春を感じさせる暖かな光。青空には霞のような雲が流れている。柔らかい風が芽生え始めた草花をゆさる。
そんな大自然の中で
「オラもっと腕をあげる!」
「ッシャラァ」
「あげろって言ってんだろうが!」
「うおおぉぉ」
罵声と叫び声が響いていた。
学園の裏山にある広場。
昨日使ったグランドとは違って整理された場所ではない、むしろ誰も手を加えてない自然そのもの。
レイカ先生は制服とは別に支給された運動用の服に着替えさせたFクラスの生徒達を連れていき激しいトレーニングをしていた。
「も、もうダメですわ」
「足を止めるな速度を落とすな!ペナルティをつけるぞ!」
「はぁ、はぁ、あーくそ。体力ないな俺」
「さすがレオン、過酷な自然で、生きているだけ、は、あるな」
「俺でも辛いのに、ついてこれるお前達の方が驚きだ」
ついさっき山越え三往復を時間内に終わらせた男3人は大の字で倒れる。無謀な時間制限の中で死ぬ気で走ったので体中から汗が吹きだし、湯気が立ち上る。
時々吹くそよ風が心地よい。そのまま眠ってしまいたいくらいだ。
女子は男子が帰ってくるまで広場を走り続けるという、ある意味では山越えよりも辛いトレーニングをしていた。
「だ、男子……帰ってくるの、遅すぎです、わ」
なんとか走りきったノアとリュークがこちらに向かってくる。
彼女達も力が抜けたかのようにパタッと横になる。
「走るのって、気持ちいいね」
「全然気持ちよくないですわ」
苦しそうにしているノアに対してまだ笑えてるリュークの方は余裕がありそうだ。
「ルリーは、どうした?」
「ルリーさんなら、倒れましたわ」
木陰で倒れているルリーを指差す、まるで死んでいるかのようにピクリとも動いてない。
やはり脱落者が出たか、いや、出て当然な気がする。
誰もが初日からこんな飛ばすとは思えなかった。
確かに『死ぬギリギリまで追い詰めてやるから覚悟しろ!』と初日に言われたが、まさか本当に死ぬギリギリまで追い詰められるとは。あの時誰もこうなるとは思っていなかった。
「誰が休んでいいと言った。さっさと立て、追い込みの筋力トレーニングだ」
レイカ先生は手に持った鞭を振るう。
パチィンと空を裂く音と共に地面から火柱が立ち上がり草花が一気に燃やされ荒野へと変わる。
その光景(脅し)に生徒達は顔を引きつった。
なんとかトレーニングをやり遂げた。
「ほら水分補給(ご褒美)だ、食え!」
レイカ先生が籠から橙色の果実を取り出し生徒達に渡す
「果物か、かたじけない」
果汁が乾いた喉を潤し、甘味とほどよい酸味が疲れた体を癒す。
「美味しいですわ」
それは全員が同じようで、感極まっている。
握り拳ほどの大きさだが、充分に満たされた。あのトレーニングを頑張ったご褒美としては申し分ない。
「皮ごと食うのかよ」
皆が皮を向いて食べる中、レオンはそのままかぶりついていた。
「栄養があるからな。多少苦味がくるがいいアクセントだ」
「確かに、柑橘類の皮を使ったお菓子はありますけど、さすがに生のままだと苦すぎます」
皮を使ったお菓子はあるが、しっかりと下処理をして苦味を取り除いたものだ。さすがにそのまま食べる風習はないそう。
「獣人も剥いて食べるが、俺は昔からこう食べていた」
「意外だな、全員そう食べているんかと思ったぞ」
「人も獣人も味覚は同じなんだな」
「そうだよ、元はみんな一緒、みんな同じ、でもみんな違ってみんないい」
「良いこと言うではないか、お前らも個々の実力を認めろよな」
(実力を認める、か)
今は仲良くやっている風には見えるが、お互いにまだ完全に認めてもらった訳ではない。
昨日おこなった模擬試合は遊びに近いルールだった。
そんなもので相手の実力を見極めるのは難しい。
……ただ一人を除いて。
「先生、決闘はやらないんか」
「なんだ、他のクラスやつと戦いたいのか?」
「ちげぇよ、こいつだ」
ジェルマンの獰猛な視線の先にはカズキがいた。
「負けたのが悔しいのか?」
「あぁそうだよ、こんなよくわからん雑魚に俺が負ける訳がない」
「カズキはどうだ」
決闘という名の元、互いの承諾を聞かなければならない。
「構わない」
数秒沈黙した後にそう答えた。
「わかった、明日にでも決闘の場を用意してやる」
生徒個人の決闘や神威武装(ミスフォルツァ)の使用を禁止している。例外として、教師の公認と立ち会いの元で行われる決闘は認められている。
「先生、決闘ではなく試合じゃないんですか?」
「試合は成績に関わる。戦うなら何も気にせず戦いたいだろ?」
成績に関わる試合という形式ではなく、決闘という互いの面子だけが関与する形でおこなう。それはレイカ先生なりの優しさなのだろう。
「覚悟しろよ、カズキ」
「あぁ」
「そろそろ午前の授業が終わる、午後から神威の技術を鍛えるから覚悟しろ」
そう言うとレイカ先生は学園へ戻る。
ん?もう午前の授業が終わる、つまり昼飯の時間、たしか1時間だったはず。
急いで寮に戻って自炊しなければいけない、だが今山にいる。
そう考えると学園からチャイムの音が聞こえる。
「間に合わなくないか?」
ジェルマンがそう呟いた。
「そう、ですわね」
「あぁ」
「……走るぞ」
各自限界まで追い詰めた体力と筋肉を振り絞り、レオンは倒れたルリーを抱えながら、各自全力で走るのであった。
午後
午前に使った広場ではなく、今度はグランドでやる
神威を具現化させ武器にする訓練用だ。
「神威を集めて練る、ほら集中してやる。集中集中」
「うっせぇんだよ、こちとら集中してんだから静かにしろ」
「教師に向かってその口はなんだ」
「いってぇな、蹴るな体罰女ぁ」
反抗的なジェルマンはレイカ先生と言い争っている。
そんな光景を片目に、カズキは神威を片手に集中させる。
光の原子が、カズキがイメージする武器、『刀』を創造するら。
握った手に具現化した神威が形成する。
パァン
途中で神威が弾け飛ぶ。
「ってぇ」
手から焼けるのような痛みする。昔に炮烙玉を受けた痛みに似ていた。
「大丈夫ですか、カズキさん」
手を振り痛がっているカズキを見て心配したノアがかけよってくる。
「ああ、大丈夫だ。難しいな、神威武装(ミスフォルツァ)ってやつ」
「慣れてしまえば、わたくしのように簡単に出せれますわ」
神威を練りパッと弓を手元に顕現させる。
今まともに神威武装(ミスフォルツァ)が出来ているのはノアとルリーだけである。
特にノアに限っては、レイカ先生が言うにはAランクの技術と先輩にも引けを取らない実力があるという。
それだけの実力がありながら、なぜここにいるのかが謎である。
「なんかコツとかないのか?」
「コツですか……そうですわね。カズキさんの場合はあと少しですので、自力ですわね」
武器のイメージや神威の練り方なら教える事はできなくはないが、自身に合った武器のイメージや神威を練り方は出来ているがどうしても具現化ができないかなり特殊なケースのカズキには的確なアドバイスが出来ない。
「自力か……。」
「まぁ、神威さえ流せるなら神威武装(ミスフォルツァ)なんていらなくないか?」
「何を言ってるのですか、流せるだけでどうやって戦う気ですの!」
「俺には、これがある」
腰にかけた刀を手に取る。
「ただの剣ではありませんか」
「剣ではない、こいつはめ」
「なんでもいいですわ。いいですか、カズキさん、確かに神威を流した武装は強力ですわ。でも神威武装(ミスフォルツァ)には敵いませんの」
「だからなんで」
「神威は神の力。純度100%の神威の剣が、武器よりも格下に思えますか?」
確かにあの力の全てが武器になるなら強力だ、人間が造った武器なら簡単に折られてしまう。
「それにもうひとつ、勝てない理由がありますわ」
神威武装(ミスフォルツァ)の弓を構え弦を引く。
「凍える刃(フリーレン)」
放った一つの矢が青く輝くの刃へと変わり、突き刺さった的が凍りつく。
「ほぉ」
本来ならありえない現象を目の当たりにしたカズキは目を丸くした。
「神威武装(ミスフォルツァ)の真の力、属性能力(アトリファクタス)」
「……なんだそれは?」
「自分の個が神威によって特殊な属性や能力を引き出せる。これが神威の力ですわ」
この異様な力が、発達した科学を用いた武器でも神威武装(ミスフォルツァ)には勝てない大きな理由。
「そして、神威使いは自身の身体能力を上げることもできますの」
どんな技量差があろうとも、策を練ろうとも崩す事ができない。
「目には目を、神威には神威を。そんなことわざがあるくらい絶対なものなのです」
「こんな力、全員が使える訳じゃないだろ?」
「上級生なら誰しもが、同学年のBクラス以上は全員が使えていますわ」
ノアが放った絶望的な言葉。まだ神威を流すのがやっとな生徒が多いFクラスとでは、レベルが圧倒的に違う。
「なるほど。色々教えてくれてありがとうな」
「いいのですよ。同じクラスメイトですから助け合いましょう」
助け合うか、なんか一方的に助けられてる感じてがするが気にしないでおこう。また何か助けられる時に助けよう、どんな理由でも。
「それに、明日はジェルマンと戦うのでしょう。ある程度は神威について知らないと勝負になりませんわ」
「あいつは神威武装(ミスフォルツァ)は使えないんじゃないのか?」
今まさに神威武装(ミスフォルツァ)を具現化させようとレイカ先生と喧嘩しながら練習をしている。
ならばカズキと同等レベルと思うのは必然だ。
「はい、ですが彼は特殊で、神威武装(ミスフォルツァ)は使えませんが、属性能力(アトリファクタス)は使えますの」
「は?」
「ですので、あまりいいたくは無いですが、勝ち目はほぼ無いと思います」
ノアからまさかの負けを予想される。これはジェルマンが属性能力(アトリファクタス)を使える以上に驚いた。
「いや、まてよ。それ」
「それだけじゃありませんわ。あれでもドルツェルブ軍国の有名な軍家の長男ですわ。神威なしの強さだけでも現役の軍人を上回る実力がありますわ」
ドルツェルブ軍国、六大国の一つ。最先端の科学力を持ち、多くの兵器を所持する軍事政権の国。
当然カズキも知っている。
「それは楽しみだ」
「そんな呑気なこと言ってる場合ではありません。今からでも間に合いますわ、」
「男と男の果たし合いだ、それはできない」
「そんな意地をはらずに」
「男は意地で出来ている生き物だ。それにジェルマンは戦争に出た事はないんだろ?」
「え?そうですけど、なにか」
「戦争を知らないガキに負ける程落ちぶれちゃいない」
「い、一度勝ってるからって思い上がらないでください。本当に死んでしまいますよ」
「俺の事を心配してくれるのは嬉しい。だが、もう匙は投げられたんだ。やるしかない」
「バカですわ。もう知りません」
カズキの聞き分けの悪さに怒ったノアは、どっか行ってしまった。
(俺に気を使ってくれるなんて、優しいな)
彼女の気持ちを汲んでやめるという選択は多少なりともあったかもしれない。だが
(Fクラスごときに負けてる暇は俺にはない)
カズキには負けられない訳があり、ここで立ち止まっている暇がない。
「ほらカズキ、休んでないでとっととやる」
ジェルマンをしごきおえたレイカ先生は突っ立っているカズキの背中を叩く。痛くない、優しい!
「お前も神威武装(ミスフォルツァ)を使えればもっと強くなれるぞ」
「は、はい」
神威武装(ミスフォルツァ)を使えるように再び神威を練るカズキ。
正直、集中したり、考えたりするから、トレーニングよりもつらいと感じてしまう。
「ほらもっとイメージしてイメージ、それを練って練って造るんだ」
無茶苦茶な説明。もっと詳しく教えてもらいたいが、感覚の世界、結局は自力なのだ。
「お前はあと少しなんだけどな、何が足りないんだ。神威か?技術か?」
カズキが出来ない原因に頭を悩ましているレイカ先生。
この際なんでもいい。神威武装(ミスフォルツァ)が例え使えようとも、この刀以外を握るつもりはない。
などと思っているから使えないのかもしれないと思ったカズキであった。
つづく