・勝手ながらにも龍を幻想的なものとして解釈しております。モンスターハンターの世界のファンタジーさを抽出して主題として取り上げていると同時に、その要素を濃いめに味付けして押し出しているため、原作とははるかに乖離したお話となっております。
・時折サイレントで文章を修正することがあります。雰囲気を修正するためのものだったり、ミスを修正するものだったりします。
「はじめまして」
「ええ、はじめまして」
少年は旅に出ることにした。
モンスターからの護衛、という体で各地の移動には困らない。少年はまだ若い身であるが、実力は低くはない。少なくとも、ギルドから依頼を受けていいと判断されるぐらいには。
そのキャラバンは、自分以外にももうひとりを雇っていたらしかった。集合場所に着き、顔を合わせたのだった。
美しい女性だった。思わず見惚れるほどに。
(じいちゃんが言ってたお弟子さんってのも、こんな人なのかな)
少年は祖父に育てられた子だ。一家代々ハンター業をやっていて、忙しい両親から既に現役を退いていた祖父に預けられた。そこでハンターとしての基礎を習い、まだ少年といえるほどの年で狩りにその身を捧げるようになったのだ。
そんなとき、昔祖父が弟子に取ったと言う少女の話を聞いた。たいそう美しい少女だったらしい。それだけだ。それしか教えてもらえなかった。
けれど、そんな程度のことを思い出してしまうほどには、彼女は美しい人だったのだ。
さわさわと、草花が風に擦れる音がする。突風は巻き起こらない。日差しも相まって、ここでは気持ちよく昼寝ができそうだ、と少年は思った。
いつでも動けるように、竜車の後ろに乗っている。砂漠や海に向かうには、船を使う必要がある。とはいえ、少し遠くにある村に向かうくらいなので、竜車ののんびりとした移動でもそれほど問題はない。護衛、ということで、多少警戒に気を尖らせているものの、それでも暇だ。
「……あなたは」
と、同じことを思ったのか。
少年に、女性が話しかけた。
「そういえば、なんてお名前?」
ああ、たしかに。互いに自己紹介をしていない。基本的にギルドカードを交換しあったりして自己紹介をするハンターだが、出発前にあいさつをしてそれきりだ。少年は人付き合いが得意なほうではないため、深く追求されないのは助かった。
「ユエルです」
「そう」
「あなたは?」
「フラン」
「では、フランさんと呼ばせてもらいますね」
「うん。じゃあ、私はユエル?」
「なんでもいいですよ。呼び方なんて、わかればいいんです」
「わかった。じゃあ、少年」
「では、それで」
緑の気配は変わらない。ちらほらと、草食竜の姿も見え、いつもと変わらぬのどかな1日、と言った気分だ。
基本的に、キャラバンにはそれ用の通り道がある。そのルートは、あまり危険なモンスターが通らないものだ。命の危険はないと言っていいだろう。
だがしかし、それはハンター基準である。
なんらかの要員で興奮した草食竜に襲われただけでも、普通の人は命に関わることがある。肉食竜なんて言うまでもない。小型ですら、ハンターでない人には恐怖の対象だ。
だからこの程度の移動にも、護衛のハンターは必ず用意される。
……村の中だって、安全な保証はない。
「少年」
「はい。なんでしょう?」
「君はなんで名前に拘らない?」
「モンスターにだって、それぞれ詳しい名前はないでしょう」
「名前、あるよ?」
「種族名は、ですよね。でもそれって、僕たちのことを人間って呼ぶのと変わらないと思うんですよ」
「そういうもの?」
「僕にとっては、ですけど」
「私にはよくわからない」
「そうですか」
「でも少年はそれでいい。私が騎士であるように、少年は少年」
「そうですか」
騎士ってなんだろう、と思うが、聞いたところで明瞭な回答はないだろう。
わずかに言葉を交わしただけだが、少年は彼女が独自のリズムで生きていることをなんとなく察した。
「……」
「少年」
「はい」
「少年は、なんでハンターになったの?」
「なんで、ですか」
「うん」
「難しいです」
「そう」
「フランさんは、どうしてハンターになったんですか?」
「私?」
「はい」
「私はね、騎士になりたかった」
「騎士に?」
「うん。子供のころに、助けられたの。それで、騎士になろうとした」
「なれなかったんですか」
「うん」
「どうしてですか」
「体が小さいから。だから、ハンターになった」
「そうなんですか」
「騎士になれなくても、私が騎士であろうとすることが大事だと思った」
「だから、パラディンランスを使っているんですか」
「うん。槍は、子供の時から触ってたから。槍というか、銛?」
「孤島のほうの出身ですか?」
「うん。モガの村。タンジアのほうから来た騎士さんに、助けられたの」
「タンジアの港のほうから? それ、騎士なんですか?」
「騎士だって言ってたから、騎士さんだと思う」
騎士といえば、国にいるイメージが強いのだが。
「まとまりました」
「?」
「僕がハンターになったのは、おじいちゃんがすごい人だったからです」
「どんな人?」
「まだ子供の僕を殴ったり蹴ったりする人でした」
「嫌いなの?」
「いえ、好きです」
「そうなんだ」
「昔はすごい人だって聞きました。その時代に手に入れたものだって、これを僕にくれました」
少年はポーチからひとつのアイテムを取り出した。なにかの宝玉だということはわかる。だが、それがなんの宝玉なのかがわからない。持っていろ、と祖父は言った。マグマのような苛烈さがあるが、不思議と熱さは感じない。
「綺麗」
「ええ。これがなんなのか、知りたくて。だから、僕はハンターになって、旅に出ることにしたんです」
「だから、この護衛?」
「ええ。ゆっくりとでも、世界を巡ろうかと思いまして。あとは、純粋に世界中を見てみたいな、と思ったんです」
「おもしろそうだね」
「そうですか?」
「うん」
──と。
警戒に、何かが引っかかった。
周囲を探ると、現れたのは草食竜。興奮しているようで、こちらに敵意を向けている。
さて、どうしようか。少年は背の武器──ハンターナイフに、指をかけながら、動き方を見る。こちらに突進してくるようなら、対応を考えなくてはならない。
と、そこで、隣の女性が動いた。ふわり、と、まるで空を飛ぶかのように、重さを感じさせない動きで一歩前に出る。突進してくる竜に対し、槍の柄で動きに合わせ、頭を殴りつけた。衝撃に目を回し、ばたんと倒れた草食竜に背を向け、走っていた竜車にふわりと乗り込み、彼女は息をつく。
鮮やかな動きだった。おそらく、相当の場数を踏んでいるのだろう。
「殺さないんですか?」
「私たちの仕事はそれじゃないでしょ?」
「そうですね。いや、お見事でした」
「ん、ありがと」
すばらしい。一連の動作のなめらかさもそうだが、その動きを前の行商人に一切伝えなかったこと。それがなによりもすごいと、少年は思う。
今の動きを理解できたのは、直視していた少年以外にいない。それがどれだけすごいことなのか、十分以上に理解しているつもりである。
「少年は、今ので納得するんだね」
「ハンターの家系ですから。心構えは十分以上に持っているつもりです」
「あんまりそれで納得されないから」
「どうしても狩らないと素材を集められないこともありますし」
「あ、そういうことか」
「いえ」
少年は言う。
「純粋に、モンスターが嫌いな人もいるのでしょう。傷は簡単には癒えません。特に、心のものは」
「少年、何歳?」
「今年で15です。あなたは?」
「19」
「なら、まだ少女ですね」
「そう? なら、そう呼んでもいいよ」
「いえ。フランさんと呼ばせてもらいます。年上への礼儀は持ち合わせてるつもりですから」
「そういうもの?」
「僕にとっては」
のんびりとした天気。マイペースな会話。思わず寝てしまいそうなものだ。だけど、少年はこののんびりとした雰囲気が嫌いではなかった。
「少年」
「はい」
「私、久しぶりにこんなに人と話した」
「そうですか。お友達とかは?」
「いない」
「すみません」
「謝ることじゃないよ。別に、要らないと思っただけ」
「そうですか」
「だけど、訂正する。友達はいたほうがいい」
「そうですか」
「少年は?」
「僕もいません」
「そう」
「なりますか?」
「いいの?」
「ええ。というか、これでいいんでしょうか」
少年は、これまで友達がいたことがない。こうしてなるものなのかがわからない。しかしそれはフランのほうも同じのようで、「さぁ」と彼女は首を傾げた。
その後は何事もなく村についた。
「帰りもよろしく頼むよ」
「はい、任せてください」
「ま、なにも起こらないことが一番だけどね」
雇い主とそんな会話をして、少しの間の暇ができた。
村にチラリと見える椅子に座ると、隣に並んでフランが座る。
「どうも」
「うん」
と、言って差し出されるのは瓶詰めの水。どうやら少年にくれるらしい。受け取って、そして飲んだ。冷たい水は、氷結晶で冷やしていたのだろう。少年は当然やってない。経験の差が出たのかな、と思いつつ、口を離す。
「ありがとうございます」
「うん」
固まった体を伸びでほぐし、ぼーっと、少年は村を眺めた。
「少年」
「はい」
「少し考えたんだけど」
「なにをです?」
「一緒に旅をしよう」
「わかりました」
「……いいの?」
彼女にしては珍しく、すこし驚いたような表情で聞いた。
「ええ」
「ありがとう」
「いや、そんな。僕もひとりだと心細いですし」
「そう」
「では、一緒に旅に出るということで」
「うん」
「パーティ契約もしたほうがいいんですかね?」
「……さぁ?」
──少年は旅に出ることにした。
不思議な旅になりそうだった。
習作です。
のんびり不定期に書いてくつもりです。