今日やる全ての試合が終わり、静かな試合会場。
ノアやリューク、レイカ先生のほかに客席には興味本位でまだいる生徒がちらほら居る。
障害も何もない試合場に二人が真ん中に立っていた。
「……なんの真似だ?」
「あ?」
「武器は取らないのか?」
カズキの腰にはいつもぶら下がっている刀がない。
「お前にはそんなもんはいらないだろ?それに俺は素手の方が強いぜ」
「ならよかった」
二人は静かに構え睨み合う。
ダンッ
しんっと冷たい静寂を破ったのはレオン、カズキ目掛け走りだす。
「はぁ!」
拳は頬を取られゴッと鈍い音が響く。
しかし、カズキは眉ひとつ変えず受け止める。そればかりか、その状態から首だけで押し返すと同時に殴り飛ばす。
「ぐぅ」
一直線に飛ばされる中、足を地につけ踏みとどまるレオン。体勢を整えすぐさまカズキの方に視線を戻すが既に居らず
「こっちだ」
一瞬で懐に潜り込んでいたカズキの殴打に捌く事で手一杯になる。
(なんと素早く重い攻撃、こいつの身体能力は獣を簡単に越えている)
共に授業を受けトレーニングしているから、カズキの身体能力と戦闘センスはずば抜けている事は前々から気づいていたレオン。だが予想を越える強さに焦り、攻撃が単調になる。
そんな攻撃がカズキに通用する訳がなく軽くあしらわれてしまう。
「せいや!」
レオンの腹部に掌底を打ち怯んだ所を軽く飛び回転して側頭部を蹴る。
「全力を出せよ。まだ隠してるんだろ?」
「……ッ」
倒れるレオンに対して興味を無くしたような冷たい目で見下ろす。
「ふっ、お前相手に全力を出さずに勝とうなんて考えが甘かった。戦士として俺が無礼だったな、謝ろう」
「そんなものは良かぁ、はやく見せろよ。アニマニアの戦士さんよ」
「余裕だな。だがそれもこれまでだ」
カッと目を見開き体全身に力を込める。
「うおおおおおっ」
レオンから迸る闘気に空間が歪んで見える。
「ビースターズ!!」
「身体強化か」
「おおおおっ」
レオンのパンチをガードするカズキだが、勢いは止まらずそのまま前進し壁にぶつける。
「んのやろぉ」
続けて殴ってくるが、その前に両肩を強く押し距離を空け回避する。
「荒爪」
すかさす距離を詰めるレオン、振り下ろした鋭い爪がカズキを切り裂く。
「野性味ある荒々しく自由な動き、素晴らしい実に素晴らしい。本気を出すに相応しい戦闘力だ」
「まだ無駄口を叩けるのか」
「当然、まだまだこっからだぜ」
足を高々に振り上げ力強く落とし低い姿勢を取る。
「はっけよーーい、のこった!」
カズキの掛け声と共に互いに距離を詰めぶつかり合い組み合う。
(ビースターズで底上げした俺と力で互角、いやそれ以上!?)
全力で押すがカズキはピクリとも動かない、それどころか押されている。
「オラアアア」
「ぐっ、おおおおおお」
押される力を利用して後方へ投げる。
倒れたカズキの上に乗り容赦無く殴り続ける。
「死ね、死ね死ね、さっさと死ね」
「やがましい、死ぬのはテメェだ」
だがカズキは防御を取る所か殴ってくる。
その防御など考えない攻めのみの戦いにレオンは次第に恐怖を感じ始める。
「なんなんだ、なんなんだよテメェは」
振り落とされるパンチの中、レオンの首を掴み強引に横に倒し今度はカズキが上に乗る。
「ヒノモトのサムライじゃボケコラ」
「ぐはっ、ぬうぅうおおお」
殴ってくる両手を掴むと、勢いよく上体を起こしカズキの鼻っ面に頭突きを入れ立ち上がる。
「ぶっ殺してやる」
「やってみぃ」
カズキは走り勢い任せて放つパンチ、それを大きく踏み込みかわす
「獣烈脚」
踏み上げる力と振り上げる力を利用した強烈な蹴りに横へ吹き飛ぶ。
「だあぁ」
立ち上がるカズキに間髪いれず腹部に渾身の一撃を叩き込む。
「なっ!?」
しっかり腹部に拳が入った、タイミングも狙いも完璧だったはず。だが、弾かれた。人ではない、なにか巨大な壁を殴ったような感覚だ。
「軽い、軽いの~お前の攻撃は。威力も思いも軽すぎて話にならん」
「そんなもんなのか?お前は?そんなもんで妹が救えるか!」
「どうやら、俺の今使える全てを使わないといけないようだな」
「グラン・ギア」
地面が揺れ始めカズキめがけ岩盤が飛び出す。
「大地の精霊か」
間一髪避けたカズキだが、不規則に動く地面からの連続攻撃にレオンの元へ近づけず防戦一方を強いられる。
(これだけは使いたくなかったが、やむを得ない)
手口を晒すことは対策を練られる、その事を考え極力使いたくなかった。だが、ここで全力で戦い負けるようなら剣舞祭で優勝など不可能。出し惜しみなど一切ない、正真正銘の全力勝負。
「埋もれろ」
カズキの背後に手の形をした岩盤が現れると、カズキを掴みそのまま地面に引きずり込まれる。
「やったか」
地中深くまで沈め勝利を確信したレオン。だが地面からボゴォと手が出て這い上がるカズキ。
「生き埋められるほど、甘くはねぇぜ」
「拘束しろグラン・ギア」
カズキを囲うように岩壁が飛び出す。
「くだらん」
殴り壊しすぐに突破するカズキ。しかし真下から突き上がる岩はカズキを上へ飛ばす。
「お前でも空じゃ素早くはないはずだ、押し潰されろ」
四方から飛び出した岩の円柱から更に岩盤がカズキめがけ飛び出す。
体を回転させ回避するも次から次へと飛び出す。だがカズキは岩壁を蹴り飛翔すると、飛び出す岩盤を砕く。続けて壁を蹴り方向転換し岩の柱を壊していく。
壁を蹴り空間を自在に移動するという獣人でもありえない、人外れた高度な動きにレオンは目を見開く。
「足がつきゃ、なんもかわらねぇんだぜ」
全ての岩を破壊終えたカズキは崩れた岩を蹴りレオンに向かって蹴りを放つ。
「うおおおおお」
両手で防ぎ、追撃をしてくるカズキと正面から殴り合う。
カズキは効いてないのか、避ける事すらぜず平気で殴り合う。
「荒爪」
隙をついて爪を振り下ろしたが体には傷ひとつ付かなかった。
「なっ!?」
「その程度じゃ本気の俺に傷はつかない」
そう言うと手刀でレオンの右肩から斜めに切り裂く。
「がはっ」
(つ、強い)
今まで戦ってきた中で一番の強さだ、アニマニアでもこれほどの強敵と出会った事がなかった。
「とどめだ」
「グラン・ギアよ、俺の拳に纏え」
両手に紫のオーラが纏いう。
「アダマンフィスト」
先程までの殴打とは違い、威力や速さが段違いに上がっている。
防御をしなかったカズキもその威力に気付き、捌き始めるも数発受けてしまう。
「ぐっ」
(……効いてる!?)
勝機を感じたレオンは怯んだカズキとの距離を詰め
「獣王掌」
引き締めた両方の掌底を一気に叩き込む。
「がはっ」
「おおおおおおっ」
片膝を付き血を吐くカズキの顔を蹴り、大きく後ろに飛び倒れる。
「本気の状態で俺にダメージを与えるとは。予想以上の強さだぜレオン」
立ち上がるカズキ。
「お前、まだ動けるのか」
「当たり前だろ、俺も負けらんないんでな」
「最高の一撃を叩き込んだはずなのにな。本当に化物だな、お前は」
「いい一撃だったぜ、だが俺を倒すには届かない」
「なら、また叩き込んでやるまでだ」
再び放つ掌底を弾き、腰を深く落とし拳を真っ直ぐに放つ。
「白王」
「ッ!?」
凄まじい威力はレオンを貫き後ろの客席に亀裂が入る。
白目を向き静かに倒れる。
「俺にこれを使わせるとはな。見事だぜ、レオン」
「くっ、がはっ、はぁはぁ」
「なに!?」
「俺の白王を受けて立つとはな。お前化物か?」
「なら、お互い様だな」
「へへ、面白いやつだな」
「これで終わりにしよう。イオリ・カズキ」
レオンの足元から地面が浮き上がる。
「次こそ圧殺してくれる」
「させるかよ」
重力無視に垂直にそびえ立つ岩の柱を駆け上がるカズキ、だがもうそんなものでは驚かない。
「叩き落としてやる、グラン・ギア」
目の前に岩壁が飛び出し、左右から岩盤が飛んでくる。
そんな事はさっきの戦いでやってくることは想定内、岩の猛攻を掻い潜りレオンの所までまどりつく。
「猛虎烈波」
飛び出した所を狙い済ました衝撃波。カズキと言えど足場が無ければ回避不可能、直撃を受けてしまう。
「烈火・鬼落とし!」
衝撃に耐え抜いたカズキは、一回転し炎を纏った足を落とす。
「グラン・ギア!」
岩はレオンを覆い盾となり守るが容易く砕かれる。
「くっ」
とっさにグラン・ギアを纏った両手で防御する。
「うおおおおおお」
あまりの威力に浮き上がった地面を砕きそのまま降下する。
ドゴオォォッ
崩れる地面の中で大の字に倒れるレオンとカズキの姿があった。
「うっ……くぅ………」
「まだ生きてるのか、しぶといな」
「だが、もう動けない」
「だろうな。で、どうだ、俺は弱いか?」
「……強い、強いよ。だがお前が強いだけだ」
「何言う。他の奴らも強いさ、お前の実力を見抜いた目に狂いがなければな」
「面白いやつだな、お前は」
「それはお互い様だ。さて、俺はお前をチームに入ってほしい。だが決めるのはお前だ、どうする」
倒れるレオンに手を差しのべる。
少数の生徒だけだが、これだけ激しい試合を見たからにはレオンやカズキの印象も大きく変わってしまう。
神威がなくても充分に戦える強さに、恐らく他のチームから声がかかるかもしれない。
「……俺は、絶対に優勝しなければならない。お前達にはその実力はあるのか」
「ある。そしてお前もある」
「そうか……なら、返事は一つだな」
微笑むとカズキの手を力強く握り立ち上がる。
「こんな俺なんかで良ければ、お前達のチームに入れてくれ」
「勿論。修羅の道へようこそ、兄弟(ブラザー)」
「ブラザー、か。懐かしい響きだ」
「テメェら残念だったな、この素晴らしい戦士は俺達が頂く。恨むなら神威だけを見ていたテメェを恨みな」
カズキは歩けないレオンを抱え笑いながら試合場を後にする。
つづく