駄作   作:匿名希望ただの人

43 / 74
倅(受け継ぐ者)

 

 

 

 

 

小鳥が囀ずる早朝。アニマニア学園の生徒が登校し始めバタバタしている中、ルリーはグラウンドの真ん中で目を閉じ静かに詠唱を唱える。

「遥か彼方の時、世界を破滅に導き、混沌の世に陥れし禁忌の法」

足元に魔方陣が描かれると、不気味な紫色の光が揺らめく。

晴天だった空が黒曇にかわり、風が木々を揺らす。

「長きに渡り封印されし愚かな力よ、今目覚めの時。禁断されし遊び(フォービドゥン・ゲーム)」

カッと力強く目を開き、両手を高々に突き上げる。

「……起こりませんね」

しかし、なにも起こる事無く魔方陣が消え、黒曇も風も無くなり穏やかな風景へと戻る。

「まだ魔法力が足りないのか、詠唱間違いなのか」

何がいけないのかすぐさま考え始めるルリー。

「んにしても凄い大々的な詠唱内容だな」

破滅だの混沌だの封印だの規模がでかい。

「古来の魔法らしいんですが、まだまだ研究が必要です」

上級魔法を唱える事も可能なルリーですら勉強をするのだ、その道はとても険しく深いのだろう。

「そんなことより出来る魔法を練習した方が良いんじゃねぇのか?」

「それだけじゃダメです。相手も知らないような魔法も使わないと魔女は倒せない」

「禁忌魔法は危険だからやめた方がいいよ」

「ソウルの天才もそんなん唱えていたな」

「兎に角、体力錬成よりも魔法の勉強します」

「つれないな~せっかくアニマニアにきたんだから籠ってちゃダメだよ」

「そうですわ、集中させるだけじゃなくて体を動かさないとですわ」

「うう」

「そういや、ここに魔法学について勉強してる知人がいるけどあたってみるか?」

「その人は魔女ですか?」

「いいや、獣人」

「結構です」

間髪入れず即答する。

獣人が叡知の結晶である魔法を使える訳がないと思っているのだろう。いや、事実か。

「俺でも興味深い話をしていてな。古代呪文の文章があるらしい」

「古代呪文ですか」

「参考くらいにはなると思うぞ」

「……文章を解読するくらいなら」

なんか腑に落ちない表情をしながら答える。

「俺もその方に用事があるからな。放課後あってみるわよん」

「わよんだって、ダッサ」

「シャラーップリューク」

「わよんわよんわよん」

「くー、下手な発言はできんな。言葉に責任を持ちましょう」

「仲がよろしいんでしょうか」

「類は友を呼ぶ系だろ」

朝からじゃれあってる二人を後にして朝食を取りに部屋へ戻る。

「今日は実戦に出ていってもらう」

朝食中にいきなり口にするレイカ。

「実戦?」

「最近危険種が増殖してるのは知ってるよな」

「知っていますわ」

「アルガドも狩りやってくるしな」

「ここアニマニアも同じでな。奉仕活動の一環としてやろうと思う」

「ですが」

「安心しろ、死にそうになったら助けてやる」

「危険種ごときにやられたら剣舞祭で勝てないぞ」

「で、どんな危険種なんだ?」

パンをモグモグしながら聞いてくるカズキ。

大自然に住む危険種はアルガドなんかよりも危険度が高いし、未知なる脅威が潜んでいる。

場合によっては、また悪魔共が絡んでいるのかもしれない。

グラトニーや地獄姉妹、ジンカンの件もあったから注意しなければならない。

「雑食大鼠(ミックス)だ」

「あのネズミか、確かに大量発生し続けたらまずいな」

「けっ、あんなネズ公ごときにか?」

ミックス。大型のネズミ、一見可愛らしい容姿とは裏腹で性格は残虐凶暴にして大食漢。常に集団行動し、生きてるモノ全てを餌と認知し生きたまま食ってくる。そして、繁殖率が凄まじい。

「懐かしいな、神伐隊の最初の任務がミックスの殲滅でな。集団戦闘知らないってのに侮ったバカ共が食われ死んだな」

果敢に戦うも食われ、痛みに泣きながらか食われ、恐怖し逃げるも食われ、幼い俺達には酷な初任務だったなと思い出す。まっ、その道を選んだのは自分達だから自業自得なんだけどね。

「食われ……」

「集団戦闘を学ぶ良い機会だと思わないか?」

「おいおいレイカ、危険すぎないか?」

心配の声をあげるダテ。

「私の教え子だぞ?侮るな。もし、万が一があっても私達で守れるだろ?」

「そうだな、カズキもリューク様もいるから心配はないが」

「俺達の初陣もミックスの駆逐だったな。あれは大変だった」

焼きたてのパンを持ってきたシバが口を挟む。

「あれから意識が変わったからな」

「懐かしいな」

「朝食をとり次第出発するぞ。しっかり腹ごしらえをするんだぞ」

「最後の飯になるかもしれないからな、味わってくれ」

「おかわりいるか?つくるぞ?」

笑いなが言ってきたり、真剣な眼差しで見てきたりするので茶化しているのか真面目なのか訳がわからない。

言いたいことは『気を抜くな』ってことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんや馬車で揺られ森深くまでやってきた一行。

「んー、大自然!!」

見渡す限りの木々、それも形は大小様々にして歪な形である。

人の手を一切加えてない自然は少し恐怖を与えるものでもあった。

「ちっ、整理されてねえな」

「自然だからね」

「ほら、そんなこと言ってたらお出ましだぞ」

木々をなぎ倒して現れた巨体な獣。血を撒き散らしながら暴れている。

「こいつが!?」

「ネズミじゃありませんわ」

「違う、食われてるんだ」

「数の暴力だな」

倒れた獣の内部から肉を食い破って大量のネズミが溢れてくる。

「人海戦術なんて最終奥義じゃない」

「うっ、気分が」

「さあ頑張らないと食べられるよ」

獣の死骸に群がるも餌にありつけないミックスは一行を見ると一斉に襲いかかってきた。

「生きたまま食べられるなんて嫌ですわ」

「バーストショック」

バトル・トンファーを地面に叩きつけ、爆風を起こし飛びかかるミックス達を吹き飛ばす。

「ファイヤーボール」

「フリーレイン」

次々と現れるミックスに応戦するも、数が減るようには見えない。

「けっ、死を恐れないたぁ果敢なネズ公だ」

「食欲の化身ですわ」

「食べないと死んじゃうからね、必死だよね」

「ちっ、きりがねぇ」

足元にも、前からも、後ろからと縦横無尽に襲ってくるのに対処しきれない。

「お前ら、しっかりしないと食われるぞ」

馬車から酒を片手に呑気に見学しているレイカがいってくる。

「うるせぇ、なんでお前らは狙われねぇんだよ」

大量のネズミも馬車を避けるように移動している。まるで障害物をよけてるかのようにだ。

「ん?コツがあるんだよコツが」

「なんだよコツって、いで」

レイカに噛みつくジェルマンだが、腿に飛び付いたミックスが鋭い歯を立てる。

「くそネズミがぁ」

手で払い落とすも、次々と飛び付かれ噛まれる。

「あーあー、崩れちゃった」

「クソボケがああ!!」

全身を発火さけ巨大な爆発を起こす。

見渡す限り地面を埋め尽くす大量のミックス。大きい相手なら何度もあったが小さくて速くてしかも多いのは初めての経験にどうすれば良いのかわからなくなる。

「ヒュラノモース」

氷の矢を放ち吹雪を生み出し凍らせるも範囲や持続時間も限度がある。

なんでレイカ先生の周りには集まってこないのか。なにかコツがあると言ってましたわ。恐らく神威を使った方法、応用……応用、ですわ!

「わかりましたわ。コツ、というのが」

ここでピンときたノア。

神威武装を解除すると、ジェルマンとルリーの肩に触れる。

「な、なんだこりゃ」

すると猛威を振るっていたミックスが何もないかのようにこの場から去っていった。

「神威を練って衣をつくり自然と同化しましたわ」

「衣?同化?どういうことだ」

「神威には聖なる力が宿っていますの。その力に危険種などは無意識に避けているのですわ」

その神威を今纏い、二人に流しているのだ。

「だからって、襲ってくるかもしれないだろ」

「それに加えて周囲と同化させる事でわたくし達の事を認知されないのですわ」

「だが、籠ってるだけじゃ勝てないぞ」

「そうですわ。ですから、皆さんもやってください」

「やるって、属性能力しか俺は使えないぞ」

「全身に神威を纏うだけでいいのですわ。カズキさんでもできます」

「おいこらバカにしたな」

「あら、いましたの?」

「いますよ、今懸命に駆除作業してます」

ミックスの集団に雷を落とすことにより、感電して一気に駆除している。

「いやー、青龍(雷)の力は便利だね」

「便利な力ね」

「神威無しでこれだもんな」

「こんなん咆哮(ほ)えるだけで駆除できるぞ。うるさいけど」

「リュークなんか遊んでるぞ」

「よーしよしよし」

凶暴なミックスを撫でて愛でてるリューク。それに群がるも襲る気配はない。完全に手懐けている。

「あれはもう別次元ですわ」

「グラン・ギア、やつらを飲み込め」

突如地面が歪み大量のミックスを地中に飲み込む。

この力は。

「まだ繁殖期じゃないのにこの数。なにか異変を感じる」

森の中から制服姿のレオンがカズキの前に飛び出てくる。

「お?レオンじゃないか、帰ってきたのか?」

「カズキ、お前らこんな所でなにやってるんだ?」

「修行がてらミックスの駆除」

「ミックスは一体一体は弱いが、数がいるからな。村も滅ぼされる事も少なくない」

「そら脅威だな。絶滅させるか?」

「それはダメだ、生態系が狂う」

「やっぱり?ところで帽子なんか被ってたか?色気づいちゃって」

「ああ、これはな」

「まだ来ますわ」

流暢に話していると、再びミックスが先頭に獣を走られてやってくる。

「ちっ、バースト」

「もう一度地面に」

殲滅しようと身構える二人。

その前にレオンの頭に被っていた帽子からなにかが飛び出すと、巨大な地震が起こり地面に亀裂が走る。

津波のようにやってきたミックスは止まることができず、やってきた全てが奈落の底へと落ちる。

「この方が速いよ、レオン」

長い灰色の髪をなびかせながらこちらを向いて微笑む少女。

あの時、大会で優勝しアニクと戦い圧倒的印象を与えたヒメギだ。

「て、テメェはあの時のやつ」

「確か、ヒメギさんでしたわね」

「あの人ですね」

その為か、みんな一目みて誰かわかった。

「?みんな私を知ってるの?私は知らないよ」

「そら初対面だからな。当たり前だ」

キョトンとしているヒメギに突っ込みを入れるジェルマン。あのジェルマンが。

「助かったよヒメギ」

「いいよ、レオンのためだもん」

「さすがの強さだ」

「えへへへ、撫でて撫でて」

礼を言うレオンに抱きつき顔を埋める。

「……どういう関係なんだ?レオン、ヒメギ!」

「ああ、道中で助けてな」

故郷へ向かう中で、お腹を空かせたヒメギを助けた所こんな感じになったと言う。

「知り合いなの?レオン」

「ああ、仲間だ。紹「介はいらないね」

レオンの言葉を遮っていってくるヒメギ。顔はとても嬉しそうだ。

「どういう事だ」

「???」

「あー、なんで紹介はいらないんだ?」

「私もカズキの事知ってる、レオンもカズキの事を知っている。なら、いらないよね?」

「……知り合いか?」

「うん」

「おい、レイカ先生が出来上がる前に帰るぞ」

馬車で飲んでいるレイカ先生。ダテといるから昔話に花が咲いたのだろうか、顔を真っ赤にしている。

「あーくそ、結局訓練にならなかった」

「あのままでしたら私達は胃袋の中でしたよ」

「ですが、神威の扱い方がなんとなく見えてきましたわ」

「神威を纏うか、覚える事がおおいな」

「その前に神威武装を展開できるようになってくださいまし」

「うるせえ俺にはこれがあるんだ」

「夫婦喧嘩はミックスも食わないぞ、ほらさっさと帰る」

「賛成だ」

「やっと学園に帰れるのか、長かった」

「ヒメギ、お前の方向音痴は治した方が良いぞ」

「方向音痴?私が?」

「その無自覚も治さないとだな」

「それで、ヒメギとどういう仲なんだ?」

ヒメギと親しく話す話すカズキに聞くレオン。

「こっちの台詞だ。可愛い可愛い大切な愛娘に何してくれてんだ」

「む、娘!?」

「そうだ。可愛いだろ?」

ヒメギの頭をわしゃわしゃと撫でながら上機嫌に笑うカズキ。

「いででで、噛むな噛むな食べるな」

癇に触ったのか、手を払いのけ噛み付く。

「危うく頬袋に取り込まれる所だったぜ」

「おい、一人馬車はいらねぇぞ」

大型の八人用馬車だったのだが、流石に九人は入らない。

「歩きなさいカズキ」

「歩いてくださいカズキさん」

「さっさと走れカズキ」

「なあんでだあ。俺だけ扱いひどくない!?」

最近俺に対しての対応がリュークから始まり皆が雑になってきている。不満だ不満だ!

「人数なら大丈夫」

シュルルルッと手の平サイズのハムスターへと姿を変えるヒメギ。

「なっ!?」

「純血だからな、なれるんだよ」

「な、なるほど」

「混血の俺はなれないぞ」

純血と混血の大きな違いを改めて知った一同。

そんなことはお構い無しとレオンの肩までよじ登る。

「おいこらヒメギ、なんでレオンの肩に乗ってるんだ。俺は?パパは?お父さんは?」

必死の訴えもプイッとそっぽ向かれ頭上にある帽子の中へと消えていく。

「ぬあああこれが反抗期なのか!?そうなのかヒメギ、答えるんだ!」

レオンの帽子を取ろうにもとどかん!

「くっそレオンテメエでかいんだ、かがめ!」

「お父さんですね」

「なにが反抗期だ、同い年だろ」

「ダメパパ」

「うるさい。子持ちじゃない奴らに俺の気持ちがわかるか」

レオンの胸ぐらを掴むと激しく揺さぶる。

「くそ。まずは帰って取り調べだ」

「はやく戻って噛まれた所を消毒しねぇと」

「アルコールならあるぞ?」

ジェルマンに酒を見せながら笑うレイカ。この人は普段こんなんじゃないのに。日頃のストレスから解放されたのがいけないのか。それともダテか?ダテがいけないのか!?

「度数が足らねぇよ」

呆れて怒鳴る事もせずに静かに馬車へ乗る。

「わたくし達ものりましょう」

「そうですね。帰ったら神威の纏い方教えてください」

「神威を纏う?詳しく教えてくれ」

会話を交えながら次々と馬車に乗り込む。

「カズキさん、本当に乗らないのですか?」

そんな中、カズキは馬車に乗らないで斜め上を向き一点を見つめていた。

「……来るぞ」

「何が来ますの?」

「ガルシャアアアア」

何かがカズキの真上から勢い良く落ちてくる。

「ほおら来た。あの時のミックス増殖もテメエだったからなハンアン。来ると思ってたぜ」

「カズキイィィ、喰って力手に入る。喰わせろおぉぉ!」

下半身が馬、上半身が人、そして鰐と豚を混ぜたような顔にねじり曲がった角をした悪魔が巨大な包丁でカズキに切りかかっていた。

「喰って力を手に入るなら苦労はしねぇよ」

「喰わせろ喰わせろ喰わせろおぉぉ」

「力が欲しけりゃ神の肉体でも喰ってこい」

足払いで転ばすと、腕を持ち遠くへ投げ飛ばす。

「悪魔か。手を貸そうか、カズキ」

馬車から降り槍・天突きを呼び出し構えるダテ。

「気を付けろダテ兄、こいつは何でも喰って力を得る」

「……なんでも、か。そいつは気を付けねぇとな」

「出来れば追い返すが今はベストだが」

「そうはいかないな」

「くーーわーーせーーろーーっ!」

素早く立ち上がりこちらを振り向くと長い吻、頬まで裂けた口を大きく広げる。

「うお!?」

「きゃーー」

「す、吸い込まれる」

咄嗟に地面を目の前に浮き出し防ぐ。

しかし徐々に亀裂が入り、崩壊するのは時間の問題だな。

「やっかいな事になったな」

「今戦うのは良くない。追い返すのが良いかな」

凄まじい吸引力だが、ダテとカズキはものともせず立って作戦会議をする。

「殴り飛ばしてもいいが、あまりダメージを与えたくない」

「じゃあ浮かすか」

天突きを地面に突き刺すと

「舞い吹け黄金の風」

ハンアンを中心に風が円形に地面から吹き出す。

「うおおおおおお!?」

強烈な風が地面を浮き上がらせる。

「な、なんだなんだ」

吸い込みをやめたハンアン。飛び降りようするも、風圧で動けずそのまま飛ばされる。

「ざっとこんなもんよ。次会うまでに対策練らないとな」

「流石ダテ兄。恐ろしいや」

黄金の風。ダテの属性能力らしいが、意のままに操るその技術練度は目を見張る。

「じゃあ帰って今得たものを活かして修行だぞ」

「レオンも帰ってきた事だ。また厳しく行くぞ」

レイカは手にもつ酒を一気に飲み干すと、木製のコップを砕きながら愉快に言う。

「うげぇ」

「戻りたくなーい」

「それでは戻ります」

無情にも馬車は走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

んで。

「くたばれやヒメギ」

学園に戻るとさっそくジェルマンもヒメギが一戦を繰り広げていた。

ジェルマンのバースト・クラッシュをかわすと、腹にそっと手を触れる。

「ミルクラッシュ」

ジェルマンの体に駆け巡る強烈な振動は想像を絶する痛みへとかわる。

「ぐはっ、がっ、がは」

口から大量の血を吐き腹部を押さえ込み踞るジェルマン。

「す、すまない。ちょっと力を入れすぎた」

心配し駆け寄ると手を差しのべる。

あの目だ、あいつもカズキもどいつもこいつも哀れの目で見下してきやがる。

「うるせぇ、俺はテメェとカズキら側の人間なんだ。同情なんかいらねぇんだよ」

差し出された手を強く払いのけると立ち上がり睨みつける。

「そうか、君も強くなり(修羅の道を進み)たいんだね」

「当たり前だ。強くなれるなら修羅だろうが地獄の道でも喜んで進んでやる」

血を吐き捨てながら立ち上がると、不気味な笑みを浮かべながらヒメギを睨む。

「いいね。その覚悟、大事にしてね」

「わかったならかかってこいや。こっちは元気有り余ってんだよ」

「分かった、しっかり倒してあげる」

姿勢を低くし走り出すヒメギ。対するジェルマンはトンファーの長い部分を手に沿わせるのように持ち構える。

「らぁ!」

足を上げ土煙を上げ視界を断つと、短い部分をヒメギの腹部に当てる。続けて頭部めがけ縦に落とす。

怯んだヒメギ、更に追い討ちをかけようと左右の拳を合わせるように殴るが、しゃがんで回避すると腹部への肘内、顎への垂直な蹴り上げで浮き上がる。

「粉砕王」

流れるような動きで必殺の粉砕王でトドメにかかる。

「一度見てるからひっかかんねぇよ。オラア」

倒れることなく踏みとどまると、トンファーを半回転させ長い部分を手の甲をめがけ振るう。直撃した瞬間後ろへ下がる。

ボンッと音を残し触れた地面が粉微塵になる。

「ちっ、余波でこの威力か」

振動が大気を揺らしくる衝撃波にしかめっ面をしつつも笑う。

「逃がさない」

再び走ってくるヒメギ。

片手に持ってるトンファーを投げつけると同時にジェルマンも走り出す。

「うおおお」

トンファーを避けジェルマンのパンチを受け止める。

「ふん」

すかさす頭部に回し蹴りを放つヒメギ。

それをしゃがんでかわすと、軸足となってる片方をすくいあげる。

「もらったあ」

倒れるヒメギ。そのまま拳を叩き落とそうとするが、足を折り畳み体を丸くし跳ね起きの要領でジェルマンの顔面に両足を叩き込み立ち上がる。

「ぬあああ」

負けじと踏みとどまり、そこから殴り合いが始まる。

攻撃をしては捌き、防御する。それの繰り返し、シンプルにして単純、基本にして基礎の攻防。

この場合技量の差、時の運、潜った場の数で勝敗が結する。

今回の勝者は。

「はああ」

ジェルマンに軍配が上がった。

ヒメギが一歩前へ出た瞬間、更に懐に潜り込みブーメランフックが顎にヒットする。

「武器を持つより強いんじゃないの?」

後ろへ倒れたヒメギはゆっくり立ち上がりながら口から切れた血を指で拭う。

「はっ、テメェに溺愛してるカズキ(パパ)と毎日やりあってるからな。負けるかよ」

「でも一発当てただけ、倒れただけ。まだ負けてない」

「試し合いに勝って意味はねぇってか。思考もそっくりじゃねぇか」

「私はカズキじゃない」

「当たり前だ」

「……ありがとう」

「けっ、何感謝してんだか。興醒めだ、終わった後でまた相手しろ」

「うん」

「どうしたレオン。前より強くなったが、そんなもんか」

「カズキ、修行に私怨を混ぜないの」

「やかましい!」

馬車の中で話は聞いた。妹は無事であるが、時間が剣舞祭が終わるギリギリくらいだということもだ。

そこからヒメギとの話になり、色々話を聞くと途中からヒメギが人に戻りレオンに抱きついてくるわで。仲良くなっているのは別に構わない、それは構わないのだ。だが恋仲となれば話は別である。

「しっかりお父さんやってますね」

「同い年のくせにね」

「なん……」

「粉砕王」

カズキの肩を叩き振り向いた瞬間に顔を捕まれ振動を起こすヒメギ。

「カズキ、ぶっ壊す」

「会ってそうそう父親に壊すとか末恐ろしいな。どこで教育を間違えたか」

手を振り払うと目、鼻、耳、口から血を流しながらも平然と喋ってくる。

「カズキに会った時点で終わり」

「リューク、シャラップ」

リュークの茶々を無視して、と。

「まあいいや。アニクとの腑抜けた試合を見て鍛練が足りないと思って」

「ミルクラッシュ」

顔面を殴り飛ばす。

「喋ってないで戦え、もう始まってる」

踏みとどまったカズキに対しゆっくり近づきながら言ってくる。

この容赦の無さは親子だなと思ってしまう。

「別にまだ始まるに値しねぇんだよ」

「粉砕王」

「さて、と。やるか」

再び掴みにかかるヒメギ。その手を蹴り上げると、腰を深く落とし拳を横一閃に振るう。

「白王」

腹部に当たり大きく後ろに吹き飛ばす。

「黒帝」

更に拳を強く引き絞り一気に放ち衝撃波を造り出す。

それにより更に吹き飛び学園に激突する。

「それで冷徹にでもなった気でいるのか?ちと頭冷やせ」

「あああああああ」

「頭冷やせと言ったのに血を上らせてどうするんだ」

「ぶっ叩っ斬る」

咆哮をあげながら天地無双刀を取り出し斬りにかかるも、両腕を捕らえ腹部に膝を数発打ち込むと手首の関節を外し首を掴み叩きつける。

「まったく、感情的になるのは良いが制御できなきゃ獣だ。人なら理性を保て、終わった時に全て失うぞ」

そのまま持ち上げるとレオンの方へ投げる。

「まだまだやんちゃで手を焼くと思うが、娘を頼むぞレオン」

「カズキ」

「あんなに怒っていたのに、なんかあっさりだね。しかも唐突」

「当たり前だ、共に戦い過ごし信頼出来る仲間に娘を任せられるなんて願ったり叶ったりだ」

短い間だが、レオンという人物を把握している。故にレオンだからこそ任せられるのだ。

「わかってるとは思うが、ヒメギは俺の実の娘じゃない」

俺より年上の娘なんかあり得ない話だからみんなわかってはいるはずだ。

「ヒメギは悪魔共に家族、故郷を滅ぼされてる。復讐を胸に俺を受け継ぐ程にまで力をつけたが、娘の手を悪魔共の為に汚させるわけにはいかない」

駆け付けるのが少し遅かったらヒメギも殺されていただろう。

なぜあんな秘境な村を襲撃したのか。その理由がわからない。だが、襲ったのはあのジンカンだ。何かあるに違いない。

「お前の手でその傷を癒してやってくれ。親(俺)には出来なかったが恋人(お前)なら出来るはずだ」

俺には戦いしか教えられなかった。傷を癒す所か復讐に更なる拍車を掛けただけだった。

自分自身の中身が強さ以外何もない空っぽだと激しく痛感し、悩み嘆いた。だが、それももう終わりになるだろう。

「……わかった」

力強く頷くレオン。

「まっ、その前に妹を救わないとな」

「当たり前だ」

「んじゃあ、続きやろうか」 

カズキとレオン、再び激突するのであった

 

 

 

 

 

 

 

つづく





カズキ「って最近戦い過ぎじゃね?」
リューク「修行期間なんだから仕方ないでしょ!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。