無事四回戦を勝ち、寮へと戻るとカズキがお菓子を食べながらくつろいでいた。
「よー、勝ったみたいだな」
そして、この気の抜けた声である。
「はっ、当たり前だ」
「わたくしにかかれば当然ですわ」
「ジェルマンさんとノアさんの連携凄かったですよ。まるで夫婦です」
胸を張っていうジェルマンとノア、その隣でルリーが目を輝かせながら言ってくる。
「てめぇ誰が夫婦だボケオラ」
「ルリーさん、冗談でも言っていいことと悪い事がありますわ」
「ご、ごめんなさい」
全力でルリーに怒る二人。
だが、一連を見ていた者からすると言葉無しで理解でき、動けるのは信頼と親睦がなければできないものだ。
「確かに、凄かったな。それを俺の時にも見せて欲しかったよ」
試合を見ていたカズキも頷きながら納得する。
あの時、あんな連携をみせられたらもっと楽しめたのに。と残念がるカズキ。
「はっ、てめぇら全員見る目が無いんだよ」
「そ、そうですわ。誰がこんな野蛮族なんかと」
「誰が野蛮だボケ」
「その口調と行動をなんとかしてから言ってくださいまし!」
「なんだとド田舎領土主の倅が」
「な、なんですって!?取り消しなさい今の言葉」
「やなこったな。消してほしけりゃ、まずは俺の」
「絶っ対に嫌ですわ」
「なんだと」
さきほど試合を終えたばかりなのに喧嘩する二人。
それを見て止めるわけでもなく、いつも通り『仲良しだな』と思いながら無視するのであった。
「そういえば、後何試合すれば終わりなんですかね」
「たしかに、そういやどれくらいなんだろうな」
優勝まで残り何試合すれば良いかわからないルリーとレオン。
「あと二試合ですわ」
喧嘩をしながら話を聞いていたノアが言ってくる。
「あと二試合……あと少しなんだな」
「そうですね」
「そんな物思いにふけている場合じゃねぇぞ。次の相手はミカルドだ」
「みかるど?」
はて、どこかで聞いた事のある名前だ。なかなか出てこないぞ。
頭を悩ますカズキ、その隣で何も知らないレオンがそいつについて聞いている。
「ミカルド・バルティグン。学園最強と名高い人ですわ」
学園最強、その言葉を聞いた瞬間思いだす。
確かクエストをやろうとしたときにミチノがなんか言っていた奴の名前だ。
「……そんなに強いのか」
「あぁ、出来れば決勝で当たりたかったな」
いつものように、余裕だせ!とか関係無いぶっ殺してやるぜ!みたいなノリはなく、険しい顔をしている。
それをみたレオンも、ただ者ではないなと察する。
「神威使いとしてAランクの強さ、次が一番の正念場だ」
「そんなに強いんだな」
「だ、大丈夫ですよ。私達も強くなってますし、カズキさんも居るんですから」
カズキという強い奴も停学から解放され、試合に参加できる。いくら強いと言われるミカルドでも、なんとかなるだろう。
「主役はお前らだからな、俺の強さを当てにするなよな」
とは言うが、カズキもそのミカルドという人物に興味がわいてきた。
「は、はい」
「それで、どんな神威武装(ミスフォルツァ)と属性能力(アトリファクタス)を持っているんだ」
「え?」
「それだけ強いんだ、どんな武器や力を持っているか知りたい」
レオンの質問に二人は固まる。
「そ、それはその」
「えーっとだな」
「……どうした?」
いつもスパッという二人だが、何か困ったような顔をして視線を下に向けている。
「……知らねぇんだ」
ジェルマンがボソッと言う。
「はい?」
「知りませんの。正確には見たことがないと言いますか、謎が多い人なのです」
聞く所によると、常に鎧を身につけており素顔も見たことがないらしく、交友関係もわからず、性別ですら不明らしい。
ミカルドの存在は学園七不思議の一つでもある。
「なるほどね」
そんな謎目いているなら仕方ない事だ。
「たが言える事は、とんでもなく強い事だ。会った事はあるから分かるがお前と近いものを感じる」
カズキを指しながら言うジェルマン。
「俺と近いもの?なんだそれ」
「……なんとなくだ」
「なんとなくか……」
根拠の無い発言だが、案外あってたりするものだ。
「じゃあ次が事実上の決勝戦なんだね」
リュークがいう。そこまで強いならもはや決勝戦のようなものだ。
「まあそうなるな」
「……わたくし達、勝てますでしょうか」
「何を弱気な事言ってるんだ。勝てるに決まってるだろ」
「……カズキさんは何を根拠にそんな自信満々に言えるのですか」
「そりゃ、俺達だからだよ」
「……」
「お前らにはまだ時間はある。結果は急ぐと逃げるぜ」
「……俺には時間がないんだが?」
「妹の件は俺がなんとかするって言っただろ。レオンも気楽に全力で楽しく必死に死ぬ気で戦いな」
「最後の方、なんか物騒じゃなかったか?」
「そうか?」
「……でも、変だよね。ミカルドって人は大会に出てないよね?見たことないよ」
そんなに強いなら、大会で目立つはずだ。それなのにそんな話は聞いたことがない。
「帰ってくるのですわ、学園に」
「帰ってくる?」
そういやクエストとかなんとかで遠征に出ていたな。だから、試合に出れなかったのか
「噂じゃ、神の組織とかに入っているとかなんとかあるらしいぜ」
「六人チームなのによく人集められたね、交友関係不明なのに」
「その辺りも謎ですね」
「おいおい、謎だらけじゃないか」
「……神の組織か」
ジェルマンが言った『神の組織』その言葉がひっかかるカズキ。
「なんだ、あくまで噂だぞ。あれに入れるなんて一握りだからな」
「……そうだな」
「今考えても仕方ないよ。はやくご飯食べようよ」
「そうですわね、すぐに作りますこで待っててください」
リュークの提案にノアは立ち上がると台所へと向かう。
「俺も何か手伝おーっと!」
カズキもその後に続く。
「俺達は待っているか」
「そうだね」
「今日のご飯はなんですかね」
そこからはいつも通りの食卓になり、なにごともなく今日一日が終わるのであった。
そして翌日。
試合は三日おきなので今日はフツーの授業だ!
いつもなら試合があったり観戦とかで授業はないのだが、残り試合が僅かなので授業が入っているのだ。
「くっそだりぃ」
当然試合のあるカズキ達は、訓練などできるわけなく教室で雑学の勉強中である。
だからカズキは今とろけている。
「集中せんか!」
レイカ先生のチョークがカズキの脳天に命中する。
すごく痛い。
「いってー」
「目が覚めただろ、ほら教科書の六十九ページを読んでみろ」
「はいはい」
と、まぁこんな感じの授業を続ける。
あぁ、自由だった停学が懐かしいぜ。
時は流れ昼休みとなり、学園内にある美しい庭園で弁当を食べることになった。
「相変わらず綺麗だなこの庭はよ」
「あぁ、よく手入れされているな」
一面に敷き詰められた芝生に、整地された花壇には多種多様な花が美しく咲き誇り生え、中央には池があり巨大な噴水が設置されている。
実にシンプルな設計だが、余分なものがなく美しい。
そんな庭園には、すでに何グループかの生徒達が楽しく昼食を取っている。主に男女二人同士で
「ヒノモトとは趣向は違うが、こっちも好きだな」
「あら、ヒノモトにも庭園がありますの?」
ノアが興味あり気に聞いてくる。
「あるけど、こんな華やかではないな」
「はっ、幻の島だか知らないが所詮は田舎国だな」
「すぐに見下すのはやめないジェルマン」
「田舎に田舎と言って何がわるい」
「ドルツェルブは機械ばっかりだから食糧難になるんだろ?少しは田舎を見習え発展貧困国」
レオンが言ってくる。
実際、アニマニアとドルツェルブは食糧問題と領土問題で戦争をし、今でも争い合う仲である
そういう面では、互いに敵同士で仲良くするのは難しいはずだが、そもそも気にしていない。
「黙れ野生児。それと食糧難は昔の話だ、今はエルフと貿易してるから平気だ」
「はやくレジスタンスがいなくなればいいのにな」
「まだ内戦があるんですか?」
「物騒だね。あーやだやだ」
「そんなもん知るか、政府と非政府の意向やら争いに興味はない。ただ俺は皇帝陛下の言葉で動くだけだ」
「みかけによらず立派な忠誠心ですわね」
「だと、いいんだけどな」
ノアの言葉に一瞬顔を暗くするジェルマン。
「んな話はどうでもいいんだよ。飯だ飯腹へった」
「それもそうですわね」
「今日の昼食はなんですか」
「レオンさんの希望で、アニマニアの料理を作ってみましたわ」
お弁当箱を開けると、芋料理や肉料理が敷き詰められている。
「おぉ、懐かしいな」
その光景に、レオンは少し驚いた表情をする。
ノアには、大雑把に説明はしたがそれ以上の品を作ってきた。
そもそも、アニマニアの料理自体が大雑把なので貴族でこだわりの強いノアが作ってくれるとは思えなかった。
「わたくしなりにアレンジしましたので、アニマニア風というのが正解ですわ」
ほら、アニマニア料理なのにアニマニア風にまで落としている。
美味しいから別になんだっていい。byレオン
「アニマニアは芋が主食だからな」
そこらへんに埋めれば勝手に生えてるし、調理も簡単だ。
肉も斬って焼いて味付けする程度。
獣人にはこれくらい大雑把の方がちょうどいいんだろう。
ちなみにだが、手の込んだ料理もあるにはある。
「おおうまいぞこれ」
「しんぷる いず あ べすと ってやつだな」
「カタコトだしおかしいぞそれ」
「なに!?」
いつも通り会話を交えた楽しい食事。
そんな時、この楽しい庭園に似つかわしくない者が静かに訪れた。
足から頭まで禍々しい漆黒の鎧に包まれた者は、不気味なオーラを発しながら庭園を歩んでいた。
賑わっていた生徒達も只ならない雰囲気に一瞬で静まり返り、誰一人食事はおろか言葉も発さない。
その者が庭園を通り過ぎた後もその静寂は残されていた。
「……あいつか、例の学園最強」
その静寂をカズキが破る。あのただ者ではなさそうな雰囲気、確かに強そうだ。
それに、あの雰囲気は多くの生命を殺めている者にしか出せないものだ。ジェルマンが俺に似ていると感じるのも無理はない。
「そう、ですわ」
「こ、怖そうな人ですね。何か負のオーラを感じました」
「見かけ倒しなんじゃないの?」
「いや、ただならない気配を感じた。そこらの危険種なんかよりも危険だ」
冷や汗を書きながら言うレオン。
今でも毛が逆立っている。こいつは危険だと獣の本能が知らせる。それと同時に戦士としての本能が叫んでいる。『戦いたい』と。こんな感情はカズキ以来だ。
「なんだあの鎧。いい趣味してるじゃねぇか」
皆がミカルドについて言ってるなか、カズキだけが着眼点が全く違った。
「どこがだ。あんな禍々しいだけのダサい鎧、どっかの魔王じゃないんだからよ」
「確かに、ダサいですね」
「そんなバカな、最高じゃねぇかよ」
「カズキさんのセンスにはついていけませんわ」
「ぐはっ、もうダメだ。また騒ぎを起こして停学くらってくる」
「バカが何か言ってるぜ」
「無視してお弁当食べよー」
「おいこら、慰めろ」
さっきの静けさはどこへやら、すぐさま賑やかに戻る。
「おやおやみなさんおそろいで庭園で昼食ですか。素晴らしい仲ですね」
そこへミチノがいつも通り手にメモ帳を手にやってくる。
「おー、ミチノさんまた仕事ですか?」
「はいそうです」
「俺達は取材NGだから帰れ、飯の邪魔すんな」
ミチノをみて、嫌な顔をしながら手を払う。
「そんな邪険しないでくださいよジェルマンさん」
「うるせぇとっとと消えろ」
「……ミチノだったか」
嫌がるジェルマンを差し置いてレオンが声をかける。
「お名前を覚えていただきありがとうございますレオンさん」
「記者で情報通なんだろ」
「はい、一通りのことはこのメモ帳と頭に入っています」
メモ帳を堂々と見せつけながら、自身の頭を指して自慢気に言う。
「ミカルドについて、教えてくれないか?」
情報に長けているミチノなら、ミカルドの情報を持ってるんじゃないかと考えたレオン。
「ミカルド先輩についてですか?」
ミチノは顎に指をあて難しい顔をしながら考える。
「んー、困りましたね。噂話とかちょっと危険な話ししかないのでお話するわけにはいきません」
「嘘は言わないか、いい仕事してるな」
「ありがとうございます」
「だが、なんでもいい話をしてくれ」
「信憑性がないのと、今後の生活に支障がでるかもしれませんよ」
「構わない」
「……そうですね。しかし、ただという訳にはいきません」
「金か?」
「お金なんていりませんよ。ただそれに見合った情報が欲しいだけです」
情報を情報で交換とは、お金よりも難しい対価である。
それよりもミカルドという謎めいた者と同等の情報なんて果たしてあるのか疑問である。もしかしたら遠回しで教えたくないという意味なのかもしれない。
「そうですね。たとえばカズキさん、無血の革命の真実とかカズキさんの秘密とかヒノモトについて教えてくれませんか?」
その対価としてカズキがもつ情報を求めるミチノ。なかなか欲張りなやつだ。
「ちと情報が高過ぎるぜ」
「こっちは命の危険がありますよ」
「それは同じだ、俺の情報は王族共も欲しているからな」
「それは情報通として負けられませんね」
なぜか、謎の競い合いをする二人。
「情報合戦なんてしょうもない。ようは戦って勝てばいいんだ。戦いはいつでも未知数、何を恐れていやがるんだ!」
なぜか開き直りの逆ギレするカズキ。
だが、言ってることは案外正しかったりもする。
「今回ばかりはカズキさんでも楽には勝てないと思いますよ」
「楽に勝てる程戦いは簡単じゃない。端からそんな気持ちは持っていないから安心しろ」
「さすがカズキさん。ストイックですね」
「いや、ただのバカだろ」
「ほら、はやくお弁当食べないと無くなってしまいますわ」
「ついでに時間もなくなりますよ」
時間を見ると昼休みの時間が半分以上過ぎている。
このままでは、午後の授業に支障がでる。
ここは大人しく昼飯を食べる。うんおいしい。
「ミチノさんもどうぞ」
さすがに食べさせないのも変なので、とりあえず聞いてみる。
「え?いいんですか?」
予想以上にくいついてきた。
「どうぞどうぞ」
「やったー、ノアさんの手料理は美味しいですからね。また記事を書きましょうか?」
と、いいながら頬張る。
いつも食べているからそう思わなくなってしまったが、それほど美味しいんだなと改めて思った。
「やめてください。あの時は大変だったのですわ」
あの目立ちたがりやのノアでさえ拒否するほどの記事、ぜひ読んでみたいものだ。
「そんなー、大好評だったじゃないですか」
「いい迷惑ですわ!」
声をあげるノア。そんなに嫌だったのか。
そういえば、ミチノが家に訪ねた時も嫌な顔をしていたな。
もっとも、他の連中も同じだったがな。
「カズキさんもどうですか?何か宣伝したいこととかあれば協力しますよ」
「学園の人に伝える事はないよ」
「それは残念です」
「あと二日後に試合だからな、しっかり休まないとな」
「恐らく一番キツイ試合になりますよ」
「そうだな。俺もまた本気になりそうだ」
カズキの言葉で一瞬周りが凍りつく。
「か、カズキさんの本気ですか」
それもそのはず、カズキの本気は国にも影響を及ぼすほど強力だ。いくら仲間とて、被害を受けてしまう可能性がある。
「これはまたスクープの予感!」
「許可してないからやるなよ」
「そんなー」
記事を書けない事になげくミチノ。
前回のカズキの件と言い、許可無く記事を書いていないミチノ。案外約束を守っている、というより記者としての信用を守るべく守っているようにもみえる。
「そろそろ昼休みも終わりだ。散れ」
時計を見て勝手にお開きにするカズキ。まぁお弁当も全て食べたし、授業に遅れたらレイカ先生の指導で試合どころではなくなる。
「はぁい。わかりました」
しぶしぶ退場するミチノ。『次はしっかり取材させていただきますよ』と言葉を残して。
どこまでも記者なやつだ。
「さて、戻るか」
「ですわね」
「結局情報無しか」
「別にいいだろ」
「戦るしかない!ってやつですね」
「そうですわね」
「んじゃ。教室戻るか」
「嫌だーー」
「それには同意だ」
カズキ達もしぶしぶ教室に戻るのであった。
つづく