第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

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やってしまったorz
仕方無かったんや……

注意
この話のウルキオラは心を悟っているので少々性格が変わっていると思います。
「こんなのウルキオラじゃない!」と思われた読者様はどうかお許し下さい。
その時な作者の限界という事で諦めて下さい……(泣)


原作一巻
1.虚無、異世界にて蘇る


  ーーー(ようや)く、お前達人間に少し興味が出て来た所だったんだがな。

 

  後悔する様に心中を吐露した彼、ウルキオラの命は風前の灯であった。

  完全虚化を遂げた黒崎一護との激戦の末、敗れた彼に残っている力は微塵も残されていなかった。

  霊力を使い果たした今、その力の最たるものである再生も不可能である為、 超速再生など最早意味を成さない。

  そう、消滅を食い止める手段が無い以上彼はこのまま死を待つだけとなってしまったのだ。残された時間は極めて短い。

 

  だからこそ問う、井上織姫に。

 

  あの時、虚夜宮(ラス・ノーチェス)にて彼女に問い(ただ)した様に。

  ウルキオラの黒く細い腕が彼女に差し出される。それは何処か、答えを求め彷徨っている様にも見えた。

 

 

  ーーー俺が、恐いか? 女。

 

  ーーーこわくないよ。

 

 

  彼女の答え。それはあの時と同じく変わる事は無かった。それは言葉だけでは無い。表情も感情もーーー

 

  いや、()だけは違った。

  その瞳には彼女特有の優しさが溢れている。だが、今の彼女の瞳は優しさの中に悲しみが込められていた。

  それは彼女が彼、ウルキオラという『虚無』の中に存在する彼にすら気付く事の無い『苦しみ』を理解したからかもしれない。

  だからだろう。彼の中には『何か』が生まれていた。

 

 

  ーーー……そうか。

 

 

  差し出された彼の掌に井上が触れる寸前、それは霧散して行く。その行為が否定されるかの様に。

  しかし、彼は掌の中に確かなものを感じていた。

 

  暖かい、『何か』

 

  正体が解る事の無いもの。

  だからと言って感情という単語だけで収まる様なものでも無い。

 

 

  ーーーこの掌の中に有る暖かいもの

 

 

  彼はこの時を持って理解した。虚へと堕ちた瞬間から失っていた大切なパズルのピース。

  それが今、欠けていた部分へと収まって行く感覚がした。

  人と人との触れ合いの中に有るもの。これがーーー

 

 

  ーーーこれが、『心』か。

 

 

  彼の身体が全て塵へと霧散し意識が暗闇に葬られる中、『第4十刃』ウルキオラ・シファーは何処か満足感を感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

  それは突然だった。

 

  暗闇の中に漂うウルキオラに突如として前方から光が差し込んで来たのは。

  その光は暗闇を浄化するかの如く照らして行き、その光に飲み込まれて行く。

  瞬間、浮遊感が襲い彼の目の前に空が現れたのだ。

 

 

「うおっ!」

「わっ!?」

「きゃっ」

「………!」

 

 

  その時、ウルキオラでは無い他人の声が聞こえた。少年一人に少女二人。

  そしてウルキオラは驚愕していた。決して他三人の声などでは無く、自分自身の状況に。

 

 

(……一体どうなっている?)

 

 

  確かに自分はあの時、斬魄刀での止めを刺されず、塵へと霧散し世界から去った筈だ。何故、生きているのか理解が追い付かなかった。

  だが、幾ら動揺していても埒が明かない。咄嗟に切り替え、冷静になり瞬時に自分の状態を確認する。そこには消滅した筈の身体が五体満足で健在していた。

  どうやら刀剣解放(レスレクシオン)の状態は解除されているらしく、白いコート状の破面死覇装に戻っていた。腰にはしっかりと彼の力を封じてある斬魄刀が挿さっている。

  黒崎一護との戦闘で使い果たした霊力も全快まで戻っている様だ。

  ここまでの確認をほんの僅か数秒で行い、次は周りを確認する。そこで彼は、景色の中に妙なものを発見する。

 

 

(……光の柱、か? どうやらあの柱を中心にしてこの世界は出来ている様だが)

 

 

  彼の目に飛び込んで来たのは巨大な光の柱。一瞬、世界は柱を支えにして作られているという古代の説が存在する事を記憶の隅から引き出したが、今は関係無いとばかりに何処かに放り投げた。

  そして地面の有る方向へと顔を向ける。その先には小さな湖に幾つもの川や滝が存在し、周りは森林等の自然が覆っていた。

  見るからに落下している自分達が行き着くのは湖。このままでは着水し、ずぶ濡れになるのは確定だろう。しかし他の三人は兎も角、ウルキオラは濡れてやる気など毛頭無い。

  霊子を操作し足場を作り、その上に踏み止まる。そして、階段を降りる様に地上へ降りて行く。

  その間にウルキオラを除く他の三人は抵抗する暇も無く湖へと音を立てて墜落した。

 

 

「………」

 

 

  その様子を彼が見届ける事など無く顎に手を掛け、見えない階段を降りて行きながら自分の状況を整理していた。

  まず、自分は何故生きているのか。真っ先に出た疑問は此れだ。

  とはいえ、この疑問に対して解決の余地は無い。余りにも情報が少な過ぎるのだ。先程、湖に墜落した三人の仕業という可能性も考慮したが、井上織姫の様な存在は希少の中の希少とも言える。恐らく、あの三人も何かしらの能力は保有しているだろう。だが、少なくともあの三人からは井上の様な能力の類は感じられない。故に皆無と判断した。

 

  この疑問は後回しにしておこう。本当に埒が明かなくなる。

  次に上がった疑問はこの世界だ。

  この世界にはどうやら霊子が存在している。だが、霊子の他にも特殊な力の気配を感じ取れる。探査回路(ペスキス)を使わなくても解る程に。

  しかし、この世界がウルキオラの住んでいた世界であると問われた場合、それはNOだろう。この世界の中心に(そび)え立っていた巨大な光の柱が何よりの証拠だ。あの様な光の柱は現世、尸魂界(ソウル・ソサエティ)虚圏(ウェコムンド)を幾ら探し回っても存在しない。それ以前に、上記でも延べていたが斬魄刀による止めを刺されずに消滅した。これは世界から完全に消滅した事と同義であるからだ。

  となれば、この世界は完全なる異世界となる。それでもウルキオラは冷静だった。

 

 

(俺は元々あの世界から消え去った身。ならば、異世界に漂着する可能性も無くは無い。俄かに信じられんが現に俺は生きている。今はそれだけで良い)

 

 

  冷静だからこそ、ここまでの判断が下せると言えよう。この性格で無ければ多少は混乱していたというもの。この時ばかりはこの冷静沈着さに感謝するウルキオラだった。

  そして、状況を整理している間に地上へと降り立ったウルキオラは思考を止め、湖の方向へ顔を向ける。そこには不機嫌全開の三人が居た。どうやら、自分が状況を整理している間に湖から這い上がっていたらしい。今は会話をしながら服を絞ったりしている。

 

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。 場合によっちゃあゲームオーバーコースだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだマシだぞ」

「……いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

 

 

  その様な会話が聞こえて来る。特に会話に興味が無いウルキオラは再び顎に手を当て、この世界での自分の目的について思考し始めた。

 

 

(……大体の整理は終えた。状況がどう有れ、俺が生きている事は間違いない。だが、目的が無い)

 

 

  彼は特にこの世界での用は無い。寧ろ、消滅した自分が再び復活した今、自分の主である藍染の下へ馳せ参じるのが普通だろう。

  普通ならば、の話だが。

 

 

(復活した今、藍染様の下へ馳せ参じるのが妥当だと言える。だが馳せ参じた所で意味など無い。黒崎一護に敗北し、虚夜宮(ラス・ノーチェス)を守り切れなかったこの体たらく……藍染様はお許しになる筈など無い)

 

 

  そう、彼の主である藍染惣右介に躊躇などと言う単語は存在しない。受け入れるものは受け入れ、斬り捨てるものは容赦無く斬り捨てる。絶対なる存在である彼に『赦しを乞う』など烏滸(おこ)がましいにも程が有るのだ。それに、此処が異世界ならば元の世界に帰る事すら怪しい。

  だが何よりも、ウルキオラの心中には主の下へ馳せ参じるという選択をする気が無かった。

 

 

(……心、か)

 

 

  彼は死に際に『心』を悟った。だが悟っても尚、『心』という全てを理解した訳では無い。

  そして、『心』を全て理解する為のまたと無いチャンスを得たのだ。

  ウルキオラは『心』を悟ったその先へ進みたいと少なからず思っていた。人間というものの可能性を見てみようとも思った。

 

 

(……無駄というヤツか。そう、その無駄で俺は奴に敗北したのだ)

 

 

  そこで思い出されるのは黒崎一護が圧倒的な力を見せつけられようとも最後まで棄てなかった『無駄』

  その『無駄』こそが心を知る鍵に成り得るだろう。

 

 

(……試してみるか。その無駄とやらを)

 

 

  それはいつ成し遂げられるのかは全て自分次第。相当な時間が掛かる事は間違いないだろう。だからこそ成し遂げようとする意味が有る。彼はそう思い、己の目的を定めた。

  ウルキオラはそこで思考を切ると、先程の会話が聞こえて来た。

 

 

「で、そこの真っ白で無表情の貴方は?」

 

 

  不意に高飛車なお嬢様からの質問が聞こえて来た。そしてウルキオラは驚愕する。

 

  ()()()()()()()()()()()質問している事に。

 

「……俺が見えているのか?」

「当たり前よ。どうしたのかしら?」

「何だ? その言い様だと幽霊だったような物言いだな」

「幽霊? ……何だか不思議」

 

 

  三者三様、反応は違うが見えているらしい。元々、死神や虚と言った存在は基本的に普通の人間では目視する事は不可能である。人間の身でそれが可能なのは死神に成る前の黒崎一護の様に高い霊力や霊感を持つ者に限られる。

  だが、こうして目視出来ていると言う事はこの三人は高い霊力を持っていると言う事か。若しくはこの世界での『何か』が働いているという可能性が有るのか。

  元々住んでいた世界とこの世界では常識も違えばルールも違うだろう。ならば、元々の世界の例外がこの世界では常識と言うのも(あなが)ち間違いでは無いだろう。

  ウルキオラはそう判断を下し、切り捨てる。こういうややこしい事に関しては切り捨てるのが上策である。

 

 

「……ウルキオラ・シファーだ。先程の事は忘れろ」

「そう、よろしくウルキオラさん」

「へぇ、面白いなオマエ」

 

 

 ウルキオラの素っ気ない返事にお嬢様は特に気に留めなかった。金髪の方はウルキオラ独特のその出で立ちに興味を持った様だ。

  心を悟る以前のウルキオラなら「俺に質問などするな、塵が」とか「黙れ、屑」などと言い、問答無用で消し飛ばしたであろう。

  だが、今のウルキオラは心を悟った為、僅かに丸くなっている。それに加え、この追いつかない状況に周囲の状況まで気を回す余念が無い。この問題児達は有る意味命拾いしたと言っても良いだろう。

 

 

「で、呼び出されたは良いが何で誰もいねえんだよ」

「そうね、何の説明も無ければ、動きようが無いもの」

「……この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

「……」

 

 

  全くです。とか言うツッコミが何処からか飛んで来た気がするが、無視に限る。

  すると、学ランを着たヘッドホンが特徴である金髪の少年が溜息交じりに呟く。

 

 

「仕方ねえな。さっきからそこに隠れている奴にでも聞くか?」

 

 

  瞬間、何処かの誰かが驚愕し慌てて隠れ直した。図星を突かれたのだろう。

  だが、この四人に対して隠れるという行為は無駄に等しい。戦いという名の殺し合いの世界にどっぷりと浸かっていたウルキオラは特にそうだ。

 

 

「あら? 貴方も気付いていたの?」

「当然、かくれんぼじゃ負け無しだぜ? そっちの猫を抱えている奴やウルキオラも気付いてたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「……何故、あの程度が隠れていると認識している?」

「……へぇ、()()()面白いなお前等」

 

 

  口数の少ない少女とウルキオラの物言いに金髪は爛々とした視線を向ける。主にウルキオラの方に。

  対してウルキオラは金髪に興味など無く、その爛々とした視線を向けられようとも無視を決め込んでいた。

 

  すると、茂みの奥からウサミミが特徴である少女がビビりながらひょこっと現れる。その際、ウルキオラが此方に目線を移した事で更に怯むも、負けじと口を開いた。

 

 

「や、やだなぁ御四人様。そんな飢えた狼さんみたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ。古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱なハートに免じて、ここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「興味無い」

「あっは♪ もう取り付くシマも無いですね♪」

 

 

  四人の見事なまでの否定っぷりにウサミミ少女はバンザーイ、と降参のポーズを取る。

  しかし、その目は四人を冷静に値踏みしていたのだった。

 

 

(肝っ玉は及第点です。とは言っても扱いにくいのは難点ですけど。ただ……)

 

 

  ウサミミ少女はそう思いながら、ちらとウルキオラを見る。

  彼の病的なまでの白。それ以上に彼からは次元が違う程の力を感じる。

 

 

(ウルキオラさん、でしたっけ? あの御方だけは違う。召喚されたのは()()()()()だけだった筈。あの御方はイレギュラーと考えた方が良いですね。ですが、戦力は多いに越した事は有りませんから問題ないでしょう)

 

 

  彼女のウルキオラに対する評価を上方修正すると同時に、値踏みの視線を強める。

  だが、彼女は一つ間違いを侵している。それは彼を他の問題児三人同様に()()()()()と慢心している時点で既に間違っているのだが。

  その冷静沈着さと機転の良さはこのヘッドホンを頭に付けている金髪少年、逆廻十六夜すらも上回る。知識の豊富さならば十六夜が勝っているだろう。だが、それ以前に力の差が有り過ぎる。

 

  彼女は知る由もない。

  この破面がどれ程の圧倒的な力を有しているのかも。

 

  それはそれとして、だ。

 

  ウサミミ少女及び黒ウサギはウルキオラに視点を移したままだったが故に気付く事は無かった。

 

 

  むぎゅ

 

 

  問題児である三人の魔の手が黒ウサギのウサミミにロックオンしていた事に。

  口数の少ない少女、春日部耀は真っ先にウサミミを掴み、

 

「フギャ!」

 

  それを力いっぱい引っ張る。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!? 初対面でいきなり黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですかぁっ!? 」

 

  流石に自分のシンボルとも言えるウサミミを力いっぱい引っ張られるという奇想天外な行動に対してかなりの抵抗があるのが普通だ。当然、黒ウサギは抵抗したのだが……

 

「ふーん、このウサミミは本物なのか?」

「じゃあ私も」

 

 

  ライトとレフトからの挟撃が黒ウサギを襲う!!

 

 

「え? ちょ、まっーーー!」

 

 

 ウサミミを引っ張られる事に対して耐性の無い黒ウサギであるが故、挟撃に耐えられる事など有る筈が無い。黒ウサギは言葉にならない絶叫を上げ、それは見事なまでに近隣に木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……煩い奴らだ」

 

 

  ウルキオラは一人、そう呟く。先程から彼女が気付かれない様にしていた値踏みの視線は既にバレバレだ。そこからこの黒ウサギの組織の状況すらも読めてしまう。

 

 

(この俺を欺こうとするとは舐めた真似をしてくれる……。だが、この世界の情報が欲しい所だ。これからどうするかはもう少し様子見をして決めるか)

 

 

  ウルキオラは空を見上げ、虚圏にあった偽物の空では無く本物の空と太陽を見据え、己のするべき指針を考えて行くのであった。




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