彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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執筆中にパソコンが再起動……泣く泣く書き直してできました。




ただいま実験中

 

 

 承太郎に提案した実験は、一部成功という結果に終わった。何をしたかというと、俺の髪の毛を親父さんに食べさせてみたのだ。

 

 肉の芽とディオの身体の繋がりが絶たれた為に暴走したのなら、新たな繋がりを構築すれば通常の肉の芽に戻るのではないか。

 

 

 そこで正確性には欠けるが、おそらくディオの遺伝子的な繋がりがありそうな、吸血鬼っぽい俺である。

 

 

 虹村家にて、切った俺の髪を親父さんの口に放り込んでみたら、膨張した肉はそのままだが、肌がブツブツではなく少しすべらかになったのみ。

 

 成功したとも言い切れない結果になり、落ち込む虹村兄弟を仗助くんと康一くんが元気付けていた。本当に中途半端でごめんなさい。

 

 

 

 

『失敗の原因は、ヘーマが完全な吸血鬼ではない点だろう』

 

 

 実験から数日後、ホテルの承太郎の部屋にてソファーに座りながら、スラスラと万年筆で実験結果をまとめていたディオが、ペンを置いてそう言った。お前似合うなぁ、レポート纏める姿。

 

 

『少しとはいえ……改善しているのならば方法としてそれほど間違っているわけではない。だが、元は吸血鬼である私の細胞に、今のヘーマが近いとは思えん』

 

「つまり現状では改善が難しいと」

 

『この案ではそうなるな』

 

 

 きっぱりとディオに断言され、俺は顔を覆う……手が小さくて覆いきれないぞチクショウ。

 

 

『もしくは、東方仗助の能力次第だな』

 

 

 ダブルショックに落ち込んでいた俺だが、続いたディオの言葉に顔をあげる。ようは認識の問題だと彼は言った。

 

 

『ヤツは虹村が十年間探し続けた、破れている古い写真を直してみせた。つまり十年以上壊れたままのものでも、直せるということだ。

 今の虹村の状態を肉の芽によって壊れたものとヤツが認識できれば、崩れる前の身体に戻るやもしれん』

 

 

 目から鱗だった。

 

 つまり、仗助くんに長い時間をかけて壊れたものを直させてみて、『可能』という認識を植え付ければいいということか。

 長い時間をかけて壊れたものってなんだろう。風化したものって直せるのだろうか、そこのところをうまく認識を誘導しないと、できないという考えに固定されてしまう危険性もある。

 

 

『元の形に戻すということは、物体が経験した時間を巻き戻すということにもなる。今は直すことのみに目が行っているようだがな……ん、巻き戻す……』

 

 

 本当にとんでもないスタンドだよなぁ、クレイジー・ダイヤモンド。ディオや承太郎の時を止める能力もすごいけど、巻き戻せるって便利だよなぁ。

 

 ピクテルが俺の頬を両側から引っ張る。お前も便利だから安心なさい、だから手を放してください……嫌だじゃないです。

 

 俺がピクテルとの攻防を繰り返していると、何か考え込んでいたディオが顔を上げた。

 

 

『承太郎……アレッシーは生きているか?』

 

「アレッシー?」

 

『セト神のスタンドを持った男だ。対象を若返らせる力を持っている』

 

 

 心当たりがあったのか、承太郎がハッとした表情を浮かべた。なるほど、と呟いた彼は机の上の電話でどこかに連絡をし始める。

 

 

 どういうことだ、とバシバシとシーツを叩いてディオの気を引いてみると、何故か抱き上げられた。違う、抱っこをせがんだんじゃない。解っててやっているだろうお前。

 

 

『虹村を額に肉の芽がある年齢に調節して若返らせ、その時に肉の芽をとればどうなるのかと思ってな』

 

 

 あやすように背中をリズムよく叩くディオ……嫌がらせか、嫌がらせなんだなコノヤロウ。

 

 若い頃に戻すか……でも、戻った瞬間に肉の芽が暴走し始めることにはならないのだろうか。多少ではあるが、俺の髪の毛でも効果があった為、すぐに暴走はしないと思いたいが。

 

 

「どうやら今すぐには連絡が取れないようだ。居場所がわかりしだい、報告が来るようにしておいた」

 

『あくまで可能性の一つだ。別にヘーマも急がんだろう……それより東方仗助の能力の調整方法を検討するべきだな』

 

 

 受話器を置いた承太郎に頷くディオ。この二人が揃うと物事がテキパキとスムーズに進むな。なんというハイスペック……俺、必要なんだろうか。ここに美喜ちゃんを投入すると、またカオスになるんだろうなぁ。

 

 

 ディオの肩あたりの服を掴んで、ため息をつく俺。そんな俺を励ますつもりなのか、ガラガラを手に持って、頭を撫でてくるピクテル。

 

 ガラガラはどうして持っているんだい、ピクテルさんや。

 

 聞くと仗助くんに貰ったらしい。ほう……流石はジョセフの息子だ。今度来たときは覚えていろ。

 

 

 復讐計画を練りながら、俺はそのまま眠りの世界へ旅立った。リズムよい振動って赤ん坊には心地よすぎるぜ……ちょうなきたい。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 次の日、朝の散歩から戻ってきた承太郎に連れられて、俺は外に出た。海岸の近くにまで歩き続けた承太郎は、辺りを見回してからようやく口を開いた。

 

 

「つい先ほど、SPW財団経由で伝言があった。ジジイが明日の正午に港に着くらしい」

 

 

 ジョセフが来る、その言葉に俺は目を見開いた。何故、というかアイツはもう八十近い年齢だったはずだが、この危険なときにこの町に来て大丈夫なのだろうか。

 

 俺の言いたいことがわかっているのか、承太郎が必要だから来るんだと首を振った。

 

 

「俺がこの杜王町に来たのも、ジジイがこの町に潜むスタンド使いを念写したからだ。今回も音石がどこに潜伏しているのか、探るつもりなんだろうぜ」

 

 

 それだけじゃあねえだろうがな、と憂い顔の承太郎に俺は苦笑を浮かべるしかない。

 

 

 電気のスタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーの本体こと音石明は、虹村家から弓と矢を盗んだ後、その姿を晦ませていた。

 音石のスタンドを目覚めさせた形兆くんが素性を知っていたのだが、流石にそのままそこで生活をするようなことはせず、所在が不明になっていた。

 

 一度承太郎に警告の連絡をしてきていたが、慎重な性格なのかそれきり接触がない。

 

 

 そんな音石を探すのに、ジョセフの念写はとても重要な手がかりとなる。

 

 

「ようやくおばあちゃんの怒りが落ち着いてきたってのに、またこじれなきゃあいいが」

 

 

 承太郎によると、多少どころでない私情が挟まっているようだけれど。まあ、恋した女性と息子に会いたい気持ちは分かるけどさ、スージーQさんのことを考えるとなぁ。ううむ。

 

 

『ジョセフの奥さんがどうして怒っているんだい? 孫に会いに来るなら一緒にくればいいのに』

 

 

 俺はそのとき、承太郎が固まったのを見た。

 

 そういえば俺達、承太郎から仗助くんの家族構成聞いてないな。俺は漫画で知っていたから特に聞かなかったし、てっきり俺が寝ている間に聞いているものかと思っていた。

 

 

 つまり、ジョナサンは知らないらしい。

 

 

『なんだジョジョ、お前気づいてなかったのか』

 

『ディオ、なんのことかな?』

 

『東方仗助が、ジョセフ・ジョースターの孫ではなく……息子だということを、だ』

 

 

 どう説明するか悩んでいる承太郎の横で、ディオが朗らかに笑いながらあっさりばらした。

 

 突如聞かされた事実に固まるジョナサンに、楽しそうに話し続けるディオ。うん、いまのお前はすごく輝いているよ。

 

 

『つまり妻がいるにも関わらず、年下の若い女と浮気をして出来た子供が東方仗助ということだ。一途に過ぎるジョースター一族とは、とても思えんほど破天荒な男だな』

 

 

 そこまでにしてあげてディオ、ジョナサンが固まって再起動していない。承太郎もどう声を掛けたらいいのか考えているのか、深い深いため息をついた。

 

 

「一息ついたら、説教でもしてやってくれ。仗助の前以外でな」

 

『――そうだね、これは……教育が必要かな』

 

 

 静かに微笑を浮かべるジョナサンは、何故かとても怖かった。俺もジョセフに会ったら前回の説教をするつもりだったのだが、どうやら俺の取り分は残ってなさそうだ。

 

 

 そこの面白い方向に誘導できたと満足げな表情をしているディオと、親指を上に立てているピクテル。ジョナサンに見つかる前に早くやめときなさい。

 

 

 

 

 

 

 


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