ある日の休日。
学園の敷地内にある小屋の前に設置された掲示板の前で難しい顔をしているカズキがいた。
掲示板には、依頼(クエスト)が難易度順に張り付けられている。
クエストとは個人のものから国まで様々な所からくる頼み事を解決して報酬を得る、というシンプルなお仕事。
一日でも出来るものから長期間のもの、簡単なものから難しいものまであり、当然内容は難題なものほど報酬は高いのである。そして、クエストを成功すると成績にも響いたりする。そのため、お小遣いと成績を同時に稼ぎができるので人気だったりする。
ではなぜそのようなものを見ているのか。それは昨日、ノアと街へ買い物に行った時
「そのお金はどっから出てるの?」
と聞いてみたら
「わたくしが全て出しているのですわ」
と当然でしょ?みたいな顔で即答してきたのだ。
それにはカズキもキョトンとしてしまった。
てっきり入学前に払ったお金で賄ってるのかと思っていたが全く違ったのだ。
ノア本人はお嬢様だからなのか、全く気にしていないようだが、そんな舐め腐った事は許せないカズキはすぐにでもお金を返したいのだが手持ちが半端なく少ないというより無いに等しい、いや無いだ。
てことでお金を稼ぐ方法を考えていたところ、レイカ先生にクエストをやればどうだと助言をもらい現在に至る。
「コナミウス討伐か、報酬が少ないな」
コナミウスとは、小型の飛べない鳥型の生物であり、性格は狂暴のくせにビビりで集団で行動している。肉食なので弱い生き物、人も襲ったりするのでにクエストとして張り出されているのだろう。
「んー、ピンとこないな」
それにしても、簡単で報酬が少ないものしかない。
確かに学生がやるのだからこの程度の難易度がちょうどいいのかもしれない。
だがな……ペット探しとか薬草取りなら分かるが、荷物持ちなんてただの雑用だろ。
「魔物討伐とか無いのか」
魔物とは魔界に住んでいる生物で、一般ではモンスターと呼ばれている。当然危険度は高いので学生ではなく、それ討伐を稼業とする専門者か国の兵力が出る事となる。数年前までは日常的に騒ぎになっていたが、今はそのようなことは少なくなり平穏な日々が続いている。
だから、あるわけがない。
「お?」
一番上に、ギガドラの討伐のクエストがある。報酬は金貨五十枚。……半端なく高いぞこれ。
「いいのあるじゃねぇかおい」
明らかに学生がやるものじゃないが、ここはアルセウス学園、アルガド王国を始め大陸中から集められた神威使いが集まる場所、こんなクエストもあるにはあるのだがやろうとする生徒はなかなか居ないだろう。
まぁ俺にかかればこんなやつの十匹や百匹は簡単に三枚おろしにできる。肉を土産にしたらレオン辺りが喜びそうだ。
とウキウキしながら貼り紙を剥がすが、よーーく見ると契約済みというマークが貼ってある。
「って、契約済みじゃねぇかボケコラ!」
怒りにまかせ紙を丸めて地面に叩きつける。
「おや?こんな所で何をしているんですか、カズキさん」
聞き覚えがあるようなないような気がする少女の声が聞こえる。
胸ポケットにはペンとメモ帳を入れて、カメラを首にかけている、いかにも記者の姿をした少女。
「ミチノさんだっけ?」
確か、取材をしに来た人だったな。一回しか会ってないが結構印象に残ってたりする。
「そうですよ、覚えてくれてありがとうございます」
ミチノが笑顔で返してくる。
「ところで、なにかクエストを受けるのですか?」
「お?なぜわかった」
「だって、ここはクエストの受付場ですから」
「……まぁ、わかるよな。」
「何を受けるのですか?」
目を輝かせながら聞いてくるミチノ。これは下手な言動を起こすと取材させてくれと言われるかもしれない。無駄な時間をさくかもしれない、ここは慎重に。
「んー、まだ決まってないかな?」
「ほうほう、ギガドラの討伐ですか」
丸まっていたクエストの貼り紙を広げまじまじと見る。
「あ、こら」
「ミカルド先輩に先に越されちゃいましたね」
「みかるど?」」
「三年生で学園最強の先輩ですよ、知らないんですか?」
「知らん」
「あ、そうですか……詳しく聞きたいですか?」
「結構です」
「それは残念です」
「じゃあ俺はクエストを探すので忙しいので」
無理矢理話を切り再びクエストをじっくり見る。
「……今見ているのカズキさんじゃ受けられないの知っていますか?」
「なに!?」
「受けるにはそれなりの実力が必要なんですよ」
「はぁ!?」
「Eランクの人達でもこのコナミウスの討伐が限界なのに、Fクラスの人が受けれるクエストは基本的には無いんですよね」
「ちょっと待て、FクラスはEランクにも入ってないのか!?」
「Fクラスの人達は、神威武装(ミスフォルツァ)を使えませんのでランク外なんですよ」
「なんだと!」
そんな事は初めて知ったカズキ、まさかランクにも入っていないなんて……。せめてFランクとか作ってくれよ。
「まぁノアさんとジェルマンさんのような人は例外ですけど」
神威使いとして優秀なノアや属性能力(アトリファクタス)だけ使えるジェルマンは、本来ならFクラスという場所ではないもっと高いクラスにいるはずなのだが、学園の総合評価のせいでFクラスにいる。
しかし、学園でも実力はきっちり評価されているのでクエストを受ける際にはそれなりの難易度を受けられたりする。
「俺だって一学年トーナメントで優勝したメンバーだぞ」
「一学年で強いだけじゃないですか、それも団体戦」
「それでも俺の強さは知ってるだろ」
「知ってますけど全部非公式じゃないですか」
ジェルマンやレオンと戦った時は決闘なので非公式扱い、それに一学年トーナメントでは目立った功績も無いし決勝には出なかったり、強力な神威武装(ミスフォルツァ)や属性能力(アトリファクタス)や精霊や魔法のせいでカズキの印象が薄かったりする。
「くそ、なんてこった」
「現状だと雑用とかしか出来ませんよ」
「なんだと!?コナミウスの討伐すらできないのかーー」
「そう落ち込まないでください。荷物持ちは銀貨三枚も貰えるんですよ」
「やかましわ、くそまずは名前売りかよ」
今ここで大きな騒ぎを起こしてもいいが、退学とかになったら嫌だしな。試合で目立ってからにしようかな。
「すごい悩んでますね」
「何か、何かないのか」
俺でも出来ていい感じのクエストがないのか。クエストを再びよーーく見る。この時、ある一文が目にはいる。『人数は何人でも可』
このとき、カズキに電流走る。
「お前、ランクはいくつだ」
「私ですか?、こう見えてDランクなんですよ!」
ふふんと胸を張るミチノ。下から二番目のたかがDランクで威張られてもとは思うが、神威使いを目指す新米の一学年では高い方らしい。というかランクにすら入ってないバカがそんな事を思っちゃいけない。
「Dか……よし、お前の名前でこれらのクエストを受けてこい、メンバーに俺も加えて」
貼り紙数枚をミチノにおしつける、それらは全てDランクが受けれる討伐の最上位のクエストだ。
「え、え、えぇぇ!?」
「名前はお前で狩るのは俺で報酬は半分だ、どうだ?」
「あー、私はこれから先輩達に取材しに行かないといけませんので」
逃げようとするミチノの肩を素早く掴む。
「暇してるんだろ、いいじゃねぇか俺と危険種狩りツアーにいこうぜ」
「あっ、ルイスさんはBランクだからそっちの方が」
「あいつに頼めるかよ」
「私ならいいんですか」
「いいだろ、また取材受けてやるから」
「さよーーならーー」
手を振り払い全力で走り去るミチノ。よほど嫌だったんだな。
「くそ、逃げやがった」
仕方ない、地道に薬草集めとかをやるか。
小屋の中にいる受付の人に今出来るやつを一通り受けてやってみる。本来は一つしか受けられないのだが、レベルがあまりにも低く簡単で、ほとんどの人がやらないので複数受けられる。あとペット探してとかもついで感覚で受けてみたりする。
てことで
カハラ平原で薬草を探している。
街から出たら基本的には人の法が効かない野生の世界だ、いつどこから危険が襲ってくるかわからないので、たかが薬草集めでも気を引き締めてやらなければならない。
「薬草薬草~っと」
どれだけ持っていくのか忘れたから取り敢えず背負っている籠一杯に入れる事を目標にして集める。
それにしても薬草がありすぎる気がする、誰も取りにきてないような感じだ。
そういや薬草集めの他にポンガポンガの実やウマウマキノコなど採取クエストが沢山あったし、何か理由でもあるのかな?
あっ、ポンガポンガの実は森にあるピンクの果物で食用、ウマウマキノコも名前の通り食用のキノコで美味しいんだ。それらは人間の手で栽培されているけど、自然界でとれたものはなぜか味が良く価値があるのだ。
多く取ってお土産にしよっと。
だが、森には危険種が平原よりも多くいるから気をつけなければならない。
ほぉら俺のすぐ横にコナミウスが数匹いる。
そうかと思えばいきなり集団で襲ってくる。
ここは慌てる事なく先陣をきったコナミウスの頭を腕と脇に挟みそのまま真横へ回し首を折る。
続いてもう一匹が横から噛みつきにきたので、大きく体を捻り挟んでいるコナミウスを武器にし叩き飛ばす。
背後から一斉に襲ってきたので、それぞれの頭を丁寧に拳で潰す。
駆除完了!
「命の駆け引きでは弱者は淘汰され滅する。これが自然摂理だ……強者(俺)を狙ったのが運のつきだな。南無阿弥陀仏と」
殺すなら殺される覚悟があったという事だ。仕方のない事だ。
まぁ、こんな運命になった事はぜひとも自分を恨んでもらいたい。自分には勝てないと悟り逃げる事も自然界で生き延びるためには大切な事である。
「さて、薬草集めと」
制服が血塗れになったがまぁ気にする事は一切ないだろう。気を取り直してクエストを進めよう。
森の奥へと進み、お目当ての物を採取するカズキ。途中、廃鉱山があったので冒険してみたら盗賊のアジトだったらしくて、見逃してくれと頼んだら殺しにきたので一人残らず皆殺しにして拉致られた人々を助けたけど、語ればさっきのコナミウスと同じになるので割愛。
「おほほほ。品物が沢山取れましてよ」
予想以上の収穫に入れるので上機嫌なカズキ、籠一杯に取った採取品、両手には衰弱しきった少女、頭の上には金品が入った箱、後ろには拉致された人々が歩いている。まだ日が暮れていないが大所帯になったので早めに帰ろう。
森を抜ける道中にネーベアスネークとかキラーウルフなどが出たけど難なく対処したので割愛。
「お前らもう少しだから頑張れよ」
時々はぐれてないか確認をかねて後ろを振り替えって声をかけてみたりする。
返事はないが、全員はいる。みんなボロボロの服で痩せ干せている。何日監禁されてたんだろうな。他人事に聞こえるけど可愛そうに。
それにしても、偶々入った廃鉱山で人が監禁されていて、偶々薬草とか食べ物を持ってたからその命を助けたられただけで、まぁ運が良かったなとしか言い様がない。
森を抜け平原を歩いていやっと街の入り口につく。
助けた人々はやはり行方不明者だったらしく、門番の人が慌てて馬車を手配してくれて全員医療院へ連れてってくれた。
手配してる間に一人に治療代として奪った金品が入った箱を渡してトンズラする。
だって、これ以上関わるとめんどくさいことになりそうだもん。
学園に戻ると血で真っ赤に染まった制服を洗い、予備の制服に着替えてからクエストの受付の人に依頼品を渡す。
やはり取ってくる量が多かったらしく、特に余った薬草はなぜか買い取って貰ってくれた。やったぜ。
気になる報酬は合わせて銀貨五枚だが、労働者の日給より遥かに高いので稼いだ方だろう。
これで生活費のたしになればいいんだけど、精々数日分かな?無いよりはましだ、さっそくノアさんに借金を返済しに行こう。
寮へ戻るとノアがリビングで読書をしている。
「あ、カズキさん。どこに行ってましたの」
こちらに気づいたのか、声をかけると読んでいた本に栞を挟み読書を中断する。
他の奴らはどうしたのかと聞くと、ジェルマンとレオンは山で修行をして、ルリーは女子部屋で魔法の研究、リュークはベッドで寝ているそうだ。
みんな休日を有意義に使っているな、いいこといいこと。
「おー、ノアさん。はい」
カズキが手の平に乗った銀貨五枚を突きつける。
「銀貨五枚?どうしたのですか?」
訳もなく渡されたので困惑した顔をしている。
「生活費です。なんなりとお納めください」
「生活費?」
まだ分かってないので、簡単に説明するとノアは急に笑い始める。
「あれは冗談ですわ」
「は!?」
ノアが言うには最初に払った入学金に含まれており、月の始めに一定額の生活費をノアに渡しているそうだ。
後でレイカ先生にノアに全部渡してるのか問い詰めてみたところ、お嬢様だから金に目が眩む事はなく、更に金銭感覚が狂っていないに加え基本の家事をやっているから生活費を管理しやすいという考えだそうだ。
まぁ、一番は信頼出来る人だから、というのが決め手らしいのだが……。
「ですので、このお金は受けとれませんわ」
受け取った銀貨をカズキに返す。
「はは……騙された」
まさか嘘だったとは、嘘をついているような顔ではなかったし平然としていたからわからなかった。なかなかやるな。
「ごめんなさい、そんなに落ち込むだなんて」
部屋の隅で膝を抱えるように座るカズキに慌てて謝る。
「じゃあ、これで美味しい夕食作って」
先程とは裏腹、笑顔で様々な食材が入った籠をノアに渡す。
ポンガポンガの実やウマウマキノコ以外にも食べられる野菜や果物や茸をちゃっかり採取していた男。抜け目無いバカだ。
「わ、わかりましたわ」
情緒がすぐに変えるカズキに若干引いているように見えるが、余り深く聞くと両者痛み分けになりそうなので見なかった事にする。
「それで、この大金はどうやって集めたのですか?それとこの食材も」
「あぁ、クエストをやってな」
「クエスト……ちなみにどんな内容ですの?」
「薬草集めとか一番簡単なクエストだよ」
「もしかして街から出たのですか?」
「もちろん」
「大丈夫でしたか、危険種とかに襲われたりしませんでしたか?」
「どうしたの急に」
「今は危険種が繁殖してるそうですの、街に怪我をしてる冒険者が来るのが後を絶たないそうですわ」
そういえば異常なほど襲われたのはそれが理由だったのか。
そのせいで助けた人々を守るのも大変だったなと思い出す。
「危険ですから今度からは一人でクエストなんか受けないでください」
「おいおい、危険種程度で俺を倒せると思っているんですか?冗談キツイですよ」
「冗談じゃありません。最近ギガドラも目撃されているそうですから、気をつけてくださいよ」
ギガドラ、確か学園の誰かが討伐しに出かけてるんだっけな。あの中では最高位クエストだったから相当の実力者なんだろうな、興味無いけど。
「わかったよ、気が向いたら誘うわ」
「全然分かってないじゃないですか!」
「そんな怒るなって、一緒に行こうな」
「最初からそう言えばいいのですよ」
ぷんぷん怒りながらカズキから籠を受け取りキッチンへと向かう。そういえばもう夕飯の時間になるな。
いつもはノアに調理を任せて修行でもするのだが、御機嫌取りを含め手伝うのであった。
つづく