第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

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お待たせしました……
くぅ、何故モチベーションが続かんのだ……(絶望)

久しぶりに書いたから書き方が変わっているかも……(汗


20.甘美なる刹那

 ウルキオラすら呆気に取られた問題児達と黒ウサギによる逃走劇は後半戦にもつれ込み、そろそろ終盤へ向かい始めた頃。

 最初に捕まってしまった耀と後からやって来たウルキオラとリリは“サウザンドアイズ”の支店でお茶を啜っていた。レティシアは黒ウサギ達を追っており此処にはいない。

 今回は突然の出来事という訳で事の経緯(いきさつ)を知らない白夜叉は耀とウルキオラ達に詳細を聞き、笑みを浮かべる。

 

「ふふ、なるほどのぅ。おんし達らしい悪戯だ。しかし“脱退”とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

「それは……うん。少しだけ私も思った。だ、だけど、黒ウサギだって悪い。お金が無い事を説明してくれれば、私達だってこんな強硬手段に出たりしないもの」

「普段の行いが裏目に出た、とは考えられんかの?」

「それは……そ、そうだけど。それを含めて信頼の無い証拠。少し焦ればいい」

 

 珍しく拗ねた様に言う耀。笑みを浮かべている白夜叉はちらりと隣に座っているウルキオラ達を見た。

 

「おんし達は此奴達の行いをどう思う?」

「……所詮は餓鬼共の戯れだ。俺が口を挟むまでもない」

「えっと、そ、その……。どちら共悪いとは言えないですけど、十六夜様達に非があるかな……と」

「うっ……」

 

 ウルキオラは興味が無さそうに、リリは小さな声でそう答える。それを聞いて内心後ずさる耀。

 

「くく。理由はどうあれ、どうやら多少なりとも反省しなければならんようだぞ?」

「むぅ、分かった……」

 

 不服そうに頬を膨らませる。十六夜なら気楽に受け流したり反論したりするのだろう。しかし生憎、耀にはそう言ったものを持ち合わせていない(十六夜が異常なだけだが)。故に不服ながら渋々と受け入れた。

 すると白夜叉が何かを思い出したようにウルキオラに問い掛ける。

 

「そういえばウルキオラよ。おんしは先程、空間を操作して此処に来た様だが、あれは一体どういうギフトだ? 980000kmもの距離を短縮する空間跳躍のギフトは滅多に無くての。是非とも教えて貰いたいものだ」

「あれはリリもびっくりしたのです!」

 

 二尾をパタパタとはためかせ、やや興奮気味にリリが言う。生来、空間跳躍の類のギフトを目の当たりにしていなかったからこその反応であろう。

 この箱庭で空間転移や空間跳躍と言ったギフトを所持する者はそう多くはない。しかしその有用性は広く知られている。

 例えば箱庭の住人において重要なギフトである境界門(アストラル・ゲート)。これは恒星級の広大さを誇る箱庭にて、最も適切な移動手段として用いられている。だがこれを起動するにはサウザンドアイズ発行の金貨が一枚分必要であり、北から南に移動する際には五○○%増というぼったくり価格となっている。その為、これを通常利用する時は主に行商を目的としたコミュニティが一斉に集まって来るのだ。

 代表的な空間転移のギフトはこういった大勢の者が利用するものであるが、それだけには収まらない。

 有名どころのコミュニティでは“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーである『蒼炎の悪魔』や、マクスウェルの悪魔などもこういった空間跳躍の類のギフトを扱っている。

 

 因みに。

 

 この二人の仲は疎遠であり、マクスウェル(変態)ストーキング(求愛)にドン引きした『蒼炎の悪魔』が「キモい!」とまで言っている程。これは後ほど詳しく語るとしよう。

 

 閑話休題。

 

 ウルキオラ自身としては、『解空(デスコレール)』に関しての情報は晒しても特に問題ないと考えている。元々、『解空』は『破面』に限らず虚にも備わっている能力である。現世と虚圏を繋ぐ通路である『黒腔』行き来する為に使うものであり、“生と死の境界”を操作する能力と捉えても良い。

 しかし『解空』を扱える存在はこの広大な箱庭を探し回ってもウルキオラしかいないだろう。その希少性を考慮して、ウルキオラは全てを晒さず、ある程度の情報のみを白夜叉に教える事にした。

 

「……簡単な事だ。この箱庭全域に俺の持つ知覚能力の範囲を拡げ、お前達の霊格を捕捉した位置に境界を操作するギフトを使っただけに過ぎん」

「……!?」

 

 分かりやすく要約すると。

 ウルキオラの持つ『探査回路(ペスキス)』の効果範囲を箱庭全域に広げ、十六夜達の霊格を捕捉した位置を目標に『解空』を使用。故に的確な場所に転移出来たのである。方法のみを伝えたが、その際に使用するギフトまでは晒さない。破面や虚独自の技術ではあるが、それが悪用される可能性は否めない故の措置である為、この判断は懸命とも言えよう。

 

 しかしウルキオラは知らない。

 

 恒星級の広大さを誇るこの箱庭全域に探査回路を容易く拡げられるという事がどれほど荒唐無稽な事実であるのか。

 白夜叉はその異常さを知っていた為、内心卒倒しそうになった。

 

「……もうおんしの荒唐無稽さには驚きを通り越して呆れるしかないのぅ……」

「「?」」

 

 白夜叉とは反対にその異常さを知らない耀やリリは疑問符を浮かべるだけだった。いや、これは知らない方が幸せであろう。ウルキオラのそれは、その気になれば何処に誰が潜んでいるのかすら知覚出来てしまうギフト。つまり殺し合いにおいてウルキオラに臆して逃げようとも逃げられないという事。『魔王からは逃げられない』という言葉がそのまま当て嵌まるという訳だ。加え、現在のウルキオラは破面という種を逸脱してしまっている。特性はそのままに、徐々に『絶対無』へと戻りつつある彼に敵う者は数えるほどしか存在しない。下手をすれば存在しないかも知れない。

 

 余談ではあるが。

 

 『絶対無』における“扉”の第二までを解放しているウルキオラは、それを“三割”まで引き出せる。

 無量大数を超越する『絶対無』の“三割”とはどれほどのものであるか。

 

 少なくとも、理解の範疇を超える代物であるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 所変わって境界壁の自由区画。

 飛鳥がレティシアによって捕まり、最後の一人となった十六夜と鬼と化している黒ウサギは建造物の頭部にて一つのギフトゲームを展開していた。

 

 

 

『ギフトゲーム名“月の兎と十六夜の月”

 

 ・ルール説明

 

 ・ゲーム開始のコールはコイントス。

 ・参加者がもう一人の参加者を、“手の平で”捕まえたら決着。

 ・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。

 

 宣誓 上記のルールに則り、“黒ウサギ” “十六夜”の両名はギフトゲームを行います。』

 

 

 

「オイコラ黒ウサギ! スカートの中が見えそうで見えねえぞ! どういう事だ!?」

「あやや、怒る所はそこなのですか?」

 

 黒ウサギはスカートの裾を押さえながら、下から追ってくる十六夜に笑いかける。黒ウサギのガーターとミニスカートには視覚を惑わすギフトが施されていたりする。

 

 さて。この状況から察せるであろうが、既に開始のコール(合図)は為されている。スタートダッシュは同時。走力が互角である二人における差は現状、均衡を保っていた。

 だが油断は出来ない。黒ウサギはその素敵耳を備えており、十六夜は人間にはあるまじき凄まじい膂力がある。しかしこのギフトゲームに力比べは不要。十六夜に有利な要素は皆無である。それ故に、このギフトゲームでは黒ウサギが圧倒的に有利であった。

 そして十六夜が勝利する必要な条件の一つ。“黒ウサギを見失わない”事である。プレイヤー時において黒ウサギのウサ耳の効果範囲は1km。つまりある程度の距離を離されてしまえば、後は黒ウサギによるワンサイドゲームとなる。二人の走力が互角の時点で、ウルキオラの様な『過程を無視し結果のみを残す戦闘技術』でもなければ追い付く事は不可能なのだ。

 

(チッ、こりゃあルールを変えておくべきだったか……?)

 

 十六夜は内心で舌打ちする。長期戦に持ち込まれれば敗北するのは自分。短期決戦に持ち込もうとしても身体的なポテンシャルで互角である二人では堂々巡りとなる。そう、これは長期戦必至なのだ。

 

 ならばここで降参するか?

 

(いや───)

 

 否。断じて否。逆廻十六夜の辞書に諦めの文字は無い。何より今は超えるべき存在(ウルキオラ)がいる。この程度のギフトゲーム、乗り越えなくして何が打倒ウルキオラか。

 

(この逆境を覆してこその逆廻十六夜だよなぁッッ!!)

 

 十六夜の内の炎が燃え上がる。口元が吊りあがり、笑ってしまう。あぁ楽しい。笑いが止まらない。ウルキオラという存在がいるだけでここまで己の世界が変わるとは思いも寄らなかった。

 

「ヤハハハハハハハハハッ!!!」

 

 吼える。自然と笑い声が上がる。楽しくて愉しくて仕方がない。生きているという感覚が身体を支配している。

 

 素晴らしい。

 

 素晴らしき(かな)我が人生ッ!!

 

「オラァッッッ!!」

 

 今までにない力を込めて踏み込み、黒ウサギへ肉薄する。その刹那、十六夜は黒ウサギの速度を上回った。

 

「ッ!?」

 

 黒ウサギはそれに驚愕し、咄嗟に回避する。これは全力で回避しなければならないものだと本能で知覚した為か。

 運良く免れた黒ウサギは十六夜が僅かに失速した瞬間を狙い距離を取り停止する。十六夜も同じく停止し均衡は未だ変わらず。

 

(い、今のは……!?)

 

 額から冷や汗が流れる。十六夜の先ほどのアレ(・・)は一体何だったのか。それを直接見た黒ウサギだからこそ本能を以って恐怖した。

 十六夜はどうやら気付いていない様だ。となれば、あれは偶然か。それとも十六夜の持つ『正体不明』の一部なのか。

 

 

 

 知る由も無い。黒ウサギに肉薄したあの刹那。ほんの一瞬だけであるが。

 十六夜の身体が星辰(アストラル)体になっていた事実には───

 

 

 

「どうしたよ黒ウサギ? ボサッとしてるとスカートに頭突っ込むとか胸揉んだりするぞ?」

「だ、黙らっしゃいこのお馬鹿様!!!」

 

 フシャー! と唸る黒ウサギ。先程の恐怖はいつの間にか払拭されていた。十六夜が黒ウサギの感情に気付いたかどうかは本人しか分からないが、こういう所が彼の良い所の一つなのではないか。

 兎に角。このギフトゲームもそろそろ終わりにしなければならない。あのお馬鹿様には説教の一つでも据えないと気が済まないのだ。

 だが、何故だろうか。このギフトゲームを続けていたいという気持ちは何処から来るのであろうか。

 先程の恐怖はあれど、既に払拭されている。アレが偶然の産物ならば別に気にする程でも無い。最早黒ウサギの心中には“楽しい”という感情しか無かった。

 思えば生まれてこの方二百年。月の兎として審判権限(ジャッジマスター)を持ち、プレイヤー側として参加する事が少なかった。プレイヤー側としてギフトゲームに参戦した事もあるが、心底楽しめるには至らず。

 

 この気持ちは何なのだろうか。

 この溢れる感情は何なのだろうか。

 逸る心を押さえ切れない。

 

 生来、心の底から楽しいと感じるゲームはこれが初めてではないだろうか。

 

「そんな破廉恥な行為をしようとする十六夜さんにはお灸を据えなければいけませんねっ!!」

 

 駆ける。彼女は駆ける。あるがままの自分(黒ウサギ)として駆けて行く。

 全力で。全開で。逆廻十六夜とこのギフトゲームを楽しむ為に。

 

「ヤハハハハハッッ!!! イイぜイイぜ黒ウサギ!! もっと俺に逆境を与えろよ! 何度でも覆してやるぜ!!」

 

 走る。走る。あるがままの自分(逆廻十六夜)として走り抜ける。

 全力で。全開で。黒ウサギとこのギフトゲームを愉しむ為に。

 

 互いが全力疾走でこの街を駆けて行く。心が満たされるまで。何時までも。何時までも。何時までも。

 

 

 

「大人しく捕まれこの駄ウサギィィィィィィィィッ!!!」

「それは此方の台詞なのでございますよォォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 かくして逃走劇は最高潮(クライマックス)を迎える。

 互いが心から楽しんでいる/愉しんでいる笑みであり。それを止める者はいない。誰もがそれに魅入られており、誰もが共感出来るものであったが故に。

 

 

 

 

 

 あぁ。この甘美なる刹那が永遠に続いて行けば良いのに。

 そう願わずにはいられなかった。

 

 

 




・『絶対無』の“三割”
つまり波旬の三割の力と考えればよろし(白目

・十六夜の星辰体化
これは原作の十六夜と剥離するきっかけになります。
要するに、アマッカス精神をちょっとだけインストールされた感じ(白目
なお、更に酷くなる模様(白目

・黒ウサギ
このウサギ、ノリノリである(笑)



因みに十六夜の星辰体化の設定はオリジナルですが、アストラル体とは元々人間および動物のみに備わり、精神活動における感情を司る身体とあるので、「まあこれもアリなんじゃないかな」と思った次第です。
恐らく、ここの十六夜ちゃんはアジさんと相対してもブーストで更に強化されて一人で倒せそう(白目
つまるところスーパー鋼メンタル。これもウルキオラさんのお陰だよやったね!(錯乱

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