彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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二日目 午前中

 

 

 うんうん唸っていたらいつの間にか寝ていたようだ。俺ってば図太い。

 まあ、気にしてもしょうがないし?ディオが吸血鬼になったわけでもないし、今の俺にはどうしようもないってことに気がついて、思考を放棄することにしたんだけどね。

 

 今のところ俺のほうが腕っ節があるみたいだし、自分でも楽観的だとは思うがなんとかなるだろ。

 

 

 

 少年達は良く眠れただろうかと脳裏でちらりと考えつつ、あふれ出る欠伸をそのままに洗面所へと向かう。もうすぐ初夏になるためか、今日は一段と日差しが暖かい。気分良く鼻歌を歌いながら、洗面所の扉をくぐった。

 

 

 顔を洗い、目もスッキリ覚めた俺が朝食を作っていると、ディオがリビングに入ってきた。

 

 

「おはよう、ディオ」

 

「ああ、おはよう」

 

「もうちょっとで朝飯できるからなぁ、暇だったらジョナサンでも起こしてきてくれ」

 

 

 ディオは露骨にイヤな顔をしたが、すぐにリビングを出たあたり起こしてきてくれるようだ。

 

 

 今朝のごはんはオムレツにウインナーとサラダ、ホットケーキと野菜たっぷりコンソメスープだ。どう見てもレストランのモーニングですが何か?

 

 洋風の朝食がこれ以外うかばなかった……日本人なら仕方ない!きっと!

 

 余計なことを考えながら手を動かしていると、ディオがリビングに戻ってきた。続いてジョナサンも入ってきた。眠そうだけど、よく眠れなかったのかな?

 

 

「ありがとう、ディオ。おはようジョナサン」

 

「おはよう、ヘーマ。わぁ、美味しそうだね」

 

 

 手伝いのつもりか、盛りつけ済みの皿をテーブルに運んだディオに近づき、ジョナサンは目を輝かせる。

 

 しかし、ディオは何事もそつがないな。さらりと手伝っていく姿はまるで高級レストランのウェイターみたいだ。彼の生まれを考えると、相当他人の観察と努力を重ねたんだろう。

 

 

「ジョナサン、そこの食器棚の引き出しからフォークとか出してくれない?」

 

「うん、わかったよ」

 

 

 ジョナサンは手伝いとかしたことがないだろうなって感じだが、素直に頷くのでいい子ではあるんだろうな。坊ちゃんだが、嫌味がない。

 

 

 しかし対照的な二人だなぁ。

 

 

「ヘーマ、準備できたよ」

 

「あいよ。こっちも終了だ。スープ各自持ってけー」

 

 

 スープのカップをそれぞれ渡すと、二人はダイニングテーブルについた。自分の分のスープカップを持ち、食べ始めている少年達を見ながら席につく。

 

 

「味はどう?」

 

「悪くはないな」

 

「ディオ、君はっ!」

 

「ジョナサンはどう?」

 

「え、あ、美味しいよ」

 

「そっか、よかったー」

 

 

 そっけなく言うディオの反応に、ジョナサンが突っかかろうとしたところで話を振って差し止める。いえい、成功。

 

 

「百年以上前のイギリス人貴族が何食べてるかなんて、分からなかったからなぁ。口に合ったようでよかった」

 

「家のシェフ並に美味しいよ!ヘーマは料理人なのかい?」

 

「いや、ただの一般人だから。日本人全体で美味しいものが好きな民族なだけだから」

 

「へぇ、すごいな!でも僕はヘーマの料理が美味しいって思ったんだ、だからヘーマもすごいよ!」

 

 

 ――どうしよう、この子手放しで褒めてくるんだけど。ドヤ顔で美味いか聞いた俺がいたたまれないんだけど。そして餌付け簡単すぎるだろ、マジかよこの子だからディオに執着されるんだよ。

 

 ちらりとディオの様子を見ると、物凄く上品にホットケーキを食べている。無言だ。

 

 そういえば、昔のイギリスって料理の味よりも食べ方とかのマナーを重視していたような。すげぇな、俺も見習ったほうがいいだろうか。

 

 ……別にいいか。そのうち頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 食事のあとの片付けも終わり、ディオとジョナサンをダイニングテーブルにつかせて、それぞれの前に小豆が入った皿と空の皿、そして箸を置いた。

 

 

「えー、これよりアジアで使われる食器の箸講座を始めます。質問は受けつけない!」

 

 

 いきなり何言ってんだコイツ、って顔はやめてほしいなディオ……。箸を見て楽しそうなジョナサンくらいの興味を持って!

 

 

「仕方ない、質問を許可しよう。其処のもの言いたげなディオ君」

 

「早く先に進めてくれないか?」

 

「意外に修学意欲が高かった!

 あー、じゃあ二人に箸を使えるようになってもらおうと考えた動機について。……俺、洋食のレパートリー少ないから、二人が和食器で食事が取れるようになってくれないと辛い。何が辛いかってメニュー考えるのがきつい。だから、和食を食べられるようになれ!」

 

「わかった。僕、がんばるよ!」

 

 

 ジョナサン素直ー!なにこの子素直ー!俺の都合押し付けてるだけなのに、なんか『迷惑かけないように僕も頑張らなくちゃ』って考えてるのが簡単に読み取れる。

 

 ディオは……さっさとしろですね、はい。進めさせていただきますよっと。

 

 

「えー、まずは箸を一本だけペンを握るように持ちます。そう、親指人差し指中指の三本ね。そして親指を箸の太いほうの先よりに位置をスライドさせる」

 

 

 二人の手の形を修正しつつ、何とか綺麗に一本箸を持たせた。

 

 

「それからしばらく箸の細いほうの先を上下に動かしてみて。そう、親指を基点にね」

 

 

 しばらく上下運動をさせた後二人に手を固定させておいて、もう一本の箸を正しい位置に置いた。

 

 

「はーい、その状態でまた上の箸を上下に動かしてみて。今度は下の箸と先端が丁度重なるように」

 

 

 再びの練習。箸の正しい動かし方には反復練習が必要。これをやっているかどうかで、随分と箸が動かし安くなるからね。

 地道な動作しかやらないが、二人は真面目に練習している。基本努力家なディオはもちろん、初期では随分と学習に対して不真面目だったジョナサンまで……!お兄さん涙でそう。

 

 

「よし、じゃあ最終試験と行こう。箸を使って右の皿から左の皿へ、豆を動かしてみようか。焦らずゆっくり取り組むのがコツだ」

 

 

 せっせと豆を移動させる二人を見ながら、スケッチブックを手に取り鉛筆を走らせていく。うふふふ、二人とも顔がいいから目の保養だな。外国人だからか十代前半にしては背もガタイもいいから、絵に描いても見栄えがする。

 

 

「何ニヤニヤしているんだ?」

 

「おっと失礼。なんだ、ディオもう終わったのか」

 

「フン、僕にとってこれくらいたやすいことさ」

 

 

 少し眺めていた時間が長すぎたのか、ディオの呆れた声で現実に帰還する。彼の前には綺麗に移動し終わった豆が入った皿と空の皿。ほんと、可愛げなないくらい優秀だよね、お前。

 

 ジョナサンは、と。あと三分の一くらいか。

 

 

「お疲れ様。温かいお茶とクッキーを進呈しよう。お茶と言っても緑茶だけど。ジョナサンも終わったら飲もうなぁ」

 

「はーい」

 

「そういえばこの国には紅茶はないのかい?」

 

「あるけど高いし美味しい入れ方分からないし。入れてくれるなら必要なもん買ってくるけど?」

 

「じゃあ後でメモしよう」

 

「……飲みたいのか」

 

 

 流石紅茶の国の人。食後の紅茶は必須ですか。

 

 クッキーの数は限られているので、食べたいのか焦るジョナサンの前でこれ見よがしに頬張るディオ。ぶれないね、其処にしびれるあこがれる。

 

 

 

 ディオから遅れること数分後、ジョナサンはきちんと緑茶とクッキーにありつけました。

 

 

 

 

 

 ちなみに昼食にオムライスを出したら、二人にとても怒られました。

 

 




オリ主はいじめっ子

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