「はあああ」
ルイスは猛烈な速さでカズキに近づくと、渾身の力で槍を振り下ろす。
しかし、ガキンと弾かれる音が試合場に空しく響く。
「軽い」
カズキは弾いた槍を掴むとすぐに引き寄せる。
ルイスは槍を手放すと、カズキの背後に周りこみ頭を掴むと強烈な電撃を流す。
「今まで鍛え強くなったようだが、一週間ではなにもかわらんようだな」
ルイスの電撃を笑いながら受けている。そして、カズキは片手を上げると爆風が放たれルイスや辺りを吹き飛ばす。
「うるああああ」
爆風を突っ切りカズキの顔面にバトル・トンファーを叩き込むジェルマン。
「ジェルマン、攻撃がワンパターン過ぎるぞ」
爆煙から渋い顔をしたカズキがジェルマンの頭を掴むとリングに叩きつける。
「がっ」
リングがクモの巣状に砕け、陥没する。あまりの衝撃に意識が一瞬飛ぶ。
「んなろおおお」
ジェルマンはバトル・トンファーをカズキの足に叩くも効果なし。
「お?意識を保ったか、やるな」
「アダマンフィスト」
カズキの頭上から両手を振り下ろすレオン。しかしなんなく受け止められる。それも片手でだ。
「レオン、お前はもっと力をつけろ。体格をいかせ」
腕を掴むと力任せに振り回し投げ捨てる。
「くっ」
レオンはうまく体を回転さて着地するとすぐに距離を詰める。
カズキには大地の強度は通じない。拘束も生き埋めも何も通じなかった、倒せるとしたら己の肉体と技、グラン・ギアの力を合わせるしかない。
「ビースターズ」
自身の身体能力を倍増させるビースタルク家がつかえる奥義。
「獣王掌」
そこまま掌を勢いよくカズキの腹部に叩き込む。
あの時から鍛えに鍛えたこの力が倍増したのだ。それにカズキにダメージを与えた技、効くはずだ。
「あー、何度も同じ技がきくと思うなよ?」
予想とは裏腹、平然とするカズキに絶句する。
「白王」
正拳突きがレオンの腹部を捕らえそのまま一直線に壁に激闘する。
試合会場外で白目を向いて倒れるレオン。
「まっ、威力が違うなら別だと思うけど」
「爆発破壊(バーストクラッシュ)」
カズキが油断してる隙にジェルマンは立ち上がりバトル・トンファーを当てる。
先ほどとは違い爆発の威力が上がっている。
「威力を上げてきたな」
「ぶっ殺してやる」
青筋が浮き上がり目が血走っている。相当頭に来ているのだろう、悪魔でも逃げ出しそうな形相をしている。
「動きが大振りすぎる。武器ゆえ仕方ないが、こんなんじゃ当たらん」
バトル・トンファーを振り回すジェルマンに諭すように言う。
武器がデカイから大振りになるのは仕方ない。だが、今回は怒りで我を忘れて全ての攻撃が単調かつ大雑把、当たるわけがない。こういう時こそ冷静にならなければならないというのに。
「爆速爆撃(バーストスピード)」
途中で鉄球を爆破され、爆風の勢いで殴る。さっきまでの攻撃とは比べものにならない速さだ。だが、連発できる代物ではなさそうだ。
「ほう、爆発でスピードを上げたか」
「はあああ」
そこへルイスが攻撃に入る。ジェルマンと連携を取りカズキを攻める。
ジェルマンの大振りで重たい一撃とルイスの正確で速い攻撃が絶妙に合い、いい連携攻撃となっている。
「邪魔すんなルイス」
「そんな事を言ってる場合か」
もっと仲良くやってくれたらもっといいのだがな。
刀で競り合うルイスを弾き飛ばし、ジェルマンの足を払い転ばせる。
「はいトドメ」
ジェルマンに刀を刺そうと構えた所に、カズキの腕に氷の矢が刺さる。
「ぬっ?」
「いくらカズキさんでも、仲間を傷つけるなら許しませんわ」
飛んできた方ををみると涙目でカズキを睨んでいるノア。このような暴挙を見て失望したのだろう。
「うるああ」
その隙に立ち上がりカズキに攻撃すると共に距離を取る。
「大丈夫ですかジェルマン」
「当た前だ」
「戦いとは傷つけ合いだ、自分からこの道を進んでおいて甘いことを言うな」
「甘い事ではありませんわ。これはカズキさんを倒す立派な理由です」
「ならばよし。全力でこい」
「フリーレイン」
無数の氷の矢がカズキを襲う。
刀を振るい的確に斬っていく。
「この風の中で的確に当てる技術はさすがだ。なら、これならどうかな」
カズキは不適に笑うと雷鳴が轟き、雨風の激しさが更に強くなる。
「なんですの、カズキさんは気候を操れますの?炎ではなくて?」
「なんだそりゃ、そんな事があっていいのか」
この異変に驚くノアとジェルマン、気候なんてたかが一人の人間に操れるわけがない。
「恐らくな。雷が上から降ってくるから気をつけたほうがいい」
駆けつけたルイスが隣から言ってくる。
「雷まで……信じられませんわ」
「私とジェルマンが接近して攻める、ノアは援護を頼む」
「はいですわ」
「俺に指図するな!」
「お前達と共闘だなんてあの時以来だな」
「こんな時に思い出させるな、イライラする」
「来ますわ」
喋っている三人に向け刀を振るい斬撃を放つ。
「はい、入った」
ジェルマンの頭上から雷が落ちる。
「ぐわああああ」
「ほ、本当に落ちてきましたわ」
「ん?落ちる所を予想してそこに誘導しただけさ」
「予想?操ってるのではないののか」
「あー、こういうのを想像してたのかな?」
そう言うと雷が雨のように降ってくる。
異常現象にルイスとノアはなすすべなく落雷の餌食になる。
「自分から落としてもいいんだけど、自然を利用しなきゃつまんないだろ。こうなる結果は見えてたし」
倒れる三人に説明するように言う。
「威力は落としたからまだ動けるはずだ、立て」
カズキの言う通り大したダメージはなく、まだ動ける。
全力で戦うと言っておいて完全に手加減をしている。
「皆さん、どいてください」
杖をカズキの方へ向けたルリーが言う。
「ルリーさん、一体なにを」
「言われた通り離れるんだ」
ノアとジェルマンを担いだルイスがカズキから離れたのを確認すると詠唱を唱える。
「地獄の業火球(フレイムインフェルノ)」
魔力を込めた杖先が強い光を放ち、赤く爆ぜる。
巨大な炎の玉がカズキめがけ飛んでくる。
「上級魔法か、さすがルリーさん」
それに対し逃げることをせずそのまま直撃する。
巨大な火柱を上げながら周囲に爆発が起こる。
「どうです、直撃しました」
「なかなかの威力だ、ここへ来て一番のダメージかもしれない」
炎の中を歩くカズキにルリーは膝をつく。
「む、無傷……そんな」
「どいつもこいつも素晴らしい人材だ、故に惜しいな……殺すのがなあ!」
「きゃあ」
片手でルリーを突き飛ばす。
「はぁ!」
ルイスが攻撃に入るが、全てさばかれる。
「雷速についてこれるのか!?」
ついには背後を捉え肩を叩かれる始末。
「確かに雷の速度だが、所詮はまがいもの」
「なんだと、私のアトリファクタスをバカにするな」
「ふっ、威堕天」
ルイスからかなりの距離を取ったカズキは、全身に雷を纏ったかと思うと気づいたら蹴り飛ばされていた。
「かっ、がばっ」
反応出来なかった。まるで時間を止められたかのような超スピード。
速度は重さ、その言葉に間違いはなく受けた瞬間に気を失い倒れた衝撃で起きた。
「面白いものを見せてやるよ、自称雷使いさん」
笑いながらカズキは天に手を広げる。
「蒼龍雷現」
黒雲から稲妻を迸りながら青い雷の龍が降りてくる。その規模、迫力は凄まじく学園だけでなく国にも影響を与え、民は怯え街は混乱に陥っていた。
「雷神憤怒。俺は雷。簡単に言えば雷の操作だ」
この力は強すぎるが故に気候にも強く影響を及ぼす。ゆえに黒雲が集まり環境がカズキが有利なものへ自然と変わるのだ。
「な、なんてやつだ」
「巨大な力の前にどう抗う。どう立ち向かう。お前達の戦い(答え)を見せてみろ」
実力でも上、環境も不利、そんな絶体絶命のなかどう出るのか楽しみで仕方ないカズキ。
対するルイスは打開策を考えていた。
どうすればこの怪物に勝てる。
何をすればいい。
どうしたらいい。
ワカラナイ。
必死に考えるが何一つ思い浮かばなければ、勝てるイメージすら湧かない。
そんな状況下でルイスは
「はあああ」
ただ立ち向かうことしか出来なかった。
「なんだ、無策か」
早くも楽しみが潰えたカズキは落胆の表情を浮かべると、ルイスの攻撃を全て受けきる中でゆっくりと手の甲で叩きムシケラのようにあしらう。
「ぐぁ、まだまだぁ」
「いけませんルイスさん。こういう時こそ冷静になるのですわ」
一人で突っ走ろうとするルイスを止めるノア。
「ノア、お前に何か策があるのか。あいつを倒せる策が」
「そ、それは……」
「あいつは遊んでいる……なら、その余裕に付け入るしかない」
制服が破け上半身裸のレオンが腹部を押さながらやってくる。
「俺がカズキの動きを止める、お前らは力を込めて最高の一撃でやつを攻撃しろ」
「そんなことは君には頼めない、やるなら私が」
カズキの元へ向かうレオンの肩を掴み止めるルイス。
それはレオンがすでに立つことで精一杯だということが分かっているからで、重傷者に危険な役目を任せることが、いや、そんな危険な役目を仲間にやらせることがルイスの性格上出来ない。
「やつの攻撃は生半可じゃない、皆の力が溜まる前にやられるだろう」
「しかし」
「安心しろ、我慢比べなら得意だ」
レオンは微笑みながら言う。自信や根拠はないが、やってみせる。そんな気持ちが伝わり、ルイスも黙って頷き承諾してしまう。
「でも、もし気づかれたら」
「やつは遊んでいる。分かった上で何もしてこないだろうが、あくまで可能性だ、囮は必要だ」
カズキが本気ではないのはみんな知っている。本気なら既に倒されているだろう。
だが、いつ本気でやってくるかがわからない。
「おいおい、そんなんで本当に倒せるのか」
力を合わせたところで通用するとは到底思えない
「わからない。だが、可能性はある」
恐らくだが、本気でやっていない時はダメージはかならず通る。以前戦った時、ジェルマンの爆発で重傷を負ったり、レオンの攻撃も効いていた。つまり、カズキの想定外の威力なら倒せるという訳だ。
「頼んだぞジェルマン。威力ならお前が一番あるんだ」
「けっ、言われなくてもぶっ殺してやるよ」
「どうした、なにをくっちゃべってる。はやくしないとみんな死ぬぞ」
コソコソと会話しているのを見て不思議そうに見ている。
雨は降り風が吹くと相変わらずの悪天候。このままいけば川が洪水し、街に被害が出る。
勝てるかどうかわからないというのに、さらに制限時間というオマケまであるとは、絶望の極みだ。
「どうやら時間もないようだし、後は頼んだぞ!」
そういうと果敢にカズキに向かって挑むレオン。
「ちっ、こうなったら渾身の一撃を見舞ってやるぜ」
「わたくしも出来る限りの力を放ちますわ」
レオンに言われた通りそれぞれの武器、ミスフォルツァに神威、魔力を込める。
「うおおおお」
その時間稼ぎとなるため、全力でカズキと戦う。
相手の反撃を許さない程の猛攻。周りから見れば優勢に思えるが、レオンの必死の攻撃をカズキはただ余裕でかわしているだけである。
「がむしゃらだね、時間稼ぎするには効率良くないんじゃないか?」
「やはり気づいていたか」
「そりゃまぁ、バレバレだよ」
相手の注意をレオンに向けようと全力で向かうのはいいんだが、あからさま過ぎる作戦と行動なんだよな。
チラッとジェルマン達の方を見る。
全員明らかに力を込めているのが一目で分かる。
「その邪魔をさせないのが俺の役目だ」
「時間稼ぎはツラいぞ。大抵は格上相手だからな、そいつの根性が試されるんだ」
レオンの鳩尾を抉るように殴る。
凄まじい激痛と呼吸困難に立っていられず、その場に倒れる。
「てことで、根性見せてみろや」
追い討ちにレオンの背中を踏みつける。
「這いつくばっててええんか!お前が立たんとワシに勝てんとちゃうんか!」
「うっ、おおおおお!!」
カズキの罵声で鼓舞されたかのように立ち上がるレオン。口から血を流し、腹部には大きな青痣が出来ている。
「俺は、負けない。お前を倒す」
「その意気じゃ」
「うおおおお」
「獣の本能だけに頼るな、考えろ」
レオンの攻撃を捌きながら指導するように戦うカズキ。
「全てにおいて自身を越える相手だ。本能でどうにか出来るものではない!冷静に相手を分析し必勝を探せ」
殴ってくる手を捌くと、足払いでレオンを倒す。
「足がお留守だ、気を引き締めろ」
立ち上がろうとするレオンの顔を蹴りあげる。空中に留まっている所に前蹴りで飛ばす。
「こっちも攻撃させてもらう」
カズキの攻撃にレオンも応戦する。
互いに攻撃しては捌き、避けるを繰り返すといった互角の戦い。いやカズキがレオンに合わせていると言った方がいい。
レオンの隙をついては攻撃を当ておいつめる。
「くっ」
「はい集中しろ集中」
ワンツーパンチからの左アッパーでレオンは後ろへ大きく飛ぶ。
「がはっ」
なんとか着地し体勢を整える。
(こいつ)
そして、この時カズキの隙を発見する。
カズキの隙。それは一瞬だが、攻撃のフィニッシュ時に力を込めてから攻撃している。
先程のアッパーといい、前蹴りといい放つまでに時間がある。
攻撃してくるタイミングにあわせ、カウンターを叩き込めばもしかしたら通用するかもしれない。
「どうしたその程度か」
悟られないよう、さっきと同じように戦う。
相変わらずペースはカズキのままだ。
たった一つのミスから連続攻撃が始まる。胴、足、腕、頭と打撃を浴びせる。
何度も倒れては立ち上がりその機会をみつける。
「チェストー」
怯んだレオンに対して拳を引き締め殴る。
(今だ)
タイミングを見計らい、カズキのパンチをギリギリでかわし顔面を殴る。
「ふん!!」
タイミングも手応えもバッチリだ。どうだ。
「いいぞ、よく隙を発見した」
しかしカズキは平然としていた。
効かないのは想定内だから驚くことはない。
それよりも
(こいつ、俺を試す為にわざとこんな隙を作っていたのか)
カズキのなめ腐った余裕の態度が気にくわなかった。
「だが、カウンターなのは読めていた」
「ならなぜよけなかった」
「カウンターの原理を教えてやりたかったのさ」
「原理だと?」
「いいか、カウンターとは相手の攻撃しようとする勢いが、そのままこちらの攻撃に上乗せされるから威力が増加すると言われるが、実際は攻撃に意識がまわり防御反応が鈍っている所に攻撃する事で威力が増すものだ。だから不意打ちは効果がある。だが、ワシのように反応が速いものや常時攻撃と防御を同時に出来る者には対した威力は発揮出来ない。よく覚えておくんだな。ちなみにワシならカウンターではなく投げてから寝技で決めたな」
戦いなどそっちのけで人差し指を立てながら教え始めるカズキ。
「長々と説明すまんかったな、それじゃバイバイ」
話が終わると、レオンを強く後ろへ押し、目にも止まらない速さで背後に周ると背中に肘打ちを決める。
「がっ!?」
そのまま前に倒れる。
正面からくると身構えていたが、まさかあの距離から背後を取られるとは思っておらず、まともに受けてしまった。
痛み体に力が入らず動けない。意識を保っていただけで上出来なくらいだ。
「カウンターの原理を身を持って学習したな」
レオンからジェルマン達の方へ目線を変えると
「待っててやるから全力で撃ってこいよ。人生最後の一撃だから悔いなくな」
両手を広げ笑顔で語りかける。
「なめやがってぇ」
「ダメですジェルマン。やるなら同時にですわ」
「うるせぇ!こっちは力が溜まってんだ。はやくしろ!」
「私はいつでもいけるぞ」
「わたくしもですわ」
「私も充分に集めました」
「じゃあ、いくぞカズキイィィィッ!!」
ジェルマンは両手に持つバトル・トンファーを回転させながらカズキめがけ走り出す。それに続いてルイスも走る。
「魔氷の死矢(ヘイルグレイシヤ)」
二人の間を通ってノアが放った青く不気味に輝く氷の矢がカズキの左胸に刺さる。
「爆殺戮撃(バーストクラスター)」
「聖雷(セイントブリッツ)」
バトル・トンファーがカズキに触れた瞬間、巨大な爆発が起こる。今まで一撃大きく風圧だけで客席に亀裂を入れる。
ルイスの雷を纏った長槍がカズキを貫く。カズキに放電し激しく稲妻を放っている。
「どいてください!炎風爆魔波(バーニングブラスト)」
杖から炎と風が入り交じった極太のエネルギー波を放つ。
それを見てジェルマンとルイスは武器を捨てその場から離れる。
カズキに当たると、エネルギー波が塞き止められる形となる。
「くっ、押しきれない……」
「雷爆(バラック)」
「物化爆弾(チェンジズボム)」
ルリーが更に魔力を高め放っている中で、ジェルマンとルイスの合図と共にそれぞれの武器が大爆発を起こす。
「今だ!いっけえええぇ!」
再び最大の魔力を込め一気に押し込む。
カズキは後ろに押され、ついに試合会場の壁にを貫きそのまま山に当たり大爆発を起こした。
「はぁ、はぁ、どうですか」
舞い上がる砂埃、肩で息をしているルリー。杖には亀裂が入り次は魔法を唱える事が出来ないほど魔力を使い果たした。
「やりましたわ」
「……いや、まだだ」
「ぐぬぅ、さすがに効いたな。無抵抗で受けた甲斐があった」
ゆっくりと歩き戻ってくるカズキ、上半身裸でズボンは破けほとんど原型を止めていない。だが、体に傷一つついていない。
う、うそ。ここまでやっても倒れないなんて」
無傷のカズキを見て膝から崩れるように倒れるルリー。
「ば、バケモノ……ですわ」
「確かに手応えはあったのに、傷がないだと」
その絶望的状況に皆は心がやられそうになる。
「今、楽にしてやる」
カズキはふわっと飛び上がると、試合会場よりも高い辺りの空中で留まる。
そう、浮いてるのだ。
この期に及んで不可能に等しい事をさらっとやるカズキ。
「と、飛んでいる」
「本当になんでもありだな」
「バイバイ、アルセウス学園」
悲しそうに呟くと、片手を下に向け赤黒いフェクトを纏った球を放った。
「なんだあれ」
「マズイぞ」
ゆっくりと落ちてくる球、それをみたルイスは顔を青くする。
「何がマズイのです」
「あれを受けたら……落としたらダメなんだ。みんな逃げるぞ」
必死に訴えかけるルイス。その異常なほどの慌てようにその重大さが伝わる。
「あれは、私の故郷レオルド帝国の要塞軍都を滅ぼした技だ」
「なんですって」
「あいつが、帝国を滅ぼしたヒノモトの一人なのか」
「いいからはやく、みんな殺されるぞ」
そうは言うがもう既に球は観客席の辺りまで近づいている。とうぜん逃げる時間もない。
「あんなもん受け止めればいいだろ」
「触れたら爆発するのだ、できるわけがない」
「やってみなきゃわからないだろ!」
「喧嘩しないでくださいまし」
言い合いになるルイスとジェルマン、それを仲裁するノア。
「慌てないの。私が助けてあげるから大丈夫よ」
そこへ、どこかにいっていたリュークがひょっこり現れる。
「リューク、てめぇどこにいってたんだ」
「どこって、観客席?見てたよ、面白かった」
「こんな時に呑気に観戦しやがって」
「それより、本当になんとかできるのか?」
「簡単だよ、ほら」
そう言うと、飛んできた球を片手で斜め後ろ上に受け流す。本当に簡単にやってしまった。
「う、うそ」
「てめぇ触れたら爆発するなんて嘘つきやがって」
「ほ、本当なんだ」
「爆発どころかボールみ」
ルイスの胸ぐらを掴み問い詰めるジェルマン。
しかし、その途中で背後からドゴオオオッと激しい爆発音と立っていられない程の地震がくる。
振り替えってみると、空の黒曇に赤い光が映っている。
「ま、まさか!?」
試合会場の上へと上がり飛んでいった球の方を見ると赤黒いエネルギーがドーム状に広がるように爆発していった。
ここからそれなりに距離はある。それでも大きく見てしまうほどに大きい爆発。
「なんて威力だ」
「あれがここに落ちたと思うとゾッとするわ」
あんなものが落ちていたら学園どころか、街ごと吹き飛んでいただろう。
「リューク、割って入ってくるなよ」
リュークの目の前に着地すると、不満そうな顔をして言ってくる。
「私だけ仲間外れは酷いんじゃない?」
「お前から外れたんじゃねぇか」
「だって私が出たら意味ないでしょ?」
「それは、まぁ、うん、そーうだ~なぁ」
「どうせ落とす気もなかったんだから、別にいいじゃん」
「けっ、憎たらしいヤローだ。いつか挑むから覚悟しろよな」
「うん、楽しみにしているよ!」
笑顔で答えるリューク。さすが、真の猛者は余裕が違う。
「がふっ。あーくそ、過度な力は今の体にこたえるぜ」
吐血しながら地上へ降り立つカズキ。
「さて、と。いい成長ぶりだったぞ」
ジェルマン達の方に拍手をしながら向かう。
「まだまだ力不足だが、これから更に強くなれるから日々の鍛練を頑張れ!」
「てめえ何様だ」
「頑張った者だよ。努力し続けてこの強さを手入れたんだ、俺にできてお前らに出来ないことはない!がんばれ!」
「カズキさんが、あのレオルド帝国を滅ぼした人なんですか」
「ん?まぁね」
「あの七人の一人がカズキさんだなんて」
「そんな驚くことはないだろ。たかが国の一つや二つごとき、簡単に滅ぼせるだろ?」
「簡単に……カズキさんは人を殺すことに躊躇いはないのですか」
「ないだろ」
ノアの質問に即答するカズキ。それも、なに言ってんだこいつみたいな不思議そうな顔をしてだ。
「逆に聞かせてほしいけどよ。お前らが使ってる神威武は人を殺せるものじゃないのか?」
「そ、それは」
「殺す覚悟がないやつが武器を握る資格はない、いますぐ戦いをやめちまえ!」
殺すという覚悟がないからみんな弱いんだ。
そんなやつらが騎士だの戦士だの軍人だのなれるわけがない。自分達を敵から守れるはずがない。
「それは違うぞカズキ」
シバが客席から飛び降りカズキ達の方へ歩きながら言う。
「絶対に守るという覚悟があるから強くなれるんだ」
「守る強さか、守るものがないワシには無縁なものですわ」
「そんなことはないだろ。お前にも守りたい家族や仲間がいるはずだ」
「申し訳ないですけど、ワシに守られるほど家族や仲間は弱くないんです」
「それは知らない。すくなくともお前が一番だろ?」
「……そうはいかないんですよ。俺より強いやつは当然いるんですよ。お前らもっと強くならないとな!」
「おいレイカ、段々カズキの口調が悪くなってるぞ!生徒の教育がなってないぞ!」
「いくら先生でも個人の性格を変えてはいけないんだ!」
「こっちだって本気なんですよ!仲間が半端な状態で戦場に行って死んだら悲しいんですから」
「だそうだ」
力強く訴えるカズキを指してシバの方を見る。
「それを言われたら俺は何も言えない」
ちゃんと理由があるので本当に何も言えない。
「だいたい、神威だの精霊だの魔法だのくだらねーんだよ。覚悟こそ強さだ、覚悟無き者が強くなれるか!」
「覚悟か、お前らしいな」
知識や身体的にどうしようもらない時、それを突破できるものは精神力。その精神を強めるには覚悟が必要、すなわち強い奴に勝つには覚悟を持つ事が大前提。そう熱く語るカズキ。
「俺は戻って修行するので、後はお願いします」
「ちょっと待て、貴様この状況で帰れると思うのか」
この場から逃げるように颯爽と立ち去るカズキの襟を掴み阻止する。
「え?な、なにか悪い事しましたか僕」
「白々しい、周りをみろ!」
激昂するレイカ先生、仕方がないので周りを見てやる。
壁や客席が砕け崩壊寸前の試合会場、雨風による災害、負傷した生徒や先生。
それを見たカズキは
「……え?何か悪い事やりました?」
真顔でレイカ先生に聞き返す。
「貴様、本気で言っているのか?」
それには思わず質問を質問で答えてしまう。
「え?」
「え?」
どうやら本気で理解出来ていないようだ。
「……はぁ」
「だから言ったじゃないですか、力を使えばここにはいられなくなるって」
「使い過ぎだ、学園どころか国にまで影響を出して、ただですむと思うなよ」
「なんだいなんだい。ちょーーーっと力を軽ーーーく使っただけでガタガタ言われるなんて全てにおいて狭い国なこと」
少しばかし力を使っただけでこのザマとはね。不自由なもだな力がありすぎるのも。
「まっ、俺達が守ったこの国を滅ぼすのも面白いかもな」
もしこの国と交戦するなら俺は容赦なく滅ぼすけどな。
そうならないことを祈ろう。
「ごちゃごちゃ言ってないで、私についてこい」
カズキの耳を摘まむとそのまま引っ張り歩き出す。
「いででで、引っ張るな千切れちゃうでしょ!」
「なら抵抗せずついてこい」
「あたたたた、シバの兄さんまた後で話ましょう」
「あちゃー、あの様子じゃ学園長行きだな」
「学園長?やっぱ退学か、素晴らしいね!」
「決めるのは学園長だ、お前はそうならないように反省しろ」
更に耳を引っ張る力を加えるレイカ先生。
「いででで、取れる取れる」
更なる痛みに悶えるカズキ。
神威や魔法も通用しなかったのに、こんな子供の躾みたいな技でで痛がるとは誰しもが思わないだろう。
「いいから行くぞ」
レイカに引っ張られるがまま、カズキは無理矢理連れ去られるのであった。
つづく