朝食を食べたあと、今日は何しようかと考えながら子猫をかまう俺。
昨日、とっさにピクテルが出した子猫たちだが、どうやら生物というよりはゴーレムとかに分類されるようだった。つまり俺やピクテルの意志によって、ある程度操作ができるということだ。
どこまで出来るか試していた最中に、二足歩行でリモコンを前足で一生懸命抱えながら俺に向かってきたときは、あまりの愛らしさに鼻血出るかと思った。なんてことさせるんだピクテル、だがグッジョブ。
ピクテルが出した猫じゃらしに爪をたてる子猫たちを、ハルノくんとウンガロくんは並んで座りながら覗き込む。ガン見し過ぎると警戒されるぞ~、もう少し離れような。
「にゃんこ」
「にゃーこ」
「ふわふわ~」
「ふあふあ~」
「ウンガロ、まねしちゃだめ」
「め?」
「そう、だめ」
ビデオ、ビデオカメラはないか?
二人のやりとりを目に焼き付けつつ、辺りを見回していると俺の顔に柔らかいものが勢い良く衝突した。んだこれ、クッション?
飛んできた方向を見ると、其処には物凄いしかめっ面で俺を睨みつける承太郎くんの姿。何事。
「平馬さーん、DIOにそっくりな顔でその表情しないでくれよ。流石にヤバい」
「ヤバい!?」
「DIOがその表情してると考えたら気色悪くて僕も攻撃しそうだったよ」
「典明くんまで!?」
つまり承太郎くんも気色悪いって思ったってことだよな。すげぇへこむ。
おのれディオ、まさかジョースター家だけでなく俺まで影響を及ぼすとは……しかし解決方法がない。
ああ、そういえばディオにも間抜け面って言われたっけな。もうちょっときりっとした表情すればいいのだろうか。
俺なりに真面目な表情を浮かべてみることにしたが、みんなの反応は良いとは言えず。
「なんかDIOがわざと真面目な表情しているみたいで殴りたい」
「典明くん酷い」
俺はどうすればいいって言うんだ。
というか、みんな俺に慣れてきたな。扱いの雑さが微妙にディオを思い出すんだけど。
最初のシーザーに印象を吹き込まれたのだろう、丁寧な態度よりはよっぽどいいが。
「よーし、わかった。腹を割って話そうじゃないか。主に俺に対する印象について!」
「変な奴」
「変な人」
「変人」
「全部一緒の意味だから!お前ら仲いいな!」
落ち込む俺を見ながらケタケタと笑う三人。承太郎くんまで笑っているだと……
「やっとデレ」
「スタープラチナ」
「いだぁ!?」
突然承太郎くんの横に青い人影(ミニマム)が現れ、俺に拳骨を落としてきた。あれ、スタンド出てきてるだと……?
「な、なんで今頃」
「きっと、怒りが可能にしたんだね」
「さあて、覚悟はいーか平馬」
「ロープロープ!流石に俺死んじゃう!」
ニヤリと意地悪く笑う承太郎くんに近くにあった電源コードを掴んで見せる。拳を構えていた青の戦士(ミニマム)が承太郎くんの後ろに戻るのを見て、俺はほっと息を吐いた。
承太郎くんがスタンドを出せるようになるとは。元々発現していたのだからありえなくないが、何故最初は出すことが出来なかったのだろう。怒りでパワーアップって何処の戦闘民族だ。
「なんか今回は不思議なことばっかりだ……!」
「今回って、三回目だろ?傾向とかないのかよ」
「ジョースター家が毎回メンバーにいるってことしかないよ、レオーネくん」
頭を抱える俺の肩を叩くレオーネくん。客観的に見たら幼児に肩を叩かれる成人間際の男……なんて光景だ。もう少ししっかりしよう、俺。
「ヘーマパパ、これなにー」
「ん?んなっ!?」
とことこと近づいてきたハルノくんが持っていたのは、ジョナサンが見つけた爺さん秘蔵のDVD。慌てて取り上げ、中身を見たかと尋ねると彼は首を横に振った。
「なぁにぃ?慌てちゃって~、もしかして平馬さんって熟女趣味なの?」
「俺のじゃない。亡くなった爺さんのもんだ」
「へぇ、まあ平馬さんはどっちかというと幼女が……いてぇ!」
「子供の前で何を言い出すつもりだ……?そしてハルノくんに持たせたのも、コレの中身を知ってるお前だな?」
「あ、はは……いやん、平馬さんったら目が据わってる」
ハルノくんとウンガロくんの前でも構わないレオーネくん、いやレオーネに俺は拳骨を落とした。
ふむ、少々見た目の幼さもあって甘く接したのもいけなかったか。ここはシーザーの代わりにきちんとしつける必要があるな。つまり仕返しです。
「一、梅干し。二、笑い茸。三、電気あんま。好きなものを選べレオーネ」
「なんか俺に対する容赦がなくなってる!?」
「僕は三かな」
「二だな」
「了解、二つセットだな」
「なんで二人が選ぶんだよ!?そしてセットもありなの!?」
「先着順だ」
「されるの俺なのに!?」
俺の提示した選択肢を迷いなく選んだ典明くんと承太郎くん……もう呼び捨てでいいか。典明と承太郎はニヤニヤ笑いながらハルノとウンガロの目と耳を塞いでいる。
「ご協力感謝っと!」
「ぎゃー!」
*
「ただいまー」
昼を食べてから、俺は眼鏡屋に出かけた。午前中にディオと似た顔でそんな表情をするなと散々言われたからな、前につけていたメガネのレンズを度なしだが換えてもらいに行ってきた。
リビングに入るとお茶請けをかじる典明がおかえりと迎えてくれた。
「あれ、眼鏡……買ったんですか?」
「フレームは前から持ってたやつ。どうも俺の素顔は不評らしいからな!」
これなら文句はあるまい。しかし、やっぱり眼鏡があると落ち着くな、小さい頃からずっと掛けていたからなぁ。
「結構根に持つタイプ……」
「レオーネ、もう一回いくか?」
「ケッコウデス」
片言で首を横に振る少年。少しトラウマ作ったかもしれない。だが後悔はしていない!
「そうだ、午後は何したい?特にないならサバイバル講座・救難信号の出し方か、俺は絵を描こうと思うけど」
「なんかリアルで必要そうなところにいくね」
だってジョセフがいるんだろ?必要になるぞ絶対。
話し合いの結果、救難信号の講座のあと自由行動ということになった。ハルノとウンガロはぬいぐるみを抱えてお昼寝です。
講座は救難信号の出し方だけだったので長くはかからず、すぐに自由時間となった。
俺はアトリエに入り、昨日の夜までに下塗りまで済ませたキャンパスに筆をおいた。今回描いているのは、前回の来訪者ジョセフとシーザーだ。うちに来たときのだから、十三歳の姿だけどな。
ほかの五人は何をしているかというと、また何故か全員アトリエにいる。絵を描く姿が珍しいらしい。思い思いにアトリエに置いてある絵を見たり、俺の横で絵を描いていたりする。もちろん絵を描いているのはウンガロだ。どうも幼いながらも彼の趣味として確立しているようだ。
「ウンガロは何を描いてるんだ?」
「ちぇー」
……どうしよう、わからない。この家に来る前に一緒だった人かと聞くとこくりと頷く。ママかと聞くが違うようだ。
まあ、どうやら名前で呼んでいるようだし、もしかしたら乳母とか……ディオが乳母とか雇うのか?わからん、百年の隔たりは大きい。
「……不思議な格好をした人だな」
「ふしぎ」
「ああ、わかりやすいな」
帽子か髪型かわからない頭に、なにか分からない模様が入った顔、アルファベットのTとDをあしらった耳飾り、そして胸元にハートが入った服……なんてインパクトのある格好なんだ。
なんかどっかで見たことあるんだよなぁ、と頭の中を探りながら俺は手を動かした。