あと、『天龍に憑依した求道者』も書き始めようかな。
ではどうぞ。
ギフトゲーム“創造主達の決闘”の決勝枠を決める戦いが終わり、騒ぎを起こした十六夜達は運営本陣営の謁見の間まで連れて来られていた。
「あ、皆さん!」
そしてそこにはぽつりとリリがいた。彼女は十六夜達を見るや、彼等の元に駆け寄る。それを見た十六夜は同伴している筈であるウルキオラが居ない事に違和感を感じ、訝しげに問う。
「おい、ウルキオラはどうしたんだ?」
「あ、ウルキオラ様なら先程何処かに行かれました。『ここに居ろ。程なくして逆廻十六夜達と合流出来るだろう』と言っていましたので、リリはここに待機していました」
「成程な。行き先は聞いてないのか?」
「はい、そこまでは……」
まあそこまで気にする程でもないか、と十六夜は気にする事なく思考を打ち切った。ウルキオラは単独行動を好んでいる傾向があり、問題児達も基本的に好き勝手やっている為、その動向を深く知るような真似はしない。
ノーネームがこの火龍誕生祭に招待されたのには必ず理由がある。本当ならノーネーム内で最も実力がある為、その場に居て欲しかったのだが致し方の無い事だろう。それにサラマンドラから頼まれるであろう依頼の詳細は後ほど伝えても問題ない。
「なら行こうぜ。人数が少し増えた所で何も問題ないしな」
その前に一悶着ありそうだが、と独りごちる。しかしそれが脅威になる事はまず無いだろう。いざとなれば黒ウサギとどうにかすれば良い。
少々楽観視しているが、油断はしない。見下す事があろうと、決して油断はしないのが逆廻十六夜なのだ。万が一の可能性としてサラマンドラから奇襲を受けた場合の対処も考えてある。
だが、ウルキオラがこの先の予定調和を崩す一石を投じている事へは微塵も考えが及ばなかったのだった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
白き死神が歩く。
そこは人気のない街道。火龍誕生祭で賑わっている筈の街が嘘の様に静寂としている。あまりにも静寂すぎて返って不気味な印象を抱いてしまう程だ。
「………」
その不気味な静寂に何一つ感情を抱く事なく歩き続けるウルキオラ。そして突如として立ち止まった。
「……この地点で良いだろう」
そして呟き、手の平から
「次だ」
次の目的地への方向に視線を向け、響転でその場から消え去る。そして瞬く間に次の目的地へ到着した。
先程と同様に剣虚閃を精製し、再び真下に向けて突き刺す。これもまた同じく地面に吸収されていく剣虚閃。そして脇目も振らず、さらなる目的地へ響転を使い移動する。
これがウルキオラが打つ布石。サラマンドラの長であるサンドラやノーネーム達が魔王を打ち破るであろう予定調和を崩す一手。ありきたりな筋書きを改変し、どのような結果に転ぶか分からない博打へと変貌させる。
それ故に、死者がどれほど出るかも分からない。もしかするとサンドラが死ぬ未来であるし、もしかすると逆廻十六夜が、久遠飛鳥が、春日部耀が、黒ウサギが死ぬ未来なのかも知れない。あるいは誰も死なない未来であるかも知れないし、はたまた全滅する未来である可能性もある。
だがこれぐらいしなければ意味が無い。ノーネーム達の強化は必須だ。布石を打つ直前に箱庭全体に
対してウルキオラは『絶対無』に目覚め、箱庭の法則から逸脱しかけている。あと一ヶ月と待たず、ウルキオラは箱庭の法則を完全無視した存在となる。元々絶対無は存在論を超越し、無は宇宙論の原初となっている故に宇宙論の上位存在なのだ。終末論などの人類最終試練を含めた宇宙論では絶対無を揺るがす事は不可能であり、そもそも倒すようなものではない。
こういった事により、ウルキオラが人類最終試練に挑む事はない。例え対立したとしても箱庭の法則を完全無視している絶対無に人類最終試練は適応しない為、逆に絶対無によって箱庭諸共消し飛ばされてしまう。第三観測宇宙にとってその法則を完全無視している絶対無は恐ろしいものだ。抑止力などは全く役に立たない為に対抗手段も無く、箱庭そのものが絶対無に対して『鬩ぎ合いを回避する』という意思となり、『絶対無と箱庭の衝突が発生しない』という結果に帰結する。
だがあくまで絶対無に対してのみであり、ウルキオラが独自に持つ神格面ならば挑む事も可能だ。問題としてはその神格面も絶対無の影響を受けている故に箱庭の法則から逸脱している事でウルキオラ側が有利な状況となる事だが。
しかし人類最終試練の際、ウルキオラは傍観者として立ち会うつもりだ。もしかするとそれによって心の理解を深められるかも知れない。人と神の戦いは壮絶故に、必ず大きな事が起こるからだ。何より人である黒崎一護と戦ったウルキオラが心を知り、理解したいと思った事が証拠だ。
だが、今のままでは人類最終試練に対し逆廻十六夜も含めて到底太刀打ち出来ないだろう。それではいけない。その未来だけは必ず回避しなければならない。ならば人類の勝利の為に手を打とう。試練は困難であればあるほど人は強くなれるのだから。
「……手段は講じた」
最後であろう地点に剣虚閃を突き刺す。最後の剣虚閃も抵抗なく地面へ吸収された。
それを見届けたウルキオラは顔を上げ、街道の先を見据えた。
「居るのは解っている。出て来い」
まるで最初から分かっていたかのような物言いで語りかける。そして街道の先、正確には街角から濃密な死の気配が溢れ出る。
そこから現れたのは斑模様のワンピースを着た少女と、黒い軍服を着込み同身長はあろう大きな笛を肩に抱える男性の姿だった。
「貴方ね。先程から色々と動いている、白夜叉以上の神格を持つ人は」
「成程、直接見りゃヤベエ感じがヒシヒシと伝わって来てんな」
少女は冷静に、男性は飄々とした物言いだが、内心では想定外の事態だと焦燥を抱いていた。そして相対するウルキオラは二人を瞳に移し、口を開く。
「……ほう。お前達が“幻想魔道書群”、否、“グリムグリモワール・ハーメルン”か。
貴様が黒死病の化身、八千万の死の功績を持つ“
「何?」
「……何処でそれを?」
既に相手の正体を知っているウルキオラに、あくまで冷静ながらも計画の支障に悩まされる黒死病の化身、ペスト。それを傍目で見ながらウルキオラに敵意を抱く男性、ヴェーザー。
だがウルキオラはそれを受け流し、更に言葉を紡ぐ。
「成程、お前達がこれから仕掛けるギフトゲームはさしずめ“ハーメルンの笛吹き”の伝承に沿ったものだろう。まあ、そこのハーメルンの笛吹き以外は全て偽者だが、年代は近い。少なくともフェイクにはなるだろう。白夜叉を封印出来るルールも都合良くあるようだからな」
「………」
無言となるペスト。この男、ウルキオラはギフトゲームが始まる前から既にギフトゲームの内容と答えを知っている。そして最大の障害となる白夜叉を封印出来るルールすらも。
本来なら始まる前から躓く事など無かった筈だ。しかしウルキオラ・シファーというイレギュラーによって前提が大きく崩れた。白夜叉以上の神格を持つウルキオラに相手取られては勝ち目は無い。逆転の兆しすら掴めず、敗北する。
ならば、不意打ち且つ悪手ではあるが無防備の彼を今ここで始末しなければなるまい。そう思い、身構え、それを見たヴェーザーも臨戦態勢を取った。
だが。
「ごふっ……!?」
「ガッ……!」
いざ殺戮を行おうとした彼女らは腹に強い衝撃を受けて街道の奥の壁へと叩きつけられる。二人はウルキオラが何をしたのか微塵も理解出来なかった。
ウルキオラがした事は至極単純。神域の戦闘技術を以って二人に肉薄し、二人の腹に一発ずつ拳を直撃させただけ。
あまりにも重い一撃。その一撃は逆廻十六夜の山河を砕く一撃を遥かに凌駕している。正に星を砕く威力を持った拳だ。証拠に二人は口から血を流している。
「ぐ……ぅ」
「ハッ……こりゃシャレになんねぇぜ……」
混濁する意識を何とか保ち、立ち上がるペストとヴェーザー。だがこれでは到底ウルキオラに勝ち目は無くなった。相手は無手、腰に刀を差しているが抜刀する素振りすら見せない。加えて武人が夢見る境地である神域の戦闘技術を有し、切り札すら全く切っていない。
この二人に状況を覆す策など無く、最早あの男にギフトゲームは意味を成さない。現時点でウルキオラは自らの意思次第でギフトゲームを完全無視出来るだけの存在となっているからだ。
だが、その状況をあっさり覆したのは他でも無いウルキオラだった。
「安心しろ。今更お前達をどうこうする意思は無い。俺が倒してしまっては意味が無い。……寧ろ、明日仕掛けるだろう貴様等の勝算を上げる為にこの地に細工をした」
「……何ですって?」
怪訝とした表情で聞き返すペスト。ヴェーザーは黙りつつウルキオラを睨みながら言葉を待つ。
「端的に言う。貴様等はどう足掻こうとギフトゲームに敗れる」
「何っ……!」
その言葉に憤怒の表情を浮かべ、睨みつけるペスト。殺意に溢れ、死の威容が現れる。
「待って下さい、マスター」
だがそれを止めたのはヴェーザーだった。
「ヴェーザー……」
「全力で歯向かった所で、アイツには勝てません。それを一番分かっているのは他ならぬマスターでしょうに。悔しいのは分かる。だが、俺たちが成し遂げなければならないのはアイツを倒すことじゃねぇ」
ペストは見る。ヴェーザー本人の瞳にはペストよりも遥かに悔しさの色に染まっていた。それでも止めるのは親愛なるマスターであるペストを守る為。彼にとっての第一とは、ウルキオラを倒す事ではなく、悲願の成就でもなく、ペストであった。
彼の瞳には、ペストを何としてでも守り通し、彼女の意思を尊重する覚悟が映っている。もしもウルキオラがペストを殺す気であれば、躊躇なく我が身を盾にして彼女を逃すだろう。それだけの確固たる信念がヴェーザーにはあった。
それを一番理解しているのは他ならぬペスト。彼のその姿勢には好感を抱いているし、今ではラッテンも含め、大事な家族だと思っている。そんな彼の諌言を無視する程、ペストは愚かでは無かった。
ペストは憤怒の感情を抑え込み、再び冷静な表情へと切り替える。
「……続けて頂戴」
「良いだろう。……大方、貴様等を招き入れたのはサラマンドラだろう。ならば、招き入れた奴らに勝算が無いとでも思っていたのか?」
「それは……」
「貴様等に対して勝算が在るからこそサラマンドラは招き入れたのだ。舞台装置を敷き、起こり得るだろう展開を予め脚本し、結末までも全てが奴らの掌の上。それをより確実にする為に
その事実に気付く者は逆廻十六夜のみだろう。最も、判明されるのは終盤になってからであろうが。その事実を聞かされ、ペストは歯噛みする。我らの悲願すら舞台措置として利用されるのか、そう思えば思うほど悔しさが募る。
「だからこそ、その下らん脚本を諸共崩す一手を俺が打った」
「!」
その言葉を聞いたペストを目を見開く。それは敵に塩を送る行為と同義だ。何故ウルキオラがそのような事をするのか理解出来ない。
「……一体何を目論んでいるの?」
「大した目的はない。ただ貴様等のギフトゲームを相応の試練へと改竄しただけに過ぎん」
そう言うと踵を返し、この場から去ろうとする。すると立ち止まり、ペスト達へ顔を向けた。
「……貴様等に俺の力を貸そう。精々、驕り昂る事なく悲願とやらを成就して見せろ」
貴様等の意志でな、と告げ、響転によって姿を消した。
その姿を目を反らす事なく見届けたペストは口元と血を袖で拭き、ウルキオラがいた場所を睨みつける。
「やって見せるわよ。貴方に言われなくてもね。その力、遠慮なく貸してもらうわ」
そしてペストはヴェーザーに向き直る。その瞳には真摯なまでの色が込められていた。
「ヴェーザー、改めて言うわ。お願い、力を貸して。私の家族を守り通す為に。悲願の成就の為に」
「
ペストの命にヴェーザーは巨大な笛を片手に跪き、肯定の言葉を述べる。
マスターの為ならば、幾らでも力を貸そう。この身が朽ち果てるまで。それまでは、貴女を必ず護り通して見せよう。
「ま、これはラッテンにも言わなきゃね。茶化して来るかも知れないけど……」
「……フッ、その時はその時で拗ねてやりゃ良いんですよ。俺達はいつもそうだったじゃないですか」
「……そうね、そうだったわね。フフッ」
お互いに微笑み、二人を黒い霧が包む。
「勝つのは私達よ。我等が悲願の贄となれ」
白き死神に力を貸して貰う事には不満だが、使えるものは全て使う。決してその力に驕り昂らずに。我等が意志を以って敵を打ち破る。その先に必ず悲願が待っている。
そして黒い霧が晴れた場所に二人の姿は消えていた。
彼女達は確固たる意志と覚悟でサラマンドラに挑む。
絶対に勝つ。
勝つのは、我等だ。
さて、ペストちゃん率いるグリムグリモワール・ハーメルンが原作とは違う感じに。
絶対無に関してはWikiを見た上での独自解釈or独自設定なのでツッコミは無しで。
あと、開示する必要性はないが、現時点のウルキオラの戦闘技術は天魔・大嶽より少し下くらい。剣の技量も天魔・悪路より少し下。
ペスト:ヴェーザーやラッテンを大事な家族と思っている。二人を守る為に悲願は必ず成就させる。若干改変した感じ。ゲームメイクの甘さはそのままである。だが決して驕り昂る事はしない。
ヴェーザー:こいつが最も改変されている。ペストとラッテンを家族と思い、特にペストには親愛の情を持ち、護るべき者だと認識しており、悲願よりも彼女の事を最優先する。正に騎士そのもの。
言葉遣いも原作と少々異なり、ペストに対しては緩め。
彼に関しては、ペストを何よりも最優先する為、ペストの事になれば自らの霊格を超えた力を発揮する。そして尚且つグリムグリモワール・ハーメルン内で最も冷静で、的確な判断を下せる。ペストの為ならば、絶対に勝てない相手(ウルキオラ)に怒りに身を任せて挑みかかりそうになるペストを諌める事すらする。どこで勝たなければならないのかを考え、必要のない戦いは回避している姿勢にはウルキオラも多少なりとも評価している。
ぶっちゃけ、この後の展開は十六夜ちゃんとヴェーザーの殴り合いがメインとなる。一番魅せて行きたい所。
ラッテン:唯一登場しなかった人。まあ、ウルキオラとペスト&ヴェーザーが遭遇した同時刻に飛鳥の胸に収まったメルンをネズミを使って追い掛け回していたからしょうがないね。
グリムグリモワール・ハーメルン内のムードメーカー。ペストはお気に入り、ヴェーザーは戦友といった所か。
この話の後、ペストちゃんに真摯にお願いされた彼女は内心狂喜乱舞し、アクセル全開となった。勿論、外側は真面目にやったよ。内側がふざけているだけで。
勝率はグリムグリモワール・ハーメルンが7、サラマンドラやノーネーム達が3といった所。
ウルキオラからの補正に加え、覚悟の差が違うからこうなった。