第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

21 / 22
どうも、安全第一です。
約束通り、12月31日に更新しました。
因みにこの話は五時間で書き上げたので抜けている所があるかもです。

ではどうぞ。


21.画策

 十六夜と黒ウサギによるギフトゲームが開始されてから数十分。

 その後、ギフトゲームを中断するかの様に二人の周りには炎の龍紋を掲げ、蜥蜴の鱗を肌に持つ集団が集っていた。つまる所、北側の“階層支配者”である“サラマンドラ”のコミュニティだった。騒ぎを聞き付け、沈静化を図る為にやって来たのである。

 肝心のギフトゲームは都合の良いタイミングだったのか、両者がお互いの腕を掴み取り引き分けの結果となっていた。

 お互いにギフトゲームに夢中となり、熱が入っていた状態だったが、終了直後にサラマンドラの介入で急速に冷めていく。黒ウサギは自らの失態に気が付き、頭を抱えながらも両手を上げて降参の意を示したのだった。

 

 そして現在、ウルキオラ達は。

 

 

 

 ───境界壁・舞台区画。“火龍誕生祭”運営本陣営。

 十六夜達がサラマンドラに連行されて運営本部まで来ていたのと同時、火龍誕生祭で開催されているギフトゲーム最後の決勝枠が争われていた。

 

『お嬢おおおおおおお!! そこや! そこやで! 後ろに回って蹴飛ばしたれえええええええ!!』

 

 ウルキオラ達について来た三毛猫がセコンドで叫ぶ。舞台で戦っているのはノーネームの春日部耀と、“ロックイーター”のコミュニティに属する石垣の巨人、自動人形(オートマター)だった。

 鷲獅子から受け取ったギフトで旋風を操る耀は順調に駒を進めて来ている。決勝枠を争うこの戦いもそれらを十全に駆使し、相手の攻撃を飛翔しつつ躱していた。

 そして巨人の後頭部を蹴り崩し、瞬時に自身の体重を“象”へと変幻させ、落下の力と共に巨人を押し倒した。それと同時に辺りからは割れる様な歓声が起こった。

 

『お嬢おおおおおおおお! うおおおおおおおおお! お嬢おおおおおおおおお!』

 

 耀の雄姿に雄叫びあげる三毛猫。他人からはニャーニャー言っているだけにしか聞こえないのだが、ギフトを持つ耀には三毛猫の言葉がはっきりと聞き分けられていた。三毛猫の方に目配せと片手を向け、微笑を見せる。

 

「………」

 

 その姿を三毛猫より離れた出場者が入場する門で眺めるウルキオラとリリ。彼はサウザンドアイズの支店での出来事を思い返していた。

 

 

 

「そういえば、大きなギフトゲームがあるって言っていたけど、ホント?」

「本当だとも。特に、おんしには是非とも出場して欲しいゲームがある」

「私に?」

 

 和菓子を頰へリスの様に膨らませている耀に、白夜叉は着物の袖からチラシを取り出して見せた。

 

『ギフトゲーム名“創造主達の決闘”

 

・参加資格、及び概要

 ・参加者は創作系のギフトを所持。

 ・サポートとして、一名までの同伴を許可。

 ・決闘内容はその都度変化。

 ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

 

・授与される恩恵に関して

 “階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印

“サラマンドラ”印』

 

 その内容を見た耀は首を傾げる。

 

「……? 創作系のギフト?」

「うむ、人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトの事だ。北では、過酷な環境に耐え忍ぶ為に恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合う為のゲームがしばしば行われるのだ。そこでおんしが父から譲り受けたギフト、“生命の目録(ゲノムツリー)”は技術・美術共に優れておる。人造とは思えん程にな。展示会に出しても良かったのだが、そちらは出場期限が切れておるしの。その木彫りに宿る恩恵ならば、力試しのゲームも勝ち抜けると思うのだが………」

「そう、なのかな?」

「うむ。幸いな事にサポート役としてジンもおる。ウルキオラ……は過剰戦力だの。それは兎も角、本件とは別に、祭りを盛り上げる為に一役買って欲しいのだ。勝者の恩恵も強力なものを用意する予定だが……どうかの?」

「うーん……」

 

 白夜叉からの誘いに、あまり気乗りしない様子の耀。なのだが、ふっと思い立った様に質問する。

 

「ね、白夜叉」

「何かな?」

「その恩恵で……黒ウサギと仲直り出来るかな?」

 

 その言葉にやや驚きの表情を見せる白夜叉。だがすぐに優しく温かい笑みで頷いた。

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのならの」

「そっか。それなら、出場してみる」

 

 コクリと頷いて縁側から立ち上がる耀。“創造主達の決闘”への参加が決定した。

 

 

 

「……」

 

 ウルキオラは雄叫びを上げている三毛猫とは正反対で、何か物思いにふけていた。

 あの時、耀と白夜叉の様子から見てすれば、微笑ましい光景に思える。違和感など何も感じはしないだろう。

 しかし、ウルキオラだけは違和感を感じ取っていた。その違和感こそ微々たるものであり、耀本人ですら気付かないほんの僅かな違和感。

 

(……焦燥、か?)

 

 ウルキオラは耀を見て、焦燥を抱いていると感じ取っていたのだ。だがおかしい、とウルキオラは疑問に思う。

 ウルキオラは心を理解し始め、相手の感情がどのようなものなのかを少しではあるが理解出来るようになった。しかしその本人ですら気が付かないような感情のごく僅かな変化を感じ取れる程、ウルキオラは成長していないのだ。

 では何故、あの時の耀の感情に気が付けたのか。

 

「………」

 

 ウルキオラは周りの観衆を見る。そして意識を集中させた。

 見える。伝わって来る。観衆一人一人の感情がどういうものなのかが朧げながらも伝わって来るのだ。興奮、嫉妬、失意、期待。様々な感情がウルキオラには『視』えた。

 

(……『眼』か?)

 

 違和感の正体を掴み、自身の左眼を手で覆う。そして側にいるリリに気付かれない様に抉り出した。

 抉り出した眼球を見る。翠色の眼から今までに見た映像や情報を残った右眼で『視』た。

 

「……成程。そう云う事か」

 

 ぼそりと呟き、確信する。藍染惣右介に仕えていた頃、現世の調査の報告として良く使用していた『共眼界(ソリタ・ヴィスタ)』に変化が起こっていると。

 ウルキオラはこの眼を「全てを見通す目」と言っていた。しかし、何故この眼が全てを見通す目だと言っていたのかが自分でもよく分からなかったのだ。ただこの眼が全てを見通す力を持つという事実のみが残っていただけで。

 だが黒崎一護の霊圧を得て、『絶対無』へと戻る“扉”の内二つ開けた事で、ウルキオラ自身の霊圧は日々強大となっている。それ故にウルキオラの『眼』も本来の能力を取り戻し始めているのだ。

 

 名を『境眼界(オキュロス・ヴィデント)

 

 凡ゆる境界を見通し、その深奥をも見通す力。相手がどのような歴史を持っているか、どのような感情を抱いているか、どのような力を持っているかが一目で解るものだ。

 『境眼界』の能力が完全に戻れば、森羅万象すらも一目で完全に理解してしまう程である。

 この情報を『境眼界』から得たウルキオラ。どうやら『境眼界』を『境眼界』で『視』た場合だと、自分の能力だからか『境眼界』の情報が事細かく伝わって来る様だ。

 そして用は済んだとばかりに眼球を握り潰す。再び開かれた手の平には潰された眼球の姿は無く、超速再生によって瞬く間に左眼が再生されていった。

 ウルキオラは顔を上げ、白夜叉がいる方角へ視線を移す。丁度白夜叉が柏手を打ち、観衆の声を静止させていた。

 

「最後の勝者は“ノーネーム”出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは……ふむ。ルールはもう一人の主催者にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

 白夜叉が振り返る。そこから現れたのは深紅の髪を装飾で丁寧に束まれ、色彩鮮やかな衣装を幾重にも纏った幼い少女であった。

 彼女こそ龍の純血種、星海竜王の龍角を継承した新たな“階層支配者”であり、サラマンドラの頭首でもあるサンドラである。

 凛とした姿ではあったものの、幼いからか緊張した面持ちであるサンドラ。大きく深呼吸をし、鈴の音の様な声音で挨拶した。

 

「ご紹介に預かりました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故も無く、進行に協力下さった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます」

「……あの餓鬼と立場は同じか」

 

 ありきたりな挨拶ではあるが、真摯に声を発するサンドラの姿。ウルキオラにはそれがジン=ラッセルと重なって見えた。

 逆廻十六夜に感化されたのか、彼のどこか弱々しい雰囲気は消え始めている。率いる立場としての頭角は既に現れ始めている様だ。

 問題児達の支援があってこそではあるが、“ノーネーム”は息を吹き返し勢力を少しずつ拡大していっている。かつて“フォレス・ガロ”に乗っ取られていた“ルル・リエー”もノーネームの実質勢力下に入っている状態だ。子どもであるジンの言葉に対し反対する者は誰一人としていなかった。

 それはノーネームに名と旗を取り戻して貰った恩義がある事と、小規模のコミュニティだからだ。これからもルル・リエーはノーネームに手を貸してくれるコミュニティとなるだろう。

 だが、このサラマンドラは話が違う。五桁に本拠地を置き、更には“階層支配者”でもある大規模のコミュニティなのだ。とはいえ、流石にサウザンドアイズともなれば箱庭全体の超がつく大規模となる故にそれらとは比べてはならない。

 そのサラマンドラで齢十一で頭首となったサンドラに対し、負の感情を向ける者は必ず存在する。幼い権力者を快く思わない者が何かを企む可能性は高い。

 

「………」

 

 そしてウルキオラは『境眼界』でそれら負の感情を感じ取っていた。

 加えて、サラマンドラが本拠地としているこの場所に訪れる際に箱庭全体を覆う規模で使用した『探査回路(ペスキス)』の中で一つ察知したものがある。

 

 “魔王”

 

 この境界壁の付近にその霊圧を感じ取っていたウルキオラは思案を巡らせる。

 『境眼界』で感じ取る負の感情。この境界壁付近に感じる魔王の霊圧。幼い階層支配者。これらを合わせて考えられる事は一つ。

 

(この火龍誕生祭。恐らくあの階層支配者である餓鬼を試そうとする何かがある───)

 

 これは十中八九的中してしまう未来の予想だが。

 今回開催される火龍誕生祭は魔王を撃退する事で幼い階層支配者を快く思わない者達の考えを改めさせる大きな舞台装置なのではないかと。

 これも予想だが、相手の魔王もサンドラと同じ様にルーキーの魔王なのだろう。『絶対無』の影響で箱庭の法則から逸脱しつつあるウルキオラが直接戦えば一捻りで終わるだろう雑魚に過ぎない。

 故にウルキオラは一人画策する。

 

(───良いだろう。このギフトゲームや魔王との戦いが予定調和ならば、利用してやろう)

 

 画策とはいえ、その内容は至極単純。問題児達のレベルアップだ。

 春日部耀、久遠飛鳥は今のままでは論外。飛鳥は遅咲きの花だが、その花が咲いた時に大きな躍進が出来る様に。春日部耀に関しては今でなくても良いだろう。『探査回路』で感じ取った霊圧のイメージを『境眼界』で見て判明した魔王のギフトであるのならば、彼女はそのギフトに無力化されるに違いない。明日のギフトゲームで何かを得られればそれで良し。

 そして逆廻十六夜。この者だけは別格なのだが、未だに奥の手を使ってはいない。魔王を倒すには星を砕く威力の力が必要となる。十六夜が持っていない筈がない。

 しかし十六夜が切り札を切らないのは仕方のない事だ。星を砕く力を使えば辺りにも大きな被害が及ぶ。白夜叉と戦ったウルキオラもただの虚閃ですら星を砕く威力となっていたが故に、最後の王虚の虚閃と白夜叉の大技の相殺で空間崩壊を起こしてしまった。

 とはいえ、魔王はルーキー。その程度の相手に十六夜が切り札を切るのなら拍子抜けというもの。山河を砕く威力の徒手空拳でどれほど戦えるかが見ものだ。

 魔王への止めは黒ウサギの持つギフトでどうにかするだろう。彼女が帝釈天の眷属である玉兎だと言う事を既にウルキオラは知っているのだから。

 それらを踏まえ、ルーキーの魔王は今の問題児達やサンドラには丁度良い相手になるだろう。

 

 だがそれではもの足りない(・・・・・・)

 

 ウルキオラが画策する内容は問題児達の強化という単純なものである。

 

 しかし、だ。

 

 その難易度がどれほど困難なものになるかはウルキオラ次第。

 

 故に。

 

 

 

(精々足掻くが良い、餓鬼共)

 

 

 

 予定調和であった筈の魔王との戦いがウルキオラの一手であっさりと崩れ去るのを今は誰も知らない。

 

 

 




つまりペスト戦の難易度がノーマルからベリーハードになる訳です。
ウルキオラさんの鬼畜な一手が問題児達&その他大勢を襲う!!





では皆様、良いお年をお迎え下さい!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。