夜
あの後、寮前でトレーニングをしていたが、次の試合の事を考え早めに切り上げ寝る事にした。
が、カズキは違った。
みんながレオンとジェルマンが寝たのを確認し、いつも通り修行をしに例の島へと向かう。
ちなみにルイスは、大会が始まる一週間前から修行を中断している。
なんせ、俺達と同じで学園公式戦にでるのだから。しかも互いに勝ち進めば三回戦で当たる事になる。
あまり期待はしていないが、俺が知らない一週間のうちにルイスがどれだけ変われるのか見物である。
まぁ、ルイスのチームが勝ち進められたらの話だけどな!
他人の事ばかりを考えても仕方ないので、すぐに自分の事である修行に励む。
部屋のドアを開け玄関の方を見ると、リビングに灯りがついている。
あれ、おかしいな。みんな寝ているはずなんだけどな。
気配を消して何も音を立てずに出ることは可能だが、万が一バレてしまってはまずいので誰がいるか確認する。もしレイカ先生だったらぶっ殺されてしまう。
恐る恐る開けて見ると、ノアがソファーにすわりこみ俯いている。
「何してるん」
「ひゃん」
声に驚いたのか可愛らしい声をあげる。
そして振り向きざまに神威で弓を具現化させ構える。
「おいおい殺す気か」
放たれる前に矢を掴み止める。と言ってもノアの手から矢は放しているから前ではなかったりする。
「か、カズキさんでしたか。脅かさないでほしいですわ」
カズキの顔を見て安心したのか、弓が光の粒となり消える。
振り返りながら声を頼りに敵の位置を判断し攻撃する。なかなかいいセンスをお持ちのようだ。
「こっちは脅されたけどな」
「そ、それは急に声をかけたからで」
「それはすまんすまん。だけど、何やってるんだ」
いつもならもう寝ている時間だとは思うんだけど、なぜか起きている。
「そ、それは……」
口をつぐませカズキから目をそらす。
ノアの顔は憂鬱の表情を浮かべている。何かあったのだろうか。
「……なにか悩みがあるのか」
そんな顔をするのだから聞いてしまう。仲間が悩んでいるんだから助けてやりたいと思うのが仲間だろ?
「……いえ、なんでもありませんわ」
「なんでもないはないだろ、愚痴くらい聞けるよ」
「大丈夫ですわ」
しつこく言ってみるが、こうも頑なに拒否するとはな。
「……はっ、まさか俺の愚痴!?」
考えられるのはそれしかない。そりゃ本人の前で愚痴を言えるわけがない、もし言えば愚痴ではなく説教か文句になるだろう。
「違いますわ」
間髪いれず否定したので変な不安はすぐに消える。
よく考えれば、ものごとをズバッとハッキリいう性格をしている気がするノアさんがそんな陰気臭い事をするわけがないはずだと思う。
「じゃあどうしてそんな顔してるんだ」
「……」
「ほら、悩み事は溜め込むより出した方がいいよ」
優しく問いただすも黙り込んでいる。
あまり触れない方がいいのかな。とは思うが、ほっとけないという気持ちが強く出てしまう。
「……しゃーない、じゃあ一つ俺の身の上話に近い愚痴をしよう」
「結構ですわ」
「あらそう、じゃあ勝手に話すわ」
ノアの隣にすわり口を開く。
「俺ってよ親が居ないんだよな」
笑いながら話す話題としては結構重たい内容が出てきた。
「え?」
「母さんは俺を産んですぐに死んで。父さんは戦死したらしい」
あくまで聞いた話だからよくわからないが、この世にいないことは確かだ。
「そ、そうなんですか」
それを聞いたノアは驚きを隠しながらも心配した顔になる。
「俺は産まれたばかりだから分からないけどな」
「……悲しくないのですか?会ってみたいとか、思わなかったのですか?」
「そりゃまあ思った事はあるけど、死んじまったもんは仕方ないはしな。あと忙しすぎてそんな余裕なかった」
幼少期から忙しかったからな、本当に親の事なんて考えもしていなかった。
まぁ俺が狂っているからかもしれないがな。
「でもな、たまに思うんだよ。命を落としてまで父さんは世界を守る必要があったのか。もし俺が産まれてこなければ母さんは死なずにすんだんじゃないかってよ」
「よくわかりませんけどお父さんとお母さんのおかげで今カズキさんは生きているのですから、そんな事言ってはいけませんわ」
「分かってるよ、だから俺も今初めて口にした。おかげで少し気が楽になったよ、ありがとう」
「いいのですわ。これくらい」
「んじゃ、俺は行くから遅くならないうちに寝なよ」
そういうとカズキは立ち上がりリビングから出ようとする。
ここにいても修行できないしな。
「待ってください。自分だけ愚痴を言うのはズルいですわ」
「そりゃ勝手に話したからな」
勝手に話して、さぁあなたも話してはおかしいからな。ここで切り上げるのは変なことではない。
まぁ、話すような雰囲気に仕組んだのは間違いないのだが。
「話したいのなら聞くよ」
だから、素直に聞く。
ノアは一呼吸おくと悲しい表情になりながら話しだす。
「わたくしには妹がいますの」
なるほど、姉妹の件についてか。喧嘩でもしたのかな?
「実は八年前から行方不明で」
「行方不明!?」
カズキは思わず声を上げてしまう。
八年前に行方不明となると生存しいる可能性が絶望的だ。
「何があったんだ。遭難とか」
「違いますわ。私達が、私がいけないのですわ」
その妹、ミュア・アルバートンは心が読めるという能力を持つ故に周りから忌み嫌われ、家を出たというのだ。それも冬と言う過酷な時期に。
「まだ生きているかわかりまん。ですが、私は剣舞祭に優勝してミュアに会いたいのです」
「レオンもノアさんも家族思いのいいやつらばかりだな、感動した」
瞳をうるうるさせながらノアの肩を叩く。
「そうでもありませんわ。もしかしたらあの時、私達家族もミュアに対して悪い気持ちを持っていたかもしれません」
ミュアが行方不明になってから、常にそう考えてしまうようになった。
あの時も、あの時もと思い出す度に罪の意識が自分を締め付ける。
「もしそうだったら、わたくし……」
「今も妹の事を大切に思っているんだ。そんなことは絶対にない」
「カズキさん」
「絶対に優勝しような」
「当たり前ですわ」
泣き崩れそうな表情からいつもの表情へと変えるノア。
みんなそれぞれの願いがあるんだな。と改めて思ったカズキ。
その後、元気を取り戻したノアは律儀にもお礼の言葉を言ってから寝室へと向かった。
カズキは当然、修行へと向かう。今日はいつになく気合いをいれてだ。
つづく