少年は旅に出た。
先に護衛として同行した行商人への付き添いとして旅に出た。この間の村への移動と同じメンバーだ。
「元気ですか」
「うん」
「どこに向かっているか、わかりますか」
「うん。バルバレ」
「そうですね。このあと、砂上船に乗り換えます」
「知ってる」
「フランさんは、バルバレに行ったことがありますか?」
「ないよ」
「意外です」
「そう。少年は?」
「僕もありません」
「知りたいこと、わかるといいね」
「そうですね。フランさんは、旅の間になにかやりたいことはありますか?」
「私は……。タンジアに行きたい」
「故郷だからですか」
「うん。お母さんに会いたい」
「どういう方です?」
「優しい。喧嘩して、それっきり」
「それは……なんというか」
「私のせい」
「仲直りできるといいですね」
「うん。そうだ、もし会えたら、みんなで一緒に御飯を食べたい。お母さん、よくパエリアを作ってくれた。すごくおいしいんだ」
「僕たちがいていいんですか?」
「うん」
フランは言った。
「みんなで食べたほうがいいもん」
程なくして、砂上船乗り場についた。竜車で運んできた荷を積み、乗り込む。
同業者に声をかける雇い主を見ながら、少年は座り込んで出港を待つ。思えば、そこそこの長旅だった。草原から砂漠の端へと、いくつもの村を経由して向かってきたのだ。
その間、宝玉の正体を知る人はいなかった。謎は増すばかりだ。
少年と違い、フランはふらりとどこかに向かっていった。甲板に出て風でも浴びているのかもしれない。と、考えて自分もそうするべきかと考えた。ゴーグルを持っていないから、目が痛いかもしれないが。
「──こんにちは」
「こんにちは」
と、そこで声を掛けてくる姿があった。チェーンシリーズの女性である。頭装備は、室内ということで脱いでいるようだ。見るに、ハンターとしてはまだ歴が浅いのだろう。それは少年が言えたことではないのだが。
なんせ、少年はレザーシリーズにハンターナイフなのだから。だが少年はハンターであるが、積極的に狩りに出るタイプではない。そもそも、祖父は「装備に頼るな」という方針で少年に色々仕込んだのだ。
だから、彼はあまり装備を変えるつもりはなかった。今のところは必要十分だ。
「ハンターさんですよね?」
「はい。あなたもそうでしょう」
「はい! といっても、最近なったばかりですけど……」
「そうですか。あなたは、どうしてバルバレに?」
「えーと……うちの団の人が、ちょっと入用みたいで」
「団に入ってるんですね」
「ええ。みんないい人なんですよ! ……と、それで、最低限の人数でこっちに向かうことになったんです」
「何人で?」
「四人です。これ以上は大所帯になっちゃうんで」
「そうですか」
少し遠くで、何やら話しているのが彼女の団員だろう。断片的に聞こえる情報から察するに、どうやらなんのアイテムを仕入れるかの話らしい。少年のようなマイペースなハンターではなく、しっかりと狩猟に赴くハンターからすると、アイテムと情報は大切だ。
雰囲気は良いように見える。中々愉快な団に入ったものだ。それは運か、それとも人柄ゆえか。
どちらにせよ、少年とは違い、良好な人間関係が築けているようだ。
「あ、自己紹介忘れてました」
「そうですね。でも別にいいでしょう」
「え?」
「人は流れていくものですから。また出会える保証もありません。だったら、思い出だけ残しておくのもいいじゃありませんか」
「そういうものですか?」
「僕にとっては。それに、僕は旅をしています。また会える確率も低いので」
「そうですか? ……じゃあ、こうしましょう。次もしあったら、そのときは自己紹介を」
「しない関係っていうのも、素敵なものだと思うんですがね」
「でも、したほうがなんか、こう……すっきりするじゃないですか?」
「そういうものですか?」
「私にとっては」
と、笑って彼女は言った。ひょっとして、少年のマネだろうか。肩をすくめる。
けれど、その返しもおもしろい。フランとの不思議な間の心地よさとはまた違う、知らない人との会話の楽しさ。そういうものを感じる。
「そうだ」
「?」
「あなたは、これを知ってますか」
少年は、ポーチから宝玉を取り出した。強い存在感のそれは、適当にポーチに手を入れても必ず探り当てることができる。
「わぁ……綺麗ですね」
「わかりません?」
「はい。……ああ、だからあなたはバルバレに?」
「成り行きもありますけどね」
「見つかるといいですね」
「ええ」
彼女が去ってのち、フランがふらりと戻ってきた。そして少年のとなりに座り、無言で時間が過ぎる。
バルバレへは、まだまだ時間がある。簡単につくほど、大砂漠は狭くない。その間、どうやって時間を潰したものかと考える。
「少年」
「はい」
「外、すごいよ」
「そうですか。なら僕も見てきます」
「私も行く」
「さっきまで見てたんじゃないんですか?」
「うん。でも、ひとりとふたりじゃ、ちがうから」
「そうですか。なら行きましょう」
そして、甲板に出た。行き来が気楽にできるつくりになっていて、ちらりと人の姿が見える。
少年は、船に乗ったことがない。砂の上を奔る船があるというのも新鮮だ。地平線の向こうには、まだなにもない。
「綺麗ですね」
「ええ」
「船は初めてです」
「私は違う」
「孤島地方から来てますしね」
「飛行船には乗った?」
「乗ってないです。そんなゼニーもありません」
「そう。今度、乗れたらいいね」
「そうですね。それを望みます」
「少年は、旅が終わったらどうする?」
「気が早いですね」
「考えておかないとだから」
「そうですか。僕は、旅が終わったらまた旅をします」
「その旅が終わったら?」
「また旅をします」
「ずっと旅をするんだ」
「旅も、人生も、変わらないので。旅をして……適当に、いろんなところに首を突っ込みます」
出発前は、不思議な旅になる気がした。出発してから、不思議な旅になった。人と話すことも少なかった少年だが、この旅ではそこそこの人と話している気がする。砂漠などを抜きにし、舌の乾きが早い程度には。
「フランさんは、この旅が終わったらどうするんですか?」
「終わるの?」
「旅ですから」
「なら、次の旅についていく」
「もったいないですよ」
「友達だから。騎士は友達をひとりにしないの」
「そういうものですか」
「私はそう思う」
「なら、僕がひとりじゃなかったらどうしますか」
「そのときもついていく」
「ひとりじゃありませんよ?」
「友達だから」
「では、そのつもりで。その旅が終われば?」
「次の旅についていく」
「長くなると思いますよ?」
「旅って、そういうものだから」
「そうですね」
甲板を歩いていると、柱の影で踊っている女性を見つけた。
「はじめまして」
「あ、はじめまして~」
「踊っていたんですか」
「はい。故郷の、伝統的な舞なんですよ」
「それはそれは。素敵ですね」
「ふふ、ありがとうございます」
「あなたは、どうしてバルバレに?」
「どうして……ですか?」
と、少年の問いに、女性は困りげに眉を落として。
「同郷のものを探しているのですよ」
「だから、舞を?」
「はい」
「何故同郷のものを?」
「知りたいんです、みんながどうしているのか。私はまだ、なにも見つけていませんから」
「……どういうこと?」
「……黒の凶気って知ってますか?」
と、彼女は言った。
少年もフランも、首を横にふる。初耳だ。
「生き物を凶暴にする災厄です。それで、私の故郷はなくなりました」
「……すみません」
「いえ。もう受け止めたことなので。……私は、かろうじて生き残りました。ハンターさんが逃してくれたので。でも、それ以来、私は何をしていいものかわからなくなりました」
少年は知らない。両親は健在だ。身近でそのようなことが起きたことがない。だから、彼女がどういう思いなのかも、推することしかできない。だから一言、「そうですか」と言った。
「……話したのは初めてです。すみません、聞いて楽しいことじゃないのに……」
「いえ、こちらのほうこそ、すみません」
「話して気が晴れるなら、背負わず話してほしい。全部、私に言っていい」
「……フランさん」
「私は、騎士だから。騎士じゃないけど。騎士だから」
「それだとよくわかりませんよ」
少年は言った。そう言っても、経緯を知らないとわからないだろう。初対面の人に言ってわかるようなことではない。
「いえ。でも、これは私の事情ですから」
「……そう? なら、わかった」
「すみません、せっかく、そういってくれたのに」
「じゃあ、こうしよう。バルバレについたら、私たちもあなたの手伝いをする」
「え……そんな、悪いですよ」
「いいの。こっちの目的も、たぶんすぐに終わる。そうしたらそのあとはしばらく暇があるから」
いいよね? と、少年を見るフランに、頷きで返す。もともと、少年たちの旅は急ぐ旅ではない。
のんびりと、マイペースに探しものをする旅だ。
「……じゃあ、お願いしますね。すみません、初対面の人に、こんな……」
「うん。任せて。えーと……」
と、フランはそこで首を傾げた。
「自己紹介忘れてたね」
「あ、すみません! 私、カルザっていいます」
「わかった。私はフラン。こっちの少年が……なんだっけ?」
「ユエルです。よろしくお願いします」
「はい! フランさんに、ユエルさんですね。私のことは気軽にカルザって呼んでください」
「では、カルザさんと」
「さんもいりませんよ?」
「いえ、最近敬語が癖になっちゃって。普通の話し方を忘れてしまいました。構いませんよね?」
「あ、はい。それでいいというのなら……。ところで」
と、カルザは少し好奇の色を覗かせて。
「おふたりは、どういうご関係ですか?」
少年とフランは顔を見合わせた。
「ただの友達ですよ」、としか少年は言えなかった。
かきだめありません
モンハンの世界観を調べてみると、今までなんとなくでしかゲームをやっていないんだなーと実感しました。
普段しない文体で書いているので、かなり一話を書くのに時間をつかっちゃいました。
あとあらすじ、なんかユエルくんが分身して片方性転換してたので修正しました。見直したはずなんだけどおかしいですね