「うるああ」
寮前でトレーニングをしているジェルマンとレオン。
「おい、あんま無理すんなよな怪我人」
隣で素振りをしているカズキが言う。
「あぁ!?誰が怪我人じゃボケコラ」
「怪我人にしたのはお前だろう」
丸一日は寝て過ごしたジェルマンは鈍った体に鞭を入れるようにせっせと取り組んでいる。
レオンも同じく明日に全力で動ける用に体を動かしコンディションを整えている。
これで怪我が悪化したら元も子もないのだが、カズキもそうやってトレーニングしていたのであまり強くは言えない
「よぉFクラス落ちこぼれさん方」
二人の男子生徒に声をかけられたのでトレーニングを一旦止めてそちらを向く。
「あー………誰?」
「知り合いか?」
「しらねぇよこんなブサイク共」
が、皆知らないと言う。そして再びトレーニングへと戻る。
「クオラ、知らないとはなんだ落ちこぼれ共」
「あとブサイクってなんだ、底辺共!」
その態度に当然怒り怒鳴り始める。
「うっさいな、トレーニングの邪魔だ」
「シッシッ、あっち行ってろ負け犬ワンちゃん」
「ふん、そうやって調子に乗ってられるのも今のうちだ」
「明日の試合でケチョンケチョンにしてやるからな」
「明日の試合だぁ?」
「ほう。試合前の挨拶か、面白い」
試合相手と分かったとたん、皆の目付きががらっとかわる。
「みなさん、トレーニングならもう少し静かにやってください。周りに迷惑ですわ」
そこへ可愛らしいエプロン姿のノアが窓からひょいっと顔を出す。
「あら、あなた達、またわたくし達にちょっかいを出しに来たのですか」
「知り合いか?」
「ほら、前に来たじゃありませんか」
以前、Fクラスをバカにしにきた奴らとノアが軽く説明するが
「すまない、眼中になかったわ」
「覚えてるほど暇じゃなかった」
「どーでもいい、覚える価値ないだろ」
「あなた達も酷い人ですね」
「なに、じゃあ名前言ってみろ」
「え、えっと」
「ふん、お前も同じじゃねぇか」
「なっ、なにを言ってるのですか。わたくしはやる事が多くていつも忙しいのですよ」
「あー?な~にがいそが」
「あぁ!?ノアさん、フライパンから火柱が」
「おー、ファイヤーだね!ファイヤーーーッ!!」
ノアとジェルマンが言い争っていると寮からルリーの悲鳴に近い声と、リュークの楽しんでいる声が聞こえる。
ノアの姿からして恐らく料理を手伝っていたのだろう。
「ルリーさん火を止めてください」
「キャー火事だ火事ー!家がキャンプファイヤーになるー」
「バカな事を言ってないで手伝ってください」
ノアは慌てて寮へ戻り、消火活動をおこなっている。
「……俺達もなにか手伝わないとな」
「……だな」
家事全般をこなしているノアに、感謝の気持ちと謝罪の気持ちで心が一杯になる男子達。
「で、何しに来たんだ。アンガロとリゼだっけ?」
話がずれたのでめんどくさそうだが元に戻すジェルマン。
「覚えてるんじゃないか!」
「あ?そのバカみてーな喋り方で思い出したんだよ」
「よく名前覚えていたな」
「うむ、本気で忘れていた」
「名乗ってたろ。で、優秀なBクラスさんがなんのようだ」
「試合前の挨拶って言ってただろ」
「話は聞いた方がいいぞ」
「名前忘れたやつにいわれたかないわ」
「お前も忘れていただろ」
「うっさいだまれ!」
「はぁ、神威だけじゃなくても頭脳まで落ちこぼれなのか」
「救いようがないな」
「……あんな、んな古典的な挑発はいいだろ。明日の試合できっちりぶっ殺してやるから今日は大人しく震えて寝てろ」
「ははは、なかなかいい啖呵じゃないか」
「八百長で勝ち上がってきたくせによく口が回るな」
「なんだと?」
「知らんのか?お前達の勝利は全部八百長って噂が流れてるんだぜ?」
「……誰がんな噂流した」
「さぁな」
「案外、事実かもな」
「て、てめぇ」
ジェルマンは震える拳を振りかぶる。
「やめなさいジェルマン」
その手をノアが掴み止める。
「おーノア、料理はどうした」
「ルリーさんとリュークさんには一旦手を止めてもらいました」
息を切らしていることから相当急いで消火して駆けつけてくれたのだろう。
「おっ?黒い噂の元凶が来たぞ」
「黒い噂?」
アンガロの言葉にキョトンとするノア。
「八百長の話だよ」
「何でたぶらかした。金か?色か?」
「いやー、上級貴族はやることが違うなぁ」
「…………」
ケタケタ笑う二人。ノアも黙り肩を震わしている。
「所詮は領土だけの貴族様はやることなすこと田舎なんだよな」
「それにすがるこいつらもこいつらだけどな」
「これ以上……これ以上アルバートン家と仲間を愚弄するのでしたら、容赦しませんわ」
瞬時に神威武装(ミスフォルツァ)を展開させ、矢を向ける。
「おー怖い怖い」
それでも二人は煽る事をやめなかった。
「あー、お前らもう帰れ。相手にするだけ疲れる」
それをみかねたカズキは呆れた口調で帰るように促す。
「なんだよ、俺達は真相を暴きにきたんだよ」
「そうそう、まっ、優勝を本気で狙っているから意味ないけどな」
「アホか、八百長だったらあんな必死に戦わない。お前ら、これ以上仲間と戦ったやつらを愚弄する気なら許さないぞ」
「へぇ、負けた雑魚共の肩をもつんだ」
「昨日の敵は今日の友ってか?時代遅れだね~」
「……話しにならん、戻ろう」
「おい、逃げるのか」
「弱虫ちゃんよ」
寮に戻ろうとするカズキを呼び止める。
「逆に言うぞ、逃げないのか?」
だが、カズキは不気味に微笑みながら問いかける。
「なんだと!?」
「誰が逃げるか」
「お前ら、私の寮の前で何を騒いでいるんだ!」
閻魔の形相をしたレイカ先生が足早にやってくる。声に苛立ちがあるから何か嫌な事があったのだろう。よく見ると手元には資料があるから寮に戻って仕事するんだなと察する。
「れ、レイカ先生」
「お前ら、私の生徒にちょっかいだしてるんじゃない。殺されるぞ」
「なんでもありません」
「失礼しましたー」
レイカ先生の圧力にびびり一目散にどこかへ去ってしまう。
「悲しいな、所詮小物は小物なんだな」
「うむ、噛み付くジェルマンはたいしたものだ」
なにかとレイカ先生に噛みつき反抗するジェルマンが異常で、あの二人の反応が正しいのだなと思った二人。
「あぁ!?なんだとこら!?」
「今日の夕飯はなんだ、ノア。出来れば夜食も作ってくれるとありがたい」
ノアの方を見ると顔が真っ青で体調が悪いように見える。
「………ノア、どうした」
「なんでもありません」
笑顔で応えるが、その笑顔が無理やり過ぎて誤魔化そうとしてるのが一目で分かる。
「夜食だってよ、太ってデブるドハァ!?」
「次体重の事言ったら殺す」
「そ、その前に体罰で、退職する、ぞ」
最後まで皮肉を言うと絶命するジェルマン。
「大丈夫か、本当に」
何度もやられてるのに懲りずに繰り返すので学習能力がないのか、本当にバカなのかちょっと本気で考えてしまうレオン。
「デリカシーがないなー、ジェルマン。太るのはいいことなんベバラ!?」
「殺す」
「俺は宣告なしなんだね、がく」
問答無用で殴られ絶命したカズキ。こいつも目の前で殺されたのになぜそんな事を言うのか不思議に思うレオンであった。
「いて」
そんな事を思っていたら、なぜかレイカ先生が頭に拳を落とす。
「なんで俺まで」
「不公平だからな」
「理不尽な……」
何もしてないのに殴られる。この不条理に理解できないレオンであった。
「不条理なんか理解できないから不条理なんだよ」
「お前頭いいな……って心読むなよな」
「顔に書いてた」
クスクスと笑いながら寮へと戻るリューク、いつの間にこっちに来たんだろうか。
色々ありながらも夕飯を食べ終え、レイカ先生が「仕事をするから騒ぐなよ!」と釘を刺してきたので、仕方がないのでリビングに集まり静にカードで遊んでいる。
「よっしゃ、これであがり」
「まだジェルマンの一抜けですの」
「はっ、俺はこの手のゲームはほどほどに強いんだよ」
だが、七回やって四回一番で抜けている。確かにほどほどに強い。
「それに引き換えレオンは弱いな」
七回やって七回とも最後まで残っている。はっきり言うのもなんだが弱い。
「この遊びは初めてだからな、なかなか面白い」
基本的にスポーツや格闘技など体を動かしている事を娯楽としているアニマニアではカードゲームというものがないらしい。
そんなレオンにとっては新しく、勝敗など気にせず楽しんでいるようだ。
「そういや、明日の試合どうするんだ」
カズキが話を振る。
「あぁ、そういえば作戦立ててないな」
忘れていたのか、他人事のように言うジェルマン。
「そうですね、相手はあのBクラスの人達ですもんね」
あんな性格だが、Bクラスなだけあって相当な実力者。話によるとBクラスで一、二を争う程らしい。
「アンガの属性能力(アトリファクタス)は火でリゼは風ですわ」
「他も実力者ぞろい、一筋縄ではいかないか」
アンガとリゼを含む四人のアタッカーと二人のスナイパー、チーム構成はこちらとほとんど一緒のマイナーなもの。だが、全員が神威武装(ミスフォルツァ)とアトリファクタスを使用できる。
「やはり、分が悪いですわ」
「まだそんな事言ってるのかお前はよ」
「本当の事なのですわ」
「俺達は格上の神威使い勝ってきたんじゃないか、自信もてやボケ!」
素の強さはともかく、神威使いとしては明らかに格上の生徒達と戦い勝ってきた。
「でもジェルマンは一回負けてるよ、まだ傲るのは早いんじゃないかな~」
第二試合の時にやられて一日休み試合に出れないということがあった。リュークの言う通り、まだ自身の力を過信し軽率な考えをするのは早い。
「んだとテメェ!あれは」
「庇ったからとか、遠距離攻撃だからとか甘い事は言わないでね。行動結果はちゃんと責任持ってよね」
「ちっ、なんも言えねぇじゃねぇか」
正論なのでジェルマンは殴りかかりもせず黙って座る。
「自覚があっていいね」
「だが、自信を持つのは大切だ」
「慎重になるのはいいが臆病になるな。戦いの基本だぞ」
「わたくしがいいたいのはもっと真面目に考えて」
「作戦は大雑把の方が臨機応変ができる。精密に練っても崩れたら意味がない、それこそ賭けだ」
範囲が限られては考えられる作戦もたかがしれてる、何より相手のチーム構成からみて、切り崩すのは難しい。こういうタイプは下手に小細工するより真っ正直からのぶつかった方が戦いやすかったりする。
なによりこの先は猛者共と正面から戦う事も多くなる。こんなとこで躓いてたら先が思いやられる。
「もう学園トーナメントの出場は決まってるんだ。なら今ここで俺達の実力がどのくらいなのか知り改善できる機会になる」
先の事を踏まえて、あえて真っ正直から戦う戦法を提案するカズキ。
「確かに試すとしたら今しかないな。それならいいかもしれない」
「ですが、あんなやつらにわたくしは負けたくありません」
「ノアさんの気持ちは分かる、俺も絶対に負けたくない。だからこそ正々堂々戦いたい」
「もし負けてしまったらどうするんですの」
「負けたならその弱さを受け入れ次へ生かせばいい。だけどそれで勝ったら嬉しいだろ?」
「真っ正直からぶっ潰すのか。そりゃ最高の優越感だろし、あいつらにとって最大の屈辱だな。俺は乗ったぜその案」
ジェルマンとレオンは賛同してくれたが、どうもノアは乗る気ではない。
「リュークさんやルリーさんは、どうなんですか?」
「いいんじゃない?私は構わないわ」
「私も、いいと思います。あそこまで言われたら言い逃れが出来ないような敗北を味合わせたいです」
「……どうしたのですか、ルリーさん」
「大丈夫?熱でもあるの?」
「まさか、ジェルマンの悪影響か?」
「ジェルマン病だ!誰か薬を処方して」
「ぶっ殺すぞテメェら!」
ルリーらしからぬ言動に騒ぎ出す。
「私、こう見えて負けず嫌いなんですよ!」
「なるほどね」
「神威は使えませんが、魔法なら負けません!」
えっへんと小さな胸を張るルリー。その自信に満ちた姿に拍手と共に褒め称える一同。
「その意気だよルリーさん」
「お前も見習え腐れチキン優等生」
「なっ!?わたくしはただ勝ちたいから」
「勝ちに執着してビビったら負けるぞ」
「負けたくない気持ちはみんな一緒だ。だから俺達を信じろよ、それとも俺達じゃ実力不足か?」
「そんなことありませんわ」
「ならいいだろ。それとも自信がないのか?お嬢様」
「上等ですわ、やってやろうじゃありませんか!」
「話は纏まったな」
「うむ、なら続きをやろう」
持っていたカードを隣に座っていらるルリーに向けるレオン。
「またビリになるぞ」
「次は大丈夫だ、コツをつかんだ」
「てかさ、運ゲーなのになんでそんなに弱いんだ?」
「策がないからだろ」
「今その単語言いますか」
カズキに冷ややかな視線が集中する。
それといった対策も作戦もたてずに戦おうと決めたばかりなのに策無しでは負けると言ったのだから、無神経だったな。
「てへ」
「気持ち悪いのでやめてください」
「ひど!?」
ノアの言葉が心を抉る。せっかく可愛らしく舌も出してウインクもしたのにそんな風に言わなくてもいいのに。
「んなくだらないことはいいからさっさとカード引け」
明日の事についての話は終え、再び楽しくカードゲームをするのであった。
つづく