試合会場
ビーッと合図が鳴り、いつも通り試合が始まる。
そう、いつも通り
しかしその日はいつもと少し違った。
ズシィン、ズシィンと重たい足音が、ガシャンガシャンと金属と金属が擦れる音が静まる試合場にこだます。
カズキ達の目に映ったのは両肩に付けられた巨砲をはじめとする武装と城壁のような装甲に包まれた巨人、いやロボットとでも言うべきか。なにより恐るべきはその大きさだ。十五メートルか、それ以上か。
『気を付ける相手は三年Aクラス、ハート・バリフォード。属性能力は要塞兵器(デュールウェポン)、まぁ歩く要塞ですわ』
試合前にノアがそんな事を言ってた事を思い出す。
「要塞……ねぇ」
最初は何を言っていたかサッパリわからなかったが、見てすぐに理解した。確かに要塞だと。
そして、今大会の優勝候補と言われる理由も。
「これを相手にするのか」
見上げるほどの巨体、体のいたるところに砲台が設置されている。
たった六人だけで手に負えるような相手ではない。
「勝てるのか、これに」
さすがのジェルマンやレオンもその姿に息を飲む。
「こんなの、聞いてませんよ」
一回戦では使用しておらず、いきなりこの巨体を見せつけられるのだ、臆するのは無理はない。
だがなぜか二回戦で、ましてや一年相手に使用してきたのはひっかかるが、向こうも全力で相手してくれているのにかわりない。
「勝てる勝てないではありません。やるしかないのですわ」
「まっ、そうだよな。いいこと言うなノアさん」
弓を構えるノアの隣に立ち、ハートを睨む。
「あれれ?もしかしてビビってるの?かーわいー」
その横でリュークが他を煽っている。
「べ、別にビビってねぇよ!」
「あぁ、デカさに驚いただけだ」
「あわわわ」
「行くぞオラァ」
「ゴナゴナにしてやる」
そのおかげか、男二人はやる気にはなった。が、ルリーはまだ恐れている。
「おい、来るぞ!」
巨大な指先から砲弾が雨のように降ってくる。
「グラン・ギア」
レオンはとっさに地面が盛り上がらせそれらを防ぐ。
岩が崩れ落ち、砂煙と砲煙で視界が悪くなる。その隙に各自散らばる。
「オラァ!」
足にバーストショックを叩き込むも傷ひとつつかない。
ハートはおもむろに足元を蹴る。
地面は抉れ、爆風でリングに立つ者達は吹き飛ぶ。
アストラルエーテのおかげで観客に被害がないのが幸いといったところか。
「滅茶苦茶ですわ」
「ですが、いい的です」
ルリーはファイヤーボールを唱え、連続で放つ。
その巨体ゆえに当てやすく全弾命中する。
しかし、効いてるようには全く見えない。
「生半可な攻撃では倒せないようですね」
「あの装甲をなんとかしないとダメですわね」
砲弾をかわしながら攻撃しているレオンとジェルマンだが、効いてるようには見えない。
「ちっ、鬱陶しい」
「なんか作戦は無いのか」
単体の攻撃では倒せないと判断し、ノアとルリーがいる場所まで一度退くレオンとジェルマン。
「無難に一点集中同時攻撃だろ」
「それじゃ、相手がすぐに対処してきますわ」
「じゃあどうするんだ」
「ノアの弓攻撃で凍った箇所を攻撃するのはどう?」
リュークが提案する。
それは凍ったものほど脆くなる。という法則を使ったよくある戦法だ。
「ひとまずそれだな」
「いけるか、ノア」
「当然ですわ」
「私達がノアを援護するから構わず射ってね」
「よし、とりあえずやるだ」
作戦が決まりすぐに行動に移す。
その頃ハートはカズキに対して終着な攻撃をしている。
「けっ、俺達には眼中に無いみたいだな」
「あの爆風の中で平然としていたからな、気にくわないんだろ?」
理由はわからないが、意識はカズキに集中しているからやりやすい。
「氷刃の雨(フリーレイン)」
その隙にノアは氷の矢弾を放つ。
被矢した箇所が凍り付く。すかさずジェルマンとレオンが攻撃にはいる。
「バーストインパクト」
「アダマンフィスト」
氷が砕け多少だが亀裂が入る。作戦通りだが、果たして効いてるのかがわからない。
「効いてるのかよ」
「とにかくやるしかないだろ」
効いてるか分からないが、ひたすら攻撃する二人。
ノアは体の至るところに設置された砲台にも矢を放っており、見事に凍りつき撃てなくなっていた。
砲撃が少なくなりノアを援護する必要も無くなったルリーはアイスエッジで攻撃してくる。
「オラオラァとっとと壊れろや」
相手が巨体で圧倒するなら、こっちは数(チーム)で圧倒する。
一方的に攻撃を受けているハートは、カズキからジェルマン達に標的を変える。
「やっとこっちに目を向けたな」
「きっと効いてる証拠ですわ」
「なら続けるまでだ」
勢いに乗り攻撃をしかける。だが、突然ハートの姿が消える。
「なっ!?」
突然の事で一瞬何が起きたかわからなかった。
だが、上から何かの破片が落ちてきたので見上げると、天井に巨大な穴が空いていた。そしてその先にハートが飛び上がっていた。
「あの巨体でこの俊敏な動きだと」
「ま、まさか!?」
「グラン・ギア」
咄嗟に地面を浮き上がらせ落ちてくるハートを受け止めるも、時間稼ぎにもならないくらい脆く崩れていく。
そして、試合場に着地する。
ドオオォォン
轟たる地鳴り、繰り出される風圧は会場を一掃した。
だがここはアストラルエーテの中、異なる世界。どんな事が起きても、元の世界に影響はでない。
静まる観客、変わり果てた試合場にはハートだけがいる。
「おい、リューク。お前今の」
「あら、見えちゃった?」
わけではなく、カズキとリュークが立っていた。それだけではない、リュークの足元にジェルマンやレオン、ノア、ルリーが倒れている。
「うう、一体、なにが起きたの」
「……助かったのか」
「なんでまだ試合が続いてますの」
気絶した訳ではないが、体にダメージがあるようでヨロヨロと立ち上がる。
「あら、速いお目覚めね」
「ててて……おいこらリューク、お前何した」
「守っただけだよ。まぁ多少はダメージを残したけどね」
「あ?守った?ダメージ残した?どっちなんだテメェ」
「あちゃー、お前ら満身創痍か。これじゃ戦えないな」
ボロボロのジェルマンを見て笑いながら言うカズキ。
「まだ戦えるわボケェ」
「本来なら消しとんでたのによく言うわ」
「お前も守るならしっかりやれよな」
「やーよ、みんなのためにならないじゃない」
「はっ、テメェにゃ敵わん」
「お喋りする暇があったら、アレをどうするのか考えてくださいよ」
試合場中央に聳え立つハートを指さす。
動くことなくこちらをただみつめている。
その姿には戦意か見られず、準備が整うまで待ってくれているようにも見える。
「俺達は試合場にいる。まだチャンスはある」
それぞれ立ち上がり、ハートを前にして構える。
「そうはいってもメイン選手(お前ら)がこれじゃ仕方ない。ちと気が進まないが目立つとするが」
「おっ?出すの本気出すの」
「ちょっとだけ見せてちゃおうかなー」
「まさか、一人でやるつもりですか」
「おい、いくらお前でも無理だ」
一人歩くカズキの肩を掴むジェルマン。
「しょうがないだろ、お前らより格上が出てきたんだからよ。それに、昨日お前ら俺に言ってたろ?本気でやれってさ」
笑いなが手を払い、ハートの前に立つ。
ハートはカズキを睨むと、大きく上げた腕を振り落とす。
迫り来る巨拳。だがそれはカズキの目の前で止まった。
否、片腕でなんなく受け止めた。
あり得ない事態にざわつく会場。
力を込め巨拳を押し返すと、ハートは地面に二本の線をつくりながら客席に激突する。
「さぁ全力でかかってきな、ダメにしてやんよ」
カズキの手招きに応じるようにゆっくりと立ち上がりファイティングポーズをとる。
武装もほとんど凍り付き、接近戦しか出来ないハートに対してカズキも正面から挑む気だ。
先に動いたのはハートだ。地面を抉りながらカズキめがけ蹴る。
破片が飛び散る中、カズキがハートよりも高く飛び上がる。
それに対して先程とは違い動作が速いパンチを繰り出してきた。
当たるギリギリでかわすと同時に腕に足をつけ走り出る。
「どおいしょお!」
そして顔面に飛び蹴りを叩き込む。しかし、今度は踏みとどまりカズキを叩き落とす。
体を回転させ両足で着地するも、真上から巨大な足が降ってくる。
ドォン
直撃。さらに追い討ちをかけるように更に踏みつける。
地面が揺れるようなストンピングの雨、誰もが勝負はついたと思っていたが、ハートはやめずに攻撃を続けている。
足を振り上げた時、カズキは凄まじい速さでハートの腹部めがけ飛び上がり拳を叩き込む。
片足の状態だったせいでバランスが取れず後ろへ揺らぐ。
傾いた隙にハートの巨体を走り、額までいくと拳を打ち付ける。
それが決定打となり、ハートはバランスを崩し後ろへ倒れる。
「うおおおお」
すぐさまハートの指先を掴むとカズキは自身の体を回転させながら振り回す。
「オラァァ!」
客席目掛け豪快に投げる。当然平行感覚を失い受け身を取る暇もなく全身を打ち付けた。
「ここじゃ狭いよな。もっと広い所へ案内してやるよ」
客席に崩れたハートに対して連続で攻撃を与える。
打たれる度に装甲に亀裂が入り、全身に凄まじい衝撃が走る。
そしてとうとう背にしている壁を壊し、試合会場を貫き外へと出る。
「どうだ?ここならもっと巨大になれるぜ」
体を動かし仰向けになり両手を使いなんとか立ち上がる。
額には亀裂が入り、腹部には巨大な凹凸ができている。
もはや戦える姿ではない。だが、ハートは大きく息を吸い込み両手を広げ力を込め始める。
するとあら不思議、みるみる体が巨大化するではないか。しかも仕様不可能だった武装やボロボロだった装甲がみるみる治る。
「あんれま、本当に大きくなるとはな。しかも修復まで」
さっきの倍ほどになったハートを見上げる。
今日の天気は曇りだから顔まで見易いぜ。
ハートは後ろへジャンプしカズキとの距離を取る。
全ての砲台、機関銃その他兵器をカズキに向けると問答無用にと一斉射撃してくる。
砲弾に弾丸と大小様々な弾が飛んでくるが、カズキは刀を抜くと、それら全てを残す事なく斬り落とす。
斬り落とすカズキも凄いが、全弾カズキを狙っているその精度にも驚きだ。
などと感心していると、両肩に設置された巨砲から発射される。
カズキは飛び上がり、巨大砲弾を斬る。
それと同時にハートが一気に距離を詰めてきた。
家ひとつ簡単に潰せそうな拳を前にカズキは軌道を変える事なく突っ込む。
「オラァ」
ドゴォッ事なく崩れ落ちる。
亀裂は腕へ肩へと猛スピードで走る。
カズキは落ちる破片を足場にかけ登り、刀を振るい亀裂が胴体に達する前に腕を斬り捨てる。
続けて斬りにかかろうとするが、ハートは体勢を崩しながらも片腕を振るいカズキを叩き落とす。
勢いのまま試合会場に激突する。
地面に触れる瞬間、両手で自身を横へ流し両足を地面に付け減速する。
あのまま地面に激突しても良かったのだが、仲間がいるから最小限の被害で着地したのだ。
「ちぃっ、首ぃ斬りそこねた」
首を斬る事に執着して攻撃を受けてしまったが、これも良しとしよう。
「上等だ、圧倒的威力で跡形もなく消し飛ばしてやる」
予定変更、宣言通りダメにしてやる。
カズキは試合場の外に出ると、ハートはこちらに向かって走って来ている。
このまま会場ごと蹴散らそうとする勢いだ。
そうはさせない。
カズキの力強い踏み込みが大地を揺らす。
「ウオオオォォォッ」
ハートは雄叫びをあげながら、その速さを殺す事なく低空の飛び蹴りへと形を変える。
「破ッ!!」
極限まで引き絞った拳を一気に放つ。
瞬間、大気が張り裂けるような轟音が辺りを襲った。
「ちと力み過ぎたかなぁ」
突きだした拳を下ろし、変わり果てた地形を見て不気味に微笑む。
たった一発だ、たった一発から放たれた衝撃波は大気を揺るがし、ハートの巨体を、山を、雲を消し去った。
つづく