駄作   作:匿名希望ただの人

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静かな決勝戦

 

 

 

「さぁいよいよ始まりました決勝戦!Aクラスに恥じない最強の力を振るって勝ち進んできた天才達、そしてFクラスでありながらここまで勝ち進んだ異端児達。頂点と底辺という相まみれる事のない存在、誰がこの組み合わせを予想したか!!」

「Aクラスの意地みせろ!」

「落ちこぼれなんぞに絶対負けるなよ!」

「頑張れ!」

明らかにAクラスを応援する生徒達がほとんどだ。それも無理は無い、今まで落ちこぼれと蔑んでいた奴らが勝ち残り決勝という自分達が辿り着けなかったステージに行ったのだ。面白くないと思うのは仕方がない。

「くたばれFクラス」

「今日がお前らの墓場だ!」

「二度と学園で歩けないように惨敗しろ!」

ほらね、入場しただけで酷いブーイングの嵐だ。なんか試合を重ねる事に内容が酷くなっている気がする。

「差別が激しいな」

「いままで通りですわ」

「馴れてくると心地良いぜ。このブーイングを今から見せる力で消せると思うと、スカッとするぜ」

「さすが狂人、悪役だね」

みんな特に気にしている様子はないようだ。

「相手はAクラスの精鋭チームですわ。決してなめてかからないでくださいよ」

「わかってる。テメェこそ足引っ張るなよ」

「援護、頼むぞ」

「はい」

ルイスのチームは集団戦闘を得意とし、全員が適度な間隔を保ちながら攻めるというもの。まともにやりやっては勝ち目は無いとふみ、今回の作戦は背後に周りこみ挟み撃ちにするというもの。

ジェルマンとレオン、ノア、ルリーが正面から戦い隠密行動に長けているリュークとカズキが後ろに回り込み奇襲を仕掛ける。

「今回は頑張ってよね、カズキ」

いつも通り冗談を交えながら、パートナーとなるカズキに言うリューク。

「……カズキ?」

いつに無く真剣な顔つきのカズキ。そういえば今回一言も喋っていない。いつもと違う雰囲気に首をかしげる。

ビーーッ

なんかボヤけた感じだったが、ここで一学年トーナメント最後の試合開始のブザーが鳴る。

カズキが静かに歩みだす。

「おいカズキ、今回の作戦は単体特攻無しだろ。抜け駆けはズルいぞ」

「………」

ジェルマンの声に反応したのか、ピタッと止まる。そして腰を深く落とし刀の柄を握る。

そして刀を抜いた。

瞬間、次々と試合場に設置された障害物が切り倒れる。

「な、なんだこれは」

「何をしたんだお前」

目の前で起きたあり得ない光景に動揺する。

「カズキ、貴様あああっ!!」

ルイスが一人だけで走りカズキめがけて槍を振るう。

「さすがに、一度知ってるやつには通じないか」

不適にに笑いながら刀で受け止め弾く。

「よくも、仲間を……」

「熱くなるな。これも再開の一興だろ?」

制服を破き脱ぎ捨てると、着丈の短い赤い上着に同色の鏝と手甲、脛当の簡単な武具。黒の胴着の腰には赤い布切れを巻いた、どこの文化にも属さない異国の戦闘服を身につけていた。

「折角の決勝。突然で悪いが、この試合は俺が乗っ取る」

「何を言ってるんだ」

「そのダサい服装はなんですの?」

「制服着ろよバカ」

作戦から外れた突然の行動や服装、発言など一度に多くの情報が入り混乱している。

「どうせ忘れるんだ、答える必要はない」

だが、カズキはそう言うだけで答えてくれない。

「どう言うことだ?」

「ちゃんと説明しろよな!」

「さて、アルセウス学園のあまっちょろいイオリ・カズキは終わりだ。御所望通りヒノモトのイオリ・カズキでいくぜ」

瞬間カズキの雰囲気が変わった。睨むだけで簡単に殺せそうな鋭い目付き、全てを寄せ付けない圧倒的迫力、無尽蔵に放たれる異様な殺気に観客は皆黙り混む、否、一瞬にして放たれた得体のしれない恐怖に耐えきれず全員意識が飛んでいる。

(こっ、この殺気は……!?)

ジェルマンには覚えがあった。カズキと戦った時に見せた異様なまでの殺気、だがあの時よりも遥かに強大で規模が桁違いだ。

一度受けたから辛うじて意識は残っているが、立つことも声をあげるどころか呼吸すら困難になる。

「まだ意識があるか」

ノアやルリー、レオンは意識を失ったようだが、ジェルマンはまだ意識が残っているようだ。だが、それも時間の問題だろう。

「さすがだ。さっきの一撃を受け止めたといい、この闘気に呑まれることもない。成長はしているようだな」

「当たり前だ、この程度……恐れるに足りん!!」

ルイスは構えたままカズキを怒りに満ちた表情で睨んでいる。

「これで静かになった」

「静かになった?笑わせるな、一人残ってるだろ」

視線をカズキの後ろにやり鼻で笑う。

「ヤッホーー、素の状態で凄い闘気だね。君は本当に人間かな?」

平然としているリューク。緊迫の状況でもいつも通りの呑気でいる。

「その言葉そのまま返すぜ。お前は本当に人間か?」

リュークは会った時から得体の知れない存在だったから驚きはしないが、この状況を本当に人間かどうか疑うレベルである。

「素の状態……だと!?」

「そうだよ、放ちも抑えもない素の状態。それでここまでの力があるのは異常だね」

たった一人で国の武力を滅ぼした奴だ。これほどの力を持っていても不思議ではない

「それに耐えてるお前も異常だ。いずれ正体暴いてやるが、まずはこれが先だ……ちょうどいい、見届け人になれ」

「いいよー!」

笑顔で答えるとジャンプして観客に行き、空いてる椅子に座る。

「じゃあ、やろうか」

カズキも構え、ジリジリと歩みよりルイスの間合いに入る。

ルイスの身長よりも大きな槍。あれが神威武装(ミスフォルツァ)か。

刀と槍とではリーチの差がある。だが槍の間合いを抜け刀の間合いに入れば有利になる。

「はぁ!」

息をつかせない槍さばきは、どれも的確で無駄のないもの。そう簡単には近づかせてくれないようだ。

ここは一端距離を取っておこう、飛び道具もあるかもしれないからもしかしたら撃ってくるかもしれない。できるだけ誘うように隙を与えながら後ろへ飛ぶ。

「逃がさない。サンダーブレイド」

槍を振るうと鋭い刃の形をした雷が飛びだす。

案の定飛び道具を出してきた。

「なるほど、属性能力(アトリファクタス)は雷か」

雷なだけあって凄まじい速さだ。常人では見切る事は無理だろう。だが俺には通じない

雷の刃を避けると、地を強く蹴り一気にルイスとの距離を詰める。

「雷速の攻撃と打ち合う気か」

繰り出す突きは雷速と自負するだけあって雷ように速く激しいものだ。

カズキが突きかわし間合いに入ると後ろへ下がって距離を取り常にルイスの間合いを取る。

「はぁ!」

突きがカズキの腹側にかすり体制が崩れた所に槍を横を振るう。バンと踏み込み上へ大きく飛び上がりそれを回避する。

だが、見切っていたのか、すぐに槍をカズキの方へ向け突く。

カズキはかわせず槍頭が胴を貫く。

(やった)

勝利を確信した。だがそれも一瞬で消える。

攻撃が決まった時、肉を貫くような手応えは無かったからだ。それが残像だとすぐに理解できた。ならカズキは今どこにいる。

視線を足元にやると、下から振り上げる刀に気付き、咄嗟に柄で受け止める。

「なっ!?くっ」

続けて攻撃してくる、刀の間合いは槍には不利なので思うように動けない。

距離を取ろうにもカズキは休むことなく距離を詰め攻撃を続ける。ルイスのペースが一気に乱れ戦況は逆転する。

「シンティラ」

体から雷を放電し周囲に攻撃する。カズキも距離をあけ回避を試みるが、空中や地面にも雷が流れており逃げ場が無い。

「ぐっ」

覚悟を決め放電してる地面に足をつける。一瞬で焼けるような痛みが体全身に駆け巡る。

「アクトライザー」

槍頭から青白い雷光をカズキめがけ放つ。

当たる直前で刀で受け止めると、ルイスに向かって前進する。

「更なる雷撃で押し返す!」

槍に神威を込め雷の威力をあげる。それでもカズキの勢いは止まらなかった。

「噴ッ!!」

ついには雷を斬り、ルイスめがけ刀を大きく振るう。

柄で受け止めるが斬られてしまう。

「神威武装(ミスフォルツァ)を斬るだと!?」

本来、ただの武器が神威武装(ミスフォルツァ)を斬るなど、神威を纏ったとしてもあり得ない話だ。

それなのにカズキは容易くやって見せた。

「気現の太刀に斬れないものなど無かぁ!」

後ろに倒れるルイスの肩に刀を突き刺す。

「ぐあぁ、あっ……ぁぁ」

激痛に悲鳴をあげるも、傷口を押さえゆっくり立ち上がる。

「やめろ、これ以上の能力使用は自分を苦しめるだけだ」

「……なんだと!?」

「さっきの放電で自身も傷ついた。じゃなきゃさっきの攻撃は避けたはずだ」

カズキがそれに気づいたのは、さっきルイスに攻撃をして感じた弱々しさ、まだ一撃も与えていないのにダメージを負っている満身創痍の状態だった。

攻撃を受け止めたらまたカズキのペースになると分かっているのに避けなかった説明がつく。

「それがどうした……。私は、お前を倒すまで死んでも戦う」

「いい覚悟だ、どれ本物か試してみよう」

微笑むと手に持つ刀を無作為に振るう。

スパーーン

「なにをしている。ふざけているのか!?」

振った刀はルイスを斬らす、ただ空振っただけである。

ここまできてふざけた態度を取るカズキに、激しく憤る。

「何言ってる、おふざけはここで終わりだろ?」

「何を言って………こ、これは!?」

さっき受けた肩の傷が消え、全身を刺すような痛みが無くなる。

この現象はアストラルエーテから外に出たということになる。だが、まだ決着はついていない。

「まさか」

さっきの空振りはただのふざけたじゃなくて、この空間を、アストラルエーテを斬ったとうのか。

じゃなければこの状況の説明がつかない。だが、そんな事は不可能だ。 

「さっきの試合は読んで字の如く試し合い、すなわち練習だ。さぁ本番の死合、死に合いを始めよう」

「こんなことが出来るなんて……」

「お前の覚悟を評して邪魔なものは取り除いたんだ。帝国の仇を殺れるんだ、嬉しいだろ?」

「言われなくても、殺してやる」

手に神威を集め槍を具現化させる。

「はぁ!」

再び無用心にもルイスの間合いに入ったカズキめがけ突くが、かわされ柄を捕まれる。

「なっ!?」

「遅い」

胴を蹴られ地面に倒れるルイス。

その威力は臓器にもダメージを与えて一瞬呼吸が止まる。

体に力が入らない。たった一撃で立つことも出来なくなるとは

「……所詮、こんなものか」

期待はずれだったと言わんばかりの表情で槍をルイスの方へ向ける。

「死合だ、命を貰うぞ」

倒れるルイスの喉元に突き刺そうとする。

キエェェッ

奇声と共にルイスから黄金の鷹が飛び出す。

「油断させての攻撃か、惜しかったな」

体を反らし簡単にかわす。改めて槍を振りかぶる。

刃がルイスに当たる直前、背後から襲う鷹に気付きその場から離れる。

大きく旋回すると、再びカズキめがけ急降下してくる。

真っ直ぐ飛んでくるから簡単に斬れると思い振るうが、かわしカズキの頬に傷をつける。

「自動追尾か、いや違う。こいつは……意思がある」

攻撃をかわしたといい、自由に飛び回る動きは明らかに意思がありそして生がある。

「まさか、精霊か!?」

人間が精霊を使役する例は極めて稀である。理由としては触れる機会が少ない事もあるが、ほとんどの精霊が人間というものを好んでいないからである。その理由は分からないが、多くの人が精霊を使役しようとして怪我をしている。

「雷鳴の鷹(レイ・ホーク)……」

「その名前、やはり精霊か」

「勝手に出てくるな、これは私の勝負だ」

叱るルイスの方を向いてキュエェェッと奇声をあげている。

「そうか、一緒に戦いたいのか」

一気に降下しカズキが持つ槍を奪いルイスの元へ止まる。

「神威使いの精霊使いか、アニマニアと戦う時に楽しみにしていたが……これはこれで面白い!」

「レイ・ホーク、私の神威に纏え!」

レイ・ホークは雷となり長槍に纏う。柄には紋章が刻まれ、刃が翼の形へと変わる。

ルイスは槍を片手でくるりと回し、カズキを睨み据える。

「いくぞイオリ・カズキ」

槍頭から雷を放つ、先程とは比べ物にならない程の威力。

「噴ッ!!」

雷をかわし近づいてくるカズキは横に刀を振るう。

ガキィィ

柄で渾身の一撃を受け止める。今度は斬られる事は無かったが、横へ飛び体制を大きく崩す。

間髪いれず追撃するカズキ。だが、ルイスから雷が放たれる。

「このパワーは」

規模も威力も桁違いはねあがっている。だがこの技は自身にもダメージを受ける捨て身技、これほどの威力ならば間違いなく破滅する。

逃げ場の無い攻撃にカズキは為す術もなく雷の嵐に飲まれる。

「いててて、久々に電撃が効いたぜ」

地面に大穴を開ける程の威力だったが大したダメージを受けた様子はない。

「バカな、あれを受けて平気なのか!?」

「おいおい、ワシらぁ死合しちょるんだぞ。相手ぇ気遣うバカがおるか」

「そんな意味で言ったんじゃない」

「いいから死ねや、学園の中央で晒し首にしてやる」

刀を振るうカズキ。ルイスは先程の威力からして受け止めるよりかわした方が良いと思ったのか防ごうとしない。

「悪魔め」

カウンターを狙うも、そんな隙が全くない。

「聞き飽きた台詞だ」

高火力で倒したいのだが、さっきの雷を喰らってあのダメージじゃ倒せるかわかったものじゃない。電撃に対する耐性力が異様にある、何か打開策か突破口を探さないと負ける。

「はぁ!」

突然、ルイスの真上から天井を壊し雷が落ちる。

「いい反応だ。大抵の奴等は今の雷撃で沈んでいたぞ」

背後から攻撃するも防がれてしまう。

当たる直前、雷速で回避したが。レイ・ホークが居なければ気づくことも避ける事も出来なかった。

「この雷、この雷轟まさか……」

穴が空いた天井から外を見ると晴れていた青空が黒雲に包まれていた。

「気候を操れるのか」

「さぁ?あんなの知らんよ。偶々落ちたのかもよ?」

そうは言ってるが、さっきの知ったような言動と異様な天候、絶対に繋がりがある。これが何か打開策になるのではないかと考え始める。

「ボーッとしてると首が飛ぶか雷に撃たれるぜ」

考える時間は与えないと攻撃を仕掛けてくる。今度は軌道が読めない攻めに避けるだけじゃ間に合わず、槍を使って防ぐ。

「ぐぅぅ」

受ける度に飛ばされ、振動で手が痺れ槍を握るのも精一杯になる。

異常なまでの威力、直撃は避けれても衝撃は避けれない。

「どうした、その程度じゃつまらないな」

そんなこと知ったことないと容赦なく攻め続けるカズキ。

「くそ、アクトラ、!?」

距離をあけ雷で牽制しようとするが、足下から雷が飛び出す。

「今度は下だと」

「余所見はいかんな、余所見は!」

横へ飛び回避したルイス、その異常現象が起きた場に視線がいってしまう。その隙をつかれカズキの接近を許してしまう。

「しまっ!?」

「破ッ!!」

力強く握った拳を叩き込む。槍でガードするが一直線に飛び壁に激突する。

「がはっ」

上手くガードはしたが頭を強く打ち意識が朦朧とし、壁に背もたれながら倒れる。

勢い良く飛んできた刀が壁に突き刺さる。もし倒れて無かったら顔に刺さっていただろう。 

安心したのもつかの間、一瞬でカズキが目の前に現れると刀を掴みそのまま振り下ろす。

横へ回転して逃げるが、足を捕まれ勢い良く地面に叩きつける。

「ぐぁ」

受身もまともに取れず、全身を強く打ち付けられ意識が飛びそうになる。

「がっ、かはっ」

「……飽きた」

興味を無くしたカズキは冷たい目線で倒れるルイスを見下す。

「神威と精霊を使った時は驚いたが、威力はワシを追い込む程でもない。使い手も同じような戦術しかやらない、つまらん」

「まだ、だ。まだ戦える」

その言葉にルイスは怒りと悲しみを覚えた。今まで積み上げてきたものが通用しなかった事、帝国で死んでいった者の無念を晴らせなかった事、それは自分とカズキに対するものだ。その事を思うと痛みが消え、無意識に立ち上がった。   

「まだはない、ここで死ぬんだ。戦いたいなら宣言通り死んでも挑みにこい、存在そのものを消滅させてやる」

「死ぬ訳にはいかない。私には、使命がある」

「はぁ、仕方ねぇ。チャンスをやるよ」

そういうと両手を広げる。

「ほら、俺は何もしねぇから好きなだけ攻撃しろよ。この俺を殺せる千載一遇の大チャンスだぜ?」

「な、なめるなああああっ」

怒りに身を任せ雷を纏った槍を投げる。槍は巨大な鷹となりカズキ目掛け雷速の速さで飛ぶ。

バリイィン

カズキに触れた瞬間、粉々に砕ける。

「………」

儚く砕け散った槍を見て、言葉を無くす。

「これが、今お前の限界だ」

レイ・ホークが後ろから攻撃してくるが、ガシッと掴まれる。

「精霊を消すのはちと心苦しいが、その覚悟を汚さない為にも一緒に殺してやる」

電流を流し抵抗するが、カズキには効いておらず悲鳴すらあげてない。

「もういい、やめろ。やめてくれレイ・ホーク」

奇声を上げながら抗うレイ・ホーク。徐々に電流が弱まっていく。

「レイ・ホークだけは、見逃してくれ。頼む」

「………お前、半端だな」

「なに」

「本当に俺を殺したいなら、精霊に攻撃させ続けろよ」

「そ、そんなこと、出来る訳ないだろ!!」

レイ・ホークはルイスにとって大切な家族だ。そんな酷い事はさせられるわけがなかった。

「私はもう大切なモノを失いたくないんだ……私の復讐の為に誰かが犠牲になってほしくない」

「やれやれ、お前が理想とする誇り高い騎士にも祖国の仇を取るために全てを捨てた復讐鬼にもなれない半端者が。その程度の覚悟で、俺を殺せると思うなッッ!!!」

こいつには覚悟が無かった。この戦いで命を落とす覚悟はあったかも知れない。だが、今日まで強くなる為に鍛え続けてきたのは俺を殺す為なんかじゃない、守る為だった。仮にカズキが負けても命を取るまではしなかっただろう。

大切なものを守る覚悟は、復讐の時には役に立たない。

もし強大な仇(カズキ)を殺すという覚悟があったのなら、ここで再開するような事は無かっただろうがな。

「殺しはしねぇから安心しろ。お前もこの精霊も」

「私にも情けをかけるのか」

「お前はまだ若い。まずはここで学び、いつか世界を見て、自分を知り強くなれ。んでいつか俺を殺してみろ」

俺が見込んだ奴だ。こんな所で潰れるんじゃねぇぞ。

「俺は死にたがりで、周りから恨み買ってるから急いだ方がいいぜ。命は一つ早い者勝ちだ」

こうなった責任は俺ある。立派な騎士になった時、その時は今度こそ殺してやる。まだ恨みがあるならばの話だけどな。

レイ・ホークをルイスに渡すと背を向け試合場を後にする。

「お疲れ様」

観客席から飛び降りてカズキの前に立つリューク。

「おー、お疲れじゃ」

「よく殺さなかったね」

「誰かが刀で俺を狙ってたからな、怖くて殺せなかった」

「じゃあ、その誰かのおかげだね」

「けっ」

「それにしても、見え見えの戦いだったね」

「まぁな、思考も言動も読みまくりだった」

「素直で真っ直ぐだからね、性格は戦いに表れるは本当だね」

「その愚直さがあいつのいい所じゃねぇか」

「そうだよねー。で、この状況はどうするの」

敵味方観客席その他諸々全員を気絶させ、天井に穴を空け、アストラルエーテ無しで戦い傷ついたルイス。正直に話せばもしかしたら退学、運か悪ければルイスも同罪になるかもしれない。どう説明しようか

「……どうすっかな」

試合会場についてあるカメラは壊したし、気絶した奴等は数分前の記憶は飛んでいるはずだ、なんとか誤魔化してみるか。

「えーっと、まずは制服に着替えてーっと」

学園指定の制服を着て、ルイスの所に行く。

「な、なんだ」

「おい、槍だせ槍。はやく」

「何をする気だ、もしかしてやはり私を」

「いいからはやくせぇ!」

何がしたいかわからないが、神威を集め槍をカズキに渡す。

受けとると血迷ったのかグサッと腹部に突き刺す。

「なっ!?まさか、死にたがりだからを自殺」

「なわけあるか、あーいてぇ」

槍を抜いてルイスに返すと、落雷で空いた穴の近くで倒れる。

「なにをしてるんだ」

「白熱の決勝戦、互いに譲らない一進一退の攻防戦。そんな中、カズキとルイスの真上から落雷が落ちて会場にいる全員が放電により気絶、運悪くアトラス・ザ・エールが解除された時、俺の腹部にルイスの槍が刺さった。という設定」

「……なんか、無理がある設定だな」

「という事で、リュークが校舎から先生を連れてこい。ルイスは、俺を医療室に運んでくれ」

「第一発見者は疑われるのは推理小説のテンプレだよ。ここはみんな大人しく倒れてた方がいいよ」

倒れているAクラスとFクラスを動かし、あたかも戦っているような配置にしているリューク。そして静かに横になる。

「だってよ。ほらルイスもここで倒れろ」

「ここは素直に言った方が」

「言って退学になったら、シバの兄さんが泣くぞ」

「兄上が」

「俺もやることあるから退学は避けたい。わかったら何も知らないという設定でやろうな」

「さっきの細かい設定はなんだったんだ」

「現状の設定だよ、俺達はみんなと同じようにしないと不自然だろ」

「そ、そうだな」

納得して横になると、激しい戦闘で疲弊したルイスはすぐに寝てしまった。

再び試合会場は静寂に包まれるのだった。

そして十数分後、誰かがやって来て全員無事救出されたのだった。

 

 

 

 

つづく


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