第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

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やっと出来ました……!
取り敢えず今回は一万文字超えを目標としてやりました!
次回は多分平均五千文字に戻りますのでご了承ください。


5.白と白・虚無と白夜

 それは、十六夜と黒ウサギが噴水広場に合流した時の事である。

 

「フ、フォレス=ガロとゲームをするうううぅぅ!?」

 

「な、何であの短時間にフォレス=ガロのリーダーと接触して更に喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している暇も有りません!」「一体どういうつもりなのですか!」「というか聞いているのですか四人とも!!」

 

「聞く必要が無い」

「「「ムシャクシャしてやった。今も反省していない」」」

 

「騙らっしゃい!!」

 

 スパァーン! と黒ウサギのハリセンが三人の頭に直撃する。ウルキオラだけは軽く体を逸らして躱したが。寧ろ怒りの矛先が此方にも来た事に対して不快感を示していた。

 ウルキオラはこの騒動の中にいたとはいえ、余り深くは関わっていない。このギフトゲームに置いても彼は参加していないし、するつもりも無い。

 まずそれ以前にこの騒動に幕を引いた他でも無いウルキオラだ。このギフトゲームは飛鳥がそう宣言したものであってウルキオラ本人は一切関わっていない。

 黒ウサギは生憎、現場にいなかったので言伝(ことづて)だけで全てを把握してはいないという事も有る。だがそれだけでハリセンを此方にまで向けようなど、ウルキオラにとって迷惑千万なのである。一層の事、あのハリセンを斬魄刀で一刀両断してやろうかという思いが頭を過ぎり斬魄刀に手を掛けたが、更に面倒臭くなるだろうと思い却下した。

 その四人の様子をニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「まあ良いじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売った訳じゃねえし許してやれよ。それにウルキオラがお前のハリセンを斬ろうとしていたから考え無しでツッコミを入れるの止めておいた方が良いぞ」

「うぅ、それは黒ウサギが悪いと思います。でもこのゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この“契約書類(ギアスロール)”を見て下さい」

 

 黒ウサギはそう言いながら“契約書類”を十六夜に見せる。

 “契約書類”とは“主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催する為に必要となるギフトである。

 そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品などが書かれており、これに主催するコミュニティのリーダーが署名することでゲームが成立する。そして、その“契約書類”に記されていた賞品の内容はこうであった。

 

「“参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”ーーーまあ、確かに自己満足だな。時間を掛ければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだしな」

 

 これが、今回のギフトゲームに置いての賞品の内容だった。ノーネームとなり、衰退した状態での初のギフトゲームにしてはあまり華が無いだろう。“相手は罪を認め法の下で裁かれ、コミュニティを解散する事”に対して此方側は“罪を黙認する”というものだ。この様な内容は箱庭のギフトゲームでも有る意味レアケースものだろう。華が無いとか地味などと言われても仕方が無い事である。

 

「確かにそうですけど時間さえ掛ければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その……」

 

 黒ウサギも流石にフォレス=ガロがそこまで酷い状態であった事は思いもしなかったのであろう。最後の方で言い淀む。

 

「その通りよ。人質は既にこの世にいないわ。まあその点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそこには少々時間が掛かる事も事実よ。あの外道を裁くのに無駄な時間を掛けたくないの」

 

 箱庭の法の有効範囲は箱庭都市内のみ。外は箱庭の管轄外であり、様々な種族のコミュニティが各々独自の法を敷いて生活している。其処へ逃げ込まれたら最後、箱庭の法で裁く事は不可能となる。

 

「それにね黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされる事が許せないの。此処で逃がしてしまえば、また必ず狙って来るに違いないもの」

「そ、それはまあ……逃がせば厄介かも知れませんけれど」

「僕もガルドを逃がしたくないと思ってる。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

 飛鳥の言にジンも同調する姿勢を見せる。それに対し黒ウサギは諦めた様子を示し頷いた。

 

「はぁ〜、仕方が無い人達です。まあ良いデス。黒ウサギも腹立たしいのは同じですし。フォレス=ガロ程度なら十六夜さんかウルキオラさんがいればーーー」

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「参加する気など毛頭無い」

「HA?」

「当たり前よ。貴方達は参加させないわ」

 

 黒ウサギが言いかけた時に参加をきっぱりと拒否する二人。その事に黒ウサギは唖然となり、慌てて食って掛かる。

 

「だ、駄目ですよ! 御二人様はコミュニティの仲間なのですからちゃんと協力しないと」

「そういう事じゃねえよ黒ウサギ」

 

 だがそこで十六夜が真剣な表情となり、黒ウサギを説き伏せる。

 

「いいか? この喧嘩はコイツらが売った。そしてヤツらが買った。そこに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ。まあ俺は兎も角、ウルキオラはこの事に関与する気は更々無えみてえだし、説得しても無駄だぜ?」

「……その通りだ」

「あら、分かっているじゃない」

「……もう好きにして下さい〜」

 

 彼等に振り回された黒ウサギには既に言い返す気力すら残っていない。もうどうにでもなれとばかりに投げやりになり肩を落とすのであった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「“サウザンドアイズ”?」

「Yes!“サウザンドアイズ” は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティなのですヨ!」

 

 あれから暫くして、黒ウサギ達一行は明日のギフトゲームに備えて召喚された四人のギフト鑑定をするべく、その目的地へと歩を進めていた。因みにジンは先にコミュニティへと帰って行った。

 その中で“サウザンドアイズ”と呼ばれるコミュニティは黒ウサギの言った通り、箱庭全体に精通する超巨大商業コミュニティである。

 だが商業コミュニティと言えど侮るなかれ、その幹部クラスに置いては箱庭の天災と恐れられる魔王級の実力を持つ者達ばかりだ。嘗めて掛かれば、そのコミュニティが軽く崩壊しかねないのである。

 

「ギフトの鑑定というのは?」

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。それに皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

 黒ウサギがそう言い、十六夜・飛鳥・耀の三人は複雑な表情を作る。だがウルキオラはそう深く考える程の事では無かった。

 元々、ウルキオラの力はギフトとは言い難い。新たに発現した『天鎖斬月(?)』は兎も角、『黒翼大魔』は虚から破面へと昇華した際に進化の過程として得たものだ。

 自らの進化の壁を突き破り新たな次元へと足を踏み入れ、強大な力を得るのだから其処に修羅神仏からの恩恵など欠片も無いのだ。まず自分の力の出処など既に知れているので然程興味を持つ事も無い。

 

 それはさて置き、黒ウサギを除く四人は興味深そうにその街並みを眺めていた。

 ペリベッド通りと呼ばれる此処は石造で綺麗に整備されており、その両脇は桜に似た街路樹で埋め尽くされている。その街路樹から桃色の花を見事に散らせており、新芽と青葉が生え始めていた。

 

「……ほう、此れは大したものだ。現世の桜とやらもこういうものだったのだろうか……」

「でもこれ、桜の木……ではないわよね? 花弁の形がまるで違うし、何より真夏になっても咲き続けている筈が無いもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ? まだ気合の入った桜が残っていても可笑しくないだろ」

「……あれ? 今は秋だったと思うけど」

 

 其処でウルキオラを除く三人は噛み合わないと気付き顔を見上げる。ウルキオラに関しては虚圏(ウェコムンド)に季節は存在していなかった為、その辺りは不明だ。

 その様子を黒ウサギはクスリ、と笑って説明する。

 

「皆さんは其々違う世界から召喚されているのデスよ。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系などにも所々異なる箇所が有る筈ですよ?」

「へぇ? それはパラレルワールドってヤツか?」

「近いですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけれど、これを説明すると一日二日では足りないので割愛という事で……」

 

 そう言いつつ黒ウサギが足を止める。どうやら“サウザンドアイズ”の支店に到着した様だ。“サウザンドアイズ”の旗印は蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。これは『創世(アルファ)』と『終末(オメガ)』の双女神を意味するのだが、これはまた後の話としておこう。

 

 支店の前には割烹着を着た女性店員が看板を下げようとしていた。そこへ黒ウサギが滑り込みでストップを掛けようとしてーーー

 

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 ーーー掛ける事すら出来なかった。そこには隙が全く見当たらない。容赦が無いとはこの事であろう。

 

「あら、なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「ま、全くです! 閉店時間五分前に客を店から締め出すなんて!」

「文句が有るなら他所でどうぞ好きにやって下さい。あなた方の今後一切の出入りを禁止します。出禁です」

「で、出禁!? たったこれだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

 そこへ更に追いうちを掛ける女性店員。本当に容赦のよの字も有りはしない。

 

「成る程、“箱庭の貴族”と呼ばれるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名をよろしいでしょうか?」

「……ぅ」

「俺達はノーネームってコミュニティなんだが」

「ほほう。では何処のノーネーム様でしょうか? よろしければ旗印を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 コミュニティの確認を迫る女性店員に十六夜が何の躊躇いも無く名乗る。だが、“名”と“旗印”が無いコミュニティでは何の示しようも無い。故に黙り込む他無かった。

 

 この光景を目の当たりにしたら普通は理不尽だと思う筈だ。しかし、世界が違えば常識も違う。

 この光景こそ、箱庭では有り触れた常識とも言えるものなのだ。決して理不尽などでは無く当たり前の事である。

 ネームバリューも無ければそれを示す旗印も無い。そんな何も価値の無いコミュニティを超巨大商業コミュニティが易々と信用する筈が無い。それは“サウザンドアイズ”に限った事では無く、様々なコミュニティでも同様の事である。超巨大なコミュニティである彼らだからこそ客を選ぶのだ。信用出来ないコミュニティなど無下に扱うのも同然の事であった。

 その箱庭の常識に対してウルキオラ本人は寧ろ納得していた。弱い者は強い者に取り合える筈も無いし、以前の世界に置いても黒崎一護に敗北した自分に意味など無くなった様に、この世界でも弱肉強食の摂理が存在するのは変わりない。

 まあ女性店員の態度が気に食わない部分は有るだろうが、それはウルキオラには関係の無い事だ。

 

 流石に黒ウサギと言えども限界だった様だ。彼女は心底悔しそうな表情を作り、小さく呟いた。

 

「その……あの……私達に、旗は有りま」

「いぃぃぃやっっっほおぉぉぉぉぉぉぉ!! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィィ!!」

 

 その直後、黒ウサギは店内から爆走して来る着物服を着た雪の様に真っ白な髪をした少女にフライングボディーアタックされ、街道の浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあーーーー…………」

 

 そしてボチャン、という音と共に悲鳴が遠くなる。これには目を丸くするしか無い。ウルキオラは呆れた表情で見ていたが。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスでもあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

 

 この騒ぎの中、二人はお互いに真剣に言っていた。そして女性店員は頭を抱えている。自分のコミュニティには律儀ではあるが、上司がこの様な有様では示しがつかないのだろう。非常に困り果てている様子であった。

 それを他所に黒ウサギを強襲した白い幼女は、彼女のたわわな胸に顔を埋めてなすり付けていた。一方の黒ウサギは驚愕した表情を現していた。

 

「し、白夜叉様!? 何故貴女がこんな下層に!?」

「それは私の黒ウサギハイパーセンサーにおんしの反応をキャッチしたからに決まっておる! いやぁやっぱり黒ウサギは触り心地が違うのう! ほれ、ここが良いかここが良いか!」

「し、白夜叉様! いい加減に離れて下さいっ!」

 

 スリスリスリ、となすり付けを止めるどころか更に加速させて行く白夜叉と呼ばれる幼女。流石に黒ウサギも耐えられなかった様で、無理矢理引き剥がして投げ付けた。投げられたソレはウルキオラの横を通り過ぎ十六夜に向かって来たのだが、十六夜はそれを足で受け止めた。手荒い扱いである。

 

「てい」

「ゴバァ!? コ、コラおんし! 飛んで来た初対面の美少女を足で受け止めるとは何様じゃ!」

「十六夜様だぜ。以後ヨロシク和装ロリ」

 

(……本当に騒がしい連中だ)

 

 珍光景とも言えるものを目にしたウルキオラの心中はその様なものだった。十刃ではこの光景は一切無く、張り詰めた緊張感だけが支配していたものだ。有るとすれば普段やる気の無いスタークにリリネットが何時も通り説教していた事だけか。あの二人だけはマイペースであったが故に、今の光景はその時と余り変わりないものだと思っていたのだった。

 ウルキオラがそう思っている間に今まで呆然としていた飛鳥だったが我に返り、白夜叉に話し掛けた。

 

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割りに発育の良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

 先程まで頭を抱えていた女性店員が冷静に釘を刺す。だが心中ではまだ頭を抱えているに違いない。

 そこへ、濡れた服を絞りながら水路から上がって来た黒ウサギは心の中で泣きながら呟く。

 

「うぅ……まさか私まで濡れる事になろうとは……」

「因果応報……かな?」

『お嬢の言う通りや』

 

 耀と三毛猫に言われ、肩を落としながら服を絞る。その姿には哀愁が垣間見られた。哀れ黒ウサギ。

 それと反対に白夜叉は召喚された四人を見てニヤリと笑う。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新たな同士か。と言う事は遂に黒ウサギが私のペットに」

「なりません! 何処からそんな起承転結が来てそうなるのですか!」

 

 先程の哀愁は何処へやら、ウサミミを逆立てて怒り始める黒ウサギ。正直、何処までが本気のラインなのかが分からないのでこう言う事に関しては必ずツッコミを入れると決めている。

 

「まあ良いだろう。取り敢えず入るが良い。要件は後から聞こう。」

 

 白夜叉がそう言いながら店内へ案内する。黒ウサギは自分達がノーネームである為、戸惑う。しかし、白夜叉は「ノーネームだと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ」と笑って言った。その事に女性店員はムスッと顔を顰めるが、彼女はルールを遵守しただけなのだから気を悪くするのは仕方の無い事だろう。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 白夜叉がそう言いながら案内されたのはやや広めの和室であった。個室というにはいささか広いものである。

 そこに全員が腰を降ろし、改めて本題を切り出した。

 

「さて、もう一度紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本題を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女である」

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 黒ウサギが投げやりで言葉を受け流していると、耀が小首を傾げて質問する。

 

「ねえ、その外門って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若い程都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 箱庭の外門は1桁から7桁まで7つの層に分かれ、1〜4桁が上層、5桁が中層、6・7桁が下層と言われ、それぞれを区切る外門には数字が与えられている。若番の層ほど修羅神仏の猛者が集まり、1桁の差ながらも上層と中層の実力差は天と地の差がある。

 上1桁が住所のようなもので、東が1~3 北が4~6南が7~9となっているのだ。

 そして、黒ウサギから伝えられたその箱庭の図を見た十六夜、飛鳥、耀と言えば、

 

「……超巨大タマネギ?」

「いえ、どちらかと言えばバウムクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかと言えばバウムクーヘンだな」

 

 その身も蓋もない言葉に、黒ウサギは肩を落とし項垂れる。とはいえ、簡潔な例えとしてはその様な感じだろう。一々小難しい例えでは埒が明かない。

 

「ふふ、上手い事例える。その例なら今いる七桁の外門はバウムクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。そして外門のすぐ外は世界の果てと向かい合う場所となっている。そこにはコミュニティに所属していないが、強力なギフトを持った者達が棲んでいるぞ。その水樹の持ち主などな」

 

 白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持っている水樹の苗に視線を向ける。十六夜と黒ウサギ以外の者達は状況だけを聞いただけで全てを知っている訳では無いが、十六夜が蛇神に勝利した事は間違いではなかった。

 

「して、一体誰がどのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? それとも勇気を試したか?」

「いえいえ。この水樹は十六夜さんが此処に来る前に、蛇神様を素手で直接叩きのめして来たのですよ」

「なんと!? クリアでは無く直接倒したとは! ならその童は神格持ちの神童か?」

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格持ちなら一目で分かる筈ですし」

「む、それもそうか。しかし神格持ちを倒すには同じ神格持ちか、お互いに余程崩れたパワーバランスがある時だけの筈。種族の力ならば、蛇と人ではどんぐりの背比べだぞ」

 

 神格とは、神仏が眷属や武具に与える、種の最高位にまで体と力を変幻させるギフトのことである。

 これを持つことで他のギフトも強化され、強大な力を持つようになるのだ。

 神格を倒せるのは白夜叉が述べた通り同じく神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけである。

 そしてより高位の種族ほど、神格を与えられたときの能力が上昇する幅が大きい。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

「いや知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

 カカカ、と笑う白夜叉の言葉に十六夜は瞳を爛々と輝かせて問う。

 

「へえ? じゃあお前はあのヘビよりも強いのか?」

「当然だ。私は東側の“階層支配者(フロアマスター)”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

 最強。その言葉に問題児達三人は一斉に立ち上がり、その瞳を更に爛々と輝かせている。

 

「そう、ふふ。それはつまり、貴女のゲームをクリア出切れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「まあ、そうなるのう」

「ヤハハ、そりゃ景気の良い話だ。探す手間が省けた」

 

 三人はその闘争心を燃やしながら白夜叉を見る。このままでは問題児達三人vs白夜叉という構造が出来上がりそうな雰囲気へとなっている。

 

(……何とも愚直なまでに蛮勇な餓鬼共だ)

 

 ウルキオラはその三人をその様な心境で見つめていた。弱い者が強い者へと戦いを挑む事は決して悪い事では無い。

 だが、それは相手の実力差を目の当たりにしてからする事。自分と戦った黒崎一護の場合は『負けられない戦い』だったからこそ、強大な相手と対峙し続けた。

 しかし、強大な相手の実力を知らず気構えもなしに挑むなど愚の骨頂である。正にこの問題児達三人はそれであり、これは無謀とも呼べるものだ。

 

 勇敢ではなく、蛮勇だ。

 

 ウルキオラが己の心境をそう思ったのはこの様な理由からだった。案の定、この問題児達三人は直ぐに相手との実力差を思い知る事になる。

 

 

 

 おんしらが望むのは“挑戦”か?

 

 ーーーもしくは“決闘”か?

 

 

 

「なっ……!?」

 

 景色の反転。それと同時に齎されたのは問題児達の驚愕であった。

 

 そこは白い雪原と凍る湖畔。そして水平に太陽が廻る世界。

 

 それは世界を創りだした奇跡の顕現。それは言葉などで例えられるものでは無い。

 

 

 

「今一度問おう。私は“白き夜の魔王”そして太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か?」

 

 

 

 その言霊は星霊、白夜叉によるもの。“与える側”の存在である彼女には其れ相応の殺気と覇気が篭っていた。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、お前を表現しているってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

「なっ!? これだけの莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”ならば手慰み程度にあそんでやる。ーーーだがしかし“決闘”を望むのならば話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

「………っ」

 

 白夜叉のその強大な力を前に、三人の問題児達は返答に躊躇ってしまう。

 此処までとは思いもしなかった。明らかに実力差が違う。勝ち目など有りはしない。

三人が沈黙する中、それは暫しの間続きーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無論、決闘だ」

 

 ーーー不意に、それは辺りへと響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

「ほう……?」

 

 それは、他でも無いウルキオラからの返答だった。その表情には迷いの一点すら見当たらない。問題児達三人は兎も角、黒ウサギも驚愕した。

 

「ちょ、ちょっとお待ちをウルキオラさん! 相手はあの白夜叉様です! 勝ち目など万に一つも有りません!」

「黒ウサギの言う通りだぜウルキオラ。相手は最強クラスの星霊で魔王サマの白夜叉なんだぜ?」

「無論だと言っている。この程度の芸当など、驚愕するに値しない」

「ほう、これを“この程度”だと……」

 

 ウルキオラのその言葉に白夜叉の視線は鋭くなり、ウルキオラを見据える。対してウルキオラもその翠の双眼で白夜叉を鋭い視線で捉えている。

 

「おんしはこれをこの程度の芸当と言った。その理由は如何に?」

「簡単な事だ。貴様がこの世界を容易く創れる様に、俺がこの世界を破壊する事など容易いからだ」

 

 さも当たり前の様にそう言ったウルキオラ。それに白夜叉は口元を僅かに釣り上げた。

 

「ほう、そこまで大胆に発言するか。だがのーーー」

 

 

 

 

 

「ーーー余り調子に乗るなよ。小僧」

 

 刹那、殺気が世界を包む。

 

 

 

 

 

「ーーーッ!!」

 

 否、それは殺気という次元では無い。ウルキオラを除く、問題児達や黒ウサギはその重圧に思わず片膝を着かされてしまう。

 

 それは、星の殺意。

 

 最早殺気とは呼ばなくなったそれを、ウルキオラへと直接ぶつける。問題児達すら思わず片膝を着いてしまう程の重圧を一点にぶつけられているウルキオラ。

 だが、それでもウルキオラは揺るがない。彼はそれを、

 

 

 

 

 

「所詮、その程度だ」

 

 己の霊圧で押し返した。

 

 

 

 

 

「!」

 

 星の殺意ともいえるこの重圧をいとも容易く霊圧で押し返された事実に目を見開く。

 星霊である自分の重圧がまさか押し返されるとは夢にも思うまい。白夜叉は白き死神に僅かながら焦燥感を抱いていた。

 

(まさか私の重圧を押し返すとは……此奴の霊格は私と同格の最強種か?)

 

 白夜叉が考えるこの白き死神の力。星霊である自分と此処まで渡り合えるなど、そうはいない。ならば、自然とこの箱庭でいう最強種の可能性を頭から引き出す。

 

(間違いなく此奴は神格持ちだ。星霊では無いものの、神霊と言えばそのカテゴリーに当て嵌まる。だが最強種の神霊は“生来の神霊”だけの筈。ならば、純粋に己の霊格が飛び抜けているという可能性の方が高いだろう)

 

 最強種の神霊は生来の神霊。生まれつき神霊であった者だけが最強種なのだ。ウルキオラの場合、それに当て嵌まらない。そうなると最後は彼の力が星霊並に飛び抜けて強いという結論に行き着くのである。

 ならばもう余計な憶測など無用。対等な決闘を繰り広げようではないか。

 

「ふふ、出来れば他の小僧達の返答も聞きたかったのだがの。それは後で良いだろう。まずは小僧よ、“白き夜の魔王”であるこの白夜叉が命と誇りの限り相手になろうではないか!」

 

 バッ、と扇子を広げ高らかに宣言する白夜叉。

 そこに先程の焦燥感は既に無い。有るのはかつて魔王であった頃の誇りと覇気だけ。

 

「……良いだろう。力の差を教えてやる」

 

 白き死神は静かに波紋一つ立たぬ水面(みなも)の様に、腰に挿さっている斬魄刀の柄を掴み鞘から引き抜く。その構えに寸分の隙など存在しない。

 

 その双方の対峙に、間を挟む者などいない。挟めば最後、それが自らの死へと直接繋がるからだ。

 

 白夜叉が扇子を扇ぎ、煉獄の灼熱を生み出す。それは白夜の湖畔と雪原を覆い、駆逐していく。

 

 対してウルキオラは、それを黙って見つめ一歩も動かない。翠の双眼でそれを捉えるのみ。

 

 

 

 

 

 今此処に、虚無と白夜が激突するーーー

 

 

 




次回、ウルキオラが白夜叉と対決します! お楽しみに!




今回の安全第一のどーでもいい妄想

前回の神の味噌汁にて

今回のお題:神の味噌汁の正体

・女神様が入浴した湯で作ったもの

・神が転生者に振る舞う最初で最後のO☆MO☆TE☆NA☆SI☆

・味は神のみぞ知る


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