月が闇を照らす時刻、上空で巨大な船が雲をかき分けながら飛んでいる。
「んー、遠いなアニマニア」
リビングにある小さめの窓を見ながら言う。
「雷速なら半日もかかんないのに、人力で半日ってとこか」
「馬車でしたら二日以上はかかるのに、飛行艇を貸してくださったメーテル様に感謝ですわ」
アニマニアに行くと言った所、メーテルが移動手段として快く貸してくたのだ。剣舞祭絶対優勝と今度ヒノモトに連れて行くという条件の元無理矢理。
「いいや飛行艇を造ったドルツェルブの科学力に感謝しろ」
「凄いな、船が空を飛ぶなんて」
「それだけで驚くなよ。ドルツェルブには高速で動く列車や車、バイクもあるんだ」
「なんですの、どれも聞いた事ありませんわ」
「当たり前だ、ドルツェルブだけのものだからな」
鎖国的なドルツェルブは自国の情報を他国にあまり提供はしない。
ましてやベリューバル戦争で敵国だったアルガド王国には必要最小限の情報も与えたくはないだろう。その証拠に上級身分のノアでさえ知らない。
「確かにそれらは凄いパワーだが俺より遅いしでかいしうるさい。戦場じゃなんか不便だ」
「馬なんぞよりも強くて速い、なにより人間ごときなら余裕で殺せる」
「怖」
「明日の朝にはつきますわ。寝ましょう」
「そうだな」
明日から始まる地獄の合宿に向け男女それぞれの自室に戻り睡眠を取る事に。
だが、皆が寝静まった後カズキは甲板に立ち夜風を浴びながら月を眺めていた。
夜風とはいうが、本来風は神威による透明な防御壁で風は一切通さないのだが、夜は外に出てはならないという規則がある。そのため解除され凄まじい猛風を浴びているのだがものともしない。普通なら吹き飛ばされておしまいだというのに。
「………」
いつもなら修行しているのだが、場所が場所なため我慢している。
寝るにも寝付けずカズキは物思いにふけていた。
(いずれくる大戦か。ラシンめ、とうとう動き出すか)
ジンカンが言っていた大戦。地獄姉妹の神をも越える存在となった発言。
前者はいずれくる事だから分かっていたが、問題は後者だ。
神を越える力、そんなものどうやって手に入れたのだろうか。
魔界だから何かしらの方法があるのかもしれないから可能が無いわけではない。今まで本格的に攻めて来なかったのは力をつけるためと考えられる。そうなると、本当に神を越える力を……なんて出来る訳ないよな、あの存在は偉大すぎる。
思い出す幼少期、自分で言うのもなんだがあれは相当過酷だったと思う。
…よく生きてこれたな、俺。
嫌な事を思い出した、修行でもしよう。
「カズキ、何をしている」
「……朝練?」
朝一番で起きたレオンが甲板に行くと上半身裸で倒立指立て伏せをしているカズキ、頭上には汗の池が出来ている。
「ほっと」
そのまま腕の力だけで飛び上がり空中で二回転して二足で立つ。
「腕だけじゃなくて脚や体幹も鍛えられるから便利だぞ」
倒立しているから腕に全ての体重がいく、脚は常に力を込めているから使っているも同然、バランスをとるため体幹が鍛えられる。こじつけかもしれないが、結構キツイから効果ありだろう。
「参考にしよう。だが、朝練なんてやってる姿は見たことないぞ」
「そりゃ、たまたまだよ」
おっと、レオン達は俺が夜から朝まで修行している事は知らなかったな。んで全く睡眠を取っていないことも。
「俺もやろう、今度は誘ってくれ」
「自分で起きろ、睡眠は大切だぞ」
睡眠を疎かにしてるカスがなんか言ってる。
特大ブーメランと自覚しながらも言わざるを得ない。
「今日は早起きとは珍しいな」
「空の上だからかな、落ち着いて寝れないんだ」
確かに普段はあり得ない空の上での生活だ、落ち着かないのも無理はない。レオンの場合は大地の精霊と契約しているからかもしれないがな。
「まあ、空の上だしな。なんかふわふわしてるよな」
「それに、久々の帰りだからな。妹も無事か心配だ」
大半はこっちの方だろう、大切な妹を助けるため(置いて)家を飛びだしたのだ。帰りたいけど帰りにくいのかもしれない。
「会ってみなきゃわからんだろ。今は妹さんの強さを信じてやれ」
「そうだな」
「ここにいたのかお前ら、もうすぐ着くから準備しろ」
ここでレイカ先生がやってきて一言言うとすぐ船内へ戻る。
「よし、準備だ準備」
「だな」
カズキとレオンも船内に戻り降りる準備をするのであった。
飛行艇から降り久々の大地を踏み締めながら辺りを見回す。
「ここがアニマニア大国最大都市エレメンタリアだ」
巨大な一本木を中心とした都市。周りには大小様々な建造物が建てられている。
レストランや洋服屋、観光地として作ったであろう塔までもある
「意外と発展してますのね」
「建物も大きいです」
「伝統文化だけじゃなくて近代化を進め人間達も住めるよう努力してるそうだ」
「私が学生だった頃はギリ住めたぐらいだったな」
「そうか?」
シバが笑いながら答える。
「お前らはテキトー過ぎるんだ」
「アニマニアの名物クロコダイヤの丸焼きは旨いぞ」
レストランのテラスで食べられている巨大なワニの丸焼きを指指しながら言うカズキ。
「フィーバードの姿焼きもなかなかだぞ」
中くらいの鳥の丸焼きを売りさばいている出店を指差すレオン。
「どれも肉ばかりで旨そうだな共食い共」
それらを見て腹を空かせるジェルマン。
「なんで丸焼きばっかですの」
「アニマニアの思考は焼けば旨く食えるだからな」
「なんて脳筋なんですの」
「ここは発展してるからまともだから安心しろ」
これから先が不安になってきたノアとルリーに対して優しく諭すように言ってくるレイカ先生。
「飯とか洗濯家事全般はシバとルイスがやってくるが、お前らも極力手伝うように」
「は~い」
「折角だから何回かは外食挟もうかな、みんなもアニマニアの名産食べたいもんな」
「先生、妹にはいつ会える」
「明日そっちに向かう、早る気持ちは分かるがすまない」
「わかった」
「わあ、光ってるのがふわふわ浮いてます」
「あれは精霊だな」
「案外身近にいるんですね」
「精霊の森から大分離れてるけど不鮮明な姿ならああやって街中にでも現れるぞ」
カズキが鼻を高くしてルリーに教える。
「物珍しいのはわかるが、まずはアニマニア精霊学園に行くぞ。挨拶をすませたらすぐにトレーニングだ」
その後の行動を説明しながからアニマニア精霊学園へと向かう。
合宿にあたっては学園の施設を貸してくれるようで、寝泊まりやトレーニング施設を貸してもらっている。また、模擬試合は大歓迎だそうだ。
アニマニア精霊学園
そこは森の近くに設立された精霊使いもとい神威使いを目指す者達が集まるアニマニア一の学園。
その外見は四角かったりまるかったりとアルセウス学園とは違いシンプルな造りである。
「木ばっかたな」
「まるで森だ」
「精霊が姿を保ちやすくするためにできるだけ自然に近い環境にしているんだ」
「なるほど、だから建物もシンプルな造りなんですのね」
学園内に入り受付をすると白と黒の毛並みをしたしっぽの長い獣人の女子生徒が道を案内してくれる。
「私がアニマニア精霊学園の生徒会長を勤めているアディラ・ピュアルマニだ。アルセウス学園、もといアルガド王国代表の諸君らに学園の案内を務めるよう言われてな、快適な合宿にできるよう一生懸命努めよう」
「つとめるを三回言うな、訳わからなくなるだろ」
「コラ、ジェルマン初対面の方に口が悪いですわよ」
「すみませんすみません、ジェルマンさんが粗相を起こしてしまって」
「はは、こちらこそすまない。他国の生徒が来るのは初めてだから緊張してしまったようだ」
本人は普通に接しているつもりなのだろうが、アディラから放たれる威厳威圧は隠しきれておらずジェルマンは殺気立てルリーは怯えている。
「和ませるのが下手で相変わらずルナってるな」
「!?これはこれは隊長、お久しぶりです」
一歩前へ出て挨拶をするカズキ。アディラは驚いた表情を一瞬浮かべたがすぐに平常に戻り謙虚な挨拶をする。
「隊長、ってことは神伐隊か」
「違う挨拶がよかったかな?神伐隊九十九番小隊員、と言っても機能してないから引退のようなものだがな」
「お前も剣舞祭に出場するのか?」
「あぁ。アニク様に出場してほしいと頼まれてな」
「へー、じゃあ今回俺らを呼んだのって」
「交流と偵察と確認だ」
「確認?」
「カズキ君が出る噂が本当かどうか、それによって私も出るか考えていたのだよ」
「なんだそりゃ」
「こうしないと君は戦ってくれないからな」
「そんなハートといいセラフといいお前らそんな謙虚だったか?」
「いつも相手にしてくれなかっただろう」
「あの時は忙しかったからな、相手する暇無かったんだよ」
「そうやって言い訳ばかりする」
「すまなかった、昔話は後で埋め合わせと一緒にするから案内頼みます」
「そうだったな、私情よりも責務を果たさなければ。すまない、今から案内をする」
アディラは深々と頭を下げ詫びると校内の案内を始める。
トイレや浴場、広場など使用していい場所やここでの規則を一通り説明すると最後に下宿先を教えるとアディラは仕事があるらしいので一礼をすると生徒会室へと戻っていった。
それにしてもトレーニング室は凄かった。あれは人間が扱えるような重量ではない、獣人だからこそ使える規格外なものばかりだ。
下宿先は二階建ての小さなログハウス。
本来は夜遅くまでトレーニングする生徒の寝泊まりする為に作られたのだが、学園内に寮が出来てからはそれほど使われる事はないそうだ。
だが、中は綺麗で生活感がある。各自の部屋に荷物を置き外へ出る。
その下宿所から出れば広大な広場はもはや大自然。さすがは領土世界一の大国、その土地を余すことなく使っている。
カズキ以外の全員がすでに出ていて各々アップを始めていた。
「おい、あの生徒会長の情報とか無いのか」
こちらに気づいたジェルマンがすぐさま話しかけてくる。
こちらだけ情報を得られていないのが気に入らないのか、なんか凄い怖い顔をしている。
「そうだな、熊の獣人で刀使いだ」
「熊?あんな毛色はいないし、なによりしっぽは短いだろ」
「稀に見る古代種で毛並みは遺伝子らしいが、強いて言うならクイナにいるパンダが近いだろう」
「パンダってあの温厚な熊ですよね?可愛いくまさん」
「見たことありますわ、あの愛くるしい感じは熊とは思えませんわ」
まるまるであどけない行動をするパンダはとても凶暴な熊とは思えないイメージを持っているルリーとノア。
だが、アディラは先程の威厳といいとてもその系統の獣人には見えなかった。
「そうだな。性格は似てるが、体つきは各熊の良い所取りだ」
「ならレオンと良い勝負するんじゃないか」
獣の良い所取りなら混血種のレオンも負けてはいない。見えている限りでは角やら顎やら牙やら筋力やらで色々と凄い。
「ルナは強いぞ、レオンもちゃんと神威武装が使えたら勝てるかもな」
「なぜ神威?」
「神威は自身の力を倍増してくれるんだろ?その差だ」
「神威か、それを言われたら俺は何も言えない」
「それを覆す為に鍛えるんだろ。私に任せろ」
レイカ先生。いつになく目が本気だ。それだけこの合宿が大事がわかる。
「まずはルイス、シバ、組手相手になってくれ」
「任せてください」
「よーし徹底的に鍛えてやるぜ」
「カズキ、お前はリュークと徹底的に闘え」
「うぇ!?なんでですか」
「お前、リュークとやる時だけ本気だろ?」
「うっ」
「リュークもお前の時だけ真面目にやってるからな、休憩は私の指示かどちらかが倒れるまでだ」
「あははは、私達だけハードだね」
「とほほ、更に強くなっちまうぜ俺」
「強くなって損は無いでしょ?」
「確かに!」
「時間が惜しい、強くなりたくば死ぬ気で取りかかれ」
「はい」
こうして地獄の合宿が始まったのであった!!
つづく