夜
みんなが寝静まった時、暗い部屋で静かにベッドから起きるカズキ。
たまたま目が覚めた訳ではない。むしろ寝始めてからまだ二十分も経っていない。そもそも寝てすらない。つーかレオンやジェルマンが寝るのを待っていた。
修行着に着替え、男子部屋から出て真っ直ぐにある玄関に直行し靴を履き始める。
そう、日課のトレーニングを始める為に。
玄関から出ると、外は外灯と月明かりで学園内はわりと明るい。
時間的にはまだ早く、風紀委員の奴等が見回りをしている時もあるので見つかる前に学園外へ出る。
物音を立てず走り、城壁の前にいくとジャンプして難なく飛び越え街へ出る。
明らかな校則違反でもあり寮則違反なので見つかったら大変な事だが、知った事ない。今まで見つかった事は無いし、大丈夫だろう。
修行の場所として使っている無人島に向かう為、海岸へ向けて街を人とは思えない超スピードで通っていると
ザンと目の前に何かが突き刺さる。
一旦止まって何が突き刺さっているのを確認すると大きな槍が道に綺麗に刺さっている。
この速さで動く敵の前を捕らえるとは、かなりの手慣れと予想できる。
しかしこの槍、どこかで見覚えが
「そこのお前、何をしている」
槍に触れようとするが光の粒となりスッと虚空に消える。そして、横から聞き覚えのある声がする。
「あ」
振り替えってみるとルイスがいた。それも制服ではなく私服姿の。それもかなりラフなものだ。
一瞬誰か分からなかったが、凜とした声と目を張るような青髪でわかってしまった。
「むっ、お前は……」
分かってしまっては仕方ないので全力で逃げる。俺もいつもと服装が違うからパッと見は誰かわからない。現に警戒しながら近づいて確認をしてきている。
「カズキか」
逃げようとした瞬間に名前を呼ばれてしまう。やはりバレていたか。
「ここで何をしている。門限は既に過ぎているぞ」
「お、お前こそ門限が過ぎているぞ」
苦し紛れの言い訳と、なんでルイスがここにいるのか素の疑問を合わせたセリフを言ってみる。
「私は寮生活ではないからな、問題ないのだ」
意外な返答と、自分が不利な状況だと悟った。
「こんな夜に女の子が街を歩いちゃいけないんだ!悪い人に襲われちゃうぞ!」
なんとかこの状況を打開しようと言ってみるが
「一般人に私が負けるとでも思うか」
すぐに論破されてしまう。なんてこった。
「だが、悪い人には出会えたな」
そういうと神威武装(ミスフォルツァ)を展開し、槍を突きつける。
「ほう?この俺に勝てると思うのか?」
俺はルイスに勝てる、口封じなんていくらでもできる結局は力だ!だ、だからあ焦るひひ必要ななんてどどどどどここにもないいんだよ。
「…………」
ルイスは下を向いて黙り込む。
「黙るなよな」
今の反応で、実力差ははっきりと分かっているようだ。ふぅ
「それで、なんで街におりてきた」
おりてきたって俺は獣かよ。まぁいいや、ここは素直に答えておこう。
「修行だよ修行」
「修行?」
「そうさ、強くなる為にな」
「……なるほど人知れず修行か」
「そゆこと、じゃ!」
「じゃではない、帰れ」
「えぇん、学園内じゃ修行出来ないから外に行くんだろ?」
「授業でもそれ以外でもやってるじゃないか、足りないのか?」
「足りない足りない、もっとやらなきゃ強くなれないね」
「あのレイカ先生の授業でも足りないのか」
「普通に強くなる分なら先生の授業で充分だよ、でも俺は上を目指しているからな」
レイカ先生の授業は理にかなっている。どこにいっても強いやつは同じような事をしているなと実感した。それを三年間やれば普通に強くなれるだろう。
だが、俺はあくまで上を目指している。その普通にとどまるなんて真っ平ごめんだ。
「あ、なんなら一緒にやるか?お前にとってはかなりハードだと思うけど」
いつもなら即答で断るルイスだが、あの強さを知ってしまった以上、その修行内容はとても気になる。
正義を取るか、強さを取るかて非常に悩んでいるルイス。
「……わかった。少しだけ付き合おう」
呆れながら言うルイスの顔からは、何か覚悟を決めたようなものを感じた。
「ただし、お前が門限を破っている事実は変わらない。報告書にはキッリチ記入する」
やはりそこだけは譲れなかったようだ。どっちか片方ではなく両方取るとは欲張りなやつだ。だが、それがいい。本当はよくないけど。
「それは思っていた事とは違うよ」
「お前が勝手に思っていただけだろ」
うっ、正論だ。
正論には勝てないカズキは、これ以上その話をすることはなかった。
なんだかんだ走って砂浜までつく。
「ここでやるのか?」
「なわけ、ここじゃ近所迷惑だ」
「……何を言ってるのか理解出来ないのだが?」
「あそこに小さな島があるんだ、人が誰も住んでいない島がよ」
海を指差すも、何も見えない。別に暗いから見えないわけじゃなくて何もないのだ。
ここに住んでいるルイスならそんなことは知っている。だから先程から不思議そうな顔でカズキを見ている。
「海を渡るから、いくぞ」
「いくって、船でか」
「なわけあるか、走りに決まってるだろ」
「は!?」
「泳いでもかまわないけど、服が濡れるからな」
「ちょっとまて、走るって海をか!?」
「そうだけど……何驚いてるん?」
「何出来て当たり前みたいな顔をしているんだ、無理だそんなこと」
若干引いているカズキにルイスがつっこむ。
「仕方ない、今回は俺が連れて行ってやるよ」
「え、ちょ」
ルイスを抱えると海めがけ走りだす。
「まて、本当に走れると」
目を疑った。カズキは水飛沫を後に引きながら海の上を走っているのだ。
どれくらいの速さで走っているのだろうか、すくなくとも実体を捉えられないほどの速さで足を動かしているから人技ではないことは確かだ。
「ほーら、あそこの島だ」
しばらく走っていると目の前に島が見える。そこがカズキが修行場所として使っている島だ。
上陸すると抱えているルイスを優しく降ろす。
「まさか本当に走るなんて」
「沈む前に踏み出す。簡単だろ?」
理論的には正しいのだが、それを実現させる事はほぼ不可能だろう。
「さて、やるぞ」
「やるっえ、ここはデンリス島だぞ」
「なんだそれ?」
「ここの島の名前だ、確か高レベルの危険種が多く住んでいるから誰も近づかないんだ」
「へー」
ルイスが説明をしている間に準備運動をし始めるカズキ。
「真面目に話を聞け」
「聞いてるよ、高いレベルの危険種がいるんだろ?なら相手にいいじゃねぇか」
「まさか、君は毎日危険種相手に戦って」
「そんなわけないだろ、普通に修行だ」
周りを警戒しているルイスを横目に腕立て伏せを始める。
「いつ襲われるかわからないんだぞ」
「あ?弱者(危険種)が、強者(俺)を襲う訳ないだろ?」
いくら高レベルの危険種でもカズキの敵ではないことはルイスも分かっている。
「それでも危険な場所な事にはかわりないだろ」
だが、修行で疲弊していれば殺されることもある。何がおこるか全くわからない危険な場所だ、こんな所で修行だなんて無謀過ぎる。
「修行に集中しながら周囲を気配る鍛練にもなる。安全な場所で修行とかなに甘えた事を言ってるだ?」
「なに!?」
「俺に勝てないのはそういう意識と考えの差だね。逆境こそ強くなる近道、修羅の道すら平然と進めなきゃお話になりません」
腕立て伏せの状態から逆立ちになり片手で体を上下に動かす。
「なにボサッとしてるんだ、準備運動をしろ」
「……」
ここで投げ出してもいいのだが、そんな事ではカズキには一生勝てない。そう悟ったのか黙って従う。
「よし、こんなもんか。組手やるぞ」
「……お前、もしかして組手の相手が欲しかったのか?」
「ばれちった?」
「はぁ、全くお前というや」
誘った理由を知り呆れながら立ち上がるルイスの真横に、刀が一直線に通る。
「え?」
グギャアァと人外の断末魔が聞こえる。恐る恐る後ろを振り向くと木の形をした一つ目の危険種が倒れている。
「警戒を解くな、ここの危険種は擬態に特化している」
倒れた危険種に近づくと目に刺さった刀を抜く。目から緑色の液体をブシュッと飛ばしながらピクピク動いている。
「お前はここで戦闘における観察眼を養え、気を抜くと殺されるぞ」
「危険種じゃなくてお前と組手をするのか」
「言ったろ、観察眼を養うってよ。周りを気配る力は今回の大会では必要であり、実戦で活躍する力だ。覚えて損はない」
そういうと背後に忍び寄る巨大な蔦を斬り倒れている危険種を持ち上げると、蔦を出している本体に投げつける。
「襲われてる最中も俺もお前も攻撃するルールだ。が、やばかったら今みたいに俺が助ける」
「君がやばかったらどうするんだ」
「自惚れるな、お前に助けを借りるほど俺は雑魚じゃない」
「……後悔するなよ」
光の粒が集まり槍を顕現させると、カズキに刃を突きつけるように構える。
「それは後の自分に言い聞かせな」
こうして過酷な組手が始まった。
「はぁ、はぁ、うぐ」
片膝をつき息を切らすルイス。
「オラまだだ、はやく立て」
余裕の表情で手招きをするカズキ。
対多数戦も経験しているルイスだが、それら相手は人間で格下が多かった。だが今回はカズキという強者に加え、いつ危険種に襲われるかわからない状況での組手は予想を越える辛さだった。
急に危険種が横から襲ってきたから対応したらその隙に攻撃をしてくる。それに反応出来ずに毎回倒されてしまう。
対するカズキは急襲してくる危険種を的確に対処しながら対等以上に戦っている。それも手を抜いてだ。
「ほら、集中しろ」
立ち上がってもすぐに倒されてしまう。
満身創痍の中、カズキとの差を嫌というほど思い知らされる。
そんな状況で、次第にルイスの心が折れ始めていた。
「うぅ」
体に力が入らない。視界がぼやける。意識が朦朧とする。脳が立つなと命令する。心がやめたいと叫んでいる。
目の前に転がっている槍を拾おうともせず、ただ座り込んでいる。
「どうした。もう限界か」
カズキの問に微かに首を縦に動かす。
「ならば立てッ!!立って限界を越えろッ!!」
「…………」
「強くなりてぇんだろ。そんなんじゃ誰も守れねぇぞ」
カズキの言葉に鼓舞されたかのようにゆっくりと立ち上がる。
足が震え、重心が定まらない中一歩また一歩と前へ歩み出す。
「そうだ、それでいいんだ」
前のめりに倒れるルイスを抱えると集められた枯れ葉の上にそっと寝かす。
「第一関門突破だな……こりゃ俺も負けてられないな」
上着をルイスに被せ、刀を近くに置く。
ここからカズキの修行が始まるのだ。
やっている事はレイカ先生とは変わらない基礎トレーニング。だが、内容はそれを越えるようなものばかりだ。
「うっぐおおぉぉっ!!」
魔法による高重力空間を作り、立つのがやっとの状態でのトレーニング。一回一回が半端無いほど辛い。
「おおおおおおっ!!」
体が重い、動かない。
筋肉の繊維が切れそうだ。骨が軋み折れるんじゃないかと思う。なら切れて結構折れて結構、そこから回復して強靭な体が出来るというもの。
「まだ意識がある。まだいける。負けんなオラァ!」
強くなる。その強い意思がどんな辛い修行をも乗り越える支えだ。
「はぁ、はぁ、あああっ、はあ」
「まだだ、まだいけるぞ。動きを止めるな、どんどん動かせ」
自分で自分を鼓舞させひたすらトレーニングに打ち込む。
トレーニングを終えた後は素振りを始める。基本の打撃から下段、中段、上段と突きと蹴りをやる。ただやるのではなく、一回一回意識した丁寧で質の高いものだ。
こういった基礎をちきんとやる事が強くなる秘訣だ。基礎を怠っては強くはなれない、俺の師匠や先生は常に言ってきたからしっかりと教えを守っている。その結果、更に強くなれている気がする。
強いやつはみんな同じ事をするし同じ事を言う。そこから差がでるのはこの後にやる技の練習だ、どのように動かせば威力や速度が上がるのか、日々研究し無駄を無くしていく。
技を繰り出し試行錯誤しながら完成度を高めていく。
などとしていると太陽が昇り始める。
「んっ……うん?」
眩しい日差し起こされ、眠い目をこすりながら上半身を起こすルイス。
「いた」
身体中が痛い。
その痛みで昨日はカズキと組手をしていた事を思い出す。
……そこからの記憶が全くない。
記憶がない事に気付き慌てて立ち上がり周りを見渡すと外だ。どうやら島で寝てしまったらしい。
カズキはどこに行ったのか、まさか置いてかれたのかと一瞬思ったがすぐ近くで腕立て伏せをしていた。
カズキから発する熱気は体の周りから陽炎のように揺らめきが立ち上っている。当然汗も凄く、地面には水溜が出来ている。
「……」
圧倒的だった。
森だった場所が小さな広場になっている。見ただけで分かった、他とは比べ者にならないほどの圧倒的修行の量。ただやるだけではこうはならない、質も何もかもが圧倒的なのだと瞬時に悟った。
「お、おいカズキ」
淡々とこなしているカズキに声をかけてみるが
「あと十三回待て、切りが悪い」
そう告げながらトレーニングを続け十三回やり終えると立ち上がり
「よールイス、おはよう」
満面の笑顔で挨拶をしてくる。
「お、おはよう」
「やーーっと起きたなお寝坊さんめ、じゃあ修行始める?やらない?それとも帰る?」
「……まだやるのか?」
ニコニコしながら聞いてくるカズキに呆れながら聞いてみると
「とーぜん、鍛えてなんぼの世界ですから」
「……」
「お前の昨日の組手はなかなか良かったぞ」
背中をバンバン叩きなから誉めるカズキ。
「あれのどこが良かったのだ?」
確か昨日の組手は、一方的にやられていた記憶しかなかった。それの一体何が良かったのだろうか。
「最後まで立ち上がっただろ?それだけで充分よ」
「立ち上がった?」
ルイスの記憶には組手でさんざんやられていた事しか覚えていない。そもそもどこで何があって倒れたのかも覚えていない。
そのため、カズキが何を言ってるのかがわからないのだ。
「なかなか出来ないんだよな、極限状態の時に立つのってよ。お前は立てたから俺の修行についていけるだろう」
「!?」
その言葉にルイスは、はっとする。
「お前、私を鍛えようとしていたのか!?」
「まぁな、途中でわからなかった?」
「お前は私の仇なのだぞ。それなのに、私に、敵に塩を送るのか!?」
ルイスにとってカズキは故郷を滅ぼした倒さなくてはならない存在。そのカズキに教わるなどあってはならないことだ。
「送ってやるよ。塩だけじゃ足りないから飯もおかずもドーーンと送ってやるよ」
カズキは笑いながら言う。
「それに、俺の事はもうそんな風に思ってないだろ?」
カズキを仇とは思っていない。そうでなければこうやって話す事も一緒に組手もしないだろう。それを見抜きルイスを修行に誘ったのだ。
「……随分と気前がいいのだな」
「当たり前だ。お前はもっと修行して俺を殺してもらわないといけないからな」
「自分を殺してもらうために強くする。か、変わっているな」
「強く願うのは当然の事だ。もっと鍛えて俺を殺してみせろ。……だがな、俺もそれ以上に修行して強くなる。そしてお前の壁になり続けてやる」
「ふふ、面白い事を言うな」
「これは俺の常套句だぜ?俺の修行を受けたやつ全員に言ってる」
「弟子がいるのか!?」
「弟子じゃねぇ、友達と敵だ」
「なんだそれは」
「俺はあくまで基礎を教えるだけだ。技は自分で磨け」
「基礎?さっきは飯もおかずも気前よく送るとか言ってたくせにか?」
やれやれと呆れてるような仕草を取ると、カズキは後ろを向くと拳を無造作に振るう。
パァンと大気を張り裂くような轟音が島全体に響く。
「基礎をバカにするなよ。鍛えればただのパンチでも必殺技になる」
続けて腰を深く落とし拳を突きだす。風圧で木々や岩が倒れ島に一直線の道が出来る。
「当然、基礎が強ければ技も強くなる。当たり前だよな」
「……」
「まぁ今回はここまでだ、ちと早いが帰るぞ」
「帰るって、また海を走るのか」
「当たり前だ。俺と修行をしてけば嫌でも出来るようになるさ」
ルイスを抱えると再び海を走り街に戻る。
「そういやお前の家はどこだ」
「私一人で帰れる」
「バカヤロー。一応女の子なんだから家まで送ってやるのが筋ってもんやろがい!」
「あ、あぁ、わかった」
カズキの迫力に押し負け仕方なく案内する。
しばらく歩くと小さなレストランの前でルイスが止まる。
「ここが我が家だ」
「レストラン……お前まさか、学生をしながら自営業を営んでいるのか!?」
「違う。レストランは兄上が経営をして、私はその手伝いをしているのだ」
「へー、お兄さんのお手伝い?ええ娘やこの娘ええ娘!」
「二階が私達の居住にしている場所だ。狭いが二人ならなんの問題はない」
「さすがシバの兄さんだ……ん?」
うんうんと関心しているとある事に気づく。
「あれ?もしかしてシバの兄さん、ここで暮らしてるん?」
「そうだぞ」
「てめぇ、なぜそれを速く言わないんだバカたれこの!」
ルイスの胸ぐらを掴み揺さぶる。
俺にはこいつの兄、シバという人にある用があるのだ。
それも本来なら二年前済ませなければいけない事だったのだが、新国に居なかったから後回しにしていたからこんな事になってしまった。
「知ってるのだと思ったんだ」
「知ってるわけねーだろうが」
「まだ朝早いから今回は出直すけど、シバの兄さんによろしく言っておいてくれ」
「言われなくてもそうする。じゃないと今日の件の説明が出来ない」
「よーし、じゃあな学校に遅れるなよ」
そういうとカズキは屋根の上に飛び上がり、屋根から屋根へと飛び移りながら学園へと戻る。
その後はシャワーを浴びてすぐベッドに潜り寝る?。
そして何事もなかったかのように起き、みんなと学園生活に勤しむのであった。
つづく