「じゃあ作戦通りやろうか」
「……本当によろしいのですか?」
「当然」
心配するノアに対し自信満々で答えるカズキ。
「本人がいいって言ってんだ。俺達は俺達の役割をこなす。心配ならすぐにすませればいい話だろうが」
「簡単に言いますわね」
「だ、大丈夫かな、不安です」
「体張るやつの前で情けない事言わない、ビシッとする」
不安がるルリーの背中を軽く叩くリューク。
皆が覚悟を決め、控え室を出て試合場へと向かう。
試合会場
客席は一学年生で埋め尽くされている。その割にはなんか冷めきった雰囲気である。さっきまではなんか盛り上がっていたのだが、気のせいだろうか。
「なんか冷めてるな」
「Fクラス(俺達)が勝ち上がって面白くないんだろ?」
「自身を否定するような妬みほど醜いものはありませんわ」
「まあどっちが優秀で落ちこぼれかわかったんじゃないのか?」
「みなさん辛辣過ぎます」
生徒達の妬む視線を笑うジェルマンとノア。その発言が聞こえていたのか、観客から野次が飛ぶ。
「うっせぇんだよカス共。文句あんなら降りて言えや」
罵声と共にバトルトンファーを試合場に振り落とし爆発を起こす。野次が一瞬にして止む
「なら、僕達が代表して言おうかな?」
カズキ達の前に現れる金髪の男、緑色の瞳や整った顔、身なりから上品で爽やかな少年という印象だ。
セルト・クラハス、Cクラスきっての実力を持ち、そのチームはCクラスでありながら優勝候補とも言われている。
「ジェルマンとカズキだっけ?」
「そういうお前はナルトだっけ?」
「セルトですわ、カズキさん」
「おっと失礼、名前を覚えるのは苦手なんだ」
ノアに言われすぐに謝るカズキ。
「あははは、気にしないでくれ」
「キザッたらしいな、試合始まる前になんだ」
頭を下げているカズキを退かし前へ出るジェルマンは、微笑むセルトを睨む。
「すまないすまない、戦う前にどんな人か見たくてね」
「はっ、予備校の時に知ってるくせによ」
「ジェルマンじゃなくて、カズキとルリーさん、リュークさんを見たかったのですよ。もちろんノアさんもね」
微笑むセルトと目が合ったルリーは不思議そうにしているリュークの後ろにサッと隠れる。
「そんなに警戒しなくてもいいのに」
「どうでもいいからとっとと試合始めんぞ。戯れしに来たんじゃねぇんだぞ」
「失礼、それじゃあ始めましょうか」
「僕達はもう配置についているから、いつでもいいよ」
「ふざけんな、スタート地点に戻れよ」
「はいはい、精々みんなを楽しませてね。それじゃあね」
そう言うとセルトはスタート地点へ戻る。
「殺す、役割代われカズキ」
「俺がやられたらな」
「そうか、ならはやく死ね」
「酷くないか、さすがに」
「頭に血が上りすぎですわ、まるで獣ですわね」
「トマトみたーい」
「やかましい、とっとと終わらせるぞ」
ジェルマンの怒声からしばらくして試合開始のブザーが鳴る。
「行くか」
試合場を真っ直ぐに駆ける。
目の前で歩くセルトめがけ飛び上がり刀を振るう。それに気づいたセルトは手に持つ曲刀で受け止める。
「よっ、さっきぶり」
「何か作戦があるとふんだけど、まさか突っ込んでくるとはね」
「もしかして一人?」
「当然、昨日はジェルマンが突っ込んだから今度は俺の番さ」
「なるほど、君もかなりの無鉄砲なようだね」
「いいから早くしろよ、ジェルマンが来るだろ」
「そうだね、二人同時は辛いからはやく仕留めるとしようか」
そう言うと曲刀を大きく振るう。カズキはその場から離れると後ろにある木材が斬られる。
「これがあいつらが言ってた斬撃波か」
「初見でシュナイデンをかわすなんてなんて凄いや」
「事前情報はあったんでな」
「それでもたいしたものだよ、でもいつまで避け続けられるかな?」
続けて曲刀を連続で振るい斬撃波を放つ。
「そんなもん間合いに入れば意味無いだろ」
不規則に飛ぶ斬撃波を掻い潜り間合いに入り斬り合う。
「いい腕してるじゃないか、少しは楽しめそうだ」
「そりゃどうも」
振るう曲刀を弾き、大きく怯むセルト。胴ががら空きになる。
「なっ!?」
しかし、カズキはセルトに攻撃せず後ろに飛ぶと同時に、自身の真横に刀を振るい弾丸を斬る。
「避けた!?」
「そこかぁ!」
弾道を辿り場所を特定したジェルマンは、軽い身のこなしで高台へと移動し、狙撃者の顔面に渾身の一撃が入り爆発する。
「嘘だろ、弾を斬っただと!?」
「そこですわ!」
もう一人はノアが放つ氷の矢が眉間を射ぬく。
あっという間に二人の狙撃者はやられ虚空の光となる。
「まさか、やられたのか」
後方から聞こえる爆発音に、セルトはハッとモニターを見ると狙撃者二人に赤色のバツ印がついている。
「お前は狙撃者を誘き出す囮だったというのか」
「そうだな、お前と同じ立ち位置ってわけだ」
「くそ、まさかこんな奴らに破られるとは」
「確かに実戦的な戦法だ。だがミスが二つあった。一つは試合場という限られた空間で行った事、二つは作戦を見破られてながら対策しなかったお前のミスだ」
「なんだと」
「お前は言ったよな、何か作戦があると思ったって。ならその時点で変えるべきだったな」
チーム形成から絞られる戦術、ジェルマンの不審な発言や行動からしてなにかあると考えるのが普通である。だが、セルトは何もしなかった、それが最大のミスとも分からず。
「自身の強さと格下相手と相まって傲り過ぎたようだな」
「まだ狙撃者は二人いる、次はそううまくはいかない」
「試してみるか?」
動揺するセルトに対して余裕の笑みを浮かべるカズキ。
撃てば場所がバレるので、狙撃者もそう簡単には撃ってこれない。更にジェルマン達に探されているので同じ場所には長く留まっていられない為、カズキを狙う機会がほとんど無くなり実質一対一の戦いになる。
「はあああっ」
間合いから出れば斬撃波で遠距離攻撃をしてくる。下手に間合いを取って牽制されるなら思いっきり接近した方が戦いやすいと踏んだカズキは、間合いを常に詰め攻め続ける。
「くっ、この僕が押されるだと」
カズキの激しい攻めに防戦一方を強いられるセルト、たまにくる援護射撃も斬り落とされる。
「さっきの威勢はどうした。まさか威勢だけか?」
「この、落ちこぼれ風情がぁ!」
「愚者(バカ)が」
飛びかかるセルトの腕を取り、横へ投げる。
「ガバッ」
カズキを狙った射撃だが、投げられたセルトが壁となり腹部に弾が撃ち込まれる。
「自分の作戦にやられる気分はどうだ……って死んだのか。もろいな」
血を流し倒れていたセルトは虚空の光となり試合場から姿を消す。
「さて、どうすっかな」
この後の事を考えているカズキの頭を狙った弾を取り、飛んできた方へ投げ返す。
すると、モニターに映る敵チームの一人がバツ印の表示がつく。
「さて、残り二人だな」
残るは狙撃者と遊撃者、それに対してこっちは四人全員いる。
集団で行動すると一気に仕留められる可能性もある、ここは単独行動で追い込み確実に仕留める。
「さぁて追い込み漁といくか」
カズキがセルトを仕留め終えた時、ジェルマンとノアは警戒しながから?狙撃者を探していた。
「ぶっ殺してやるから出てきやがれカス共」
「それで出てくる訳ないじゃないですか」
「うるせぇな、集団で行動するな狙われるだろうが」
「騒ぐ方が狙われますわ」
「うるせぇ、ぶっ殺あぶねぇ」
ノアを突飛ばすジェルマン、背後から襲ってきた男子生徒に剣で腹部を刺される。
「ぐぬあぁ」
「ジェルマン」
「ちっ、仕留め損ねたか」
「あなた、よくも」
すぐに弓を構え狙うが、左右に素早く動かれなかなか定まらず距離を縮められ押し倒される。
「きゃっ、レディに暴力なんで許せませんわ」
「うるせぇ。ぶっ殺してやる、死ねぇ!」
横から火の球が飛び出し男子生徒に直撃、一気に全身が燃え上がる。
「ギャアアアッ」
ファイヤーボールを放った方を見ると物陰から木製の杖を持ったルリーの姿が現れる。
「大丈夫ですか、みなさん」
「来ちゃダメ」
「え?」
駆けよってくるルリーの背面から胸部を撃ち抜かれる。
「ルリーさん」
「バカ野郎!」
ルリーの方へ行くノアを突飛ばし弾道から死角になる障害物に隠れられたが、ジェルマンは頭部を撃たれ振り返ると既に二人とも試合場から消えていた。
「ジェルマンまで、そんな」
「あと三人」
高台からルリーとジェルマンを仕留めた狙撃者はすぐに場所を移動する。
「あーあ、やられちゃった」
そんな中、リュークが呑気に真横から話しかけてくる。
「いつの間に!?」
すぐに銃口を向けるが、手首を蹴られ銃を手放す。
「いくら試合でも仲間の仇だから、ちょっと痛くするよ」
頭を掴み持ち上げると、高台から飛び降り地面に叩きつける。
「う、うわああああ」
地面まで数秒もないが死の恐怖を感じるには充分あり、叩きつけた瞬間狙撃者は姿は無くなる。
「あれ、一瞬すぎて痛くなかったかな?」
首を傾げて考えている中、試合終了のブザーが鳴る。
医務室
「今回はギリギリだったな」
「二人やられちゃったもんねー」
「そんな落ち込むなよなー、試合なんだからよ」
黙って座っているノアに声をかけるが暗い雰囲気はかわらない。
「それでも、私を助けて二人はやられてしまいましたわ」
アストラルエーテ内とは言え受けたダメージは致命傷なので今は医務室のベッドで寝ている。明日には目覚めると思うが試合に参加するのは難しいそうだ。
「次も強敵なのに、学園公式戦の出場権を前に負けたら二人に顔を見せられまれんわ」
「そうか?」
「普通だよね」
「普通って、相手はBクラスですわ」
勝ち進むにつれ戦うチームは当然強くなる。今残っているのはAクラスとBクラスがほとんどで、神威使いとして実力がかけ離れた中でたった三人で戦い勝利するのは難しく、普通なら無理な話である。
そもそもFクラスがここまで勝ち上がったのが奇跡のようなもの。
「見た感じそんな強いイメージはなかったな」
「そうだよね、よゆーよゆーだね」
だが、この二人にとっては勝つのは当たり前のようで、BクラスだけでなくAクラスも大したことがないと言っている。
「そう言えば弾を斬っていたけどすごいね」
「まぐれだまぐれ」
「ほんとに?」
「……攻撃には殺意がある、感じとれば大したことがない。それに、あそこで狙撃できる場所は大体決まる。そこに目を配ってれば見切る事も簡単だろ?」
「へー、凄い鍛えてるんだね」
「そんなことないさ。お前こそ動きが異常だぞ」
「そんなことないよ。あなたも動きが異常だよ」
「俺と似た台詞使うとなよな」
「気のせいよ」
「バカな会話は止してください。はぁどうしましょう」
「……えらい悩んでるな、最初は自信満々だったのに」
「状況が状況なんです。わたくしも足手まといにしかなってなくて」
「……足手まとい?」
「きっちり倒してるからそんなことないんじゃないの?」
「ですが、毎回誰かに助けられていて」
「大丈夫大丈夫、初戦で大いに助けられた奴もいるんだし」
「それって俺のことかよ」
思いだすは初戦、二人相手に殺さずどう戦おうか悩んでいた時にルリーに助けられた事。
確かに、あれは試合のルールも何も知らなかったカズキにとっては助けられた出来事である。
「当然でしょ?」
「あっさりいいやがったよこいつ」
「わたくしもリュークさんに助けられたし」
「あれは不意打ちだから仕方ない。でもカズキは正面から戦ってやられてた」
「追い討ちかけるなって、泣いちゃうぞ」
「やめてよ、みっともない」
カズキの発言に本気で引いているらしいリュークの顔に、本当に泣きそうになるカズキ。
「冗談だから哀れむような目をするなよ」
「ならよかった」
「はぁ、こんな状況でよく冗談が言えますわね」
「そんなため息つくなよ、幸せが逃げるぞ」
「そうそう」
「それに、人材補給なら任せろ」
「人材補給?」
「全ての試合が終わったらレオンと決闘がある。しっかり勝ってチームに入れてやるから」
今朝レイカ先生がやると告げられた。いくらなんでも場所を用意するのが早すぎるとは思ったが、早いに越したことはなかったので二人とも承認しそれ以外は知られる事なくやることになったのだ。
「……負けたら本当に絶対絶命ですわ」
ただ、戦うとなれば互いに傷つき勝っても明日の試合に影響は出る、負ければルリーやジェルマンのように明日の試合にでれなくなる可能性もある。
「今もそんな状況ならやる価値はある」
「……」
「まっ、決まってる事だから止めても無駄だけどな」
「そっかー、じゃあ頑張ってね」
「おう」
「お二人共、本当に気楽ですね」
「余裕があるってことだよ」
「ねー」
互いに顔を合わせ笑う二人。
「見てろって、まずはレオンに勝って人数揃えてやるから」
そう言うとカズキは控え室に向かう。
「じゃあ私達は見届けないとね、行こう」
「……はい」
まだ試合が残っているので客席へと向かう。
つづく