あの後、試合は無効となり後日場所を変えてやることになった。
予想通り全員の記憶は無くなっており、全ては強力な落雷のせいとなった。あの時に起きた事は俺とルイス、不本意ながらリュークの三人だけである。
んで
「………」
今、医療室のベッドに横になってる。雷を直接受けた事(という設定)と(わざと)腹部に(槍を刺して出来た)ある傷のせいで安静にしろと無理矢理安静状態にさせられている。
実に暇である。
おもむろに隣のベッドに視線をやるとルイスがすやすやと寝ている。
無理もない、多分今のところ人生の中で一番の激闘だったのだから、俺とは違って本当に傷付き、疲れている。
話し相手がいないのは寂しいが、起きたら起きたでなんか気まずい状況だから好都合である。
なんせ、俺はこいつの故郷、レオルド帝国を滅ぼした一人だからだ。拐われた姫様の救出と言えば響きはいいかもしれないが、内容は一方的な殺戮だった。たった七人、対するは数十万の軍勢。結果は誰もが帝国の勝利を予想した、だがそれは大きく外れ巨大な力を持つ七人の前に成す術無く惨敗したのだ。
それでも、反乱軍の者と兄御達の間では必要最小限の被害に抑えようという話があり、決戦前には市民に避難するようにビラを配ったり説明して回った、勝てないと悟り逃げる兵士達も攻撃はしなかった、優しい侵略者だなと今でも思う。
少し思い出に浸っているとガラガラと医療室のドアが開く。
「おー、元気にしてるかカズキ」
ジェルマンが顔を出す。電流(殺気)で気絶した者は体に支障は無く大半が普段通り学園生活を送っている。
こいつもそうなのだが、今は授業の時間なのだがサボりだろう。
「おう元気過ぎて困っちゃうよ、はやくここから出たい」
「その気持ちは分かるぜ」
笑いながら面会用の椅子に座り手に持っていたバケットを机に置く。
「ほれ、見舞の弁当だ」
「昼飯を見舞品にすんなっつーの」
さっそくご飯を食べようとバケットを開ける。中は様々な種類のサンドイッチが入っていた、レタスとハム、たまご、ポテトサラダ、果物を挟んだものまである。
両手を合わせ合掌し、食べ始める。うんうまいな
「……お前、何者なんだ?」
パクパクと食べ続けるカズキを横にジェルマンが真剣な表情で聞く。
「何者?何者って、人間?」
「そうじゃねぇ!!……だけど、何者なんだ」
「あやふやだな。そんなんじゃ答えられないぞ」
「うるせぇ!お前何か隠してるだろ」
「そりゃ人間ですもの、人に知られたくない秘密は沢山あるさ」
「俺は覚えているぞ。お前がルイス以外を倒したのも、変な姿になったのも、あの殺意で全員気絶させたのもだ」
「何言ってんだお前。雷くらって夢でも見たんじゃないのか?」
「夢じゃねぇ、ハッキリ覚えている」
「そうか、もしそうだと仮定してもよ。それがどうしたんだ?」
「なんだと?」
「俺にそんな力があったところで何かあるのか?」
「気になっただけだ。それだけだ」
「安心しろ、お前が気になることはない。それより授業はどうした?」
「ばーか、今は休憩だ。そろそろ行くから怪我人は黙って横になってろ」
「なに!?俺も授業に参加する」
「お?脱走か?いいねぇ俺と同じだな」
「それは嫌だな。やっぱやめようかな」
「んだとテメェ」
「はよ行け、遅れたら連帯責任だろ?」
「そうだな。放課後来てやるぜ」
そう言うと医療室から出ていく。あんな態度をとっているが、仲間思いのいいやつだ。
それにしても、記憶が残ってるとは驚きだ。一度知ってるとはいえ、そこまで耐性があるとは限らない、むしろその逆とも言える。
「ジェルマンか」
鍛え方しだいでは、もっと強くなるな。
ジェルマンをはじめFクラス全員いい素質を持っている。その中でリュークだけがずば抜けている。俺を凌駕する底知れぬ何かを秘めている。
そんなやつらを集めたレイカ先生の見る目は流石と言いたい。
そういや俺も入学試験でいろいろとあったな。
神威がどーのこーの言われて、「神威って何?」って聞いたらため息つかれるわ、帰れ言われたから実力を見せつけようとした所でレイカ先生が来て採用してくれたんだっけな。あの時来てくれなかったらどうなってたんだろうな。
今いる仲間達と会えたことに感謝感謝だな。
「暇だな」
過去を思い返し暇を潰しているがそれも限界だった。
同じ景色、ずっと横になっているだけ。体が鈍りそう、いや鈍る。
医療の先生は知らないだろうが、傷口はもう塞がっている。この異常な回復力を見たら驚倒しそうだ。
そんなどうでもいいことは置いておいて、早速脱走しようとベッドから起きて窓を開ける。
「どこへ行くつもりだ」
窓から身を乗り出した所で声をかけられる。
振り向くとルイスが眠い目を擦りながら身を起こしていた。
「あ、あぁ。風通しをよくする為に窓を開けただけだ」
「……私には飛び降りるようにしか見えないが」
「あまりにもいい天気だからな、外に吸い込まれた」
「吸い込まれた?変な言い方だな」
「うるさい、外が俺を呼んでいるんだ」
「怪我しても授業に出るのか、関心する」
「怪我は治ったわ」
患者衣を脱ぎ、包帯を外し傷口がある腹部を見せる。
「お、お前、何をしている」
真っ赤になった顔を両手で隠し背を向くルイス。
「何って、治った傷を見せてる」
「わかったから服を着ろ、ハレンチめ」
「はれんち?まぁええわ」
「女の前で不用意に裸になるな」
「なんだ、恥ずかしいのか?かーわいー」
「黙れ、この変態」
ちゃかしている隙に掛けてあった制服に着替え、先程横になっていたベッドに腰を掛ける
「ほれ、もういいぞ」
「まったく、君はもっとデリカシーを持った方がいいぞ」
「他者の事を考えるだけくだらんよ、全ては俺の為。そう考えた方が楽さ」
「自分勝手な考えだな」
「俺にはそれがちょうどいいんだよ」
「そうか」
会話が途切れ、気まずい空気が流れる
「なぁ、お前明日の決勝戦に出るんか?」
「出たいが、この体じゃみんなに止められそうだ」
「そうか、なら俺も出ないでおこう」
「?どうしてだ」
「だって出たら俺達が勝つからつまんないじゃん?」
「お前、私のチームメイトをバカにしているのか」
「指揮が居ないチームは脆い、個の強さに長ける俺達でも普通に勝てるし最悪俺一人で全員倒す。勝ちは明白だ」
ルイスのチームは、神威使いとして優秀だが、ルイスの強さを拠り所とし、ルイスの指揮で連携を取っている。どんなに優秀でも大将となる者がいなければその力も発揮出来なくなる。その点、俺達は指揮者はいない、ある程度決めた作戦、個人による臨機応変な行動で戦っている、それに加えそれぞれの分野で優秀な実力を持つ。神威は使えなくともルイスのいないAクラスには勝ち目はない。
「まだチームワークはひでぇが、誰が何人抜けようともブレない強さを発揮できる」
「なるほど、お前が本気を出さないわけだ」
カズキほどの圧倒的強さがあれば必然とチームの中心となってしまう。その為にわざと弱いふりをしているとルイスは思った。
「バカいえ、俺は周りに合わせてるだけだ。簡単に勝負がついたらつまんねーだろ?」
「そんな理由で手加減しているのか!?」
「俺は、俺より強い奴と戦い勝つ事が生き甲斐とする、弱者をいたぶる趣味はない」
「全力で戦うのが相手への最大の敬意だろ、失礼だと思わないのか!?」
「俺も最初はそう考えていた。敵も仲間も全てに対し全力で戦ってた。だがな、俺と戦った仲間は俺を恐れ、上を目指す事を諦める者、戦いをやめる者、俺から離れる者が多くなった。俺の力が他の奴らの才能を潰してる、そう思うといくら身勝手な俺でも力も隠したくなるもんだ」
今まで才能がある奴らを多く見てきた、カズキもそいつらの目標や糧になろうと上の存在を見せた、その結果ほとんどが開花させる事ができなかった。
知る切っ掛けは偶々聞いた愚痴だった。
「どんなに頑張ってもカズキのように強くなれない」
「天才だからあんなに強いんだ」
「俺達が辛い修行なんてやるだけ無駄だな」
その言葉を聞いた時に、相手の才能を潰さないように実力差を見せ付けないと決めたのだ。
「みんな、俺やお前みてーに強い気持ちを持ってるとは限らん」
どんな才能があっても気持ちが折れたら開花できない、ルイスのような強くなりたいという強い気持ちを持つ者は滅多にいない。
だから、手加減をしている。
「……一応聞くが、全力で相手したのは本当か?」
「バカやろう、全力でやったら殺しちまうだろ!!ちゃんと加減はしたさ。それでもそんな事言われちゃ終いだろ」
「………チームの人はそれを知ってるのか?」
「さぁ?リュークは知ってるだろうが、他はわからん」
リュークは俺の見立てではバケモノだから大丈夫だろうし、あいつらなら知った所で己の限界を勝手に悟るようなバカ共じゃないだろうがな。
「最も、お前に見せたのはまだ序の口だ。当然まだ上もある、俺の実力を知ったとしてもお前は潰れるなよ」
「ははは。あれで序の口か、俄然燃えてきたよ」
再びベッドから降り窓から外を眺める。
「明日は出ないんだ。まずはゆっくり休めや」
「まて、どこへ行くんだ」
「体動かすんだ、俺に数時間の睡眠は長い」
「動かすって、まだお昼時間が過ぎたばかりだぞ。せめて授業にでろ」
「やなこった、俺ぁ修行するから縁があったら会おうや!」
そう言うと窓から飛び降りる。
「こら、風紀を乱すなー!」
ここは三階だが、カズキなら死ぬことはないと悟っているルイスはその点を気にすることはなかった。
寮
海産物が並ぶ食卓で、カズキに詰め寄るレイカ先生。
「で、授業サボって海辺でトレーニングと」
「はい、怪我人だったので授業の足手まといになると思いましたので」
「海で魚とる元気があるなら出れるだろ!」
海を泳ぐ体力があるなら授業にも出れる。トレーニングならまだしも、そもそも勉学だったので何も言い返せない。
「うめーな、これカズキが作ったのか」
「まぁな、うまいか?」
「うまいぞ」
「おいしいです」
「ならよかった」
「話を逸らすな馬鹿者」
説教されてる中、平気で夕食を取るジェルマンらと会話をするカズキに拳骨を落とす。
「いって~、自信作だってのに怒ってたら飯も不味くなりますよ」
「お前な、単位落としていいのか!卒業出来ないぞ!留年だぞ!それでもいいのか!」
「嫌だ!!」
「じゃあ真面目にやらんか」
「ぐおおぉぉっ」
カズキの頭に腕を回し思い切り締め上げる。シンプルながらとても痛い、頭が潰れそうだ。
「先生、無くなるよ」
並べられた料理はみるみる減っていく、それを見たレイカ先生は溜め息をつくとカズキを放し席につき食べ始める。どうやら説教は終わったみたいだ。
ホッとしながらカズキも夕食を取る。
「知らない料理ばかりですわ、これは何と言う料理なのですか?」
「米に刺身乗せたやつ旨いな、こんな食いかたがあるとは知らなかった」
「そうだぞお前ら、パンやらパスタやら粉類しか食べないでよ。米を食えお米様をよ!」
「お米はリゾットでしか使いませんわ」
そもそもこの国ではパンやパスタが主食で、米というのは調理するのに手間がかかる?のでマイナーなものである。その為、作っている者も少なく取引する値段も高かったりする。
カズキはそれを知って驚きのあまりその場で十数分立ち尽くした事を思い出す。あの時の衝撃は忘れない気がするよ。
「このしょっぱい黒い液体はなんだ?」
「このスープに使っているやつも知らないな」
「あぁ、醤油と味噌か。口に合うか?」
「あぁ、風味があって旨いぜ」
「せやろ、貴重なんだからありがた~く食せよな」
「あの時と同じ味だ、美味しいよ」
「先生も絶賛ですか、ありがとうございます。あとは山葵があれば完璧だったんだけど、それはまた今度で」
「あいつもそんな事言ってたな。懐かしいな」
「焼き魚しか食べたことないから新しい味だった。また作ってくれ」
「今度はわたくしにレシピを教えてください」
「いいさー、また気が向いたらね」
料理を誉められ?天狗になるカズキ。
さっきまで怒られていたのが嘘のように気分は実に最高だ。
「でよ、明日どうするんだ?」
ジェルマンが話題を変える。こいついつも変えるよな。
「明日の試合か、一日くらい休ませてくれてもいいと思うけどな」
「予定か詰まってるそうですわ」
「余裕がないですね」
「お前ら、先生の前で学園の愚痴を言うとはな」
明日に試合がある事にそれぞれ不満を言う。目の前に先生がいるのに気にせず言えるのはこの環境に慣れたからなのか、それとも無神経なのか、どちらにせよ流石と言うべきだ。なんせ
「いい度胸だ、そんなに嫌なら明日の試合に出れなくしてやってもいいんだぞ」
生徒が生徒なら先生も先生だったりするからである。
寿司を掴んでいた箸がペキッと折れる。顔にも青筋が浮き上がり鬼も逃げ出すような凄まじい形相。折角の美人が台無しだ。
「嫌ではないですけど」
「連戦はキツイですわ」
「私の鍛えが甘かったようだな、よーし試合が終わったらトレーニングのレベルをあげる」
どうやら墓穴を掘ってしまったようだ。
「それと、明日の試合は別の場所でやるからな」
「別の場所?なんで
「屋根が壊れたからな、明日から工事だ」
「じゃあどこでやるんですか」
「前にジェルマンとカズキが決闘した場所だ」
「え、あれって一対一じゃ」
「そうだな、だから五人制の勝ち抜きにしようと思う」
「うっわ、今回の剣舞祭のルール関係無ッ!」
「しかも五人て、一人出れないじゃないですか」
「横暴だぁ!」
「向こうはルイスが出れないそうだ、だから一応怪我人のカズキは抜ける、それでいいだろ」
「んだそれ。カズキ、テメェはいいのかそれで」
「俺は構わんよ」
その方が俺としても都合がいい。本当は適当な理由を当て付けて欠場しようと考えていたから手間が省けた。
「なんだよ、あっさり納得しやがって」
「なんだ?俺が居ないと心細いのか?」
「なわけあるか、あんな奴等俺一人で五人抜きしてやる」
「それは頼もしいですね」
「じゃあ先方はジェルマンで決まりだな」
「大将は誰にします?」
「最後の砦ですから、強い人がいいですね」
「はいはい私やる」
「凄い自信ですねリュークさん」
「もちろん!」
「じゃあ俺は中堅でも」
試合形式が変わるというのに、それといった不満の声はなく、すぐに順番を決め出す。無駄に順応力があるなと思いながら出ないカズキは見守る。
「あっ、カズキは出ないから食器洗いよろしくね」
「俺達は決めるので忙しいから」
「ひでぇ」
いつもは公平にとじゃんけんで決めているが、いいように押し付けてきやがった。
だが、正論を言われた気がしたのでしぶしぶ食器を片付ける。
「おっ、まさか本当にやるとは」
「えらいえらい」
「誉めるな、俺は子供か!」
「子供」
「子供」
「子供だな」
「子供ですわ」
「子供」
「生意気なガキ」
打ち合わせしていたかのように順番に言ってくる、しかもレイカ先生まで。
「お前らひでぇよ、先生もすっげぇひでぇ。俺もう心傷ついた、立ち直れねー」
「ノアは副将でいいんじゃないか?」
「当然ですわね、わたくしが全員倒してさしあげますから気軽にやってくださいまし」
「はぁ?俺が五人抜くんだ、保険は黙ってろボケコラ」
カズキを無視して再び話し合う、その姿を見て本当に心が傷ついたのであった。
「もおいいよ、もー、もーいい。いじけた!いじけたよ僕は、もーダメだいじいじするよ」
不気味な独り言を言いながらリビングから姿を消すのだった。
つづく