アルセウス学園にある試合会場の一つ。天井が開放された造りの闘技場を決闘の場としてレイカ先生は用意してくれた。
そして観客席には生徒達が集まり賑わいを見せている
理由はジェルマンの闘いとFクラスの実力を視察するめだろうが、大半の人は前者だろう。
なんせ、有名な軍家の長男、そして神威無しでも並外れた強さを誇り、大陸全土にその名を轟かせている。
……って、ノアやルリー、レオンが言ってた。
アルガド王国ならまだしも、世間に疎いアニマニアですら伝わっている。
円形のリングでジェルマンが堂々とした態度でカズキを待っていた。
「死ぬ覚悟は出来ているんだろうなぁ?」
「無論、どちらかが命尽きるまで猛り狂うぞ」
互いに睨み合う中、不意をつくように合図であるブザーの音が鳴る。
瞬間、トンファーを取り出すと同時にカズキに向かって走りだす。
このトンファーは普通とは違い、一回り大きく、そして長い部位には鉄球、反対側には刃物がついているバトル・トンファーなのだ。
「死ねぇ」
振り下ろされたトンファーは容易くリングを砕く。
破壊力は抜群。あんなのをくらえば骨なんて簡単に砕けてしまう。
めり込んだトンファーの鉄球を踏みつけ、斬りにかかるも片方のトンファーで防がれる。
踏みつけられたままンファーを持ち上げ、体勢が崩れたカズキに横に凪ぎ払う。
体勢を整えたカズキはすかさず距離を縮め踏み込んだ一撃に対してトンファーを半回転させ、腕から肘を覆う構えを取り、両腕で受け止める。
反応の速度、武器の扱い方、さすがに戦いなれている。
力は五分と五分、蹴りをいれるジェルマンだが読まれていたかのよう当たる寸前で後ろへ下さる。
互いに距離をあけた状態になった。
「やるじゃねぇか、遊び試合とは言え俺を倒した事を評して全力で潰す」
トンファーの鉄球を互いにガシンガシンとぶつけ合う。
「俺は神威武装(ミスフォルツァ)は使えないが、属性能力(アトリファクタス)は使える稀な神威使いだ」
打ち合う鉄球が爆発し互いに弾けると、猛スピードで回転している。
「怒り狂う爆破(バーストレイジ)に勝てるかな?」
その勢いのまま振り下ろす。ボゴオォと激しい爆発が起こり、リングは蜘蛛のような亀裂が入る。
「爆破衝撃(バーストショック)」
爆発から生じる衝撃波に飛ばされたカズキ、立ち上がる煙の中からジェルマンが飛び出しトンファーを腹部に打ち付ける。
メキメキと骨が折れる音。
ドオォン
爆破により焼けるような激しい痛みが全身をかけめぐる。
常人なら意識が飛ぶどころか、死んでいるレベルの威力。
しかし、カズキは立ち上がった。脇からダボダボ血が流れ、切れた額から流れる血はカズキの顔を真っ赤に染める。
(腹部が少し吹き飛んだか。後は肋骨六本、背骨にひび、内臓もいくつかやられている。……大丈夫だ、まだ動ける)
動ける箇所とそうでない箇所を確かめながら歩く。
「き、貴様……なぜ動ける」
「…………」
「はぁーっ」
ジェルマンはトンファーを回転させながら走る。
スバァァン
「なっ!?」
両手に持つトンファーが斬られ、鉄球がついた棒が地面に転がっている。
速かった、斬る動作も何も全く見えなかった。
神速の剣技に一瞬呆気に取られたが、すぐさまトンファーを持ち代え握り部分と刃をカズキに向けるように構える。
が、既に目の前には刀が振り下ろされていた。しかし最後まで振り切らずギリギリの所で止めていた。
「っ、はぁ!」
刀を弾き渾身の力を込めて殴る。頭を首を腕を足を腹を、渾身の力を込めて殴る。
されども歩みを止めずただ前へ歩く。
「くそったれがぁ」
やけくそになったジェルマンは、心臓に刃を向け突き刺そうとする。
刃はカズキの掌を貫き受け止める。そして強く握った。
「死ねえ!」
顔を狙い刺そうとするも、顔をずらし口から頬へ刃が刺さる。刃を強く噛み、取れないようにする。
腹部を蹴られ、トンファーから手を放してしまう。
刺さった二本のトンファーを抜き、ジェルマンの肩と腿に突き刺す。
「ぐあぁぁっ」
肩を押さえリングに倒れる。刃物を突き刺され感じる異常なまでの痛みに悲鳴をあげのたうちまわる。
(な、なんなんだ、こいつは……)
ジェルマンはカズキ(あの得体の知れない化物)に対して恐怖を感じていた。何度殴っても倒れない、何度突き刺しても死なない、何度爆破を叩き込もうとも決して後ろへ退かない。全てが初めての経験だった。
「………」
カズキは蹴りも殴りも攻撃もなにもせずジェルマンをただ見下ろしているだけだ。その瞳には捨て犬を見るような哀れみだけがあった。
その光景は、ジェルマンの過去一度だけ負かされた相手を連想させる。
その時味わった屈辱、そして恐怖心が甦る。
あの時、あいつは俺を見下した。こいつも俺を見下すのか。
(嘘だ、俺が、この俺が恐怖するなんて、負けるなんて、ありえない、絶対にありえない)
「うおおおぉぉぉ」
立ち上がりカズキめがけ走り、肩を掴む。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええええええっ!!」
そして、狂ったかのように情け容赦のない爆発を浴びせる。まるで自身に刻まれた恐怖をかきけすように。
「っ!?」
いつの間にか首もとには刀が突き付けられていた。
目の前の恐怖を消そうと必死になって周りが見えていなかった。もしかしたら、あえて突き刺さず寸止めのままにしたのかもしれない。
「斬るに値しない……」
突き付けた刀を鞘に納める。そしてジェルマンの後ろに投げ捨てた。
「な、なに!?」
その行為にジェルマンは驚く、しとめれるチャンスを不意にし、挙げ句の果てに武器を絶対に取れない場所へ自ら捨てた。
自殺行為か、試合放棄か、カズキは
「素手で相手してやる。こいよ、小僧」
相手と同じ位置に立ち、戦うと言ったのだ。
「ふ、ふざけるなぁ」
これ以上のない屈辱行為に、ジェルマンはキレた。
帽子を取り、上着を脱ぎ捨てる。
戦う為だけに鍛えられた無駄のない体、背中には屍を踏みつけた悪魔のタトゥーが刻まれていた。
鋼のように硬い黒髪、それなりに整った顔立ちなのだが、猛獣のような獰猛な表情は不気味としか言えない。
「なめやがってぇ、ぶっ殺してやる」
憤怒に燃えているような表情を浮かべるジェルマはファイティングポーズを取る。
「やる気になったな」
「決めなかった事を後悔させてやる」
牽制を目的とした素早さパンチを打ち、続けて顔に直線的な動きを伴ったパンチを叩き込む。
ドルツェルブが作った格闘術の基本中の基本のコンビネーション、だがあくまで対人用だ。
怯みもしないカズキには全く意味を成さず、腹部に強烈な一撃を打ち込まれた。
「ごはっ」
あまりに重たい一撃に腹部を両手で押さえ、両膝を折った。
「これが戦(いくさ)だ、坊や」
腰を深く落とし、脇の下まで引いた拳を真っ直ぐに放つ。
ただのパンチ、そう見えた。だが、それは違った。
拳には身の毛もよだつような、恐ろしいナニかが宿っていた。
拳が近づくにつれ、解ってくる。それは殺意。それもただの殺意ではない。
入り混ざってなお純粋な殺意。
潰す。倒す。壊す。崩す。勝つ。断つ。戦う。斬る。殴る。死ね。様々な意思と感情が入り乱れ、ぐちゃぐちゃに混ざった歪なモノは純黒な色へ替わり純粋なもに成し得た異様なモノだと。
「……っ!?」
決着がついても相手を殴り続け、完封なきまでに叩き潰す姿から狂人と言われたが、本当は違う。
ただ、あえて狂った自分を演出して恐怖を消していただけにしかなかった。
弱い自分を隠すように強いふりをしていた。誰にも気づかれないように、徹底して。そしていつしか、止まらなくなった。
俺みたいな半端者が勝てる訳がない。そう悟った時には既に遅かった。
拳が顔面にめり込み、ジェルマンは後方へ飛び何度もリングを跳ね、壁に激突しやっと止まった。
刀を拾い腰にかけるとそのままリングから降りる。
狂人と言われたジェルマンが負けた。ありえないほどの大番狂わせに生徒達は絶句した。
これがアルセウス学園がカズキを知った瞬間であった。
「おい、傷は大丈夫なのか」
レイカ先生がカズキの元へ駆け寄る。
「勝者を心配するな、敗者の心配をしろ」
だが、不要と言わんばかりにあしらう。
「お前も重症じゃないか、すぐに医務室へいくんだ」
「こんなもんかすり傷だ、それよりもジェルマンを頼む」
「あいつは医療班が行ったから大丈夫だ」
「そうじゃねぇ、あいつの心の事を言ってんだ」
「心だと?」
「あそこまで屈辱な試合をやったんだ。心が折れてるかもしれない」
ジェルマンの本気に対して、カズキは勝敗を決める一撃をあえて寸止めにしたり、自ら武器を捨てるなど本気で戦わなかった。
「もし恐怖を乗り越え這い上がってくるなら、ジェルマンは強くなる。あいつは天性の戦いバカだ」
どこで道を踏み外したかは知らないが、強くなる素質は充分ある。
「それまで、しっかり支えてやるのがあんたの仕事なんだろ」
(まぁ、あいつなら心配はいらないと思うが)
などと思っていると
「おい、誰が心折られたって?」
ジェルマンが生徒を振り払いおぼつかない足取りでカズキの元へ行き、胸ぐらを掴む。
「次は、テメェに勝つからな、覚悟しろ!」
乱暴な口調だったがなにか吹っ切れたような清々しい顔をしていた、多少は変われたんだろう。
一人歩くジェルマンに肩をかすレイカ先生。
「触んな、一人で歩ける」
「無理するな」
「……っせぇ、バカ」
つづく