彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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望む未来を描くために

 

 

 起きたらディオが俺の顔を覗き込んでいた。どうやらいつのまにか眠っていたようで、時刻は既に夜となっているみたいだった。

 

 視界にジョナサンの姿はない。ディオがいるから隠れたのか、そもそも昼間しか見えないのか。また、彼に会えるのだろうか?

 

 

「泣いたのか」

 

 

 目元に指で触れられる。号泣といってよい泣き方をしたため、恐らく腫れているのだろう。

 眉をひそめる彼に、笑みを向ける。

 

 

「ちょっと、いろいろため込んできたものが噴き出しただけだ。もう平気」

 

 

 起き上がる俺をディオがじっと見つめていたが、追及することは止めたのか軽く息を吐いた。意地っ張りめ、と呟く彼にまあな、と返す。

 

 ――意地を張るしかないのだ、容易く揺れる心を支える為には。どんなに嘆き悲しんでも、選択肢が変わることはない。俺は、俺ができることをやらなくては。

 それが俺が求める結果を残すことになるかは、わからないけれど。

 

 

「ディオ」

 

「なんだ」

 

「画材を用意してほしい。……絵を描きたいんだ」

 

 

 俺にできることは、昔から絵を描くことだけなのだから。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ディオに画材の調達を頼んだ後、昨日の宣言通りマナー講習が実行された。実はディオ、暇なのかもしれない。

 

 

「正直言って箸が欲しい」

 

「……私とジョジョには別の文化の食器を習わせておいて、まさか出来んとは言うまいな?」

 

「真剣にやらせていただきます」

 

 

 慣れないフォークとナイフに弱音を吐くと、ディオの鋭い視線が俺に向けられた。文句言わずにさっさと慣れろと冷たい視線が言っている。ですよねー。

 

 

「希望通りナイフとフォークだけに限定したのだ、簡単だろう」

 

「お前の求めるレベルが高いんだよ。それなりの形にはなっただろう」

 

「私が指導しているというのにこの程度とは……頭が痛いな」

 

 

 俺のマナーはそんなにダメか。真っ当に修めたディオから見たら、一般の日本人のマナーって相当レベルが低そうだな。

 

 

「そうだ、罰をつけた方が良いかもしれんな」

 

「え」

 

 

 良いことを思いついたとばかりに楽しそうな表情になるディオ。嫌な予感しかしないぞ。

 

 

「ある程度作法が見れるようになれば、私が髪を整えてやろう」

 

「……それも諦めてないのかお前。寧ろご褒美なのかそれは」

 

「但し。失格になれば……ヘーマの血を私に捧げてもらおうか」

 

「何故食事作法で生死がかかるんだ?」

 

 

 どちらに転んでもディオしか得しないけど、本気なのだろうか。

 

 

「私がこんなに優しく教えているというのに、残念だ」

 

「まてい。それはもう俺が失格になるって言ってるようなものだろうが!」

 

 

 どうやら本気で俺の血を狙っているらしい。ディオは負ける勝負はしようとしないから、それだけ俺の作法は合格点から程遠いようだ。

 

 いや、俺本気出すし。流石に命かかると真面目に頑張るしかない。制限時間はどれくらいかわからないが、短くされる可能性も考えつつ、今まで教わった内容を俺は思い起こしていた。

 

 

 

 その結果。

 

 

 

「……何故最初から本気をださないんだッ!」

 

「いたいいたいいたいいたいぃッ!お前の力でアイアンクローは辛い!」

 

 

 合格を貰って、ディオに怒られました。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 どうにかディオを宥め、俺は今スケッチブックを手にしている。

 

 先ほどのマナー講座だが、実はディオは真剣に取り組んでいたようで、なかなか怒りを解いてくれなかった。真面目にやらなかった俺が悪いのだけど、ディオは人に教えることは苦にならないらしい。努力は嫌いじゃないからな、ディオは。

 

 

 モデルはディオに頼んだのだが、どうやらこれから外出するらしく断られた。俺のマナー講座が長引いたせいで時間が押しているらしい。本当にすいませんでした。

 

 

 その代わりに、ひとりの占い師を紹介された。

 

 

「ヒッヒッヒ、お初にお目にかかりますじゃ、エンヤと申しまする」

 

「どうも、平馬です」

 

 

 ニコニコと皺くちゃな顔で笑っているエンヤさんに、困惑しつつも頭を下げる俺。

 

 昨日から思っていたけれど、どうしてこの屋敷の住人は俺に友好的なんだろうか。ディオに似てるっていっても、雰囲気は全く違うから『テメェ、DIO様と似た顔でへらへらするなッ!』くらいは言われると思っていたんだが。実際に承太郎たちに言われたし。

 

 

「DIO様も外出なされて、ヘーマ様もさぞ退屈されていらっしゃるでしょう。宜しければこの婆の占いでも一ついかがですかの」

 

「え、いいんですか?」

 

「かまいませぬ。そしてヘーマ様、どうぞ私めに敬語を使うのはおやめくだされ。貴方様はDIO様の大切なお客人ですじゃ」

 

 

 エンヤ婆――呼び方も訂正された――に押し負け、彼女に対しても敬語を使わないようになってしまった。ディオの知り合いって自己主張が強い人物多くないだろうか。

 

 

 占う内容は最近の俺の周りで起こる出来事について。今回、俺まで来てしまったので条件がさっぱりわからなくなっていたため、渡りに船だった。

 

 

「ふうむ……これは」

 

 カードを捲りながら、エンヤ婆は頷いてじっと思案している。

 

 

「まずは一枚目、運命の輪のカードですじゃ。これは問題が今どのような状態にあるかを示しておりまする。ただしこれは逆位置、現在はすべて悪い方向に向かっておるようですじゃ」

 

 

 すべて悪い方向に、というのはよくいったものだ。俺の選択した結果によって、ディオとジョースター家の因縁は続いているのだ。

 

 

「二枚目、月のカード。これは問題を解決する糸口を示すもの。ヘーマ様の中に迷いがあり、道を見つけることこそが解決になりましょう。

 

 三枚目、恋人のカードですじゃ。これはヘーマ様が希望する方向を示しておりまするのじゃが……どうやら愛するものと共にいたいと思われているようですじゃ。四枚目の気づいていない方向性を示すものが、星のカード……ヘーマ様の希望が叶うことを心から望んでおられるようですじゃの」

 

 

 エンヤ婆の言葉を俺は黙って聞く。彼女は本物の占い師なのだろう、これまでの結果はすべて俺の内面を現していた。

 

 それならば、示してくれるのだろうか。俺が進むべき道を。

 

 

「五枚目、太陽のカードの逆位置。これは問題のこれまでのプロセスを示しておりまする。安易な方法に頼ってしまわれたのが原因で、失敗しておられるようですじゃ。

 

 六枚目は問題がどのように変化するのかの予想ですじゃ。これが力のカード……うむ、どうやら努力は必要としますが、強い信念を持っておれば乗り越えるチャンスはくるようですじゃ。

 

 七枚目は……ヘーマ様、なにか御無理でも?」

 

 

 突然エンヤ婆が俺の顔を覗き込んできた。思わず俺はのけぞったが、いきなりなんなんだろうか。

 

 

「七枚目はヘーマ様の現状を示すもの。これは皇帝のカードの逆位置……無理をしていると示しております。顔色もそれほど良くありませぬ。

 本日はこれで終わりにいたしましょう、どうかお休みくだされ」

 

「いや、待って。最後まで聞きたい。……俺は大丈夫だから」

 

「――ならば、続けますじゃ。

 八枚目、ヘーマ様をとりまく環境を示しておりまする。これが悪魔の逆位置、どうやら問題からヘーマ様を切り離そうとしておるようですじゃ。

 

 九枚目、問題をヘーマ様自身で解決できるかどうかですじゃ。隠者の正位置……方法を改める好機と読み取れまする。可能ではありますが、好機を見逃せば失敗するようですじゃ。

 

 そして最後の十枚目。問題の結果がどうなるのかですじゃ。

 示されたカードは愚者の正位置。すべては始まりに戻り、ゼロからの出発と示されておりまする。

 

 ヘーマ様がどの道を選ぼうとも、次の道はすでに用意されているようですじゃ。貴方様はいずれ去る者……好きなように動くことこそが良いようですじゃ」

 

 

 エンヤ婆はすべて言い終わると、タロットカードを懐にしまった。やんわりと俺をベッドに追いやると、体を休めるようにと告げて部屋を出て行った。

 

 

 ベッドに転がりながら、占いの内容を反芻する。

 

 いずれ去る者とエンヤ婆は言った。つまり、俺のこの世界に滞在することは長くは続かないと告げられているのだろうか。

 

 この再会こそが奇跡で、だからこそ好きに行動しろと。

 

 

 占いだと信じないわけにはいかない。この世界の屈指の占い師である、エンヤ婆の結果ならなおさら。頭の中にしっかりと残さないといけないだろう。

 

 

 望む未来を得るためにも。

 

 

 

 




エンヤ婆の話し方がわからない。

ちなみにタロットで実際に占いました。
……ガチでこの結果が出ました。びっくりした。


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