彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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とるべき手段とは

 

 

 

 康一くんが連絡を取りに行ってから数十分後、康一くんと承太郎が部屋に入ってきた。中にいる全員を見回してから、いろいろと言葉を飲み込んでいる様子が窺える。きっとどれから突っ込めばいいか迷ったのだろう。康一くんから状況を聞いて、険悪な空気を予想していたと思うし。

 

 

「何故、全員でカードゲームを?」

 

「暇だからッスよ~。そこのスタンドが出してくれたッス」

 

 

 仗助くんがピクテルを指差すと、承太郎にひらひらと手を振るピクテル。当然、彼女の手にもトランプが握られている。

 

 現在、部屋の中で車座に座ってババ抜きの真っ最中である。虹村兄弟に親父さんも参加している……座る位置は俺とディオ、ピクテル、ジョナサン、形兆くん、親父さん、億泰くん、仗助くんの順だ。

 

 俺はカードが持てないし、なにしろディオが俺を離さないのでペアで参加中だ。

 

 

 いや、最初は俺達だけでやっていたのだが、仗助くんが参加してから次々となし崩しに加わっていった。最後まで参加しなかったのは形兆くんだが、ゲームに夢中になってきた億泰くんにせがまれて渋々加わっている。

 ゲームの結果は、顔に全部出る億泰くんがビリだ。

 

 

 承太郎はひとつ頷くと、仗助くんや形兆くんに経緯を確認し始めた。明らかにツッコミどころのディオやジョナサンの姿を流すとは思わなかった。流石は承太郎、全く動じていない。

 

 会話を横で聞いていると、どうやら形兆くん達の親父さんがディオの部下だったらしく、肉の芽なるものを植えつけられており、ディオがこの世界から消えたことで暴走をし始めたらしい。

 それで親父さんが不死の生物となってしまい、人間として死なせてやりたい形兆くんはそれが可能なスタンド使いを弓と矢によって探していたようだ。

 

 ちらりと俺はディオを見上げる。

 

 俺が彼を助けることがなくても、今回のことは起こってしまっただろう。いや、虹村家以外にも同じように肉の芽が暴走した部下がいるはずだ。

 生きているかどうかは分からない。顔が粘土のように崩れていったという表現だと、植えつけられた人によってはその後の人生に絶望し、自殺した者もいるだろう。

 

 承太郎達、SPW財団が彼らを見つけているのかどうかはわからない。特に驚愕した様子がないため、もしかしたら発見済みなのかもしれない。

 

 だとしたら、俺に何か出来ないだろうか。

 

 

「平馬」

 

 

 承太郎の声に俺は顔を上げる。何時の間に近づいていたのか、俺の顔を覗き込むような体勢で其処にしゃがんでいた。少し考えにふけりすぎていたらしい。

 

 

「お前は平馬で間違いないな? DIOといる時点で疑いようがないが」

 

 

 俺は頷いた。身体は小さくなっているが、精神だけは元のままだった。俺の家に来訪してきた彼らのことも、家族のことも……前の人生のことも覚えている。

 

 そして承太郎が言った名前に青年達は反応し、ざわめき出す。

 

 

「いろいろ聞きたいことがある。俺の泊まっているホテルについてきて貰うぜ。いいな?」

 

『ふん、元よりそのために貴様に連絡をとったのだ』

 

『いろいろ、本当に色々話したいことがあるよ……僕も』

 

 

 騒ぐ青年達を振り向くことなく、承太郎は俺達に同行を求めた。同意し立ち上がるディオ達を確認してから、青年達にお前達もついて来いと一声かけて部屋を出て行く。俺達が続くと、慌てて青年達も部屋を飛び出してきた。

 

 

「俺の借りている車は五人乗りなんでな。ディオとそいつは戻してくれ」

 

 

 虹村家の門の前、路駐をしている車は確かに多く乗れても五人。ディオとジョナサンを見ると片方は不機嫌そうに、片方は微笑んで頷いている。ピクテルが二つの額に入ったキャンバスを取り出し、ディオとジョナサンの前に浮かべた。

 

 ディオは俺を抱えたまま、康一くんの前に立つ。

 

 

『小僧』

 

「エッ、はいィッ!?」

 

『一時的に貴様に預ける。傷つけることは許さん』

 

「わ、わかりましたァッ!」

 

 

 康一くんはビクビクと怯えながらも、ディオから俺を受け取る。ディオは彼がしっかり抱いたことを確認してから、キャンバスに向けて手を伸ばした。

 

 するするとディオの身体が中に飲み込まれ全部入った後、仗助くんがもの珍しそうに絵を覗き込んでいる。よく分からないものに近づくなんて、度胸が据わっている子だ。

 

 それぞれ車に乗り込むと、重苦しい空気漂うドライブの時間、という出来るだけ体験したくはないものを経験しながら、車はホテルへと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――起きろ、平馬」

 

 

 ゆさゆさと身体を揺すられて、俺は自分が眠っていたことに気づいた。車ってどうしてこうも眠くなるんだろう。

 

 ぼんやりと目を擦りながら見上げると、そこには呆れた表情で俺を覗き込むディオとジョナサン、真顔の承太郎がいた。はて、ホテルに着いたのだろうか。

 

 

『本当に良く寝ていたね。説明全部終わっちゃったよ』

 

『肉体は完全に赤子のようだな、本能には勝てんか』

 

 

 え。

 

 俺は慌てて起き上がろうとするが、手足をばたつかせるだけだった。うう、筋力が足りないから上手く動けぬ……ッ!

 奮闘している俺を見かねたのか、ジョナサンが俺を抱き上げる。高くなった視界で辺りを見ると、割と豪華な部屋が目に入った。未だかつて泊まったことがないレベルの部屋だ。うらやましいが、承太郎ほどの体躯だと安い部屋のベッドじゃあ寝にくいだろうな。俺が寝ていたであろう、広いベッドを見ながら納得する。

 

 その部屋の中でソファーに座る学生服の青年達が四人、俺のほうを微妙な表情で見ているのは……俺の中身が成人間際ということを知ったのだろう。

 困惑と同情と警戒が入り混じった複雑な表情だ。なんだろう、胸に酷く突き刺さる。

 

 

「途中、少々イザコザはあったが……全員事情は把握済みだ」

 

『イザコザというか、一触即発というか……大変だったんだよ?』

 

 

 疲れた表情のジョナサンに、俺は思わず頭を下げる。暢気に眠っていてごめんなさい。

 

 一触即発だったのは虹村兄弟とディオだろうなあ、と承太郎の資料であろう本を読んでいるディオを横目で見る。きっと悪どく煽ったに違いない。

 

 そういえば、虹村兄弟の親父さんはディオの部下だったのだから、スタンド使いなのだろうけれど……一体どんな能力だったのだろうか。

 

 

『ん? 虹村の能力は千里眼といえばいいのか。ある程度のデータは必要だが、世界の何処にいても確認できていたぞ』

 

 ピクテル経由でディオに聞いてみると、あっさりと教えてくれた。どうやら隠すつもりはないらしい。しかし便利だなぁ、千里眼なんて。データがあれば遠くの景色も見れるのか……ん?

 

 

「……もしかしてだが……十年前のとき、やけに俺達が行く先々に刺客が現れたのは」

 

『虹村の能力だな』

 

 

 嫌そうな顔で尋ねる承太郎に、楽しそうに答えるディオだった。確かに千里眼的な能力があれば、先回りし放題だ。

 非常に有用な能力だった上に、ディオに心から心酔していたわけではないからこそ、親父さんは肉の芽を埋め込まれたのだろう。ディオは用心深い奴だから、他にもそんな協力者達がいたのかもしれない。

 

 しかし、肉の芽が暴走したというのなら、暴走を抑える方法はどうすればいいだろうか。

 

 一つは俺が吸血鬼になり、彼を吸血鬼とする方法。正確にはゾンビになるが、ゾンビになることが出来れば太陽が弱点となり、死ぬことは可能になる。

 

 ただし、これは俺が赤ん坊の姿で吸血鬼になってしまうことと、親父さんの命が助からなくなる。最後の最後、どうしても他の方法がないときにのみ、選べる手段だろう。

 

 一つは仗助くんみたいに治療ができる、または元に戻すことが出来るスタンド使いを探す。今のところ候補はいないが、肉の芽の暴走初期ならともかく、全身に融合した今では治療も難しいだろう。

 

 最後は、賭けになる。できるかどうかわからない上に、できたとしても結果が良い方向に行くかどうかもわからない。

 

 家族の承諾が必要だな、とピクテルに代筆を頼んで俺は承太郎を呼び寄せた。

 

 

 

 

 

 

 


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