指揮官の姉を名乗る翔鶴さん   作:ぐちやま

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こういったモノ書くのは初めてですので、温かい目で見てくださると幸いです。


指揮官と翔鶴

ある母港のある執務室。そこに2人の男女がいた。1人は白い軍服を身につけた青年であり、もう1人は白い和服を身につけた女性であった。

 

「おはようございます指揮官。こちらが本日の業務日程です。」

 

そう言って女性は何枚かの紙が挟まれているクリップボードを手渡した。

 

「それとこちらは本日の艦隊の業務予定です。委託及び演習を行う方達はこちら。海域調査を行う方達がこちらです。午前中の分の業務書類はこちらの方にまとめておきました。ご確認ください。」

 

テキパキとクリップボードの中身を説明する彼女の名前は「翔鶴」。この母港が設立されてからすぐに配属されたKAN-SENだ。最初期からいるだけあって、数多くの戦場を共にくぐり抜けてきており、長く秘書艦を任せている人物である。最も頼りにしているKAN-SENと言えるだろう。そんな翔鶴さんだが1つだけ困った所がある。それは…

 

「あ、ああ。いつもありがとう翔鶴。所で…。」

 

「はい?」

 

「近くないか?」

 

「そうですか?普通じゃないですか?」

 

「いやいや!肩と肩が、顔と顔がくっつきそうな距離なんだぞ!」

 

「そうですか?普通じゃないですか?」

 

「だから…!」

 

言葉を続けようとしてやめた。彼女はこちらの話を聞く気がないらしい。そう、この翔鶴は異様に距離感が近いのだ。長い月日を経て少しずつ信頼し合ってこれならばまだ分かる。理解できる。しかし彼女のそれは最初からなのだ。更に加えて、あることを強調してくる。それは忘れはしない、彼女の着任時の挨拶。

 

『航空母艦翔鶴です。私の事はお姉ちゃんだと思って、なんでも頼ってくださいね!』

 

開口一番これである。しかもそれ以降も。

 

『おはようございます指揮官。お姉ちゃんが起こしに来ましたよ。早く起きないと…キス…しちゃいますよ…♡』

 

とか

 

『今日の夕飯はお姉ちゃん特製ハンバーグです!沢山作ったので、いっぱい食べてくださいね!あ、お野菜もちゃんと食べないと、お姉ちゃん怒りますからね~!』

 

など、ことある事に姉を主張してくるのだ意味が分からない。出会い頭にオサナナジミと言ってくるKAN-SENがいるそうだが、彼女もその類なのではと疑念を抱いた程だ。それもあってか未だに彼女のことを若干恐れている。信頼しているし信用もしているが、心のどこかに隔たりを設けていた。それ故かどうかは定かではないが、

 

「ふふっ。指揮官ってば顔を真っ赤にしちゃって可愛い…。朝からこんな指揮官を見られるなんて…これもお姉ちゃん特権ですね!」

 

今日も翔鶴に弄ばれているのだった。

 

 

 

 

 

「…」

「…」

 

それから時は進み、時刻は9時を回った所。現在は2人で書類と睨めっこをしていた。翔鶴の手際の良さは舌を巻くレベルだ。用意されていた書類は重要な物とそうでない物とが明確に区別されていたし、委託や出撃の編成も文句ない。おかげで日頃からかなり楽をさせて貰っていた。

 

「―――翔鶴。この書類は―――」

 

「―――ああ、それでしたらこちらに―――」

 

そんな事務的なやり取りが更に1時間続いた後、翔鶴が口を開く。

 

「―――はい!午前中の分はこれでおしまいです。指揮官、お疲れ様でした。今お茶を入れてきますね。」

 

「ああ、翔鶴もお疲れ様。ついでに甘い物も頼むよ。」

 

彼女は「はーい」という声と共に執務室を後にした。1人残された俺は朝に渡された紙を見て、これからの予定を確認する。

 

「10時半から見回り…。休憩して丁度いい時間か…。ま、とりあえず一息つけ…。」

 

「お邪魔しまーす!指揮官、翔鶴姉いるー!?」

 

ると思った矢先、勢いよく扉が開かれた。白と赤の服を着た女性が目に飛び込んでくる。

 

「また扉を壊す気か瑞鶴。そっと開けて入って来いといつも言っているだろう。」

 

「あはははは…。ごめんごめん。翔鶴姉は…いないのか。とりあえずお邪魔しまーす。」

 

この女性の名前は瑞鶴。翔鶴の妹であり、姉と同様この母港の古株だ。竹を割ったような性格の彼女は、その前向きさで仲間を鼓舞し、多くの戦場で勝利をもたらしてきた。それ故に艦隊の皆に慕われており、第一艦隊の旗艦を務めている。個人的にもかなり信を置いている人物だ。

 

「で、何の用だ?」

来客用のソファに腰掛けた瑞鶴に問う。まぁ、大体の目的は分かっているのだが。

 

「用がなきゃ来ちゃ駄目?」

 

「はぁ…やはり食い物が目当てか。」

 

「あはははは!流石指揮官!分かってる~!」

 

分かるも何もいつもの事じゃないかと胸中で愚痴る。というのも瑞鶴が執務室に用なく来るのは今回が初めてではない。というかかなり頻繁に来る。しかもその狙いは必ずと言っていいほど、翔鶴が用意してくる茶と菓子なのだ。

 

「翔鶴が今用意してくれている。少し待ってろ。」

 

そういうと彼女は「はーい」と返事をして支給品のタブレットを弄りだした。

 

そして数分後。ノックの音が部屋に響き、今度は優しく扉が開いた。ワゴンを引いた翔鶴がキュルキュルと音を立てて入ってくる。

 

「お待たせしました指揮官、瑞鶴。お茶にしましょう」

 

この口ぶりといい、3つ用意された湯のみと食器といい、あたかも客人がいることが分かっていたかのようだ。廊下ですれ違ったのだろうか。いやそうならば瑞鶴があのような台詞を吐くまい。つまり翔鶴は勘で妹がいることを察知したということになる。いやはや流石というべきか…感心と共に恐怖を覚える。

 

「今日のお茶請けはアップルパイです。昨日金剛さんと比叡さんが作っていたのを分けてもらいました。」

 

俺が戦慄していることなど露知らず。翔鶴は華麗な手際でパイを切り分け、お茶を注ぎ、ソファの前のテーブルに並べた。

 

「さぁ指揮官、どうぞこちらへ。味はお姉ちゃんのお墨付きですよ。」

 

「指揮官!早く食べようよ!美味しそうだよ!」

 

2人の言葉に誘われて、俺は姉妹の方へと移動する。まぁ翔鶴が凄いのは今に始まった事じゃない。今はティータイムを楽しむことにしよう。

 

「所で瑞鶴、この後暇?」

 

アップルパイが綺麗に無くなり、温かいお茶で人心地ついていると、翔鶴が唐突に切り出した。

 

「ああうん。午前中分の仕事は終えたし、時間はあるかな。どうして?」

 

「良かった。私達これから見回りなんだけど、一緒に行かない?」

 

「見回り…ああ、そうか。もうすぐ委託組や出撃組が戻って来る時間だもんね。うん!いいよ!僭越ながらこの私めが指揮官様と翔鶴様の護衛を務めさせて頂きます。」

 

わざとらしくカーテシーを行いながら瑞鶴はそう言った。

 

「ふふっ。すごく頼もしいわ。さぁ、指揮官。そろそろ時間です。食器はお姉ちゃんが片付けますので、お支度の方をお願いします。」

 

「あっ、翔鶴姉!私も手伝うよ!じゃあ指揮官。また後で。」

 

2人が出ていった執務室は静寂に満ちていた。騒がしい瑞鶴がいたからだろうか、何故だか無性に寂しさを感じた。

 

「さて、用意するか。」

 

別に一生の別れをした訳では無いのだ、寂しがってる場合ではない。見回りということは多くのKAN-SEN達と会う。ならば見てくれだけでもしっかりしないとな。俺は身だしなみを整え、貴重品を携帯した後、2人が来るのを待った。

 

 

 

所変わってドックの中。3人で委託組の出迎えをしていた。うちの「見回り」はただ母港に異常がないかを見て回るわけではない。そういうことは警備任務に割り当てられているKAN-SEN達が担当しているので、俺の出る幕ではないのだ。

では自分は何をするのかと聞かれれば、そうこの出迎えである。仕事の達成を上司自ら確認し、すぐ労う。これは艦隊の士気及び忠誠心の向上に繋がり、ひいては戦果の向上に繋がる。故に積極的に行うべしとの翔鶴からの言葉だ。ま、そんな腹心めいたことを考えなくとも、艦隊のみんなとコミュニケーションを図ることは、当然のことであり必要な事だろう。だからこそ俺は出撃した皆が帰ってきたら、迎えに行くようにしていた。

 

「あ、しゅきかん!ただいまー!」

 

我先にと睦月が走ってくる。委託が終わったばかりだというのに元気なことだ。

 

「おかえり睦月。怪我はなかったか?」

 

「うん!アメさんいっぱいもらってきたよ!」

 

「睦月ちゃん…アメさんじゃなくて『しざい』だよ…。」

 

睦月の後ろから如月や始め、共に出撃していた皆が歩いてくる。全員無事のようだな。委託とはいえ、不慮の事故というものは起きる。安全な海路のはずが、いきなりセイレーンに襲われたという話をちょくちょく耳にする

。実戦経験がないKAN-SENがよく着く任務のため、壊滅的な被害を出すこともあるそうだ。中には…。そのため俺は委託を出す際、必ず1隻は戦闘経験豊富な娘を旗艦役として同行させていた。そして今回、この艦隊でその役をお願いしていた江風が1枚の書類をこちらに差し出してきた。

 

「指揮官、今回の補充資材の報告書だ。確認してくれ。」

 

「ああ、ご苦労さま。…とくに問題はなかったか?」

 

「ああ、特筆して報告することは何も。むしろ睦月と如月が張り切って燃料を運んでくれたから、相当楽をさせてもらった。指揮官、2人を褒めてやってくれ。」

 

江風にそう言わせるとは中々なもんだな。俺は言われた通り睦月と如月の頭を撫でて「よくやったな」と言葉をかけた。2人は擽ったそうに、それでいて嬉しそうに目を細めた。和やかな雰囲気が場を包んだ。

 

「さて、書類の方も問題なし。このまま預かっておくから、皆は休憩に入ってくれ。本当にご苦労さま。」

 

無限に撫でたい気持ちを押さえ込み、指示を出す。帰ってくる娘達はまだまだいる。その娘達も迎えに行かないとな。

 

「了解した。江風委託艦隊、これより休息に入る。」

 

江風達は敬礼した後、ドックを去った。

 

その後委託から帰ってきた皆を次々と出迎える。今回も全員損傷なし。本当に良かった。さて次は海域調査に向かった艦隊達が戻ってくる頃合だ。こちらはセイレーンの目撃情報があった場所や、セイレーンがいると思われる場所の調査を行っている。無論、発見すれば交戦もやむなしの本格的な戦闘任務だ。1番危険な仕事であるため、しっかりと労ってやらねばと意気込んでいると、隣の翔鶴から声がかかった。

 

「指揮官、海域調査の方達は私が対処しますので先に執務室へと戻っててくれませんか?」

 

と突然このようなことを言い出した。

 

「何故だ?」

 

「いいですから、早くしないと…」

 

「指揮官様~!!」

 

「ああもう…手遅れですか…。」

 

疑問の答えは直ぐに出た。なるほど、今回はあいつが出撃していたのか。最初に翔鶴から渡された紙、ちゃんと読んでおけば良かった。

 

「この赤城を直接出迎えて下さるなんて感謝感激ですわ~!ああ!指揮官様の愛が!赤城を優しく包み込み!そして2人は…ふふふっ、ふふふふふふ!」

 

「姉様…。」

 

顔を合わせるなりこの様相。個人的にうちのKAN-SEN達は非常に個性豊かだと思うが、その中でも赤城は群を抜いて個性的だ。なんというか…その…愛が重い!加賀が心配そうな顔で赤城を見ているのがなんとも切ない。

そんな加賀の事など眼中にないようで、赤城のマシンガントークはまだまだ続く。

 

「さぁ指揮官様。お食事に致しましょう。昼時には少々早いですが、このくらい誤差の範囲内ですわ~。さぁ赤城の部屋で、赤城の用意した料理を、赤城と2人きりで!そして食事が済めば赤城を…ふふふっ、ふふふふふふ!」

 

「姉様…!」

 

赤城さん(・・・・)。」

 

流石に行き過ぎだと思ったのか、加賀が止めようとした時、俺の後ろから殺気のこもった声が聞こえた。その声の主は翔鶴だった。赤城がピタリと止まる。そしてようやく俺以外の方に顔を向けた。

 

「あら~、居たの?五航戦。存在感が無さすぎて全然気づかなかったわ~。」

 

「赤城さんの目は節穴のようですね。それとも腐っているのですか?目を交換しに養豚場へ行かれることをオススメします。」

 

「このっ…!言わせておけば…!」

 

2人の間に火花が散る。しかし加賀も瑞鶴もまたかという表情をするのみで、止めようとしなかった。無論俺もだ。

そう、この2人。初めてこの母港で顔を合わせてからずっとこれなのである。むしろこんなものは単なる挨拶でしかない。ヒートアップするればもっと大変なことになる。そう…。

 

「大体貴女ね、先輩に対してその口ぶりはなんなの!?先輩に対する敬意というものが感じられるないわ!」

 

「赤城さんより先に着任したので、ここでは私の方が先輩です。さんづけしてあげるてるだけでも感謝してください。」

 

「この小娘が…!表に出なさい翔鶴。言葉で分からないようなら、体で先輩に対する敬意を教えてあげます。」

 

「良いでしょう。逆に赤城さんの連敗記録が更新されるだけだということを教えて差し上げます。」

 

こうなる。白熱しすぎるとこの2人は演習を始める。いや、演習と言う名の実戦か。

 

「加賀…交戦した…?」

 

そう呆れた顔をしている妹に問う。すると加賀は頷いた後、4本指を立てた。つまり出撃中、4回戦闘を行ったということだ。となれば赤城の燃料も弾薬も底を尽きかけているはず。それなのに彼女は補給もせず再び海へと駆け出した。相手は万全の状態のうちの最強だというのに。

 

「すまん加賀。」

 

それだけで意思が通じ、加賀はため息をついて赤城の後を追った。毎回貧乏くじを引かせて本当にすまない。まぁ今回、一番の貧乏くじを引いたのは、

 

「というわけで榛名。赤城の代わりに報告書の提出、頼むな。」

 

「え!?あ、はい…。」

 

赤城と一緒に出撃していた彼女だろう。

 

残された随伴艦達が去るとドックには俺と瑞鶴のみが残された。遠くから沢山の爆発音が聞こえる。相当激しく戦っているらしい。

 

「なぁ瑞鶴。どれくらい持つか賭けないか?」

 

唐突に切り出す。

 

「ごめん、賭けにならないと思う。だってほら…。」

 

「お待たせしました。指揮官、瑞鶴。『オソウジ』完了しました!」

 

瑞鶴が指さす方向には、ものすごく可憐に笑う翔鶴が傷1つなくこちらへと歩いていた。早い、早すぎる。2人が出ていってから、10分も経っていないぞ。その翔鶴の後方を見ると、ボロボロになった赤城が加賀に背負われていた。辛うじて息はあるようだ。

 

「さ、流石だな翔鶴。消耗していたとはいえ、あの赤城をこうも容易く倒してしまうなんて…。」

 

声の震えが隠せていなかったようだが、翔鶴は全く意に介してないようで、

 

「当然です!だってお姉ちゃんですから!!」

 

またしても屈託のない笑顔をこちらに向けるのであった。




もっと書こうと思ったのですが、5千字超えたので止めました。
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