空一面を覆っていた雲が全て吹き飛び気候が晴天となり
授業や修行の場として使っていた裏山は跡形もなく消え、大地が抉れている。
実に清々しい天気だ、こんな日は昼寝がしたいね。
「終わった終わった」
試合会場は誰もいないかのようにシンと静かだった。
それでも視線はカズキの方へ向けられており、不気味な感じだ。
だが、ほとんどの生徒が顔色が青くなっているのを見てすぐに理解した。
カズキに対して恐怖している事を。
そしてカズキは悟った。やり過ぎたと。
まぁ過ぎた事はしゃーないと気持ちを切り替え試合場で待っている仲間の元へ向かう。
「およ?生き残りがいるのか」
その中で、知らない五人の生徒が体の震えを抑えながらこちらを見ている事に気づく。
そういえばあのでかいのを一人倒したけど他の五人がいるなと気づく。
巨大化する時にこっそり体から出いった奴らと同じだから、すぐさま敵と断定する。
「さくっと終わらしてる」
指を鳴らしながら近づくが、相手は神威武装を展開するどころか動こうともしない。
完全に戦意喪失している。とは分かっているが倒さなければ俺達の勝ちにはならない。
戦意が無い者に攻撃するのは気が進まないが、降伏した訳ではない。戦う者としてきっちりとどめをさしてやる。
「おい待て」
「あ?」
後ろを振り向くと剣が目の前まで来ていたので咄嗟に掴む。
「不意打ちたぁらしくないじゃないですか、レイカ先生」
剣を振り下ろしたレイカ先生に言う。
「状況が状況だからな」
普段の表情をしているが、声から焦りのようなものを感じる。
「……そんなに悪いのか?」
その声が珍しかったので思わず聞いてしまう。
「当たり前だ。お前が何をしたかわかっているのか」
「何をしたって、ねぇ」
そんな大それた事はしてない気がするが、やったといえば
「山を壊したぐらい……かな?」
「それが原因だろ!」
「しょうがないじゃないですか、こんなん使ったの四、五年ぶりなんだから力加減間違えたの」
「力加減を間違えただぁ?」
「だいたいこの程度でギャーギャー騒ぐなよな。恥ずかしい」
剣を掴んでいた手を離す。
こちらが戦う意志がないと判断したのか、レイカ先生が剣を振ってくる事はなかった。
「それで、用件はなんすか?」
試合中にも関わらず割り込んできたんだ。何か凄い事が起きたのだろう。
「アストラルエーテが消えた。続行は不可能とし試合は中止だ」
「はぁ!?中止!?」
本来アストラルエーテは試合場だけにしか発動させてなかったが、カズキが会場を壊したことにより緊急用として学園全体にアストラルエーテを発動させたがあの衝撃によって消えてしまったのだ。
その事をカズキに伝えると
「あれ、じゃあ山とかあの穴とか直らないのか?」
「アストラルエーテが消えたのはついさっきだ」
なるほど、そういや天井や壁にできた穴が無くなっているのはそのせいなのか。
「私はお前が死人を出さないよう止めただけだ」
確かに気づかなかったらあの五人を躊躇う事なく殺した。
それなら止めてくれた事に感謝しないといけない。
「それなら良か。止めてくれてありがとうな」
「礼ならいい。あと試合の勝敗なんだが」
「再戦か?望むところよ」
「いや」
「また今日みたいに、アストラエーテごと消し飛ばしてやるよ」
「相手の意見を聞いて決めるから今日の試合はこれで終わりだ」
「了解した」
「あと、アストラルエーテがしばらく使えなくなったから試合会場が変わる」
「どうでもいい」
「わけないだろ、壊しやがって。反省しろ!」
怒鳴りながらカズキの側頭部を両側から拳の先端を挟み込み固定し、そのままネジ込む。
これが滅茶苦茶痛い。
「いででで、簡単に壊れるもん使う方が悪いだろ」
「まだ言うか」
更に力を強める。この頭が圧迫されるような穴を開けられるような激痛に悲鳴を上げる。
「わーたわーった、全然全くと言っていいほど腑に落ちないけど仕方ないから反省してやる」
「それが反省している態度か」
「いーでででで、やめろ暴力教師」
「暴力ではない、教育だ」
その場でしばらく説教を受けたカズキ、他の生徒達はというと他の教師達の指示に従い別の試合会場へと移動しているのであった。
「くそが、なんで俺が怒られないといけないんだ」
説教から解放され学園をさ迷い歩いているカズキ。
別の試合会場に行けと言われてもどこか知らないし、寮にでも戻ろうかな。
「あら御立腹だねーカズキ」
カズキが怒っているのになんか煽るように言ってくるリューク。
「やかましい」
こいつのせいで更に腹が立つ。というか、いつの間に隣にきやがった。と聞きたいがいつもの事なので触れないでおこう。
「そうそう、他のみんなは医務室にいるよ」
「なんだ、怪我したのか?」
「誰かがやらかしたからね、選手は異常がないか検査してるの」
「ほへー、お前は検査したのか」
「するわけないじゃん、あの程度で」
「さすがと誉めてやろう」
「上から目線だからいらない」
「さすがリューク様、すばらしいです」
「下から目線は嫌い」
「さすがリューク、やるー!」
「同じ目線、いい気分じゃない」
「さすがリュークさん、すごいですね」
「なんか気に入らない」
「なら何がいいんだよ!」
「いらない」
つまり、誉めるなということか。
「なるほどね、最初からそういえ」
「察してよ」
「察せれるか」
「で、どこ行くの」
「仕方ないから見舞いに行ってやんのさ」
「検査なのに見舞い?頭おかしいんじゃないの」
「うっせ」
行く場もないので医務室?医療室?に向かう。
「やっほー、みんな元気してる」
てことで、医療室に着くと中に入る。
中ではノアとルリーがベッドで横になっており、楽しく会話している。
「あ。か、カズキさん」
カズキに気づくと、会話を止め何か暗い雰囲気になる。
「どうした?暗い雰囲気なんか出して」
「いえ、別になんでもありませんわ」
「そうか、ならいいが」
いつもとは明らかに対応が違う。表情や口調が硬くなっている、あきらかに恐怖しているのかよくわかる。
「ジェルマンとレオンはどこにいった?」
「二人ならカズキさんを探しにさっき出ていきましたよ」
「こっちから出向いたのに余計なことを」
「あ、あの。カズキさん」
ルリーが恐る恐る口を開く。
「どうした?」
「カズキさんはどうして強いのに力を隠していたのですか」
「昨日言わなかったか?俺とお前達の為だって」
「私達の為?」
「俺が全力で戦えばこの大会を勝ち上がるのも剣舞祭優勝も容易い。だがお前らはそれでいいのか?」
「どういうことですの」
「俺一人の力に頼り優勝してお前らが得るものは個人の願いだけだ」
特に、最強の称号を欲してるジェルマンにとっては最大の屈辱になるだろう。
「この大会で力をつけ、皆で剣舞祭を優勝しなければ俺もお前達も意味がない」
「じゃあ、なんで力を出したのですか」
「レオンの妹の件があるから負けられなかった」
レオンは妹を助ける為に優勝を目指している。その気持ちは誰よりも強かった。
チームに入る時も優勝すると約束したから負ける(約束を破る)訳にはいかない。
もちろん、ノアさんの事もあるが、二人だけの約束なのでここでは言わない。
「じゃあレオンさんの事がなかったら」
「わざと負けてたかもしれない」
「そんな失礼な事って」
「失礼は承知だ。だが、相手の気持ちに構ってやるほど俺はお人好しじゃない」
ルリーの言いたいことはわかる。だが、こっちにも事情ってもんがある。
「約束を守る時点でお人好しだよ」
隣でリュークが言ってくる。
「約束を守るのは常識だっての」
「ほへー、カズキに常識なんてあったのか」
この野郎、それが言いたかったから聞いてきたのか。ってぐらいバカにした言い方をしてくる。
つーか、ほへーってなんだよ腹立たしい!
「テメェぶっ飛ばっそ」
「ぶっ飛ばっそだって、かんでやんの」
「だまらっしゃい」
「向こうでハートさんが寝てますの、静かにしてください」
「そーだそーだ」
思わず大声を上げてしまいノアに怒られる。ついでにリュークが煽る煽る。
「す、すまない」
「それで、カズキさんは何しにここへ」
「あぁ、見舞いだな」
「検査なのにお見舞いはおかしくありませんか」
「ベッドで横になってるからいいの」
「これは、その」
「少し疲れちゃいましたので、休んでいるのです」
なるほど、神威や魔力は使うと疲れるらしいから休むのは当たり前か。
ちなみに休む事で神威や魔力は回復する。個人や消費量によって変わるが、だいたい一晩眠れば元通りになるそうだ。
「そうか、じゃあしっかり休んで明日に備えるんだぞ」
「わかってますわ」
休養の邪魔をしてはいけないのですぐに退室する。
「元気そうだね」
「そうだな」
最初は暗かった雰囲気だが、徐々にいつも通りに接してくれた。
まぁ、リュークがいつも通りにしてくれたんだけどな。
「……なんか、ありがとうな」
「気にしない気にしない」
「本音は」
「気にしろバーカ」
「うっわっ、すんごい手のひら返し」
「隠すならちゃんと隠さないとダメだよ」
「……どっちにしろ今回は隠す訳にはいかなかったんだ」
「訳は聞かないよ」
「お厳しい事で」
今回の件を反省しながらカズキとリュークは別の試合会場へと向かう。
んでもってなんだかんだ今日の試合が全て終わる。
ちなみに、代わりの試合会場はカズキとジェルマンが戦った石造りの闘技場、コロシアムだ。
あそこにもアストラルエーテが使えるならあの時も使って欲しかったし、なぜ使わなかった。
そんな過ぎた事でわりとどうでもいい事は捨てておいて、今夜もやってる屋台を見に回る。
「賑わってるな」
リュークと歩いていると、周りの生徒がこっちを見てきたり、避けたりしてくる。
「なんか見られてんな」
「気のせいじゃない」
「見つけたぞカズキ」
後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれる。
この罵声のような感じはジェルマンだな。
振り向くとジェルマンが血相を変えて走ってくる。
「探したぞカズキ、どこにいってた」
カズキの胸ぐらを掴みながら聞いてくる。
「どこって、試合を見てた?」
「居なかっただろうが」
「そんなことないだろ、よく探せ」
とは言うが、俺達の試合が最後の方だったりするので見に行った時はほとんど終わっていたので居た時間は少ない。
「まぁいい、テメェ俺と戦え」
「剣舞祭が終わって俺が居たらな」
「今すぐだ」
「焦るなって、明日も試合があるんだろ?」
「俺一人居なくても、テメェがいりゃ勝てるだろ」
「なんだ、負ける前提で話してるのか?」
「なわけあるか、俺が負ける訳ないだろ」
「ならいいが、試合があるからダメだ」
「んなのどうでもいい」
「どうでもいいって、最強の称号を得る為の試合なんだろ?」
ジェルマンにとっては全てが負けられない大事な試合だ。
それなのになんてことを言うんだ。
「手加減されて負かされた相手と一緒に戦えるか」
「誤解すんな。俺はいつも本気だ、手加減をするが手を抜かない。ただ全力じゃないだけだ」
「それが気にくわないってんだろ!」
「……お前、焦ってるな」
「なに!?」
「自分じゃ到底敵わない力をみて、焦ってるだろ。世界がこんなに広い訳がないと、遠い訳がないとよ」
「なんだと。そんな事思うわけないだろ」
「別にやってもかまわんが、今日の一撃受け止められるのか?」
「………」
山を吹き飛ばす威力、そんなもの受けて無事でいられる訳がない。
その問に答えられず黙り込んでしまう。
「勝てない強者に立ち向かう前に己を鍛えろ、まずは自分を知る事からだ」
沈黙するジェルマンの肩を叩きながら諭すように言う
「とか偉そうな事を言っちゃって、カズキもまだまだなくせに」
「そうだよな、俺もまだまだ弱いから人に物言う前にもっと鍛えないとな……って半人前をバラすような事言わせるな」
この野郎、結構良いこと言ってる時にふざけやがって。
「ふざけるなよな!俺は本気なんだぞ」
リュークのふざけた態度に更に激昂するジェルマン。
そうだもっと言ってやれジェルマン。
「ふざけてないよ。私から見ればカズキはまだ半人前だよ」
「あらやだ厳しい評価、もっと頑張らないとな」
その辺は本当の事なので怒ることはない。むしろ反省点だ。
「お前もこいつと同じで手加減しているのか?」
「ノーコメント、でも強者が手加減しない組手はただの蹂躙だよ」
「て、テメェ……上等だ!ぶっ殺してやる」
バトル・トンファーを取り出し、二人に向ける。
「やめろジェルマン」
後ろから止めにはいるレオン。
「レオン止めるな!」
振り向くと両手には沢山の食べ物を抱え、屋台を堪能しているレオンの姿がいた。
「テメェこんな時に何楽しんでるんだ」
「そんな怒る事じゃないから別にいいだろ」
その様子だと、カズキが手加減していることは知っているようだが、ジェルマンと違って冷静に振る舞っている。
「それに、今の俺達では勝てないのは事実だ。受け入れろ」
「勝ち負けじゃねぇんだよ!手加減されてたのが腹立ってんだよ」
「手加減されてなかったら俺もお前も今ここに居ない」
実際、アストラルエーテなしで二人は戦っていたのでカズキが全力でやっていたら間違いなく死んでいた。だから、殺さない為に手加減をしたのだ。
「ッッッアアアア」
ジェルマンは怒りに身を任せるようにカズキにむかってバトル・トンファーを振るう。
「カーズーキー」
それと同時に、ジェルマンの横を通ってカズキめがけ飛び蹴りを放つ少女。今回戦った相手、ハートだ。
ハートはそのままカズキの顔面に蹴りを入れ、標的を失ったジェルマンは振るう手を止めた。
「ハート、医療室で寝てなくていのか?」
だが、カズキは微動だにせず普通に会話してくる。
「あの程度で寝込むほど柔な鍛え方してくれなかったじゃないですか隊長」
「隊長はやめぇ、俺は引退した身だ」
「またまた、現役じゃないですか」
「一般人なの、それ以上言わない」
「はい」
「で、何しにきた。俺に殺されに来たのか」
「そう言ってからさっそく一般人とは思えない発言する」
「そうか?ジェルマンは殺す殺す言ってるぞ」
「ドルツェルブはイカれてるからいいの」
「それは……異論無しだ」
「ほら、やっぱり今も昔もなーんにも変わってないじゃないですか」
「それは訳あり」
「カズキ、知り合いなのか?」
レオンが聞いてくる。これだけ親しく話してればわかると思うが一応聞いてきたのだろう。
「色々あって知り合いだったりする」
ルリーと同じくらい小柄な少女ハート・バリフォード、この先輩とは知り合いだったが、気づいたのは試合の途中からだったりする。
「色々なんてないじゃないですか」
「やかまし、黙ってろ」
「でも、意外です。カズキさんが剣舞祭に出場するなんて」
「ちと用事があってな、お前こそ俗物は嫌ってたじゃねえか」
「もちろん、カズキさんが出るから出場しただけですよ」
「回りくどいな、正々堂々挑めよ」
「驚かせたかったんですけど、そうするべきでしたね」
ハートはジェルマンとレオンの方を向くと優しく微笑む。
「みなさんも強かったですよ。さすがカズキさんの元にいるだけでありますよ」
「俺は関係ないだろ」
「特にあの弓使いの人、えっと、ノアさんには驚きましたよ。まさか砲台だけじゃなくて弾まで打ち落とすなんて思ってませんでしたよ」
「俺がいなくても負けてたか?」
「それはないですね」
「ほんとかよ、こんなバケモノがいるのにか?」
隣にいるリュークを指差す。こいつはバケモノとは呼んではいけないがバケモノだ
「バケモノ?まぁ確かに爆風を消したのは凄いですけど」
「わかってねぇなー、超大物だぜ」
「それ以上言ったら殺すわよ」
「おー怖、怖いから俺黙る」
結構洒落にならないからすぐに黙る。
「それで、ハートさんは何しに来たのですか?」
黙ったカズキに納得したのかすぐに話をもどすリューク。
「え?あぁ、久々にカズキさんに会ったから挨拶しようかなと思いまして。二度と会えるとは思ってませんでしたから、まさか学園で会えるとは予想外ですよ」
「人生そんなもんだ」
なにがあるかわからないから面白い、それが人生の醍醐味よ。
その後、軽く会話をした後ハートと分かれる。
「さて。で、やるのか?ジェルマン」
「けっ、興醒めだ。今回は勘弁してやる」
ハートと仲良く会話していたカズキを見て、高ぶっていた感情が冷めたジェルマンはレオンの隣で焼きそばを食べている。
「そうか、なら良か」
「ノアとルリーはどこにいるの?」
リュークが聞く。確か医療室で休んでいたけど今はどこにいるんだろう。
「あいつらなら寮だ寮、疲れたから寝てるんだろ?」
「俺達も試合があるから帰るぞ」
「はっ、くそつまんねぇ試合がな」
「そうふてくされるな」
「嫌なら俺はでないぞ」
「その方がいいかもな」
「おい、仲間割れするな」
「冗談だってばレオン、俺達仲良しだよなジェルマン」
仲悪くなっているジェルマンの肩を組んで笑うカズキ。
「いや、無理はするな」
「だってよジェルマン」
「……やっぱ今殺す!!」
肩を組むカズキの手を掴み投げ飛ばすとバトン・トンファーを取り出し振り回す。
「おっ?やんのか?降参するぞ!」
そういうと速攻で逃げ出すカズキ。
「あっ、テメェ待てこら!」
「やーだよー!」
「元気ね」
「頼むから明日の支障にきたさないでくれよ」
レオンの不安を他所においかけっこをしているカズキとジェルマンであった。
つづく