明美は中学校の英語教師をしている。
過去にアメリカへ語学留学の経験があり、ちょっとした昔話としてよく聞かされていた。
明美の話す英語はとても
晶は、いつしか自分も姉のように留学を経て、英語教師を目指したいと思うようになっていった。
そして18歳の夏、晶に遂にその時がやってきた。
生まれて初めての海外。アメリカへの渡航。
晶は空港でキャリーケースを片手に、見送りに来ている家族と友達の
「
「あぁ、異国の地だろうと、俺の群青色の頭脳、ダークネス・コバルト・ブレインの前には敵なしだ」
ククッ、と悪戯な笑みと共に意味不明な台詞を吐いて胸を張った。
残念なことにこれが晶の通常運転だ。
「アンタ、こういう時くらいその気持ち悪い演技やめなさいよ」
晶の母親、
「まったくだ。一体いつからウチの息子はこんな風になってしまったんだか……」
父親の
「確か晶が中学の時くらいからかな? 私の影響じゃないといいんだけど……変な英語ばっかり喋りだすようになっちゃったよね」
明美がぽりぽりと頭をかきながら言った。
「晶が
智哉が笑いながらフォローした。
「それじゃあ、行ってくるよ。俺にもしものことがあれば、金庫の中にある手紙を読んでくれ。ジ・エンド・オブ・ザ・ワールドを打開するマジック・スペルが記されている」
「はいはい、なんかあったら電話しなさいよ」
母に軽くあしらわれながらも晶は表情を変えず「おう」とだけ言葉を残し、改札へと向かって行った。
だが今更になって晶の目は少しだけ涙ぐんでいた。
暫く家族や友達にも会えないとなると、感極まって胸がいっぱいになってくる。
晶は悟られないように決して後ろを振り返ることなく歩を進めた。
飛行機は予定通りの時刻に離陸した。
晶にとっては飛行機に乗ることも初めての経験だった。
離陸時は少し緊張もしたが、これから待っているだろう海外生活に思いを馳せると胸が踊った。
そう、刺激に満ちた海外生活が待っているはずだった。
飛行機が日本を発ってから数時間、事態は急変した。
機内の揺れが激しくなり、乗客らが不安の声を上げる。
乗務員からはシートベルトの着用を促すアナウンスが流れたのみ。
窓の外を見ると、雲で視界が塞がれている。
時々光も見えた。どうやら雷光のようだ。
――嵐? 乱気流ってやつか? ――
空港でふざけて言った「俺にもしものことがあれば――」というのが現実になりつつある。
冷や汗が止まらない。
――大丈夫、だよな……? ――
まさかこんなところでジ・エンド・オブ・ザ・ワールドなんて冗談だろ。
父さん、母さん、姉ちゃん、智哉。俺、まだ死にたくないよ。
死? 俺が、死ぬ?
窓の外を再び見ると、そこに映っていたのはただひたすらに何もかもを飲み込んでしまいそうな暗黒。
何が一体どうなっているんだよ。
やがて機内で重力の向きが暴れだした。
乗客は皆パニックに陥っている。
晶も身体中を死への恐怖に支配され、ただ泣き喚くことしか出来ずにいた。
そんな
だがそれは、外の光と言うにはあまりに眩しすぎるものだった。
機内が光で満たされていく。
晶の意識はそこで途切れた。
身体が暖かい。
晶が目を覚ますと、視界に拡がっていたのは辺り一面の花園だった。
――なんで? 俺、飛行機に乗っていて、それで……――
そうだ、事故に遭ったんだ。じゃあ、ここは天国……? 死んでしまったのだろうか?
ふと頭を転がすと、さっきまでの嵐が嘘のように晴れた青い空、そしてきょとんとした表情でこちらを覗き込む少女の顔がそこにはあった。
晶は膝枕されている状態だったのだ。
「え、誰?」
思ったことを自然と口に出してしまっていた。
上体をゆっくり起こしてみる。
やっぱりここは、見渡す限り誰がどう見ても、一面の花畑だ。
そして少女は推定、自分と同じくらいの年齢のように見える。
栗色のロングヘアに、碧い瞳の、穏やかな表情をした可愛らしい少女だ。
「――――」
少女が口を開いた。聞いたことのない言語で晶に話しかけている。
「えっと……
少女は首をかしげるだけで、何も答えてくれなかった。どうやら英語は通じていないようだ。だがここが外国であることは確かだろう。
とりあえずなんとか自己紹介だけでも済ませよう。
晶は身振り手振りを使いながらなんとかコミュニケーションを図った。
「
「ねーむ?」
「そう、ネーム。名前。俺、アキラ。君は?」
結局日本語に戻っていた。
少女は察したような表情をして、一言、口にした。
「シア」
「シア? それが君の名前? シア?」
少女はこくりこくりと頷いてみせた。どうやら名前はシアというらしい。
さて、これからどうしたものか。
「困ったな……」
独り言を呟いて頭を悩ませていると、少女は何かを思いついたように晶の手を引いて歩き出した。
「へ? ちょ、ちょっと、どこ行くの?」
シアの手は小さくて、暖かかった。その温度が今はとても心強く感じられた。
連れてこられたのは古びた教会のような建物だった。
まわりを見回してみるが
中に案内されたが、やっぱり人はいなかった。
建物の壁はステンドグラスで装飾されていた。天使のような、翼を生やした人の絵が描かれている。
奥の壁の前まで来ると、シアがマイクのような装置に何かを呟いていた。
すると壁が回転し、隠し通路が現れた。
どうやらさっきのは合言葉のようなものだったらしい。
隠し通路は地下へと続いていた。螺旋状の階段を下りていくと、
そこには十数人ほどの子供達が暮らしていた。
子供達はシアの姿を見ると、一斉に囲む勢いで押し寄せてきた。
みんなシアと話し始めるが、当然、晶には何を言っているかわからない。
やがて、一人の男の子が晶の前まで来て、足を蹴りだした。
足自体はまったく痛くなかったが、まるで出て行けと言われているようで、晶は少し胸が痛んだ。
シアはそんな男の子に注意をする素振りを見せる。
そんな時だった。
どこか遠いところから男の悲鳴のような声が聞こえてきた。
悲鳴からは恐怖の念が伝わってきて、晶はぞっとして思わず後ろを振り返った。
そんな晶をシアは不思議そうな表情で見つめている。
子供達はさっきから変わらずに楽しそうに騒いでいるだけだ。
――何故、驚かない? この悲鳴が聞こえていないのか? ――
晶は来た道を急いで引き返した。
一体、外で何が起こっているのか。この目で一刻も早く確かめなければいけない気がした。
だが建物の前には人はいなかった。
それでも依然として悲鳴は耳から離れない。
今度は悲鳴に混じって、銃声も聞こえてきた。
――強盗? それとも戦争が起きているのか? ――
晶は喧騒の鳴る方へと走り出した。
恐怖も感じていたが、それ以上にシアや子供達に被害が及ばないように行動しようという気持ちが湧きたっていた。
向かった先では銃撃戦が起きているようだった。
だがよく様子を
いや、一方的なのは一人の方だ。多数の人間が銃を向けている相手は人間じゃない。
灰色の身体には毛皮と装飾が施され、人間とは思えないほどの巨大な腕に、長く鋭い爪が伸びている。
まるで、そう――クマ人間のような姿だ。
クマ人間には一切の銃弾が効いていないようだった。
そしてその大きな腕を振り回すと、銃を向けていた人間の肉を抉り取った。
その人外に恐れをなした誰かがこう叫んだ。
「オルフェノク!」
晶は理解した。この灰色の人外の名はオルフェノクというのだと。
――銃で太刀打ちできないんじゃ、逃げるしかない……! ――
晶はとりあえず引き返そうとした。
だが、足が上手く動かない。
現実離れした光景が恐ろしくて、気が付けば身体中がガタガタと震えていた。
バランスを崩し転んでしまうと、立ち上がることすらままならない。
いつもは厨二台詞を吐いてカッコつけてるくせに、なんて情けないんだ、と思った。
転んで物音をたてた晶にオルフェノクが気が付くと、のっそのっそと向かって迫ってきた。
――まずい、このままじゃ俺も殺される……――
その時だった。
「アキラ!」
シアが駆け寄ってきて晶の前に飛び出した。
その手には銀色のアタッシュケースが握られている。
シアはケースから機械作りのベルトとデバイスを取り出した。
デバイスは折り畳み式で、シアが何やらコードを入力すると、自分の腰に巻いたベルトのホルダーに装着した。
ベルトは『ERROR』の電子音声と共に火花を散らしながら、シアの身体から弾け飛んだ。
晶にはシアが何をやっているのか理解できずにいた。
だがこれだけはわかった。自分を守ろうとしてくれているのだと。
オルフェノクはその様子を見ながら笑い声を上げた。
そして腕をシアの方へ向けると、爪が伸び、その身体を突き刺そうと彼女へ迫った。
「シアァァー!」
晶は震える身体を奮い立たせ、叫びながらシアの身体を突き飛ばした。
その
自分も二の腕をオルフェノクの爪がかすった程度だ。
「よくわからないけど……俺がやる」
晶は意を決し、地に転がっていたベルトを拾い上げた。
ベルトを手に取った時だった。
晶の脳内に直接、何者かの声が響いた。
――ベルトを巻け。コードを入力し、変身しろ――
晶はその言葉に導かれるままベルトを巻き、折り畳み式デバイス、ゼータフォンにコードを入力した。
777 ENTER
『STANDING BY』
という電子音声の
「変……身……」
ベルトの中央にあるホルダーにガッとゼータフォンを装着した。
『COMPLETE』
その電子音声が鳴ると同時に待機音は止み、ベルトが
流体エネルギー、フォトンブラッドが青く光りながら晶の身体を駆けめぐる。
そのラインから超金属ソルメタルの装甲のデータが身体を覆い、強化スーツを構築していく。
晶は超金属の仮面の騎士――ゼータに変身した。
「なるほど……こういうことか」
晶は理解した。シアはこれを使ってオルフェノクと戦おうとしていたのだ。
だがこのベルトは選ばれし者でなければ使えないらしい。
そう、つまり自分は選ばれし存在であるということ。
クマ型オルフェノクはゼータの姿を見ると首をかしげ、再び腕から鋭利な爪を伸ばした。
ゼータがそれを払いのけると、爪は砕け散り、オルフェノクは驚きと苦痛の声をあげた。
オルフェノクは接近戦に持ち込もうとゼータの目の前まで迫り、もう片方の腕を振り上げた。
そのスイングをかわし、ゼータはオルフェノクの腹部に一発、もう一発とパンチを繰り出し、応戦していく。
オルフェノクが怯んだ隙を見て、ゼータはその巨体を軽々と蹴り飛ばした。
「アキラ!」
ゼータが振り向くと、シアがゼータ用のツールを彼目がけ投げてきたのでキャッチする。
すると視界にそのツールの使い方が表示された。
ゼータフォンに備え付けられているミッションメモリーを取り外し、シアが渡してくれたポインター型ツールにセットする。
『READY』
その電子音声と共にポインターは展開され、キック用のモードに移行した。
ゼータはそれを脚部に装着し、腰のゼータフォンを開くとエンターキーを押した。
『EXCEED CHARGE』
ベルトから脚までの流動経路をエネルギーが光と共に流れていく。
ゼータは高く飛び上がり、ポインターから円錐状の青い光をオルフェノクに放った。
「おおおおぉぉりゃあああぁぁぁぁ!」
そのまま舞い降りながら必殺のキック――コバルトスマッシュで巨体を貫いていく。
オルフェノクの動きはぴたりと止まり、Ζの刻印と共に体内から青い炎が燃え上がった。
やがて二百キロ以上はあるだろう肉の塊が炎の中で灰となりドザァっと崩れ落ちた。
「やった……のか……?」
ベルトからゼータフォンを外し、晶は変身を解いた。
緊張が解け、汗がぶわぁっと噴き出ているのがわかった。
「アキラ!」
シアが戦闘を終えた晶の元に駆け寄り、彼の汗を
ふと空を見上げると、大きな雲の塊から巨大な遺跡のような建造物が顔を出し、静かにこちらを見ていた。
晶は改めて思った。
ここは一体どこなのだろう。
正直に言います。
どうにか主人公のキャラを立たせなければと考えた末、厨二病設定にしてしまいました。
本当にいいのかこれで……(おい