カズキが三日間の停学を受け、四試合目は五人だけとなった。
「今回はカズキが居ないぞ」
「お前らもここで終わりだ」
「ボコボコにやられちまえ」
カズキが居ないという不利な状況に、生徒達は野次と皮肉の言葉を投げつける。
「雑魚がギャーギャーうるせぇんだよ。黙ってみてろ負け犬共!」
バトル・トンファーをガンガンぶつけながらいつも通り罵声を罵声で返すジェルマン。
「相変わらずだな、ジェルマン」
そこへ、爽やかな茶髪の少年が挨拶にやってくる。
ストラル・ジョンソン。
この地方を治めている領土主の倅で、しかもその領土主がただ者ではなく、かの戦争で名を轟かせた英雄だそうだ。今じゃアルガド王国の一、二を争う武門の名家らしい。
「けっ、お久しぶりですね。ストラル先輩」
その顔をみて、ふてぶてしく挨拶するジェルマン。
「ノアさんも、久しぶりですね」
「え、えぇ、お久しぶりです先輩」
ノアも嫌な顔をしつつ、返答する。
どうやら二人は、ストラルという人物が嫌いなようだ。
「カズキと戦えないのは残念だが、ここで負けてもらう」
「随分と節穴な目をしておられるんですね、先輩」
「カズキカズキうるせぇんだよ、てめえらなんざ眼中に無いんだよ」
「ははは、何か勘違いをしているようだね。別に僕はカズキだけの力で君達が勝ち上がっているとは思ってないよ。特にジェルマンとノアさんはね」
予備校の時から先輩として二人を見ていたストラル、決してなめてかかろうとはしない。
「いい試合にしよう。じゃあね」
そういい自分の陣地へ戻る。
「けっ、キザったらしい野郎だぜ」
「お、悪寒が……」
「大丈夫かお前ら」
毛嫌いしているジェルマンとノアを見てなんか不安になるレオン。
「大丈夫だ、きっちりぶっ殺してやる」
「えぇ、きっちり落とし前をつけさせてもらいますわ」
「……ならいいが」
やはり不安が残るが試合開始のブザーが問答無用に鳴り響く。
「さぁぶっ殺してやるぞ!」
一目散に駆け出すジェルマン。
「うお!?」
その真横からストラルが現れヒュンと剣を振り下ろしてくる。
気づいたのでかわし、距離をとる。
「先制たぁらしくないですね、先輩」
「試合なんだ、らしさもないと思うけどな」
「うるせえ死ねぇ!」
力任せにバトル・トンファーを振るう。
ストラルが片手を突き出すと、そこから突風が吹き出しジェルマンは後ろへ吹き飛ぶ。
「ぐお!?」
「僕の属性能力(アトリファクタス)を忘れた訳じゃないだろ?ジェルマンくん」
「ちっ、くそ風野郎がぁ」
ストラルのアトリファクタスは非情なる暴風(ラファーガル)、他の神威使いとは比べ物にならない威力をほこりこれまたやっかいなものだ。
「真空烈波(ゾクウォード)」
両手から放たれる激しい風による鋭さと風圧による衝撃がジェルマンを襲う。
「グラン・ギア」
その風を防ぐようにジェルマンの目の前に地面を浮かび上がらせるレオン。その隙に横へ逃げるが、浮かびあがった大地が砕け散る。
「凄まじいパワーだ」
ゴナゴナになった大地を見て驚くレオン。盾にするのは極力避けようと思た。
「おおっと、余所見なんかしちゃっていいのかなぁ?」
レオンの足を何者かが掴みナイフを刺してくる。急いで足元に視線を向けると地面から手と顔だけを出しているゴーグルをした女が不気味に笑っている。
「なっ!?」
「私のアトリファクタスは自由水泳(オルトスイマー)、どんなところでも入り込め泳げるのさ」
そういい手を放すとチャプンと地面に潜り込む。
さっきみたいに奇襲されるとやっかいだ、はやめに処理しておきたい。
「足元ばかりみたらやられるわよ」
制服にしては露出が激しい緑髪の少女が鞭を振り回してくる。
「くっ、いたい」
鞭がレオンの体を叩く。切れるような鋭い痛みが襲う。
「うふふふ、しつけてあげる」
「悪いが、そう簡単にしつけられるほど大人しくはないんだ」
「それは、楽しみね!」
不適に笑いながら鞭を振るう。
後ろに下がり、射程外に移動する。
しかし、地面から女が現れナイフを刺してくる。
「愚かだな、俺のテリトリー内にいるなんて」
「え?」
「拘束しろ、グラン・ギア」
手の形をした地面が浮かび上がり、女をしっかりと握り締めている。
「きゃああああ」
地面が泳げる、それは厄介な力だ。しかし、地面を操れるレオンの前で使うのは愚かだった。
「う、うそ、出れない」
必死にもがくが、ピクリとも動かない。
それどころか、強い力で体を締め付けてくる。
「く、苦しい……助けて」
「泳ぎ手らしい最後だ、そのまま沈め」
大地の手はそのままゆっくりと沈んでいく。
「い、いやだ。溺れるのは、苦しいのわ嫌あああ」
「キャナル、いますぐやめなさい」
急いで鞭をレオンに振るい攻撃するも、その起動があまりにも単純なためあっさりの見切られ捕まれる。
「ふん」
そして、グイッと引っ張ると軽々と女を引き寄せる。
「ちょ、待っ」
レオンの剛腕に吸い込まれるように飛んでいき、顔面にラリアットをぶちこまれ一瞬で光となり消える。
もう一人も、完全に地面に沈みこみリタイアになるのも時間の問題だろう。
カズキのように這い上がってこない限りは……。
「これも闘いだ。悪く思うな」
たとえ女だろうと容赦はしないレオン。それは戦士としての礼儀、己の願いの為である。
「うおおおお、捻り潰してさしあげますよお嬢ちゃん」
斧を持った覆面の巨漢の男が雄叫びを上げながらルリーに近づく。
「ち、近づかないでください変態」
「へ、変態!?」
その言葉にショックを受けたのか、その場に膝をつき倒れる。
「あ、その、嘘です」
すっごいへこんでいるので、雑だが思わず励ましてしまう。
「本当に!?なら良かった」
そんな雑な慰めですぐに立ち直る男。すっごいメンタルが強いのか弱いのかさっぱりなやつだ。
「隙ありです、ファイヤーボール」
「ふん!」
ルリーが放つファイヤーボールを手に持つ斧で弾き飛ばす。
「うそ!?弾くなんて!?」
「はっはっはっうそなものか!現実だ!」
そういい手に持つ斧を振り下ろす。
「きゃあ」
よけるも、その衝撃で転んでしまう。
「もらったー」
ルリーに近づきながら斧をふりあげる。
「いきなり突然加勢するよー」
真正面からリュークが飛び出し顔めがけ蹴ってくる。
「いいぜ歓迎歓迎大歓迎よ、勝負しよやお嬢ちゃん!」
斧で防ぎバランスを崩すもすぐに立て直す。
「うおおお」
巨大な斧を軽々振り回す。しかし、リュークには当たらない。
「そんな大振りじゃ当たらないよ」
「ふっ、それはどうかな」
「どうかなって、わぁ!?」
頑丈そうな装甲に身を包んだ者が走ってきてリュークめがけタックルしてくる。
「おっとと、危ないなぁ」
それをかわしながら、斧を避ける。
「これでもかわすのか」
「かわしちゃうの。でも、貴方はかわせるの?」
「何をいって、うお!?」
リュークを通り抜けて無数のファイヤーボールがとんでくる。
「こしゃくな……うおおおお」
斧を振るいファイヤーボールを打ち落としていくが、全てに対処できず食らってしまう。
「あら、かわせなかったみたいだね」
「お…おのれ、よくも」
煙の中から、激しい火傷を負った男が手に持つ斧を投げてくる。
「よっと」
飛んでくる斧を片手で掴み、横から勢い任せにタックルしてくる鎧男を空いてる手で受け止める。
「なっ!?」
「んだと!?」
「それじゃ、終わりにしよう」
鎧男を一直線に投げつけ男に当てると、続けて斧を返すように投げる。
「ぐわああ」
二人まとめて斧に斬られそのまま光となり消える。
「こんなもんよね」
「うるああ」
対峙した者をあっさり倒したレオン、ルリーとリュークとは違い、まだストラルと対峙しているジェルマン。渾身の力でバトル・トンファーを振るい爆発を乱発している。
「そこですわ」
爆発を回避したストラルを狙い矢を放つも、放たれる風により跳ね返されたり、軌道がかわりあらぬ方向へ突き刺さる。
「てめえどこ狙ってんだよ」
「風が強すぎて跳ね返されてしまいますの!わかってくださいまし!」
「相変わらず連携がとれてないんだね。仲はいいくせに」
「仲なんて良くねぇだろうがクソボケが!」
「仲良くなんてありませんわ!」
「ほら仲いい。羨ましい」
「黙れバースト・ショック」
地面を叩き爆煙と衝撃で牽制をとるも、風で消され無駄となるもストラルとの一気に距離をつめ攻撃する。
「うおおおお!!」
速く重たい攻撃、だがなんなく受け止められてしまう。
「真っ直ぐだけじゃ僕には勝てない!」
それどころか、カウンターを受けてしまい右肩を斬られる。
「ぐっ」
強い、堪にさわるヤローだが実力はしっかりある。そこが更に気にくわねぇ。
このままじゃやられる、何か策はないか考えはじめる。ただ戦うだけじゃダメだ、このままだとまたいつもの俺のままだ。
「フリーレン」
策を考えながら戦っていると、後ろから氷の矢が飛んでくる。
「おっと、往生際が悪いね」
ストラルの風により氷の矢は脆く砕ける。
(ちっ、そういうことか)
「真剣勝負に往生際が悪いも良いもありませんわ」
何度も何度も矢を放つが、悉く砕かれる。
「はああああ」
ジェルマンもノアの牽制に続くように攻撃をしだす。
「死ねやボケコラ!」
「疾風破斬(ウィンドブレーカー)」
剣に力を込め大きく振るい巨大な風の刃を放つ。
「うお!?」
とっさにバトル・トンファーで防ぐが、簡単に切断され当たるギリギリの所でしゃがみ避ける。
「あ、あぶねぇ」
もし受けていたら真っ二つだった。そう思うとゾッとするが、今はおいておこう。
「御自慢の武器が壊れたね。さぁどうする?」
「壊れた?まだ使えるだろうがよ!」
トンファーを持ちかえ、刃をストラルに向けるように構える。
「そんなナイフみたいな刃で、勝てると思ってるのかい?」
「ちっぽけな刃でも棒でも殺せたら勝ちなんだよ」
握り部分を剣にひっかけ動きを封じ、片方のバトル・トンファーに神威を流し込め全力で殴る。
「死ねやゴラァ」
剣を手放し、後ろに下がり回避する。
すかさず攻撃に移るジェルマンだが、距離を充分に取ったストラルは、すぐに神威を集めミスフォルツァを展開し、ジェルマンの大振りの一撃を受け止める。
「うおりゃあああ」
力任せに押し込み、ストラルを吹き飛ばす。
「くっ、バカ力め……」
「トドメだぁ!」
そのまま一気に勝負を決めにかかる。
「だが」
大きく振りかぶったジェルマンの渾身の一撃を剣で受け止めると、爆発が起こる。
「甘いな、ジェルマン」
ストラルは風を利用し、ジェルマンの爆発を跳ね返すだけでなく風の剣で腹部を貫いた。
「がはっ」
「もう少し踏み込みがあったら押し勝てたかもしれないもの」
「う、うるせよ」
「僕以外やられたようだし、他を相手しなきゃいけないんだ。だから、終わりにしよう」
ジェルマンやノアだけに、これ以上時間をかけていられないと悟ったストラルは一気に勝負を決めにきた。
「へっ、終わるのはお前の方だ」
だが、ジェルマンは不気味に笑う。
まるで、勝利を確信したかのように。嘲笑うかのように。
「なに!?」
「お前、どこに足つけてやがる」
「どこって……こ、これは!?」
足下を見ると、地面が凍っている。それだけではない、足が凍って動かない。
「まさか、僕が砕いた矢が」
ノアの氷の矢の破片がまだ残り、地面を凍らせていたのだ。
なにより、ジェルマンの大振りの攻撃と、爆発により気をとらえ気づけなかった。
「さすがだよ、打ち合わせ無しでここまで息のあった連携が出来るなんて……やっぱ仲がいいじゃないか」
矢が砕かれていたあの時、ジェルマンはノアの作戦を察しそれに乗ったのだ。誘導のための動き、気を引くための攻撃、作戦のため身を犠牲にした。
「誰が仲良しだ」
そんな連携をしても、未だに仲良しではないと言い張るジェルマン。
「僕の完敗だ」
すでに下半身が凍りつき身動きが一切取れない。
「なら、きっちりトドメをさしてやる」
血を流しながら立ち上がると、大きく拳を振り上げる。
ストラルに氷の矢が突き刺さり、完全に凍り付けになる。
「爆裂拳(バーストブロー)」
トドメの爆発で、ストラルは完全に砕け散り虚空に消える。
「キザヤローが、ようやく倒したぜ」
四回戦、Fクラスの勝利。
つづく