アルガド王国を囲う巨大な壁。これらは敵国や危険種から国と民を守る為に先祖が立てた有り難き代物。
その北西側の壁の上でカズキは一人座っていた。
服装はアルセウス学園の制服ではなく、一回目のルイス戦の時に見せたヒノモトの服装でだ。
朝焼けが眩しい頃、ついに動きが起こる。
「来たか」
アルガド王国より北西より六キロ程先の平野にて八十、百、いや百五十はいるであろう魔族の軍隊が森を抜け押し寄せていた。
その後方で巨大なカバのような魔物の上に二人の姉妹が装飾か施された椅子に座っている。
「姉さん、もうすぐで着くわ」
「落ち着いてぺリア、もうすぐで今ではないわ」
真っ青な長い髪に黄色の瞳を持つ不気味な女、ペカド・グラッジッド。服は着ておらずかわりに体につるが巻き葉っぱやこけのようなもので肌をかくしているが露出がとても高い格好である。
対する妹のぺリア・グラッジッドは、姿容姿は似ているもの、露出の激しい黒のボンテージを身につけている。
大罪のペカド、絶望のぺリア、地獄姉妹の異名で魔界に名を轟かせている凶悪な魔物だ。
「ジドゥ様はなぜ今になってアルガド王国を攻めるのかしら」
「理由なんてどうでもいいのよ。全てはジドゥ様の赴くままによ、ぺリア」
「だとしてもよ、遅すぎるんじゃないかしら?この遅れが取り返しのつかないことになるかも」
「心配性ね、なんとかなるわよ」
「姉さんは怠惰で傲慢過ぎるわ」
「仕方ないでしょ、それが罪(私)なのだから」
「ペカド様、ぺリア様。前方より何者かがこちらに向かって走ってきてます、それもすごい勢いで」
蝙蝠の姿をした人形の悪魔が後方より知らせる。
「あら、もう気づいたのかしら?」
「人間は警戒心だけは強いからね」
「お散歩はこれまでよ、さぁ蹂躙するのよ」
「蒼天破火」
シュゴオオォォォッ
目映く輝く巨大な火柱と共に焼けつく熱風が辺りを吹き飛ばす。
「ぐぎゃああ」
「げげげげ」
その炎や熱風で焼かれた魔物達は見るに無惨な姿となり朽ち果てる。
今の一撃で魔物の軍団が壊滅状態となる。
「この力は!?」
「よおカス共、罪も病もまとめて消し炭にしにきたぜ」
その地獄のような光景から戦禍乱状態のカズキが鬼の形相で不適に笑いながらゆっくりと歩みよってくる。
「イオリ」
「カズキ」
その姿を見た二人は思わず顔をひきつる。
「前は殺し損ねたが、今回は無い。死ね」
「嬉しいわ、私のものになりに来たのかしら?」
「あ?そんな気は毛頭無い」
「ちょっと姉さん、カズキは私のものよ」
「ゴチャゴチャと貴様ら、何訳わからねぇこと言ってるんだ」
「あらてんぱっちゃって、可愛いわよ」
「あれだけ私に優しくしてくれたのに、私の事好きじゃないの?」
「敵なら誰であろうと殺す。最も、俺の仲間達を殺した奴は好きにはなれねぇよ」
「そう、ならジドゥ様の為に死んでちょうだい」
「誰があんなカスの為に死ねるか」
「カスとは無礼な、更なる力を付け今や神をも越えた存在」
「寝言は寝て言え、お前らごときが神を越えられるか」
「越えられるわ、格上なんて越える為のものでしょ?」
「お喋りはここまでよ。ユウガオ」
ペカドは体に巻き付いてる蔓がカズキめがけ伸びる。
それを飛び上がりかわすと、ぺリアはカズキに向け飛び上がり接近戦を挑む。
「はっ」
しかしその攻撃は大振りなため簡単に避けれてしまう。
「やっかいだな、そのバイ菌をばら撒きながらの攻撃はよ」
カズキの周りで何かが焼け焦げる音が聞こえる。
「私のブラック・デス・ザーシィを焼き殺すなんて」
大振りの攻撃は相手を油断させるためであって、狙いは病原菌をばら撒き感染させることだった。
だがカズキは周りに高熱のバリアを張ったので触れるまえに熱で殺しているのだ。
「ここからアルガドまで四キロ以上はある、お前の強力な病原菌でも届くまえに死滅する」
「なめないで、菌なんてどこにでもいる身近な危険よ。いくら距離があっても必ず感染する」
「生きとし生けるものは全て炎に焼かれて死ぬ、どんなものでもだ」
「ちっ、ぺリアここは私に任せてアルガドへ行きなさい」
「させるか、はぁ!」
立ちふさがるペカドの腹部を拳で貫きそのまま横へ切り裂く。
「がはっ」
「姉さん!?」
「行かせねぇ、てめぇらはここて終わりだ」
「くっ」
アルガドに向け飛び立つぺリアを先回りして蹴り落とす。
「あがっ、がああ」
倒れるぺリアの首を掴むと締め上げながら持ち上げる。
「はな、せ」
両手でカズキを殴るも微動だにせず、手刀で肩から両腕を斬り落とされる。
「ギャアアァァ」
両肩の付け根から激痛が走る、紫色の血がダバダバと流れ落ちる。
そんな状態でもカズキは情け容赦なく顔、腹部へと殴り続ける。
ドコッ バキッ ボコッ ゴキッ
静寂の中殴られる鈍い音が響く。
抵抗する術も無く殴られ続けたぺリアの整った顔は酷く変形し、体もアザだらけだ。
それでも殴る手を止めない。
それもそうさ、ぺリアに多くの仲間を殺されたのだ。その恨み悲しみの分だけ殴らなければ気がすまない。
ひたすらに殴り続けるカズキ。そこへ横槍を入れるかのよに横から槍が投げられる。
それをぺリアを盾にして防ぎ、貫通する刃を素手で止める。
「フッフッフッ、復讐鬼となっても周りはしっかり見ているとは流石だな」
「誰だ」
「地獄姉妹でさえ赤子のように扱うか、カズキ」
黒のマントにタキシードを着こなした、ねじり曲がった角に黒の羽も持った男。
「……ジンカン、ゴミクズがなんのようだ」
「まだこいつらに死なれては困るんだ。返していただけると嬉しいが」
「断る、お前もついでに殺す」
「やはりそう来るか、なら貴様の相手は悪魔達にやっていただこう」
ぺリアに突き刺さった槍が腕となり力付くで奪い取る。
「雑魚共がああ」
不意打ちではあったが、友の仇を奪われた事に激昂する。カズキの手に残ったぺリアの肉片が炎で消し炭になる。
「行け、悪魔達よ。カズキを殺せ」
黒のマントを広げると、悪魔達がぞろぞろと出てくる。
「アルガドを、世界を落とすのは次の機会にしてやろう。いずれくる大戦の時までさらばだ」
悪魔を残してジンカンはペカドとぺリアとその両腕を持つとシュンと消え去る。
「うおおおお」
次々と悪魔を殺していくカズキ。刀を振るい、炎を放ち、雷を流し、風を起こす。神々ですら恐れ慄く大虐殺により体中に返り血で真っ黒だ。
「くっそおおおおおおお」
悪魔達の屍の上でカズキは悲痛の叫びを上げるのだった。
今朝起きた事をメーテルに伝えると、カズキは海で血を流しシャワーで汚れを落とすと制服に着替え学園へ登校する。
「あら、カズキさん。昨日はどちらにいらしたのかしら?」
教室に入るといつものメンバーがいた。
こちらに気づいたノアが声をかけてくる。
「ボスとちょっと話こんで、外泊させてもらったんだ」
左手で頬をポリポリかきながら言う。
「メーテル様ですか」
「強かったな、手も足も何もできなかった」
「あんなのと剣舞祭で戦うんですか」
「まだまだ修行しないとな」
「カズキ、どうだったんだ」
みんなが話てる中でレオンが小声で聞いてくる。
「殺し損ねた、追い払った程度だ」
「そうか」
そう告げると、それ以上深く聞いてはこなかった。
「何をしている貴様ら、さっさと席につけ。授業をするぞ」
しばらく話しているとレイカ先生が教室へ入ってきた。
皆は怒られる前にそそくさと各々の席へ向かう。
「今日は、明日から始まる大型連休について話がある」
「先生、俺用事ガェッ」
手を上げ話し出すカズキの額にチョークを当てる。
「話は最後まで聞け」
「は、はい」
「剣舞祭に向けて合宿をしようと思ったが、剣舞祭について家族と話をしたい奴もいるだろう。だから休みたいか、合宿したいか、自身で決めろ」
それはレイカ先生の最後の気遣いである。
大会まで強さを完成させる為の時間が無い。だが、長い間家族と離れて寮で暮らしている生徒達が実家に戻れる数少ない機会だ。
だから自身で決めさせる。それはレイカ先生なりの優しさだ。
「わ、私はルーンブラッドに帰る気はありません」
「俺もだ、どのみち敵だから帰ったら帰ってこれなくなる」
「帰る所なし」
「わたくしも帰る時は剣舞祭優勝の報告、その時だけですわ」
「……俺は帰らせてもらう」
レオン一人が帰りたいと言う。理由はすぐに予想はついた。
「妹の病態が心配だ、一目安心かどうか見ておきたい」
妹思いのレオンだ、そうだろうと全員が分かってた。だからこそ誰も何も言わない。
「安心しろ、私達が行く合宿先はアニマニアだ」
そんなレオンを安心させるかのように言う。
「なぜアニマニアに?」
「あそこは気前がいいからな、場所を借りたいと言ったら貸してくれた」
「場所が変わるだけでも良い気分転換になるし、アニマニアの環境は人にとっては過酷だから修行にもなるからな」
「俺達はどんな秘境に連れていかれるんだ」
今の話を聞くだけでとんでもない場所に行かされるんじゃないかと不安になってくる。
「で、でも私達の事を観察されるんじゃ」
「安心しろ、私達が行くのはアニマニア精霊学校」
「そこは精霊使いが通う名門にして剣舞祭にほとんどが出場してる」
「そうだ、偵察はお互い様という訳だ」
「大胆な計画だな」
「お前達に足りないのは実戦だ。戦いまくれ」
「おおう」
「てなわけだ、授業に戻るぞ」
「えぇー」
「ぶっ斬られたいか!」
「さー授業だ、ばっちこーい」
とまあ本日もいつも通り授業を進めるのであった。
つづく