっている。

 

 

 この現象は何時まで続くのだろう。行き成り途絶えるのだろうか、それとも知人の気配がまったくなくなるまで、時を進み続けるのだろうか。

 

 

 

 この世界に俺だけを置き去りにして。

 

 

 

 考えても仕方が無いことだが、胸を過ぎる寂しさに吐きそうになった息を喉で止めた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 眠っているちみっこ二人を起こさないように、俺はそっと買い物に出かけた。いや、入院から帰ってきたばかりで食料とか無くなっているからね。買出しに行かないと夕飯が無い。

 

 

 商店街で顔見知りに退院の挨拶をしつつ、買い物袋を両手に掲げて帰ってきた俺を迎えたのはちみっこ二人の突進でした。荷物、荷物がぶつかる!

 

 

「おかえりパパ!」

 

「りー!」

 

 

 俺の両足にくっついて嬉しそうに笑うちみっこ二人……ちょうなでまわしたい。

 

 

「こらこら、平馬さん困ってるだろー?ハルノもウンガロも離してやれって」

 

「いやー」

 

「やー」

 

 

 レオーネくんが二人を離そうとして抱き上げようとするが、ちび達は引っ張られるのが楽しいのかきゃいきゃいと笑っているだけで俺のズボンを離そうとしない。

 可愛いけど動けねぇ。

 

 

「ハルノ、ウンガロ。それくらいにしておけ」

 

「……うん」

 

「あい」

 

 

 承太郎くんの言葉にしぶしぶではあるが、素直に従う二人。あとからこっそり典明くんに聞いたところ、俺が不在の間に騒いでいた二人は承太郎くんに怒られたらしい。

 なんか、俺より貫禄ない?見た目八歳児に負ける俺の貫禄って……いけない、泣きそう。

 

 

「子育てって大変だ……」

 

 

 宥め役をしたと思われる典明くんとレオーネくんは、少しグッタリしているように思える。レオーネくんは帰ったらシーザーに極意を聞いてみるといい。アイツの保護者オーラはハンパないから。

 

 俺から引き剥がしたハルノくんはレオーネくんにくっつき、ウンガロくんは承太郎くんにひっつく。ありゃ、好き嫌いが分かれたなぁ。

 

 ハルノくんは承太郎から見えない位置に身体を移動させているが、ウンガロくんは胡坐をかく承太郎くんの足の間に座り込んでいる。承太郎くん、無表情だが実は困惑してないか。

 

 

「ウンガロは大物だなぁ、小さくなっているとはいえ承太郎に懐くなんてさぁ」

 

「ハルノは人見知りするのかな?ほら、大丈夫だから僕達もいってみよう?」

 

 

 感心するレオーネくんの横で、典明くんがハルノくんを促す。恐る恐る進むハルノくんをじっと見つめる承太郎くん……あ、額に汗かいてる。落ち着け、承太郎くん。

 

 

 どうにか承太郎くんの前に座り固まっているハルノくんと、どう対応すれば良いかわからないのか、同じく固まっている承太郎くんを見て、俺は口元を緩めた。

 

 

 


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