第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

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この作品、『第4十刃が異世界に来るそうですよ?』ですが、昨日偶々日間ランキングを見てみると、一位になっていました! 嬉しいです!
これも読者様方の応援が有ってこそです! 有難うございます!
これからもよろしくお願いします!



今回のガルドと邂逅する時のシーンは意外と苦手だったりします。

難産かも知れませんが、よろしければどうぞ。


3.『全てを、話せ』

 ーーー箱庭2105380外門・内壁

 

 飛鳥、耀、ジン、三毛猫、そしてウルキオラの四人と一匹は石造りの通路を潜り、箱庭の幕下へと出た。其処には先程の日の光が降り注ぎ、空を覆う天幕が飛び込んで来た。

 

『お、お嬢! これは凄いで! 外から天幕の中に入った筈なのに、御天道様が見えとる!』

「……本当だ。空から見た時は箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

(……ほう、これは大層な仕掛けだ)

 

 確かに箱庭の上空から見た時は、この様な街並みは目視する事は出来なかった。しかし、箱庭の内側から入れば空には太陽が姿を現している。

 これは驚愕せざるを得ない。流石は神魔の遊戯を行うステージだと言う事か。彼の主である藍染や十刃の本拠地であった虚夜宮(ラス・ノーチェス)も様々な仕掛けは存在していた。だが、この様な大規模な程の仕掛けは無い。この事にウルキオラは箱庭のこの仕掛けに少し興味を持ったのだった。

 

「箱庭を覆う天幕は内側から入ると不可視になるんです。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為に設置されていますから」

 

 ジンがそう説明すると、飛鳥は訝しげな表情を作り皮肉げに言った。

 

「あら、この箱庭には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

「え? そうですけど……」

「……そう」

 

 幾分複雑な表情を作る飛鳥。だが無理もない。吸血鬼という種族は元々架空の種族であり、どの様な生態なのか不明なのだ。それに加え、この箱庭で住む事が出来る様な種とは思えなかったのだ。

 一方ウルキオラはその話を隣で聞いていたが、この箱庭の大規模な仕掛け程の興味を持つ事は無かった。此方は元を辿れば霊そのものなのだから吸血鬼と比べると明らかに(たち)が悪い。

 

「わあ、獣人達がいっぱい……」

「はい、この箱庭には人間や獣人は勿論、修羅神仏や精霊、悪魔等様々な種族が住んでいます。先程の吸血鬼も同じですね」

「箱庭って本当に凄いわね」

 

 耀がそう呟くその周囲には頭に獣の耳を生やした獣人達が大勢とその街並みを賑わせていた。特に東区画と呼ばれるこの付近は農耕地帯となっており、その気性は穏やかである。

 

「まだ皆さんは箱庭に召喚されてばかりで落ち着かないでしょう。この後の説明は軽く食事をしながらでもどうですか?」

「そうね。そうさせて貰うわ」

 

 ジンの案内にて噴水広場に有る近くのカフェテラスで軽く食事を取る事になった。そのカフェテラスには“六本傷”の旗が掲げられていた。ウルキオラはその旗印が気になり、視線をジンに向け質問する。

 

「おい、餓鬼」

「はっはい、何でしょう?」

 

 ウルキオラのその鋭い視線に黒ウサギと同様に軽く怯みながら返事をする。餓鬼と呼ばれた事に関しては言い返せる様な相手では無いので素直に質問に答えるだけに徹した。

 ウルキオラはジンに向けていた視線を“六本傷”の旗に移す。ジンもそれに合わせる様に視線を移した。

 

「……あの旗印は何だ? コミュニティとやらの象徴と言う奴か」

「は、はい。ウルキオラさんの言う通りでコミュニティを主張する為には欠かせないものです」

 

 そう、前回も説明したがギフトゲームを主催するコミュニティには少なからず箱庭の中で名声を持っている。とはいえ、ただ名声を持っているだけではそれは意味を成さないのだ。

 

 コミュニティに最も重要不可欠なもの、それは名と旗印である。

 

 この箱庭で活動する為には、そのコミュニティの名と旗印を申告しなければならない。そうしなければコミュニティと言う『団体』が認められないからだ。

 名と旗印が存在しないコミュニティは『ノーネーム』や『名無し』等と呼ばれ、他のコミュニティからは差別の対象とされる。とはいえ、コミュニティと言われればコミュニティである。しかし、そのコミュニティが幾ら功績を挙げても、それは殆ど無駄な行為で終わってしまう。

 

 では何故、『ノーネーム』や『名無し』と呼称されるコミュニティはその様な扱いを受けるのか。

 

 簡単に例えるとして、子供達が秘密基地を作ったとしよう。「ここが俺達の国だ!」と宣言した所で、それが国や政府に認められる筈が無い。結局はその程度の価値観にしかならないのだ。

『ノーネーム』や『名無し』呼ばわりされる組織はそう言う存在なのである。差別の対象にされる事は当然とまで言った方が良い。

 

「……そうか、もう良い」

「? は、はい……」

 

 ウルキオラはそれだけを聞くと、質問を切り上げた。ジンは訝しげな表情をしたが、ウルキオラの真意は分からず仕舞いであった。

 その後はカフェテラスに座り、それぞれの注文を取っていた。因みにウルキオラは紅茶だけだ。

 

「えーと、紅茶を三つと緑茶を一つ。後は……」

『ネコマンマを!』

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね〜」

 

 店員である猫耳の少女がそう言うと、ウルキオラを除く三人が不可解そうに首を傾げた。そして最も驚愕していたのは春日部耀であった。彼女は信じられないものを見る様な目で店員の少女に問い質す。

 

「三毛猫の言葉が分かるの?」

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから」

『ねぇちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やなぁ。今度機会が有ったら甘噛みしに行くわぁ』

「やだもーお客さんったらお上手なんだから〜♪」

 

 三毛猫の褒め言葉に店員の少女は上機嫌で店内に戻って行った。

 その様子を見た耀は三毛猫の頭を撫でて言う。

 

「……箱庭って凄いね。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

『来て良かったなお嬢』

「ちょ、ちょっと待って! 貴方まさか猫の言っている事が分かるの!?」

 

 耀の自分は動物と話す事が出来るかの物言いに、飛鳥が身を乗り出して質問する。ジンも同じ様に興味深そうに質問した。

 

「もしかして猫以外の動物とも会話は可能ですか?」

「うん。生きているなら誰とでも会話出来る」

「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

「うん、きっと出来……る? ええと、確か鳥で話した事があるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

「「ペンギン!?」」

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

「た、確かにそれは心強いギフトですね。この箱庭では幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

 勿論、この箱庭には幻獣も住んでおり、神格を持った幻獣ならば大抵の言語の壁はクリア可能だ。だが、それ以下の幻獣ではそれが不可能に近いので、この様な全ての動物と会話出来るギフトというものはこの箱庭では希少だったりする。

 因みにウルキオラが驚愕しなかった理由は、彼は動物とは話せない代わりに会話は愚か、目視すら不可能である魂魄や霊と通じる事が出来るからだ。此方も此方で壁は高い。

 

「そう、春日部さんは素敵な力が有るのね。羨ましいわ」

「そうかな? 久遠さんは」

「飛鳥で良いわ。よろしくね春日部さん」

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

「私? 私の力は……まあ酷いものよ。だって」

「おやおや? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 突然、飛鳥の言葉を遮り椅子に腰を下ろしたピチピチのタキシードを身に纏った2m超えの身長を持つ奇妙な男が現れた。ジンはその姿を見て顔を顰め、その男に返事をする。

 

「……ガルド」

「あら、貴方は一体誰なのかしら?」

「おおっとこれは失礼お嬢様方。私はコミュニティ“フォレス・ガロ”のリーダー、ガルド=ガスパー。以後、お見知り置きを」

 

 己の名とコミュニティを自己紹介しながらジンを除いた三人に愛想笑いを向ける。当然ながら二人は冷ややかな態度で返したが。紳士の格好をしているが、所詮似非紳士と言う事だ。因みにウルキオラは完全に無視を決め込んでいるが故に、知った事では無い。

 

「……貴方の同席を認めた覚えは有りませんよ。ガルド=ガスパー」

「黙れ。用があるのはお前じゃ無え。ここにいるお嬢様方だ」

「私達?」

「ええそうです。単刀直入に言います。よろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

 ガルドから突然の勧誘。余計な建前などは省き、直接本題へ持ち込むその言葉にジンは怒り、テーブルを叩いて抗議する。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。この過去の栄華に縋る亡霊が。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてるのか理解出来てんのか?」

「そ、それは……」

「はい、ちょっとストッ」

 

 

「おい」

 

 

 過去の亡霊。その発言にジンの怒りは萎縮してしまい、言い淀む。そこに間を遮る様に手を上げようとした飛鳥だが、それよりも早くウルキオラが発言した。そして、ウルキオラがその一言を発しただけで周りの四人は静まり返った。

 その雰囲気が続いていたが、暫くしてジンが僅かながら口を開いた。

 

「……な、何でしょうか?」

 

 一言。たった一言を言葉にするだけで相当な時間を使ってしまう。それだけの重苦しい威圧感がウルキオラから発せられていた。それに加え、ウルキオラ独特の翠色をした双眼がジンに突き刺さっている事がよりジンにプレッシャーを与えていた。その様子を翠色の双眼に映していたウルキオラは静かに口を開く。

 

「……話せ」

「……え?」

「……俺は既に察している。躊躇するな。貴様のコミュニティの現状を全て話せ」

「ッ!!」

 

 それはジンにとってあまりにも唐突過ぎる宣告。動揺を隠し切れないその様子に飛鳥が質問する。

 

「ウルキオラさん、それは一体どう言う意味なのかしら?」

「そのままの意味だ。それはこの餓鬼の口から(じか)に分かる」

 

 その質問に対し、不要だと言わんばかりに切り捨てるウルキオラ。説得力の有る台詞では無いが、ウルキオラがそれを発言すれば妙に説得力の有るものに変わる。飛鳥はそれだけを聞くと、視線をジンの方向へと向ける。耀も同じ様に視線をジンへと向けた。

 

「……貴様はコミュニティのリーダーと名乗った。ならばあの兎の女と同様に、この世界に呼び出したこいつらに貴様のコミュニティの状況を説明する義務が有る。違うか?」

「……はい」

 

 それを見ていたガルドはこれこそ此方へ引き入れるチャンスと感じ、以前のジンのコミュニティを語ろうと含みの有る笑顔と上品ぶった声音で話し掛けた。

 

「ジェントルメン。貴方の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼は頑なにそれを拒むでしょう。よろしければ」

「黙れ、塵が。俺は今、この餓鬼と話をしている。塵の出る幕など有りはしない。塵は塵らしく引っ込んでいろ」

 

 しかし、それはウルキオラにとって逆効果である。自分は今、目の前の人間と話をしているのにも関わらず、それに横槍を入れられるのだ。ウルキオラにとってこの上無く鬱陶しいものである。

 ガルドはウルキオラのその言葉に僅かに青筋が浮かぶものの、自称紳士で通っている今は我慢する他なかった。

 そしてウルキオラはガルドを見下した態度で侮蔑しようとも、視線をジンから捉えて離さなかった。

 

「貴様がどれ程過去を語る事を拒もうが関係無い。これは命令であり、貴様の義務だ」

「……」

「もう一度言う。話せ」

 

 ジンはカフェテラスに座る前に“六本傷”の旗印の事でウルキオラに問われた。

 そう、この時点で彼は既に察していたのだ。だが、ジンはそれに気付く事は無かった。

 本当はあの時点でジンは察するべきであった。そうすれば、この様な事態には陥らなかった。

 

 嘘を吐き、欺いた上で新たな人材を引き入れる真似さえしなければ。

 

 だが、どうにもならなかった。弱小コミュニティである以上、嘘を吐く他に新たな人材を引き入れる術が無かったのだ。

 そして、ウルキオラはそれを既に看破していた。彼は実際に遠回しでこの様な事を言っているだろう。

 

 

『この俺が、見え透いた嘘如きで欺けるとでも思うな』

 

 

 ウルキオラの言葉に威圧感が込められているのは無理も無い。彼等を騙したのは此方側だ。非も責任も完全に此方側に有る。

 

 だからこそ、話さなくてはならない。

 

 

「……分かりました、話します。僕らのコミュニティの現状を」

 

 

 ジンは意を決して話し始めた。過去のコミュニティの話を。

 

 当時のリーダーは自分と比べ物にならない程に別格だった事。

 

 ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持ち東区画最強のコミュニティだった事。

 

 東区画だけで無く南北の主軸コミュニティとも深い親交が有り、南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込む程のコミュニティだった事。

 

 そして、“人間”の立ち上げたコミュニティで輝かしい数々の栄華を築いたコミュニティがーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー箱庭最悪の天災、『魔王』と呼ばれる者にたった一夜にして壊滅させられた事を。




と言う事で、ウルキオラがぶっちぎってジンにコミュニティの現状を話させました。

ウルキオラはこういう余計な建前は嫌いですからね。原作ではそう言う要素が有ったのでこの作品では省きました。アニメみたいな感じで。

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